こんにちはマナボックスの菅野です。

今日は『海外子会社における売掛金の不正のパターンとその防止方法』というテーマでお話ししていきます。

ベトナムなどの国では、不正の発生可能性が日本と比べて低いとは言えない状況です。少しまどろっこい表現になってしまいましたね。はっきり言ってしまえば、不正のリスクは高い!のです。

売上に関する大きなプロセスは以下のように区分されます。

  • 受注
  • 出荷
  • 売上計上(会計処理)
  • 請求
  • 回収

それぞれのプロセスで不正が発生するのですが、今回は売掛金の「回収」プロセスに絞って解説していきます。

この記事を読んで頂ければ「売掛金」のリアルな不正リスクを事前に把握できるので、もしかしたら数百万円の不正の防止にお役にたてるかもしれませんよ。

それくらいの利益(百万円単位)を出すのにどれだけの苦労が必要なのか? 数値感覚がある人であればよく理解できるはずです。

売掛金の回収金の着服(ラッピンング)とは?

まずはその定義を解説します。

売掛金の回収金の着服(ラッピンング)とは、従業員が売掛金の回収を装いながら、実際にはその資金を私的に使用する不正行為です。この不正行為をわかりにくくするため別なお客様からの回収を充当してごまかします。つまり「たらい回し」です。なのでラッピングという表現されます。

簡単な例で理解を深めましょう。

A得意先からの売掛金を1,000を回収した時、そのお金は自分のポケットに入れて着服します。そして別な得意先B社から回収をA社の売掛金の回収として充当してしまうのです。

このような不正行為は、企業の財務状況や信頼性を損なうだけでなく、従業員の倫理観やチームワークにも影響を及ぼすことでしょう。

なぜ売掛金の着服ができてしまうのか?

ではなぜこのような不正が可能なのでしょうか?理由は大きく2つあります。

  • 銀行送金でなく現金で回収してるから
  • ジャイアンのように権限が誰かに集中し、逆らえない。もしくは権限のある人に気に入られている

この2つです。それぞれ解説していきますね。

売掛金を現金で回収するから

まずはこれですね。そもそも売掛金の回収を「銀行送金」「インターネットバンキング」ではなく営業担当者が「現金」(紙幣など)でするからです。

「現金」は現物なので、「銀行取引」と比較するとその履歴や証拠がわかりにくいんですね。「銀行」であれば取引履歴が残りますよね。「現金」は、だから不正の温床となりやすいのです。賄賂やキックバックも「現金」で実施されやすのいのもその証拠の残りにくさが理由です。

具体的なビジネスでいうと車のディーラーさんでも一般的にはこの手の不正が少なくないようです。特にベトナムでは、いろんな意味(わかる人にはわかりますよね)で「現金」を持っているお金持ちが多く、回収が「現金」になる場合があります。

上記以外でも、卸先が小規模なお店(例えば化粧品や個人クリニック)で、売掛金の支払いを現金でしたい場合が発生します。

この場合、「このお金、自分のポケットに入れちゃいたい」という動機が生まれてしまいます。というのはそれが出来ちゃう(機会)からです。

ここで不正に関するキーワードが出てきたので詳しく解説しているリンクを紹介しますね。

>>海外子会社の売上が5%も失われている? 不正のトライアングル

権限の強いジャイアンのような人がいるから

もう一つはこれ。以下の記事でも詳細に記載しています。

>>あなたの会社にジャイアンはいませんか? 海外子会社の不正リスクを軽減する方法

過去、私自身が働いていた会社でも不正が発生していましたし、周りのお話でも不正のお話をよく聞きますが、その背景の共通点がこれです。

権限が強い人、権限が集中している人、なんでも出来ちゃう人がいるとどうしても不正が発生しやすくなります。また海外子会社で言うと日本本社の権限のある人の「お気に入り」の場合も不正のリスクが低くないと思っていいでしょう。

そしてこの日本本社の人の「人を見る目」がない場合には、危険です。どう言うことかと言うと、現地の人が不正をする人であるという悪い心を持っているのもかかわらずそれを見ぬけない場合です。

これが歯痒い…。

その「日本本社の人」以外はみんな気がついている(その現地の人が不正をしている)状況だとやるせないです。こういったケースは「日本本社の人」の権限が強いことがほとんどですので、海外現地の人は指を咥えて見ているしかできません(涙)。なんとも辛いですよね。

売掛金の着服が起きる3つの理由 不正のトライアングルの観点

ではどのようにこのような不正を防止するのかを解説していきます。どんな場合にこの不正が発生してしまうかというと以下の通り。不正のトライアングルと照らしわせて解説します。

動機

経済的な困窮:例えばあなたのスタッフが経済的に困窮している場合、短期的な利益を追求して売掛金の着服に手を出すことがあります。

例えば、スタッフが自分でビジネスをするにあたり大きな投資金額が必要であったり、逆に大きな借金を背負っている場合には「お金がなんともしてもほしい!」という気持ちが芽生えるでしょう。

ベトナムでは副業が可能なのでこんな可能性も低くはありません。

正当性

従業員の倫理観の低下:従業員の倫理観が低下していると、自分の利益のために企業に損害を与える不正行為に手を染める可能性が高まります。

この正当性を砕いた表現で説明すると「みんながやっているんだから私もやっていい」みたいなマインドセットです。

あの会社で働いている友達が着服しているんだから、私もやっても問題ないという気持ちが芽生えた場合のことを「正当性」と言います。

機会

  1. 内部統制(ルール)の不備:企業の内部統制が十分に機能していない場合、従業員が不正行為を働く機会を得やすくなります。

  2. 業務の透明性の欠如:売掛金回収や入金処理などの業務が透明でない場合、従業員が不正行為を隠蔽しやすくなります。

不正できちゃうチャンスのことですね。これを「機会」といいます。

ではどうやって防止するか? と言うと基本的には「機会」を潰す方法しかありません。これは「ルール」や「仕組み」で防止できるからです。正当性や動機も減らすことは可能かもしれませんが、これはその人に属する理由です。他人を変えることが困難なように正当性や動機を変えることも難しいわけです。

例えば「動機」について経営者がどうこうできる話ではありませんよね。

売掛金の着服を防止する方法

それは以下の3つでしょう。

  1. 「現金」取引をなくす
  2. 売掛金明細(補助元帳)と売掛金を照合する。売掛金の年齢表を作成せよ。
  3. 権限を細分化しよう

それぞれ解説していきます。

#1「現金」取引をなくせ!

まずそもそもの原因をなくせばいいのです。「現金」を利用するから着服が起きてしまうわけですよね。では「現金」で回収しなければいのです。

契約書等で「原則として銀行送金で回収する」旨の記載をしておくなどのことは必至です。そしてそれを経営者自らが得意先に周知させることも大事でしょう。

#2-1 照合せよ

売掛金の回収を例えば営業担当者が着服すれば、その売掛金は回収されていない、つまり未回収となります。

例えばベトナムでは、売上は「VATインボイス」をもとに認識します。ところがこの「VATインボイス」は実務的には領収書の意味あいが強いのです。そのため実務上はいわゆる請求書は内部的なフォームを使って発行します。

そうすると営業チームのほうで売掛金の明細(未回収の表)を使って管理することがあります。この売掛金の明細のことを補助元帳と表現することもあります。

これと会計帳簿の売掛金を照合することによって着服が判明することが可能な場合があります。 

例えば、営業チームでは出荷しているため売掛金として認識していても、まだVATインボイスが発行されていないため両者に相違がでることがあります。

この相違をモニタリングしておくとで不正を発見できる可能性が高まることでしょう。

#2-2 売掛金の年齢表を作成せよ

上記とも関連しますが、不正を防止・発見するために「売掛金の年齢表」を作成することが重要です。

「売掛金の年齢表」とは、企業が顧客から回収すべき売掛金を、期限別に分類して表示したものです。売掛金の年齢表を活用することで、企業は顧客の支払い状況や回収リスクを把握しやすくなり、適切な回収戦略を立てることができますよ。

売掛金の年齢表には、以下のような情報が含まれています。

  1. 期限内の売掛金:期限内に支払われることが予想される売掛金です。この金額が多いほど、企業の回収状況は良好と言えます。

  2. 期限切れの売掛金:期限が切れても未だ回収されていない売掛金です。この金額が多いほど、回収の遅れが生じていることが示されます。

  3. 回収期限別の売掛金:売掛金の回収期限を、例えば30日ごとや60日ごとに分類したものです。これにより、企業は特定の期間内に回収すべき売掛金がどれだけあるかを把握し、回収活動を効率的に行うことができます。

これにより異常性を発見できたり、担当者が「見られている」感を覚え不正防止となるわけです。

>>変なロボットがなぜ、海外子会社の不正を防止できるのか?~見られる化の重要性~

#3 権限を細分化せよ

続いてジャイアンをいなくする戦略です。権限が集中しなんでもできちゃうから不正が発生するのです。

その権限を集中させないことが大事です。

例えば、営業担当者じゃない部署が回収を担当するなどです。

>>ケンゲンブンショウ?内部統制の権限分掌を簡単に理解する方法

本日のまとめ

本日は「売掛金の着服」について解説しました。あなたの会社は、これらの要因を理解し、適切な対策を講じることで、不正行為のリスクを軽減できるでしょう!

  • なぜ起きるのか?それは「現金」を使うから。それは権限が強い人がいるから。
  • 不正のトライアングルと照らし合わせる
  • 防止するには「現金」で回収しない。
  • 照合する。
  • 年齢表を作る。
  • 権限をわける。

でした。

是非参考にしてください。本当に、冗談抜きで大きな悲しい不正が防止できますよ。