こんにちはラボの菅野です。

今日のテーマは「ベトナムにおける日系企業で考えられるM&Aのスキームとは?」です。もしあなたがベトナムへ進出するスキームでなやんでいるのであればお役にたてます。

M&Aのスキームの全体像

まずはベトナムにおける日系企業のM&Aのスキームの全体像をおさえましょう。

  • 支配権獲得するか?否か?(50%超の比率で出資割合を持つかどうか?)
  • 支配権獲得の場合:現金対価のケース
  • 支配獲得しない場合:提携(アライアンス)

という視点で整理していきます。表にすると以下のようになるでしょう。なお、合併や株式交換、株式分割などは含めておりません。日系企業の場合、有限会社の場合がほとんどであり、合併や株式交換は一般的ではないからです。

支配獲得権

M &A(狭義)か提携か

スキーム備考
支配獲得権ありM &A(現金対価) (狭義)

事業譲渡

事業自体を譲渡してもらう
新規出資

新たに出資する

資本譲渡既存の持分をもらう(51%以上)
支配獲得権なし提携(アライアンス)

新規出資

新たに出資する
資本提携(譲渡)既存の持分をもらう
業務提携契約ありのケース
契約なしのケース(信頼)

フローチャートだと以下のようになりますね。

またそれぞれのスキームを図解すると以下のようになるでしょう。このイメージが大事ですよ!

#1 事業譲渡

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を他の会社に譲渡する行為のこと。

M&A取引では、しばしば特定の事業が新しい手に渡ります。このプロセスにより、買い手はその事業の新たな所有者となり、自分の方針で事業を運営することができます。取引では、施設や設備のような有形の資産だけでなく、ブランド名や評判、さらにはスタッフのスキルといった無形資産も含まれることが一般的でしょう。人材も含まれるでしょう。

買い手のメリット

買い手のメリットとしては売り手のリスクまで引き継がなくていいことです。会社は、リスクを抱えていることがあります。例えば、税務リスク(税務で不都合を指摘され、罰金等を指摘されてしまうこと)や法務リスク(法務のコンプラアンスを遵守してなくて罰金を言われてしまうこと)を抱えている可能性があります。負の資産とも言えるでしょう。

この後述べる投資家として参加する「資本譲渡」の場合、人間の体で言えば「病気」まで引き継ぐ場合があります。

買い手のデメリット

逆にデメリットとしては、複雑な評価が必要であること・事業の統合に際して高いコストや労力が発生すること・従業員の受け入れや文化の統合が困難であることがあげられます。

一般的に売り手は、「会社」そのものを譲渡しようとしていることが多く、事業だけ譲渡することにそこまでメリットを感じてないことが多いです。

事業譲渡の税務の概要

事業譲渡の場合、日本やそのほかの国とは異なり、ベトナムの会計税務の規則上は事業譲渡の取り扱いに関して明確な規定がありません。そのため、実務上は個別資産・負債の譲渡として会計税務処理を行うことになると考えられます。

売り手は、売却になるため利益に対して法人税が課税されます。VATも属性に応じて課税されます。売り手が外国企業の場合は、FCTが論点になることもあります。

つづいて「新規出資」と「資本譲渡」について解説します。

#2 新規出資

  • 新規出資(支配権を獲得)とは対象会社にあらたに投資して重要な事項を決定できる程度の持分を保有することです。
  • 新規出資(支配権を獲得しない)とは対象会社にあらたに投資して上記未満の持分割合を保有することです

#3 資本譲渡

  • 資本譲渡(支配権を獲得)とは対象会社の投資家の持分の全部または一部を他人へ譲渡し、買い手が重要な事項を決定できる程度の持分を保有すること。
  • 資本譲渡(支配権を獲得しない)は上記以外の資本譲渡のこと。

上記、新規出資と資本譲渡の2つの違いは「新たに」「既存の投資家から」という違いです。それに「支配権の取得」を含めると全部で4パターンがあります。支配権のイメージは「その会社の人事権をもっているか?」でいいと思います。

メリットやデメリットは共通する部分もあるのでまとめました。

出資者・買い手のメリット

支配権を獲得するため企業全体のコントロールが得ることができます。要は会社は誰のもの?という話です。もしあなたがこの支配権を持っていればコントロールできます。気に入らない社長や結果のでない社長の人事権をもっているからです。

「この社長、結果でてないし有能じゃないから交代しよう」と思ったらそれを実行できちゃんですね。

また対象会社の既存の契約やライセンスをそのまま利用できますよね。そして手続きが事業譲渡と比べると簡単だといえます。

支配権獲得していない場合はコントロールはできないものの、投資家ですから対象会社の資産の価値の増加は自分の資産の増加を意味します。あた、配当も期待できるでしょう。

出資者・買い手のデメリット

その企業の資産だけでなく負債や潜在的なリスクも引き継ぐことになります。

これには法的な責任、未解決の訴訟、環境問題、財務上の問題などが含まれる可能性があります。これらの問題は事前のデューデリジェンス(買収前調査)では見逃されることもあり、後に大きな負担となることがあります。事業譲渡で述べたことと関連しています。

資本譲渡の税務等の概要

資本譲渡の場合、売り手は、売却になるため利益に対して法人税が課税されます。VATは対象でありません。詳細は以下を参照してください。

>>ベトナム M & A 「譲渡」による課税関係の解説【図解】

また以下で手続きと法務への影響も解説しています。

>>まるわかり!ベトナムの資本譲渡の手続きの概要を5つのステップに分類して解説

#4 業務提携

業務提携(ビジネスアライアンス)は、二つ以上の独立した企業が共通の目的を達成するために協力し合うことを意味します。このアライアンスにより、各企業はリソース、技術、市場情報などを共有し、相互の強みを活かしてビジネス機会を拡大することを目指します。

業務提携と上記で述べた資本提携(資本譲渡や新規出資)は資本の移動の有無という点で異なります。

そしてこれは「契約書」を結ぶ、「契約書」を結ばないというパターンに分かれるでしょう。

業務提携のメリット

低投資で特定の戦略的利益を得ることが期待できますし、提携相手の資源や技術を活用できます。そして、撤退が容易です。業務提携は通常、契約に基づいて行われるため、市場環境の変化やプロジェクトのニーズに応じて柔軟に調整することができます。これにより、企業はより迅速に対応し、変化するビジネスの要求に適応することができます。

業務提携のデメリット

投資しているわけではないのでずばり影響力が弱いです。

業務提携では、各企業が独立性を保持するため、提携企業に対する直接的な統制が限られます。これは、戦略的な意思決定や提携先の経営方針に対する影響力が低いことを意味し、結果として提携の目的が十分に達成されないリスクがあります。

なのでコミット力も弱いのでなかなか業務が進まない。ということはあり得ると思います。どうしても需要性という点からいうと優先順位が低くなってしまうのです。

以上を踏まえて、最適なメソッドを適用しましょう!