「在庫の価値が下がったら、会計上どのように処理すればいいの? それって損金?」

ベトナムで事業を展開する日系企業の社長様や海外担当者であるんなら、一度は気になったことがあるでしょう。特に、棚卸資産の評価損引当金を計上する際、「これって法人所得税の計算で損金算入できるの?」と疑問に思う方も多いはず。

結論から言うと、ベトナムでは一定の条件を満たせば、棚卸資産の評価損引当金は法人税法上、損金算入が可能です。ただし、会計処理や税務申告の際には細かなルールがあるので注意が必要です。

この記事では、会計の専門知識がない方にもわかりやすく、ベトナムの税務ルールを解説していきます!

最初にいきなり!結論ですけど…

在庫の評価引き下げによる引当金分は損金算入できる。

です。

そもそも棚卸資産の評価損引当金とは?

簡単にいうと、在庫の価値が下がったときに、将来の損失に備えて計上するお金のことです。

たとえば、
✅ 長期間売れ残った商品
✅ 仕入れ時より市場価格が下がった原材料
✅ 傷んでしまった商品

これらの在庫は、実際には元の価格で売れない可能性がありますよね。そこで、企業は在庫の価値を見直し、実際に売れる価格(正味実現可能価額)に基づいて引当金を設定します。詳細は以下でも解説しています。

>>第48/2019/TT-BTC号の完全解説:ベトナムにおける引当金計上のポイントと注意点

ベトナムの税務ルールではどう扱われる?

ベトナムでは、通達48/2019/TT-BTC(改正:通達24/2022/TT-BTC) により、棚卸資産の評価損引当金の計上方法が規定されています。

この通達によると、一定の条件を満たせば法人所得税の計算において損金算入が認められます。ただし、すべての引当金が税務上認められるわけではなく、正しく処理しないと損金不算入になってしまう可能性も…。

では、損金算入できる条件とは何でしょうか?

そもそも損金算入がわからない!という人は以下を参照してください。

>>“損金不算入”ってなんだ?わかりやすく解説 ベトナムにおける典型例とは?

棚卸資産の評価損引当金が損金算入されるための条件を解説

以下の4つの条件を満たす必要があります。

1. 棚卸資産の価値が本当に下がっていること

帳簿上の価格(原価)よりも実際に売れる価格(正味実現可能価額)が低い場合のみ、引当金を計上できます。これは、日本の「低価法」と同じ考え方です。

2. 証拠となる書類を用意すること

財務省の規定に基づいた請求書や証憑(証拠となる書類)が必要です。
「値下がりしたから引当金を計上しました!」では認められず、きちんと取引記録や市場価格の証明
を提出しなければなりません。

3. 年次財務諸表の作成時に引当金を計上すること

引当金は、年度末に財務諸表を作成するタイミングで計上する必要があります。途中で急に追加計上したり、後から増やしたりすることはできません。

4. 企業が実際に在庫を保有していること

引当金を計上できるのは、企業が実際に所有している在庫に限ります。他社に委託している商品や、すでに売却済みの商品には適用できません。

これらの条件をクリアしていれば、法人所得税の計算において損金算入が可能です。

以下の条文が根拠となります。

実際の条文を見てみよう!

Article 4. Provisions for devaluation of inventory

1. Provisions shall be made for devaluation of materials, tools, equipment, goods, goods in transit, goods dispatched for sale, goods stored in tax-suspension warehouse, finished goods (hereinafter referred to as inventory) which have their book original prices are higher than the net realizable value and:

  • There are lawful invoices and documents according to the Finance Ministry’s regulations or other documents which can prove their costs.
  • They are owned by the stocking enterprise at the time of making financial statements.

引用元:通達第48/2019/TT-BTC 第4条第1項

Article 3. General principles in making provisions

2. The making and reversal of provisions are conducted at the time of making financial statement.

引用元:通達第48/2019/TT-BTC 第3条第2項

在庫評価引当金が損金不算入になるケース

以下のような場合、税務調査で引当金が否認され、損金不算入になるリスクがあります。

🚨 必要な証憑がない(取引記録や市場価格の証明が不足)
🚨 実際には価値が下がっていないのに引当金を計上(過大な計上)
🚨 期中に勝手に引当金を増減させた(年度末に計上すべきものを途中で変更)

税務監査が厳しいベトナムでは、こうしたミスをすると過去の税務申告を修正しなければならないことも…。

棚卸資産の評価損引当金の計算方法

計算式

棚卸資産の評価損引当金=実際の棚卸資産数量×(帳簿上の原価−正味実現可能価額)棚卸資産の評価損引当金 = 実際の棚卸資産数量 × (帳簿上の原価 – 正味実現可能価額)

📌 具体例
原価10,000VNDの在庫が、現在の市場価格で8,000VNDしか売れない場合

引当金=10個×(10,000VND−8,000VND)=20,000VND引当金 = 10個 × (10,000VND – 8,000VND) = 20,000VND

100個の在庫がある場合

引当金=100個×(10,000VND−8,000VND)=200,000VND引当金 = 100個 × (10,000VND – 8,000VND) = 200,000VND

📌 根拠条文: 通達第48/2019/TT-BTC 第4条第2項“Mức trích lập dự phòng giảm giá hàng tồn kho được xác định như sau:”「棚卸資産の評価損引当金は、以下の式で計算される。」

まとめ

法人所得税の計算において、棚卸資産の評価損引当金を損金算入するには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 帳簿価格より市場価格(正味実現可能価額)が低いこと(通達第48/2019/TT-BTC 第4条第1項)
  2. 適切な証憑を保持していること(同上)
  3. 年次財務諸表作成時に計上すること(同 第3条第2項)
  4. 企業が実際に在庫を所有していること(同 第4条第1項)

✅ 根拠となる法令を押さえておけば、税務リスクを回避できる!
✅ ベトナムでの会計処理は、現地の専門家と連携して適切に行おう!