2025年1月1日より、ベトナムで新たな交通違反報告制度が施行されました。話題になっていますね。罰金額が増えたので、学生さんなど泣いちゃっている動画も見かけます😭

まあ確かに交通ルールは基本守らない!という印象がずっとあります。2016年にハノイに来て最初のサプライズはこれですね。「みんな信号まもらない!」。

ただ私は個人的には、運転者みんなが「誰も守らない」と思って自ら主体的に注意するからこそ、意外と事故が少ないと思っていますけどね。日本人なら青信号であれば進んでもいいと思うでしょうがベトナムでそんな常識は通じません(笑)。

制度では、市民が交通違反の情報を提供することで、報奨金を受け取ることができます。報奨金の額は1件あたり最大500万VND。この新しい取り組みは、交通安全を守るために市民の協力を活用しようという政府の意図を反映したものです。

この記事では、制度の具体的な仕組みや根拠となる条文、注意すべき点についてわかりやすく解説します!

この制度の法的根拠は、政令176/2024/ND-CP第7条第3項に基づいています。同条文には次のように規定。この政令の名前は「道路交通秩序・安全違反に対する行政罰金および車両ナンバープレート競売から徴収され、国家予算に納付された後の手数料の管理・使用に関する規則」だそうです。

第7条第3項:支出基準
「交通秩序および安全に関する行政違反を反映した情報を提供した個人および団体への支援金は、1件につき行政罰金額の10%を超えない範囲で、最大5,000,000 VNDまでとする。」

引用元:政令176/2024/ND-CP第7条第3項

さらに、この政令の第8条(施行日)では、この制度が2025年1月1日から有効であることが明記されています! もう始まってますよ〜。

どのように報奨金を受け取れるのか?具体的な仕組み

じゃあ通報者はどうやったらこの「支援金」をもらえるのか?を説明します。

1. 情報提供の流れ

違反を発見した市民は、以下のいずれかの方法で情報を提供できます。

  • VNeTrafficアプリ:公安省が開発した公式アプリで、写真や動画をアップロード可能。
  • 電子メールやホットライン:交通警察が指定するメールアドレスや電話番号。
  • 郵送や直接窓口:交通警察の指定する住所や事務所で提出。
  • データ共有:技術機器やデータネットワークを通じた共有。

2. 提供される情報の要件

提供する情報は以下を満たす必要があります。嘘はだめ。生成AIで作った動画も当然だめ。

  • 明確な証拠:違反行為を撮影した写真や動画。
  • 詳細な情報:違反の日時、場所、具体的な内容。

3. 支払い条件

  • 違反が確認され、行政罰金が科されることが条件。
  • 報奨金は罰金額の10%以内で、1件あたり最大500万VND。

最大額が定められています。

誤解された事例とSNSで広まるウワサ、お金の力はすごい

導入直後からSNSで大きな話題を呼びました。「交通違反を報告すれば最大500万VNDがもらえる!」というセンセーショナルな見出しや投稿が一部で拡散され、多くの人が興味を持ちました。しかし、その一方で制度に対する誤解誤った期待も広がり、正しい情報が伝わらない問題が発生しています。お金の話題ですからみんな反応しますよね。

こんなことがあったし、これからも起こるかもしれません。

SNSで広まった誤情報の具体例

(1) 「報告すれば即座に報奨金が支払われる」

  • ウワサ:「違反を目撃して写真を送るだけで、すぐに500万VNDがもらえる」
  • 実際:報奨金(法は支援金という表現を使っている)は、提供された情報が正確であり、違反が確認され、行政罰金が科された場合にのみ支給されます。さらに、罰金額が少額であれば、報奨金も少なくなります(罰金額の10%以内)。報道では、「手数料」や「成功報酬」として誤解されている部分がありますが、政府の説明によれば、これはあくまで支援金であり、正式な確認プロセスを経て支給されるものです。この違いが正確に伝わっていない点が誤解の原因とされています。

(2) 「何でも報告すればお金になる」

  • ウワサ:「軽微な違反や不確かな情報でも、報告すればお金がもらえる」
  • 実際:政令176/2024では、明確な証拠(写真、動画)と違反の詳細情報が求められています。不正確な情報やデータが不足している場合、報奨金は支払われません。

(3) 「誰でも報奨金を簡単に受け取れる」

  • ウワサ:「アプリをダウンロードして情報を送るだけで簡単に報奨金が手に入る」
  • 実際:報奨金を受け取るには厳密な検証プロセスがあり、不正報告や虚偽情報には法的な罰則が科される可能性があります。

まあ当たり前なんですが。

効果は期待されるけれども…。はたして。

これによって交通違反は減少するでしょうね。

報奨金制度の最も大きな利点は、市民が「交通安全を守る目」として積極的に参加できることです。交通警察だけでは監視しきれない違反を、一般市民が報告することでカバーできるはずです。

海外不正と関連させると「見られる化」です。

>>変なロボットがなぜ、海外子会社の不正を防止できるのか?~見られる化の重要性~

オペラント条件付け(Operant Conditioning)という心理学の効果とも関連してくるでしょう。罰を与えることによる行動変化、つまり交通違反が減少することが期待されます。

けれどもいい効果だけではありませんね。おそらく。

例えばですが、「コブラ効果」。

コブラ効果との関連もあるかも。

コブラ効果(Cobra Effect)とは、特定のインセンティブや政策が意図した結果ではなく、逆効果を生む現象を指します。この概念は、イギリスの植民地時代にインドでコブラの駆除を目的とした報酬制度が、逆にコブラの増加を招いた事例に由来しています。「毒蛇の捕獲を促進するための報酬が、逆に蛇を繁殖させる行動を生んだ」という逸話。

もう少し、説明すると、コブラの数を減らすため、コブラを駆除した人に懸賞金を与えるという政策を実施。コブラの死骸を役所に持ってくれば、その数に応じて報酬が受け取れるようにしました。しかしながら、コブラの死骸がお金になることを知った一部の人たちは簡単にコブラを捕獲できるよう養殖を始めてしまったのです。結果的にコブラは減るどころか増えちゃったんだそうな。

今回の件も、リスクはあるんだと思います。

1. 違反を「作り出す」行為のリスク

報奨金というインセンティブが、倫理観や公共の利益よりも金銭的な利益を優先する行動を誘発する可能性があります。具体的には、違反を「演出」する行為が挙げられます。
例えば、車の運転手を駐車禁止区域に誘導して撮影し、その違反を報告する、あるいは友人や知人と共謀して軽微な違反を意図的に作り出し報告する行為です。このような行動は交通安全に直接的な悪影響を与えるだけでなく、報奨金制度の本来の目的である「交通安全文化の醸成」を損なうリスクを伴いますね。

あるかもしれません。

2. 報告の質の低下とシステムの混乱

報奨金を目的とした報告が増加すると、不正確な情報や証拠の不十分なデータが多く寄せられる可能性があります。例えば、日時や場所が明確でない写真や、違反と認められない行為の報告が増え、これにより交通警察や関連機関に過剰な負担がかかる懸念があります。
さらに、これらの報告を一つ一つ検証するプロセスにリソースを費やすことで、重大な違反の取り締まりが後回しになる可能性もあります。このような状況が続くと、制度全体の信頼性が低下し、真の交通安全意識を高める効果が薄れてしまいます。

3. 市民間のトラブルと社会的不和

報奨金を得るために他人の違反を報告する行為が、市民間の信頼関係を損なうリスクもあります。
例えば、匿名性を悪用して個人的な復讐のために虚偽報告を行うケースや、報告された人が報告者に対して反感を抱き、口論やトラブルに発展する可能性が考えられます。これもあったりするかも。

さらに、制度が進むにつれて、市民同士が常に「監視」し合う状況が生まれ、相互不信の文化が広がる恐れがあります。このような監視社会化は、社会全体にストレスをもたらし、地域コミュニティの調和を乱す可能性があります。

幼稚園での罰金制度の事例との関連も? 目的と手段

交通違反報奨金制度を考える際、「フィンケルシュタイン効果(罰金効果)」のリスクも見逃せませんね。この効果は、ペナルティやインセンティブが導入された結果、本来の目的とは逆の行動変化が起きる現象を指します。

具体的には、インセンティブや罰金が人々の倫理的動機や内発的な行動を損ない、制度の意図を逸脱する結果を生む可能性があるんだとか。これはマネジメントをする上でも大事な考えです。

ある幼稚園では、子どもを迎えに来る時間に遅れる親が多いことが問題になっていました。そのため、幼稚園側は遅刻した親に罰金を科す制度を導入しました。結果:遅刻が増加した!この罰金制度の導入後、かえって親が遅れるケースが増えちゃったんです。

制度の本来の目的は、

  • 「交通安全を向上させるため。命を救う」ことですよね。

倫理的動機の損失

  • お金目的
  • 社会貢献度の意識が低下

しかし、報奨金が主要な動機になると、次のような倫理的課題が生じるかもしれませんよね。

お金!目的が優先。市民が交通安全の向上ではなく、報酬獲得だけを目指す行動にシフトしちゃう。 例:違反が軽微であっても報告することで、報奨金を得ようとする!など。

報奨金が「安全を守る。社会のため」という内発的な動機を置き換えてしまうことで、制度終了後に行動が続かなくなるかもしれません。「お金もらえないのだったら通報しても意味ねーし。じゃあ違反するわ!」ですね。

まとめ

交通違反報奨金制度は、市民の力を活用して交通安全を向上させるユニークな取り組みです。ただし、報奨金が目的化してしまうと、社会貢献の意識が薄れたり、軽微な違反や意図的に作られた違反の報告が増える可能性があるんじゃないかなあと。

物事には必ずメリット、デメリットありますからしょうがないですね。

また、制度が終了したときに行動が続かなくなるリスクもあります。この制度を成功させるためには、報奨金だけに頼らず、市民が「交通安全を守ること自体に価値を感じられるような仕組み」を整えることが大切です。

みんなで協力して、安全で安心な交通社会を築いていきましょう!みたいになるといいですね。