ベトナムにおいて外国人従業員、特に日本人駐在員に住宅を提供することは多くの企業で一般的になっています。
ところが、その住宅の家賃にかかる付加価値税(VAT)を会社の仕入税額として控除できるかどうかは、
「誰に、どのような形で、何のために提供しているのか」によって取り扱いが大きく変わります。
同じ日本人社員でも、「日本からの出向者(いわゆる駐在者)」と「ベトナムでの現地採用者」では、税務上の扱いが異なるのです。
この記事では、通達219/2013/TT-BTCを中心に、外国人専門家への住宅提供に関するVAT控除の可否とその趣旨、さらにベトナム人従業員との比較を交えて詳しく解説します!
この記事のもくじ
VAT控除の基本原則と例外(通達219/2013/TT-BTC 第14条)
通達219/2013/TT-BTC第14条では、仕入VATが控除できる条件について明確な規定があります。その中で、外国人専門家の住宅に関する取り扱いについては、以下のように定められています。
とその前に! 付加価値税は間接税でその仕組みがわかってないとこれからの話がわかりません。なのでその構造や仕組みについては以下で復習しましょう!「控除」というのは言い換えれば「仮払金付加価値税」として資産計上でき「預かり付加価値税」から差し引ける(キャッシュアウトを減らす)パワーがあるという意味です。「控除」できるということはパワーがあるんですね。
>>ベトナム付加価値税(VAT) の仕組みを脳みそに焼き付ける!
(控除不可)
「外国人専門家がベトナム法人との労働契約に基づいて勤務し、ベトナム法人から給与を受け取っている場合、
当該住宅賃料にかかるVATは控除できない。」
(控除可)
「外国人専門家が外国法人の社員のままであり、給与・福利厚生も外国法人から支給されており、
ベトナム法人と外国法人との契約において、住宅費をベトナム法人が負担することが明記されている場合、
その住宅賃料にかかるVATは控除できる。」
このように、税務当局は「労働契約先(日本?ベトナム?0」と「給与の支払元」、そして「契約上の明示」をもって、
住宅費が「業務上必要な支出」と言えるかを判断しているのです。
なぜこのような取り扱いの違いがあるのか?
この違いの背景には、支出の性質が「業務に直接関連するか」「個人的な便益か」を見極めるという税務上の基本的な考え方があります。
ベトナム法人と労働契約を結んでいる外国人社員に対して住宅を提供する場合、
それはあくまで「従業員のための福利厚生」と見なされやすく、企業活動に直接関係する経費とは認められにくくなります。よって、その家賃にかかるVATは控除の対象外とされます。
一方、外国法人の社員がベトナムに出向しており、給与や福利厚生も外国法人から受けている場合は、
住宅費を負担するベトナム法人はあくまで「外国法人の代行者」と見なされる余地があります。
このとき、「住宅費の負担が業務上の必要経費であることを明確に示す契約」があれば、税務当局はこれを業務支出と認定し、VAT控除を認めるのです。
つまり、支出の帰属先と業務関連性を重視しているということです。
まあ、よくわからないなあと思う人もいると思います。その場合は結論だけで構いません。
実務に即した3パターン比較
ここでは、実務で特によく見られる日本人社員の3パターンと、ベトナム人社員のケースをあわせて比較します。
いわゆる「駐在員」は②に当たると思います。また給与等の損金不算入の関係からベトナム法人と労働契約を結ぶ場合が多いと思います。①はあんまりないかもしれません。
ケース | 雇用契約先 | 給与の支払元 | VAT控除 | 備考 |
---|---|---|---|---|
① 出向者(完全本社型) | 外国(日本)法人 | 外国(日本)法人 | 可能 | 契約書に住宅費負担の明記が必要 |
② 出向者(ハイブリッド型) | 外国法人+ベトナム法人 | 外国+ベトナム | 不可 | 現地給与があるとベトナム雇用とみなされやすい |
③ 日本人現地採用 | ベトナム法人 | ベトナム法人 | 不可 | 福利厚生の一環と判断される |
④ ベトナム人労働者 | ベトナム法人 | ベトナム法人 | 可能(一定条件下) | 工業団地などでの福利施設に該当すれば控除可 |
ベトナム人社員との違いとその理由
じゃあベトナム人との取り扱いの違いは?という点も気になりまよね。
通達第14条では、ベトナム人従業員への住宅提供についても規定があります。
「工業団地内で働く労働者のための住宅、医務室、食堂などの施設に関わるVATは全額控除可能」
この背景には、政府による労働環境の整備支援、特に労働集約型産業の現場における住環境の改善という政策的な狙いがあります。
したがって、ベトナム人従業員に対する住宅提供は「企業活動に密接に関連する必要支出」として扱われやすく、VAT控除が認められやすくなるのです。
一方、外国人専門家の場合は人数も少なく、個別の対応になることが多いため、税務当局は「個人の便益」として課税対象とする傾向があります。
税務はロジックじゃあありません。「感情」です。
個人所得税(PIT)と法人税(CIT)の取り扱いも要注意
会社が日本人人社員の住宅を負担する場合、たとえVATが控除できなくても、次のような取り扱いがあります。
● 個人所得税(PIT)
通達92/2015/TT-BTC第11条により、住宅費・光熱費等の企業負担分は、従業員の課税所得として計上されます。
ただし、課税額は月収(住宅費等を除く)の15%を上限とします。いわゆる15%ルール。
>>ベトナム所得税で年間で2000ドル以上の違いも? 知らないと損する、ベトナムでの駐在員の家賃
● 法人税(CIT)
VAT控除が認められなかった場合でも、そのVAT分は法人税上の経費として計上できます(通達219/2013/TT-BTC 第14条第9項)。
“The input VAT amount that is not deductible, the business establishment may account for it in the cost to calculate corporate income tax or include it in the original price of fixed assets, except for the VAT amount of goods and services purchased each time with a value of twenty million VND or more without non-cash payment documents.”
引用元:通達219/2013/TT-BTC 第14条第9項
【実務でのまとめ】
状況 | VAT控除 | 法人税の経費算入 | 補足 |
---|---|---|---|
条件を満たす場合(ただしVATは控除不可) | × | ○(第14条9項) | 記録上、経費処理して損金にできる |
非現金証憑がない(20百万VND超) | × | × | 記録上も損金算入不可 |
したがって、「VAT控除ができなかった=完全に損」とは限らず、法人税上の対応が可能な場合があるという点は、実務上とても重要です。
実務でのチェックポイント
チェックポイントは以下。
- 雇用契約はどこか(ベトナム法人か、外国法人か)
- 給与の支払元はどこか
- 住宅費の負担について、ベトナム法人と外国法人間の契約に明記されているか
- 住宅のインボイスが会社名義で発行されているか
これらを整理することで、住宅費にかかるVATが控除できるか否かを事前に判断できます。
まとめ
外国人専門家の住宅に関するVATの扱いは、一見すると「外国人だからダメ」と誤解されがちですが、
実際にはその人の雇用関係・給与支払元・契約上の役割により、控除可否が明確に分かれます。
ベトナム人従業員への住宅提供と比較することで、税制上の目的や優遇対象もより理解しやすくなります。
住宅提供は税務調査で必ず確認されるポイントです。
日系企業が安心して対応するためには、実態に即した契約整備と税法の理解が欠かせません。