2024年8月5日、ハノイ市税務局が出した文書番号「44615/CTHN-TTHT」は、会社が労働者や外国人経営者のために住宅を買った時の税金のルールについて説明しています。
このガイドは、法律そのものではありませんが、税務署の「考え方(=公式見解)」として、実際の税務申告のときにとても重要になります。
この記事では、この文書で説明された税金のルールを、なるべく簡単な言葉で紹介します。
この記事のもくじ
法人税の話:住宅にかかった費用は「会社の経費(損金)」にできるの?
会社が従業員のために住宅(たとえばアパート)を買ったとき、そのお金は会社の経費として、**法人税を計算するときに差し引くこと(=控除)**ができるかどうかが問題になります。
◆ 文書44615ではこう書かれています
「固定資産(建物や家具など)で、従業員のためのもので、企業の帳簿にしっかり記録されていれば、その減価償却費(建物の価値を毎年少しずつ経費にする費用)は、法人税を計算するときに控除できる」(44615号文書より)
通達 No. 45/2013/TT-BTC(固定資産の減価償却に関する通達)第9条 – 固定資産の減価償却の原則
「企業が保有しているすべての固定資産は減価償却の対象とする。ただし、次のような例外を除く:
- 企業が管理しているが、企業が所有していない固定資産(リース資産を除く)
- 企業の帳簿に記録・管理されていない固定資産
- 従業員の福利目的で使用される固定資産(ただし、以下は除く:休憩室、食堂、更衣室、トイレ、貯水タンク、駐車場、医務室、送迎車、研修施設、労働者用住宅など)」
これは、「本当に会社のため」「従業員の福利厚生のため」であるなら、
税金を少なくできる経費として扱ってもOKですよという意味です。つまり損金算入できるんです。これは大きいですね。
じゃあ、外国人である日本人の経営者のための住宅はどうなるの?
ここがとても大事なポイントです。
外国人の経営者(たとえば会社のオーナーや社長)のために住宅を買った場合、税務署はそれを**「福利厚生」ではなく「個人のための支出」**と見なすことがあります。
◆ 文書44615のポイント:
「会社が外国人経営者(会社の所有者の一人)のためにアパートを購入した場合、そのアパートは事業用ではなく、個人的な用途と見なされる可能性がある。この場合、法人税の控除対象にならない」
第4条 – 課税所得から控除可能な費用
該当引用(44615より):
「控除可能な費用は、以下の3つの条件を満たす必要がある:
a) 実際に発生したもので、企業の事業活動に直接関連していること
b) 法的に有効な請求書や証憑があること
c) 一回の取引が2,000万VND以上(VAT込)の場合、非現金支払いであること」また、控除対象外となる減価償却のケースとして、以下が含まれる:
- 事業活動に使用されていない固定資産
- 所有権を証明できない固定資産
- 帳簿に記録されていない資産
- 減価償却済みの資産
- 財務省の定める基準を超えた償却額
※ただし、従業員の福利施設(食堂、トイレ、研修施設、住宅など)は例外として控除可能」
つまり、
- 従業員用 → OK(控除できる)
- オーナーや経営者用 → NG(損金にできないかも)
ということになります。
付加価値(VAT)の話:住宅を買ったときの税金は戻ってくる?
ベトナムでは、住宅を買うときに**VAT(付加価値税)**を払います。
このVATが、あとで戻ってくる(控除できる)かどうかは、その住宅を誰がどう使うかで決まります。
◆ 文書44615ではこう書いています:
「労働者が働いている工業団地の中にある住宅で、法律に基づいた設計基準や家賃のルールを守っていれば、VATは全額控除できる」
「ただし、会社が外国人経営者のために買ったアパートの場合、VATの控除は認められない」第14条 – 仕入税額控除の原則
「生産や事業活動に使用される財やサービスにかかる仕入VATは全額控除できる」
「以下のような固定資産に関連するVATも控除対象:
- 食堂、休憩室、更衣室、トイレ、駐車場、水タンクなど
- 工業団地で働く労働者向けの住宅や医療施設」
「ただし、以下のような場合は控除不可:
- 工業団地外の住宅であって、設計基準を満たさないもの
- 外国人専門家用の住宅で、以下の条件を満たさないもの:① 給与は外国企業から支給されていること② 外国企業とベトナム企業の契約に、住宅費負担が明記されていること」
一般的な日本人駐在員の場合はダメな様です。
簡単に言うと
住宅の使い道 | VAT控除できる? |
---|---|
工場の中の労働者住宅 | ✅ できる |
経営者が住む高級アパート | ❌ できない |
個人所得税(PIT)の話:住宅をタダで使うと税金がかかる?
会社が社員のために住宅や電気・水道代を負担した場合、それはお給料の一部とみなされて課税されることがあります。
◆ 文書44615の引用:
「会社が従業員のために払った家賃や光熱費などは、その従業員の課税所得とみなされる。ただし、課税額はその人の月収の15%まで」
通達 No. 92/2015/TT-BTC(個人所得税に関する通達)
第11条 第2項 – 課税所得に含まれる福利厚生
該当引用(44615より):
「住宅や電気、水道などの費用は、企業が従業員に無償または会社負担で提供する場合、その金額は従業員の課税所得に含まれる」
「ただし、課税額は次の制限あり:
- 実際に企業が負担した額を基にする
- ただし、給与総額(住宅関連費を除く)の15%を超えない」
「従業員が事業所に居住している場合は、使用面積の割合などで課税額を按分計算する」
たとえば、従業員の給料が月2,000万VNDだとしたら、
会社が負担している家賃などの15%=300万VNDまでは課税される、という意味です。詳細は以下でも解説しているので深く理解したい人は下記を参照してください。
>>ベトナム所得税で年間で2000ドル以上の違いも? 知らないと損する、ベトナムでの駐在員の家賃
具体例で見てみよう(ケーススタディ)
さらに理解を深めましょう
ケース:工場で働く従業員のために、工業団地内に住宅を建てた場合:
- 法人税:住宅は固定資産として計上 → 減価償却費を経費にできる
- VAT:法律の基準を満たしていれば控除できる
- PIT:住宅を無償提供すれば、課税されない可能性もある(福利厚生とみなされる)
このケースは「税務的にも有利」
ケース:日本人駐在員に会社が住宅を提供する場合
背景:
ベトナムにあるA社(ベトナム法人)は、日本の親会社から出向してきた日本人駐在員(営業部長)のために、ハノイ市内のサービスアパートメントを会社名義で契約・支払いしています。
◆ 条件整理
項目 | 内容 |
---|---|
駐在員の国籍 | 日本人 |
雇用形態 | 外国親会社との契約(ベトナム法人とは労働契約なし) |
給与支払元 | 日本本社から支給 |
住宅費 | ベトナム法人が負担 |
契約 | 外国親会社とベトナム法人の間に「住宅費負担を明記した契約」あり |
この場合の税務処理は?
① VAT(付加価値税)
控除可能→ 通達219/2013/TT-BTC 第14条 にある以下の規定に該当:
「外国人専門家が外国企業の社員で、給与も外国から支払われ、
ベトナム法人が住宅費を負担する契約がある場合、VATの控除が認められる」
→ 条件3つを満たしているので、住宅費のVATは控除OK
② 法人所得税(CIT)
住宅費は経費計上OK→ 事業活動に関連する「外国人専門家の業務支援」として合理的とされる
③ 個人所得税(PIT)駐在員はベトナム法人から給与を受けていないが、
住宅費を会社が負担しているため、その分がベトナムでの課税対象になる可能性あり
※ 通達92/2015/TT-BTC 第11条:「住宅・光熱費などを会社が負担した場合、その額は個人の課税所得に含まれる。ただし、月収の15%を上限とする」
→ 個人所得税として申告・源泉徴収が必要になる場合がある
ポイントまとめ
区分 | 処理 |
---|---|
VAT控除 | ✅ 条件3つすべて満たせばOK |
法人税(経費) | ✅ 業務関連性があればOK |
個人所得税 | ⚠️ 原則課税対象(15%上限)※駐在員のステータスによる |
もし条件を満たさなかったら?
もし以下のようなケースであれば…
- 駐在員がベトナム法人と労働契約を結んでいる
- 住宅費負担が契約に明記されていない
- 給与がベトナム法人から支払われている
➡ VAT控除不可/法人税経費不可/PIT課税対象
おわりに:不動産購入前に、税務リスクをチェックだ!
ベトナムで住宅を買うことは、会社にとって重要な投資ですが、
「誰のために、どこで、どんな住宅を用意するか」で税金の扱いが大きく変わることを知っておく必要があります。
文書番号44615/CTHN-TTHTは、それをとても分かりやすく教えてくれるガイドです。
これから住宅を買おうと考えている方は、購入前に会計士・税理士と相談し、
法人税・VAT・PITの観点からもメリット・リスクを確認することをおすすめします。