ベトナムで外資を動かすなら知っておくべき“資本専用口座”の全知識

こんにちは、マナラボの菅野です!

ベトナムで会社を設立したり、出資を受けたりするときに、よく出てくるキーワードがあります。それが「DICA」――正式には「Direct Investment Capital Account(直接投資資本口座)」

「資本金はDICAに入れてくださいね」
「この譲渡代金、DICA通さないとダメですよ」

そんな場面、外資企業に関わっていれば一度は経験しているのではないでしょうか?

でも…

  • DICAって何のためにあるの?
  • どういうときに必要で、どういうときに不要?
  • 間違って使うとどうなるの?

この記事では、**ベトナム国家銀行の通達(Circular 06/2019/TT-NHNN)**をベースに、条文を正しく引用しながら、実務に強い知識をお届けします!

DICAとは何か?

DICAは、ベトナムにおける外国直接投資(FDI)に関わる資金を管理するための専用口座です。

通達06/2019/TT-NHNN 第3条第5項において、こう定義されています。

「直接投資資本口座(DICA)」とは、外国直接投資活動に関連する取引を行うために、認可を受けた銀行により開設される、外貨またはベトナムドン建ての支払口座を指す。
— Thông tư 06/2019/TT-NHNN, Điều 3, Khoản 5

このDICAを通じて、投資資本の払い込み、譲渡代金の支払い、配当金の送金などが行われます。

DICAの開設が必要な会社とは?

通達06/2019/TT-NHNN 第5条第1項において、DICAの開設が義務付けられているのは以下の通りです。

DICAの開設が義務付けられているのは以下の者:

  • 外国投資家が出資して設立された企業(IRCが発行された企業)

  • 外国投資家が51%以上出資した既存企業

  • BCC契約に参加する外国投資家

  • PPPプロジェクトを直接実施する外国投資家
    — Thông tư 06/2019/TT-NHNN, Điều 5, Khoản 1

つまり、「外国人が出資に関与している」企業またはプロジェクトであれば、多くの場合はDICA口座が必要になります。

DICAでできること、やってはいけないこと

使用可能な取引(通達第6条より)

通達06/2019/TT-NHNN 第6条では、DICAにおける受取・支払取引が定義されています。

DICAで受け取れる資金(第6条1項):

  • 外国投資家からの資本拠出

  • 投資資本の譲渡代金

  • 投資プロジェクトの譲渡代金

  • ベトナムにおける配当金・合法的収入の受取

DICAから支払える資金(第6条2項):

  • 投資資本や投資プロジェクトの譲渡代金の支払い

  • 減資・撤退時の投資資本返還

  • 外貨売却後のベトナムドン支払

  • 外国投資家への利益送金
    — Thông tư 06/2019/TT-NHNN, Điều 6

使用禁止の取引(実務で注意)

DICAは資本関連の取引専用です。以下のような業務取引には使えません。

  • 商品売上・サービス収入の入金
  • 給与・税金・通常経費の支払い
  • ベトナム国内の仕入支払い

これらは「決済口座(Current Account)」で行います。間違えると、**違反行為として罰金(通達第13条)**の対象になります。

DICAを使わなくてもいいケースとは?

意外かもしれませんが、DICAを使わなくてもよい例外ケースが通達第10条に明記されています。詳細は以下で解説していますよ。

>>【ベトナム投資実務】外国投資家同士の資本譲渡にDICAは不要?支払方法と外貨の使い方も解説!

非居住者同士、または居住者同士の間での譲渡は、DICAを通さずに支払うことができる。
非居住者と居住者の間の譲渡については、必ずDICAを通じて支払うこと。
— Thông tư 06/2019/TT-NHNN, Điều 10, Khoản 1

たとえば…

✅ 日本法人 → シンガポール法人にFDI企業の出資を譲渡
DICA不要!

⚠️ 日本法人 → ベトナム法人に譲渡
DICA必要!

さらに、支払い通貨にもルールがあります。

非居住者同士の取引は、外国通貨での評価・支払いが可能。
居住者が関与する取引では、必ずベトナムドンを使用すること。
— Thông tư 06/2019/TT-NHNN, Điều 10, Khoản 3

DICA口座の開設と実務ポイント

DICAは、VietcombankやHSBCなど、国家銀行のライセンスを持つ銀行で開設します。

  • 投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)が必要
  • 外貨とVNDそれぞれ別口座として開設
  • 開設後は、資本拠出の送金記録がDICAに残る形でなければ、出資完了とみなされない

ここが非常に大事です。
送金名義が投資家本人と一致していない場合、出資と認められないケースもあるので、細心の注意を。

よくある誤解とトラブル事例

  • 「売上入金もDICAでいいでしょ?」→ ✘ NG!(業務取引は決済口座)
  • 「譲渡だからとりあえずDICAに送る」→ ✘ NG!(非居住者同士ならDICA不要)
  • 「資本金はすでに送ったよ」→ ✘ 送金名義が本人でなければ無効扱いになることも

DICAを誤って使った場合の罰則

通達第13条には、DICA運用ミスに対する行政処分が定められています。

違反内容罰金額
不正な目的でのDICA使用30,000,000〜50,000,000VND
出資の未拠出(期限超過)70,000,000〜100,000,000VND
誤送金や不適切な受領(確認不能)修正対応+報告義務が発生する場合も
 

実務上あまり見たことはありませんが。

おわりに|DICAは“信用”の入口です

DICAは、単なる銀行口座ではありません。
それは、「この資本は合法に、正しく、国が認めたルートで入ってきました」という証そのものです。

だからこそ、DICAの正しい理解と運用が、企業の信用を守る第一歩。
ルールを押さえて、トラブルのない投資ライフを送りましょう!

以上、マナラボの菅野でした!

「これDICA通すべき?」「銀行から注意された…」などのご相談もお気軽にどうぞ📩