こんにちは!マナラボの菅野です。
今日は、こんな疑問に答えていきます👇
「ベトナムで株式じゃなくて、“事業だけ”を売ったり買ったりできるの?」
「ソフトウェア企業の“人材や契約”だけを引き継ぐって、法的にOK?」
「優遇税制って引き継げるの?」
…結論からいうと、できます!でも、注意点もたっぷりあります!
なので、しっかり順を追って解説していきますね。
この記事のもくじ
💡「事業譲渡」ってどんな形?
ベトナムでは「事業譲渡(Asset Transfer)」という言葉は法律に出てきません。
でも、実務上は次のようなイメージで使われています👇
- 株式(法人ごと)ではなく…
- 使いたい資産・契約・人材などを“選んで”譲ってもらう!
つまり、「会社は買わないけど、営業チームと取引先とシステムは引き継ぐ」みたいな形です。
これ、日本のM&Aでもたまにありますよね。
事業譲渡は 法律的にできるの?
はい、できます。ただし、法律上「事業譲渡」として明確に定義された統一制度があるわけではなく、個別の資産譲渡契約などを組み合わせて実現する形態になります
根拠となるのは次のようなルールです👇
✔ 民法
→「契約の自由」が原則なので、当事者同士でOKなら資産を売買できます。
✔ 企業法
→大きな資産(資産総額の35%超)を売るときは、株主総会や社員総会の承認が必要です。
✔ 投資法46条
→特定の「プロジェクト単位」での譲渡もOKです。投資局(DPI)の承認を得れば、土地や優遇税制も引き継げるかも!
法人税や付加価値税はどうなるの?
ここ、大事です。
ベトナムで事業譲渡をすると、次のような税金がかかります👇
税金の種類 | 内容 |
---|---|
法人税(CIT) | 売った側の利益に20%の税金がかかります |
付加価値税(VAT) | 資産に10%のVATがかかることも(ソフトウェアは0%や非課税もあり) |
不動産がある場合 | 別途申告が必要(注意!) |
FCT(源泉税) | 買い手が日本企業でも、通常は発生しません(売主がベトナム法人の場合) |
IT企業での実際のケース
じゃあ実務は?ですよね。気になります。
事業譲渡って、現実に使われてるの?
→ はい!あります!
たとえば…
🟢 FPT Software × 欧州RWE IT
人材と顧客契約を中心に引き継ぎ、欧州拠点を確保!
🟠 Sendo.vn × VNG(123Mua)
ドメインと顧客基盤だけを取得。会社ごとは買ってません。
🔵 DeNA × Punch Vietnam
ゲーム開発チームをそのまま採用(acqui-hire型)!
🟣 Grab × Uber Vietnam
Uberのユーザーやドライバーとの契約を引き継ぎ。法人や債務は引き継いでいません。
契約や会計ではどう書くの?
事業譲渡を行う契約書には、たとえばこんなことをしっかり明記します👇
- 何を譲るか(資産、契約、人など)
- 支払い条件(通貨、スケジュール)
- 税金の分担(VATや法人税)
- 従業員の処遇(再雇用の同意など)
- 秘密保持、競業禁止、紛争解決の方法
会計上は、買った側では「取得原価」で資産計上。のれんもあるかもしれません。難しい話なのでここでは説明しません。
まとめ:どんなときに使えるの?
- 会社ごと買うのはリスクが高い…
- でも特定の人やプロジェクトだけ欲しい!
- 債務や不祥事は避けたい!
以下の記事で、スキームを選ぶ時に判断基準となるノウハウをお伝えしています。
そんなとき、事業譲渡はとても有効な選択肢になります。
ただし、優遇税制やライセンスは引き継げないので、事前の検討と行政対応がとても重要です!
おまけです。
ベトナム版:事業譲渡チェックリスト(買い手向け)
日本企業がベトナムのIT会社を買う時が多いので書い手にしぼります。
🧭 1. 検討・交渉フェーズ
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
☐ 事業譲渡と資本譲渡の比較検討 | リスク・税務・優遇措置の観点から最適スキームを選定 | 優遇税制の継続が必要かどうかなど |
☐ 譲渡対象の特定 | 資産/契約/従業員/知財などを明確に定義 | 必要なものを漏れなくリストアップ |
☐ デューデリジェンス(DD)実施 | 法務・税務・財務・労務の現地調査 | 特に未払い税金・未契約人員に注意 |
☐ 法的制限の確認 | 外資による取得制限、土地使用権の譲渡可否など | 不動産・ソフトウェアなどは特に要注意 |
📄 2. 契約書作成フェーズ
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
☐ Asset Purchase Agreement(APA)の作成 | 英文・ベトナム語で整合性あるものを用意 | 税・労務・知財の条項は丁寧に設計 |
☐ 譲渡資産の明細添付(Schedule) | 設備、契約、IP、ドメインなどを具体的に記載 | 契約書の一部として法的効力あり |
☐ 税負担者の明記 | VAT・CIT・FCTなどを誰が負担するか明示 | 原則、売り手が納税義務を負うが交渉可 |
☐ 従業員移行に関する合意 | 再雇用条件・手続・合意書の整備 | 雇用契約は一旦終了し新規雇用扱いになる |
☐ 優遇措置の引継ぎ条項(該当時) | 投資法46条に基づく名義変更承認の明記 | 承継条件付きクロージング条項にするのが一般的 |
🏦 3. 実行・クロージングフェーズ
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
☐ 当局への報告・届出 | 税務署・投資局・商工局への変更届など | ライセンスや納税者登録の更新 |
☐ インボイスの発行・VAT支払 | 売り手側で発行。VATは10%が原則 | 支払後、買い手の帳簿に資産計上 |
☐ 銀行送金手続 | 契約・請求書を添付し日本から海外送金 | USDまたはJPYが一般的(要銀行審査) |
☐ 資産引渡確認書の作成 | 検収・引渡完了を証明する文書 | 支払とリンクしている場合も多い |
☐ 再雇用手続完了 | 雇用契約の新規締結・社保登録 | 法的には「別人の新入社」扱いです |
📚 4. 事後対応・モニタリングフェーズ
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
☐ 会計帳簿への反映 | 資産の取得原価・減価償却開始 | のれんや無形資産も正確に評価 |
☐ 納税確認 | VAT、法人税が期限内に納付されているか確認 | 遅延すると利子・罰金リスクあり |
☐ 顧客・取引先への通知 | 契約先・サービス先への引継案内 | 信用維持と混乱回避のため重要 |
☐ 契約残項目のフォロー | 追加譲渡・支払・変更届の残処理 | 契約通り完結しているか精査 |
特に注意すべき3点(実務あるある)
- 「のれん」の取り扱い:VAS上では償却対象。IFRSと異なる点に注意。
- ソースコードやクラウドのアカウント移行:契約では譲渡対象になっていても、現場で「移行できない」トラブル多発。
- 税務リスクの繰り越し禁止:譲渡益が出ても、売却損と相殺できない場合がある。