ラボの菅野です。
ベトナムで現在広く使われている「基本給2,340,000VND」は、給与計算だけでなく、社会保険や年金の算定基準としても活用されてきました。
しかし2026年以降、この基本給は正式に廃止され、「新たな基準額(reference level)」が導入される予定です。
これにより、企業の給与計算や保険料負担、労働者の将来の年金額などに直接影響が及ぶことになります。
この記事のもくじ
基本給×係数制度とは? なぜ時代遅れと言われたのか?
これまでの制度では、次のように給与が計算されてきました:
給与 = 基本給 × 等級ごとの係数
この「基本給」は、政令73/2024/ND-CP第3条により、2024年7月1日から2,340,000VND/月と定められています。これは単に給与計算の基準にとどまらず、以下のような保険料算出の基準にも使用されています。
- 社会保険(老齢、死亡)
- 傷病・出産保険
- 医療保険
- 労災・職業病保険
- 失業保険
- 現行の基本給は政令73/2024/ND-CP第3条により2,340,000VND/月と規定されています。
- この金額は、社会保険、健康保険、退職年金、失業保険などの基準にも用いられています。
なぜ基本給制度は廃止されるのか?
制度改革の背景には、以下のような指摘があったんだか。
- 制度が複雑かつ非効率(手当が多く、給与の透明性が乏しい)
- 年功序列中心で成果が反映されない(若手や高業績者の意欲を削ぐ)
- 民間企業との競争力に乏しく、人材流出の一因(まあ給与以外の収入があると言われていますがね)
こうした課題に対し、2018年の党中央決議27-NQ/TWおよび2024年の党中央結論83-KL/TWにおいて、基本給と係数制度の廃止と新たな給与構造の構築が明言されました。
「基準額(reference level)」とは何か?— 新制度の核となる考え方
「2024年社会保険法(第7条、第141条第13項)」よれば、
「基準額は、政府が定める金額であり、社会保険の拠出額や給付額の計算基準となる。物価指数、経済成長率、国家財政および社会保険基金の状況に応じて調整される。」(第7条)
「基本給が廃止されるまでは、基準額=基本給(2,340,000VND)とする。廃止後は、基準額は基本給を下回ってはならない。」(第141条第13項)
したがって:
- 2025年7月1日〜2026年頃は、引き続き2,340,000VNDが基準額として用いられる。
- 2026年以降は、政府の決定に基づき、最低でも2,340,000VND以上の金額が基準額となる。
この「基準額」は今後の給与・保険制度の中心的指標になります。
社会保険制度への影響と制度別の変化とは?この影響が大きいかも
(1)給与計算や保険料算定への影響
新たな「基準額」によって影響を受ける主な制度は以下のとおりかなと。
- 年金(老齢年金・遺族年金)
- 傷病手当金、出産手当金
- 労災・職業病保険
- 医療保険
- 失業保険
これらの保険制度では「報酬基準」として用いられるため、基準額の上昇は保険料の負担増および給付額の増加の両面に影響を与えます。
もう少し深堀りしますね。
現在の制度では、**給与や保険料の計算に使われる「基本給」**が固定されています。たとえば:
✅ 基本給=2,340,000VND
✅ 係数が2.5の職員なら給与は:2,340,000 × 2.5 = 5,850,000VND
また、社会保険や健康保険の保険料も、この給与(あるいは基本給)をベースに算出されています。
基本給が廃止された後はどうなる?
代わりに「基準額(reference level)」が使われます。これは政府が経済状況などに応じて毎年決める「新しい基準の金額」です。
この基準額を元に、社会保険料や年金の受取額が決まるようになるかなと思います。たとえば、給与が「役職に応じた固定金額」になった場合、以下のように計算されますよね。
例)職務給:10,000,000VND/月
→ 社会保険料(本人負担8%)= 800,000VND
→ 雇用主負担(14%)= 1,400,000VND
※これまでよりも給与総額が高く設定される場合、保険料の負担も増える可能性があります。
影響を受ける具体的な制度
「基準額」によって影響を受ける主な制度は以下のとおりです:
制度 | 影響内容 |
---|---|
年金(老齢年金) | 将来受け取る年金額の基礎になる |
出産・病気手当 | 支給日額の算出基準になる |
医療保険 | 保険料の計算に用いられる |
労災・職病保険 | 月額報酬ベースで保険料を算出 |
失業保険 | 雇用主・労働者ともに負担が発生 |
ポイントまとめ
- 「給与額そのもの」が高くなると、それに比例して社会保険料も上がる可能性があります。
- その一方で、将来の年金や給付額も増える可能性があるため、一概に不利とは言えません。
- 企業側も負担額が増えるため、給与設計と財務計画の見直しが必要です。
(2)2025年時点での保険料率(法的根拠)を理解しておこう
「2024年社会保険法第32条および33条、政令58/2020/ND-CP、決定595/QD-BHXH(2017年)」により、2025年の保険料率は次の通りです。
保険項目 | 雇用主負担 | 労働者負担 |
---|---|---|
社会保険(SI) | 14% | 8% |
年金保険(HT) | 3% | – |
労災・職業病保険(TNLĐ-BNN) | 0.5% | – |
失業保険(UI) | 1% | 1% |
医療保険(HI) | 3% | 1.5% |
合計 | 21.5% | 10.5% |
※ 上記はベトナム人労働者に対する保険料率であり、外国人には一部異なる規定が適用されます。
実務対応:企業・人事担当者が備えるべきこと
以下のような対応が必要でしょう!チェックリストも準備するといいと思いますよ。
項目 | 対応内容 |
給与計算ソフト | 「基準額」導入後のロジック変更に備える |
社会保険申請 | フォーム・計算式を見直し、給与台帳と整合性を取る |
社内説明資料 | 労働者向けに変更点を分かりやすく伝える資料を準備 |
予算管理 | 保険料・手当支給の増加に備えたコスト試算 |
実務担当者向けチェックリスト ✅
- 新しい「基準額」が政府から公表された際の情報収集体制を整備しているか?
- 給与・保険計算ソフトの設定項目を確認・変更準備しているか?
- 社員説明用の案内文・QAを準備しているか?
- 年度更新や申告書類に用いる単価の再計算シミュレーションを行う必要があるか?
今後の見通しとまとめ
まとめです。
- 2025年7月1日:社会保険法2024が施行され、基準額=基本給(2,340,000VND)として暫定運用
- 2026年以降:新たな給与制度・新基準額の導入が本格化
- 基本給制度は廃止され、実態に即した新制度へ移行
⚠️ 新しい「基準額」の具体的金額および適用開始時期は、政府の正式決定を待つ必要があります。 ただし、「2,340,000VNDを下回ってはならない」と法的に保障されています(社会保険法2024 第141条第13項)。