こんにちは!マナラボの菅野です。
今日は、ベトナムと日本の間でビジネスや報酬のやり取りがある方、つまり「ベトナムで源泉徴収されてしまったけど、実は日本で課税すべきだった!」というケースで、忘れちゃいけない“還付申請の切り札”をご紹介します。
その名も――
👉「様式02/DNHT(税金還付申請書)」です。
この書類、正しく使えばベトナムで納めた税金を合法的に“取り戻す”ことができるのです。
この記事では、
- どんな場合に使えるの?
- 日本で支払った税金との違いは?
- 申請に必要な書類って?
- 実際のフォームはどうやって書くの?
など、実務的に超重要なポイントを、わかりやすく解説していきます。
この記事のもくじ
🧾 そもそも様式02/DNHTとは?
この様式は、ベトナムと相手国との間に締結されている「二重課税防止条約(Double Taxation Avoidance Agreement)」に基づいて、
👉 ベトナムで課税された税金が「実は課税されるべきじゃなかった」と判断された場合に、還付を受けるための専用申請書です。
📌 根拠法令:
通達28/2011/TT-BTC(財務省)により発行された公式様式
手続き全体は通達156/2013/TT-BTC 第54条および通達26/2015/TT-BTC 第2条第13項で規定
✅ どんな場合に使えるの?
代表的なケースをいくつかご紹介します。
ケース①:日本の役員報酬がベトナムで課税された
日本企業の取締役がベトナム子会社から報酬を受け、ベトナムで10%源泉徴収されてしまった。しかし、日本とベトナムの租税条約第15条「給与所得」により、183日未満の滞在であれば、ベトナムでは課税できないとされている。
→ 申請により、ベトナムで払った税金を返してもらえる可能性が。
ケース②:技術提供料・ライセンス料が10%課税されたが、本来は免税または軽減対象だった
→ 条約第12条「使用料(ロイヤルティ)」などで、課税権が相手国にあるケース。
ケース③:ベトナムの利息・配当収入に対し過剰な税率で課税
→ 日本とベトナムの条約では利息・配当の源泉徴収率に上限(通常は10%や5%)が設定されており、それを超えて課税されていた場合に対象。
📄 申請に必要な書類一覧
以下が基本的な書類構成です(通達26/2015/TT-BTC 第13項にて明記):
書類 | 補足 |
---|---|
様式02/DNHT | 本体の申請書。記入例は後述します。 |
居住証明書(Certificate of Residence) | 日本の税務署で取得。申請年が明記されており、ベトナム領事館での領事認証が必要。 |
契約書・証憑 | 労働契約、技術提供契約など。ベトナム法人との契約関係を証明。 |
ベトナム側の実施確認書 | 契約内容が実際に履行されたことをベトナム法人が証明(必須)。 |
納税証明書 | ベトナムで実際に源泉徴収されたことの証明。税務署や銀行からの控えなど。 |
委任状(代理申請の場合) | 公証または領事認証が必要。 |
✍️ 様式02/DNHTの中身と記入のポイント
主な記載項目を抜粋して説明します。
項目 | 説明 |
---|---|
3.1 | 申請する課税年度(例:2023年) |
3.2 | 還付対象となる所得金額(例:報酬1,500USD)と、適用条文(例:第15条) |
3.4 | ベトナムで支払った税額(例:150USD) |
3.5 | 還付方法(口座振込 or 現金)+口座情報 or 身分証番号 |
4.1 | 取引の内容説明(例:「2023年7月、ベトナム子会社より技術使用料を受領」など) |
この様式は英語・ベトナム語の混在ですが、法律用語や税務用語の正確な翻訳が大切です。
【補足】「日本で支払った税金の外国税額控除」との違いと適用関係
税金の“二重取り”を避けるためには、「どちらの国で課税されるか」と「他方で支払った税金をどう扱うか」の2つが鍵になります。ここで混同されやすいのが、「外国税額控除」と「還付申請(様式02/DNHT)」の違いです。
やや複雑な論点です。
📌 ① 外国税額控除(日本の制度)
日本の居住者が海外(たとえばベトナム)で課税された場合、その現地で支払った税額を、日本での所得税・法人税から控除できる制度です。
所得税法第95条
法人税法第69条
に基づき、納税者は確定申告で外国税額控除明細書を提出することで、二重課税の調整を受けられます。
📌 ② 様式02/DNHTによるベトナム側への還付請求
一方、ベトナムで誤って源泉徴収された税金を取り戻すために使うのが、「様式02/DNHT」です。
これは、
日本で課税すべきであり、ベトナムでは課税できなかった
租税条約によりベトナムで免除対象となる
という場合に、すでに払ってしまった税金を「返してください」とベトナム税務当局に申請する方法です。
📌 ③ ベトナムの居住者が日本で非居住者として支払った税金 → ベトナムでの外国税額控除のケース
ここで、逆のケースもあります。
たとえば、以下のような状況です:
あなたがベトナム在住の日本人で、ベトナムでは「居住者」として課税されている。
そして、日本にある親会社から取締役報酬などをもらっていて、それに対して日本で「非居住者扱い」として源泉徴収(例えば20.42%)されている。
この場合、ベトナムではその日本からの報酬も世界所得として課税対象になります。
つまり、日本とベトナムで「同じ所得に対し二重課税」が発生するのです。
その際には――
👉 Circular 80/2021/TT-BTC 第62条および第63条に基づき、
👉 **「ベトナムで外国税額控除を申請」**することが可能です。
実務では、Form 02/QTT-TNCN(確定申告書)に添付して、日本の源泉徴収証明(原則公証付き)を提出することで、
その年のベトナム所得税から、日本で支払った分を控除することができます。
❗注意:この方法と「様式02/DNHT」はまったく別制度です。
02/DNHTはベトナムに申請してベトナムの税金を「返してもらう」もの。
外国税額控除は「ベトナムで払う税金を日本分だけ差し引く」ためのものです。
✅ まとめ:どの制度を使うかは「あなたがどこの居住者か」で決まる!
状況 | 適用制度 | 概要 |
---|---|---|
日本の居住者で、ベトナムで税を払った | 日本の「外国税額控除」 | 所得税申告で控除申請 |
ベトナムの居住者で、日本でも源泉徴収された | ベトナムの「外国税額控除」(Circular 80/2021/TT-BTC) | 02/QTT-TNCNで控除申請 |
ベトナムで源泉徴収されたが、本来は免除対象(日本居住者) | 「様式02/DNHT」でベトナム税務に還付請求 | 条約上非課税の場合に限定 |
まとめ:「知らなかった」では済まされない。還付は正当な権利!
ベトナムにおける日系ビジネスは、税制上の“もらい事故”も少なくありません。
そんなとき、02/DNHTを使って還付申請をすることは、合法的かつ正当な権利なのです。
実際、過去に申請して数百万円レベルの還付を受けたケースもあります。
「どうせ戻ってこないよ…」とあきらめず、まずは条約と証拠を整えて、正しい手順で申請してみましょう!
以上、マナラボの菅野がお届けしました!
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