~2025年7月1日施行、強制社会保険のルールが変わります~

こんにちは!マナラボの菅野です。

今回ご紹介するのは、**2025年7月1日施行の「法令158/2025/NĐ-CP」**について。

これは2024年に改正された社会保険法の実施細則で、強制社会保険(BHXH bắt buộc)に関する具体的なルールを定めています。とにかく条文が多くて(全44条!)、しかも人事・労務・経理すべてに関係する話なんですよね…。

今回は、日系企業や日本人駐在員にとって特に注意すべき点も交えつつ、「信頼できる情報」だけを、わかりやすく解説していきます!

1. 法令158/2025/NĐ-CPってどんな法律?

この政令は、以下の法令に基づいて発行された実務ルールです。

● 法的根拠:

  • 社会保険法2024(Luật BHXH số 41/2024/QH15)
  • 国会決議142/2024/QH15(第7回会期の決議)
  • 政府組織法(2025年2月18日)に基づく政令権限

そして、対象は「すでに社会保険に加入している労働者」だけでなく、今後加入が義務化される可能性のある個人事業主や外国人労働者なども含まれています。

2. 法令の構造をざっくり表で理解!

法令158は**全44条+附則+2つの付属書(鉱山作業リスト&申請フォーム)**から構成されています。章ごとの概要は以下の通りです。

内容条文数
第1章共通規定第1条~第5条
第2章保険加入と徴収の登録・管理第6条~第11条
第3章社会保険の給付制度第12条~第21条
第4章年金対象外者への特例給付第22条~第25条
第5章事業主が保険料支払不能な場合の制度第26条~第31条
第6章経過措置・移行規定第32条~第42条
第7章法律改正・発効・省令との整合第43条~第44条

条文の構成要素について詳しく解説しますね。

第1章:一般規定(Điều 1〜5)

この章では、法令全体の「対象者」や「基本ルール」が決まっています。

💡ここがポイント!

  • 「誰がこのルールの対象なの?」という話を明確にしています。労働者・使用者・公的機関すべてが入っています。
  • 新しい用語として「基準額(mức tham chiếu)」が登場。これは、社会保険料や給付額を計算するときの土台となる金額で、将来的には「基本給」に代わる役割を担うようです!
条文内容概要
第1条適用範囲(2024年社会保険法および国会決議142の一部実施を含む)
第2条適用対象(労働者・使用者・受給者・関係機関)
第3条強制保険加入対象の詳細(多様なケースに応じた適用ルールを規定)
第4条保険申請における写し書類の効力(原本と突合した写しの扱い)
第5条「参照額(mức tham chiếu)」の定義と調整ルール(物価指数等に基づく)

第2章:強制社会保険の加入登録・徴収・納付管理(Điều 6〜11)

この章は、実際の「加入のしかた」や「保険料の計算・支払い」についてです。

💡ここがポイント!

  • 給与や手当、補足金のうち、どれが保険料計算に含まれるのか?が細かく決まっています。
  • 遡って保険料を支払う「追納(truy thu)」や、支払いが遅れたときのペナルティ(0.03%/日)についても丁寧に規定されています。
  • 「外貨建ての給与」の場合のベトナムドンへの換算方法も明示されていて、外国人労働者を雇う会社にも重要な内容です。
条文内容概要
第6条保険加入登録と保険証の発行(登録形態ごとの手続き)
第7条強制社会保険料の算定基礎となる給与(給与の構成項目ごとの取り扱い)
第8条追納(追徴)手続き(未納・調整による追納の条件と方法)
第9条納付額・方法・納期(労働者・使用者それぞれの義務)
第10条年金・死亡基金への納付猶予(自然災害等による例外規定)
第11条その他の納付猶予の特例(一時的な休職・停職への対応)

第3章:強制社会保険制度(Điều 12〜21)

この章は、いよいよ給付内容の本丸。年金、死亡給付、出産手当などの詳細がまとめられています。

💡ここがポイント!

  • 年金をもらうにはどんな条件が必要?という年齢・加入年数の計算が丁寧に説明されています。
  • 特に注目したいのが「一時金(保険の一括受取)」の規定。12ヶ月間保険料を払っていない場合の扱いや、年齢との関係が明確になりました。
  • 出産手当や死亡保険金などについても、給付条件が具体的に「場合分け」されているのが特徴です。
条文内容概要
第12条年金受給資格の条件(鉱山業等の特例、高齢者の年齢の定義)
第13条月額年金の計算方法(平均給与との連動、定額下限保障あり)
第14条**一時金支給(BHXH一括受取)**の要件と計算方法
第15条年金・一時金の算定基礎となる平均給与(国家給与制度の変遷による調整も含む)
第16条保険料算定基礎給与の調整方法(消費者物価指数等を用いた調整式)
第17条任意・強制加入併用者の年金制度(両加入歴ありの場合の計算方法)
第18条外国人受給者の受給停止・再開・一時金支給(国外在住のケースに対応)
第19条**労災・職業病受給者の死亡時の遺族年金制度(Tuất)**の取り扱い
第20条外国人加入者の死亡時の遺族年金制度の詳細手続き
第21条任意・強制加入歴が混在する場合の遺族年金制度(遺族による一括納付の選択肢も含む)

第4章:年金未満者・年齢未達者への制度(Điều 22〜25)

「年金をもらうにはちょっと足りない…でも何も支援がないのは困る」という人のための救済制度です。

💡ここがポイント!

  • 一定の年齢に達していても、年金受給条件(例:15年以上の加入)を満たしていない人向けに「暫定的月額手当」が用意されています。
  • この手当は「月額 × 月数」で計算され、希望すれば「不足月数分を一括支払い」することも可能。
  • つまり、自分で追加納付すれば、一定額の手当をもらいながら将来の年金につなげることができる仕組みです。
条文内容概要
第22条対象者と条件の定義:年金受給資格はないが、社会年金を受ける年齢にも達していない人が対象。要件として一時金の受給や保険期間保存をしていないこと。
第23条月額給付期間の算定方法:保険料納付年数・平均給与などから計算。必要に応じて、不足月分の一括納付も可能。
第24条月額給付金額の算定方法:社会年金との比較、高額給付の式あり。政府が年金水準を調整する場合には連動して金額が変動。
第25条受給者死亡時の遺族給付制度:残存受給月の一括支給と、葬祭補助金の支給要件。申請には親族の書類提出が必要。
 

第5章:雇用主が保険料を支払えない場合の制度(Điều 26〜31)

「会社が倒産して保険料が払えていなかった…」そんなときに労働者の権利を守る仕組みがこの章です。

💡ここがポイント!

  • 使用者が破産・解散したなどの理由で社会保険が未納だった期間について、国や機関が「加入していたもの」として補足できる制度が定められています。
  • 未納保険料の支払い原資として、「違反者からのペナルティ利息(0.03%/日)など」を活用。
  • 結果的に、労働者が不利益を被らないような安全網になっています。

企業が倒産・消滅しても労働者が不利益を被らないようにするための制度が整備されています。保険料の未納があっても、確認が取れれば年金や死亡給付が受け取れることがポイント

条文内容概要
第26条適用対象者の定義:2024年7月1日より前に雇用主が保険料納付不可能になった場合に該当する労働者、および納付不能となった雇用主の範囲を規定。
第27条社会保険加入期間の確認:納付猶予・未納の期間も含めて、社会保険加入期間として確認可能。
第28条確認のための根拠書類:企業の破産・解散等の法的証明や、労働者の勤務証明等、必要な確認資料を明示。
第29条確認手続きの流れ:労働者または遺族による申請後、保険機関が15日以内に処理、調査が必要な場合は最大45日まで延長可能。
第30条年金・死亡給付の支給手続き:未納期間が確認された場合でも年金・死亡給付を適切に再算定し、差額支給。
第31条財源の明記:企業側から徴収した延滞利息(0.03%/日)や、旧法に基づく利息分から支払うことを規定。

第6章:経過措置(Điều 32〜42)

「新しい制度になるけど、昔の制度で働いていた人はどうなるの?」という部分を扱う、いわば“つなぎ”の章です。

💡ここがポイント!

  • 1995年より前の勤務歴(例:旧国営企業勤務者、兵役経験者など)を年金計算に含めるための条件や証明方法が細かく書かれています。
  • 「労働協力(xuất khẩu lao động)」で海外派遣されていた人の履歴も対象に。
  • この章があることで、“抜け落ちる人”が少なくなるよう配慮されています。
条文内容概要
第32条地域手当の取り扱い:1995年以前に地域手当付きで働いていた者や、現在受給中で地域手当を受けている者について、一時金または継続支給を規定。
第33条旧制度の月次給付者が死亡した場合の死亡給付:旧制度(失能年金、ゴム産業などの月額手当)で給付を受けていた者が死亡した場合の葬祭費と一時金給付を明記。
第34条1995年以前の国家部門での勤務歴の社会保険加入期間への算入:過去の勤務が一度も給付処理されていない場合、確認のうえ加入期間に算入可能。
第35条海外派遣労働(1995年以前)の勤務期間の取扱い:協定下の派遣、実習生、専門家として海外で働いていた期間を社会保険期間に加算可能とする手続を明記。
第36条海外派遣労働の勤務期間算定のための必要書類の規定(詳細な様式と資料)
第37条海外派遣労働に関する勤務期間認定の処理手続:本人申請、事業者ルート、遺族ルートなど様々な申請方法と処理手続を網羅。
第38条1987年11月〜1994年末の“仕事待ち”期間の取扱い:政府機関などで仕事待ちだった期間の扱いと証明書類についての詳細規定。
第39条1998年以前の地方政府職員の勤務期間の取扱い:政令09/1998/NĐ-CPに基づく勤務歴の社会保険期間への算入を明記。
第40条既に月額手当を受けている者が未計上の保険料期間を持つ場合の対応:選択により年金へ切替え、または一時金支給可。
第41条年金や月次手当の申請待機中の者に関する措置:すでに「年金年齢待ち」で休職中の者への制度移行上の取り扱いを明記。
第42条旧社会保険法(2014年法)下の傷病手当・出産手当の継続給付:2025年7月1日時点で給付中の者への経過措置。

第7章:施行条項(Điều 43〜45)

💡ここがポイント!

  • 法令の施行日を2025年7月1日と明記。
  • 旧政令(115/2015/NĐ-CPや143/2018/NĐ-CPなど)は、この日をもって正式に廃止されます。
  • また、関連省庁や地方政府に対する実施責任が割り振られていて、「誰が何をすべきか」が整理されています。
条文内容概要
第43条関係法令の改正・廃止規定
・政令88/2020(労災保険)と政令58/2020(労災保険料率)に関する一部条文の修正・補足。
・政令115/2015、143/2018、135/2020の一部条文、政令33/2023の一部条文の**失効(廃止)**を規定。
第44条施行日・失効条文
施行日:2025年7月1日
・同日より、旧政令(115/2015/NĐ-CP、143/2018/NĐ-CPなど)が失効。
第45条施行責任の割り当て
内務省が政令のガイダンス責任を負う。
財務省はインフレ指標(CPI)の提供など、社会保険給与調整に関する責任を担う。
各省庁・人民委員会・関連機関が政令の執行責任を負う。

このようになります。

3. 適用対象の確認:どんな人・企業に関係あるの?

法令158では、社会保険法2024第2条の定義を踏まえ、以下のような方々が対象となります:

  • 労働契約を締結している者(フルタイム、パートタイム含む)
  • 駐在員や現地採用の外国人(一定の要件あり)
  • 主たる業務に従事する個人事業主(2029年から段階的に対象)
  • 保険制度の恩恵を受ける退職者や遺族

✅ ポイント

法令第3条により、登録済の個人事業主で申告課税を行っている場合、2025年7月1日から強制加入対象となります。

4. 日系企業の経理・人事が特に注意したい!3つの実務ポイント

 ① 支給項目の取り扱いが厳格化(でも本質は変わらないはず!)

第7条により、保険料の算出基礎は以下のように明文化されました:

  • 基本給
  • 職務手当、職場環境手当など
  • 毎月定額支給の補助(食事・交通・電話など)

🚨 注意点:食事手当、ガソリン代、携帯電話代などが「固定で支給」されている場合、保険料算定の対象となる可能性があると明記されています。

>>「06/2021通達」完全解説!ベトナムの社会保険料の対象とならない手当・補助とは?実務で注意すべきポイントまとめ

→例えば駐在員の「携帯代300万ドン」や「車運転手手当」も再確認を!

第7条 強制社会保険料の算定基礎となる給与

強制社会保険料の算定基礎となる給与は、2024年社会保険法第31条第1項b号の規定に従い、月給であり、以下を含む:

a)
労働者が従事する業務または職位に基づき、時間単位(通常は月単位)で算定される基本給。この給与額は、労働法第93条の規定に基づいて使用者が作成した給与テーブル・給与表に従って、労働契約で合意されたものである。

b)以下の目的で支払われる給与手当

  • 労働環境の条件
  • 業務の複雑性
  • 生活条件
  • 労働者を引き付ける必要性

これらをa項に含まれる基本給で反映できない、または十分に反映されていない場合に補う目的で、労働契約にて合意された手当。※ただし、以下のような手当は含まれない:

  • 労働者の生産性、勤務状況、仕事の質などに応じて変動する手当

c)明確に金額が特定されており、a項に規定される基本給とともに労働契約で合意され、各支給期において定期的かつ安定的に支給されるその他の補助金

※ただし、以下のような補助金は含まれない:

  • 労働者の生産性、勤務状況、仕事の質などに応じて変動するその他の補助金

✅ ② 外国人や個人事業主もいよいよ強制対象に?

法令158第3条第2項では、個人事業主(登録済の hộ kinh doanh)が2025年7月以降、保険加入義務を負うことが明文化されています。さらに、

申告課税を行わない個人事業主であっても、2029年7月1日以降は加入義務化されると記載されています。

これにより、日系企業代表の外国人代表者などが形式上「個人事業主」になっているケースにも注意が必要です。

✅ ③ 追納(遡及納付)ルールの明文化と利息加算

第8条〜第10条では、保険料の追納(truy đóng)や追加徴収(truy thu)に関して明確にルールが定められました。例えば…

  • 昇給や契約変更による過去分の追加納付
  • 外国勤務後に帰国してまとめて納付
  • 納付遅れによる**日割り利息(0.03%/日)**の加算

経理担当者が見落とすと、思わぬ利息負担が発生する点に要注意です!

5. よくあるであろう疑問Q&A

Q. 駐在員の日本人も保険に入らなきゃいけない?
→ その人がベトナム法人と労働契約を結んでいて、Work Permit も持っている場合は基本的に加入義務があります【法令第3条・社会保険法第2条】。

Q. 食事手当や交通費も保険料の対象になる?
→ 固定金額で支給され、契約書に明記されている場合は、保険料算定対象となります(法令第7条)。

Q. 過去の契約修正で遡及納付が必要になる?
→ はい、必要です。未納期間に対して0.03%/日の利息が発生することが規定されています(法令第8条)。

6. 施行後にやるべきことリスト📝

  • ✅ 給与構成(手当含む)を再点検しよう
  • ✅ 駐在員の契約内容を見直そう
  • ✅ 追納対象がないか確認しよう
  • ✅ 保険加入状況と支給方法を照合しよう

7. まとめ:制度が複雑化する今、経理・人事の理解がカギ!

今回の法令158/2025/NĐ-CPでは、今まで「グレー」だった部分が一気に明文化されました。

特に、支給項目の取り扱い・外国人対応・遡及納付ルールは日系企業の皆さんにとっても極めて実務的かつ影響の大きい部分です。

この基本に忠実に、貴社の制度整備を進めていきましょう!