こんにちは、マナボックスの菅野です。
今回は、日本人駐在員の方や、日系企業の総務・人事の方からよくいただくご質問を取り上げます。
「会社が家賃を払ってくれてるのに、なぜか所得税がかかるんですけど…?」
この疑問、ベトナム特有の「給与の15%ルール」に秘密があります。
今回はこのルールの中身と、「給与とは何を指すのか」について、事例・計算例・法令根拠をもとに徹底解説していきます!
この記事のもくじ
1. 住宅手当と「15%ルール」ってなに?
まず、ベトナムでは会社が従業員に代わって住宅費(家賃)を負担する場合、それは現物給与として課税対象になります。
でもご安心ください。全額課税されるわけではありません。
以下のとおり、給与の15%を上限に課税対象とするという優遇措置があります。
📌 根拠条文:
通達92/2015/TT-BTC 第11条第2項
通達111/2013/TT-BTC 第2条第2項d.1の改正規定
📗 要約:
「会社が従業員に代わって家賃等を支払った場合、実際に支払った額を課税所得に含める。ただし、当該事業所における課税所得(住宅手当等を除く)の15%が上限。所得の支払場所(ベトナム・日本など)は問わない。」
2. 「給与の15%」の“給与”ってどこまで含むの?
ここが最大のポイントです。
「ベトナム給与だけでOKでしょ」と思いたくなりますが…実はそうではありません。
📌 根拠条文(ベトナム語):
“… không vượt quá 15% tổng thu nhập chịu thuế phát sinh tại đơn vị (không phân biệt nơi trả thu nhập)“
📘 和訳:
「所得の支払場所を問わず、当該事業所で発生した課税所得(家賃等を除く)の15%を超えてはならない」
つまり、日本本社から支給される給与も、ベトナムでの勤務の対価である限り、ベトナムで課税される全世界所得として15%ルールの対象となる、というのが原則です。
3. 法令根拠と「支払場所不問」の意味
このルールの出典となる主な通達を以下に整理します。
通達名 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
通達111/2013/TT-BTC | 個人所得税の課税対象の定義(第2条第2項d.1) | 家賃等の福利費を課税対象に含める原則 |
通達92/2015/TT-BTC | 上記条文の修正(第11条第2項) | 「15%上限」および「支払場所を問わず」規定が明記 |
この「支払場所を問わず(không phân biệt nơi trả thu nhập)」という表現が、ベトナム側での解釈を決定づけています。
日本側の給与でも、ベトナム勤務に紐づくものであれば「ベトナムの給与」として取り扱われるということです。
4. 税務当局や専門家の見解
この点については、**ハノイ税務局の公式回答(Công văn số 40746/CTHN-TTHT, 2022年)**も確認されています。
📝 要点:
「会社が従業員の住宅費を負担した場合、それは実際支払額を課税対象とするが、給与の15%を上限とする。所得支払元を問わず、ベトナムで発生した課税所得全体を基準とする。」
また、日系・外資系を問わず、多くの会計事務所がこのルールに沿ったガイダンスを出しています。
Big4やベトナム現地大手会計事務所のFAQでも、「日本からの給与も含む」と明記されており、実務上も統一された取扱いです。
5. ケース別シミュレーション
ケース | 給与合計 | 家賃 | 課税対象額 |
---|---|---|---|
ケース① | ベトナム給与:50,000,000VND | 家賃:10,000,000VND | 課税対象家賃:7,500,000VND(15%) |
ケース② | ベトナム給与:30,000,000VND + 日本給与相当:70,000,000VND | 家賃:20,000,000VND | 合計給与:100,000,000VND → 課税対象家賃:15,000,000VND |
ケース③ | 家賃手当を現金支給(個人契約) | 家賃:10,000,000VND | 全額課税対象(15%制限なし) |
🔔 注意:15%ルールは「会社が直接支払う場合」にのみ適用されます。個人への現金支給は全額課税です!
6. よくある誤解と注意点
❌「ベトナム給与しか含まれないと思ってた」→ NG
❌「現金でも15%ルール適用される」→ NG(全額課税)
✅「会社が家主と契約」→ OK!15%上限の恩恵を受けられる
✅「日本給与を含めた給与全体から15%」→ 正解!
7. 確定申告と四半期申告での実務対応
✔ 四半期または月次申告(企業側のPIT源泉徴収)
- 毎月 or 四半期で給与から源泉徴収する際、会社負担家賃がある場合は15%ルールを反映して計算
- 日本給与が判明していない場合、**年末に調整(追加納税)**が必要となるケースもあり
✔ 年次の個人所得税確定申告(決算期後)
- 駐在員本人が申告する際も、「支払場所を問わない給与合計」の15%ルールで再計算
- **会社負担の証憑(契約書・領収書)**を添付できるかがカギ
8. まとめ:会社負担の形と給与範囲の理解が重要!
住宅手当をどう扱うかで、手取りに差が出るのがベトナムの税制です。
だからこそ、給与支払元が複数ある場合(本社+現地)、「全世界所得」ベースで15%を算定するという理解が重要です。
また、税務リスクを避けるためにも、会社としては以下のような対応がおすすめです:
- ✅ 家賃は会社名義契約にして、15%ルールを適用可能にする
- ✅ 駐在員の給与体系(日本・ベトナム分)をHR・会計部門で共有
- ✅ 確定申告時に再計算が必要になる前提で月次から調整する
この記事が「家賃=全額非課税」だと思っていた方の誤解を解く一助になれば幸いです!
今後も、ベトナム実務に即したテーマを取り上げていきますので、気になるトピックがあればぜひ教えてくださいね!