こんにちは!マナラボの菅野です。

今回はちょっと専門的だけど、外資企業にとって避けて通れないテーマをご紹介します。

そう、それは…**「ベトナムの破産制度」**です。

「え?破産って関係あるの?」「会社が終わるときって清算じゃないの?」という方も多いかもしれません。でも実は、破産と清算(解散)ってまったく別モノなんです!

この記事では、

  • 破産手続の法律上の流れ
  • 外資企業ならではの注意点
  • 実際にどれくらい使われているのか?

を、わかりやすく!フレンドリーに!でも法律根拠はしっかり! 解説していきます。

第1章:そもそも「破産」ってなに?

✅「破産」と「支払不能」の違いを明確に!

日本では「破産=会社がお金なくなって終わること」というイメージですが、ベトナムの法律ではもっと明確な定義があります。

ベトナム破産法(Luật Phá sản số 51/2014/QH13)第4条第2項では、こう定義されています:

「Phá sản là tình trạng của doanh nghiệp, hợp tác xã mất khả năng thanh toán và bị Tòa án nhân dân ra quyết định tuyên bố phá sản.」
=破産とは、企業または協同組合が支払不能に陥り、かつ人民裁判所によって破産が宣告された状態をいう。

つまり、「お金が払えない状態(mất khả năng thanh toán)」と、「裁判所が破産を宣告すること」は別なんですね。

もう一歩踏み込むと、第4条第1項では「支払不能」は以下のように定義されています:

「Doanh nghiệp, hợp tác xã mất khả năng thanh toán là doanh nghiệp, hợp tác xã không thực hiện nghĩa vụ thanh toán khoản nợ trong thời hạn 03 tháng kể từ ngày đến hạn thanh toán.」
=企業または協同組合が、支払期日から3か月を経過しても債務を履行できない状態

つまり、「3か月以上滞納したら支払不能」→「裁判所に申立て」→「審理して破産を宣告するか判断」というステップです。

破産手続が使えるのはどんな会社?

この法律はベトナムで登録された全ての企業・協同組合に適用されます(第2条)。

そして、破産を申し立てられるのは、

  • 債権者(第5条第1項)
  • 従業員や労働組合(第5条第2項)
  • 会社の法定代表者(第5条第3項)
  • 一人有限会社の所有者、取締役会長、株式会社の株主(第5条第4~5項)など

です。つまり、「自分で申し立てる」ケースもあれば、「他人から申し立てられる」ケースもあるということ。

ベトナム破産法の法律の構造(条文の章立て)

破産法は全13章・133条で構成されており、流れに沿って体系的に組まれています。

内容
第I章一般規定(定義、適用範囲、手続開始要件など)
第II章破産申立手続とその受理
第III章破産手続の開始
第IV章財務義務(債務の評価、担保処理、配当順)
第V章資産保全措置(無効取引、緊急措置など)
第VI章債権者集会
第VII章事業再建手続(再建計画の作成と履行)
第VIII章金融機関向け特別規定
第IX章破産の宣告
第X章財産紛争の処理
第XI章外国要素を含む破産手続
第XII章宣告後の執行
第XIII章制裁と施行条項

このあと第2章以降で、実際の手続の流れをステップごとに詳しくご紹介していきます。

第2章:破産手続の流れを【図解】でやさしく解説

こんにちは!マナラボの菅野です。

前回は「破産ってなに?」を法律の定義から解説しましたが、今回は実際の破産手続がどんなステップで進んでいくのかを図解付きでご紹介します。

ベトナム破産法は、けっこうちゃんと整備されてるんです。
でも「法律は整ってるけど、実際には使われてない」って言われる理由も、流れを見ればなんとなく分かるかも…?

全体の流れ(ざっくり7ステップ)

 
gr A[破産申立て] --> B[裁判所による審査] B --> C[破産手続の開始決定] C --> D[管財人の任命・債権者の通知] D --> E[債権者集会の開催] E --> F{再建する?破産する?} F -- 再建 --> G[再建計画の履行] F -- 破産 --> H[破産宣告・資産の清算] H --> I[法人格の消滅]

ステップ①:破産の申立て(Điều 5)

「会社が支払不能っぽいな」となったとき、誰が申し立てできるのか?

🔹 破産法第5条によれば…

誰がいつ
債権者債務の支払期限から3か月経過しても返してもらえないとき
従業員・労働組合給料や手当などが3か月以上未払いのとき
法定代表者(社長など)自社が支払不能になったとき(※これは義務)
株主(普通株式20%以上を6か月以上保有)株式会社が支払不能になったとき

👉 つまり、債権者からの申立ても、社長の自己申立てもアリということ!

ステップ②:裁判所による審査(Điều 32〜35)

申立てが受理されると、裁判所が以下のことを審査します。

  • 申立内容が正しいか?
  • 支払不能の証拠はあるか?
  • 手数料や予納金は支払われたか?

そして、条件を満たしていれば…

ステップ③:破産手続の開始決定(Điều 42)

裁判所が**「破産手続開始決定」**を出します!

📍この決定が出ると…

  • 会社の財産は勝手に処分できなくなり、
  • 債務者には一部行動制限がかかり、
  • **破産管財人(Quản tài viên)**が任命され、
  • 関係者に通知・公告されます!

ちなみに、簡単に辞任できないので「社長業を放棄して逃げる」はできません😅

ステップ④:管財人の任命・資産管理(Điều 45〜49)

裁判所は破産管財人(または財産管理会社)を任命します。

この人たちは何をするかというと…

  • 資産を調査・保全
  • 債権者リスト・債務者リストを作成
  • 財産目録を作成
  • 不正な資産移転がないか調査(無効取引の洗い出し)

などなど、経営者に代わって企業を管理・報告するプロです。

ステップ⑤:債権者集会の開催(Điều 75〜83)

資産目録や債権者リストが揃ったら、いよいよ**債権者集会(Hội nghị chủ nợ)**が開催されます!

ここでは以下のことを話し合います:

  • 会社の現状説明
  • 再建計画の有無
  • 管財人の報告内容
  • 再建するか? 破産するか?

ステップ⑥:再建か破産かを決定

再建する場合は:

  • 再建計画を策定(Điều 87〜92)
  • 債権者集会で65%以上の賛成が必要
  • 計画通りに返済・立て直しへ!

ただし、現実はなかなかうまくいかず…

👉 なんと2023年9月までに再建手続が実施されたのはわずか6件

再建が失敗した場合や、最初から無理な場合は…

ステップ⑦:破産宣告・資産の清算(Điều 105〜108)

裁判所が**破産宣告決定(Quyết định tuyên bố phá sản)**を出します。

これにより、

  • 法人格の消滅が確定
  • 資産は管財人が売却
  • 売却代金は法律の優先順位に従って配当

となります。

📘 参考:配当順位(第54条)

  1. 破産費用(手続費用・裁判所費用など)
  2. 従業員の給与・手当・保険
  3. 破産開始後に生じた債務
  4. 税金・国家への財政義務
  5. 無担保債権者

👉 残った債務はすべて「消滅」します!

まとめ

ステップ概要法令
申立て(債権者・社長・従業員)第5条
裁判所による審査第32〜35条
破産手続開始決定第42条
管財人の任命第45条
債権者集会の開催第75条〜
再建計画または破産移行第83・87〜
破産宣告と配当第105〜108条

ここからは有料記事です。破産の統計データやなぜ破産が利用されないのか?などを実務目線で見ていきます。

 

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