外国税額控除の実務と成功のポイント(Circular 80/2021/TT-BTC 第62条)

こんにちは!マナラボの菅野です。
今回は「日本で収めた所得税を、ベトナムの個人所得税(PIT)から控除できるのか?」というテーマを、実務ベースで詳しく解説していきます!

海外と関わるお仕事をされている方や、ベトナムに住みながら日本からも報酬を受け取っている方にとって、「二重課税」の問題は避けて通れないもの。でも、ちゃんと制度を使えば、日本で払った税金をベトナムで控除できるケースもあるんです。

ただし、制度はあっても、手続きが少しややこしいのが現実……。

今回は、2021年に発行された Circular 80/2021/TT-BTC の第62条 を中心に、税額控除のルールや申請方法、注意点、そして実際によくある成功・失敗のパターンまで、徹底的に解説していきます!

そもそも「外国税額控除」ってどんな制度?

まず基本のところからいきましょう!前提知識なので大事です!

ベトナムでは、税務上の居住者(residents)に対して「全世界所得課税(worldwide income)」の原則が適用されます。つまり、ベトナム国外で得た所得も、ベトナムの個人所得税(PIT)の課税対象になるんですね。

例えば、日本の企業から役員報酬を受け取っているベトナム在住の方の場合、日本では非居住者として源泉徴収されていたとしても、ベトナムでのPIT申告の対象になります。

でも、「日本でも税金を払ってるのに、ベトナムでもまた払うの?」と思いますよね。そこで登場するのがこの外国税額控除制度です。

ベトナムは日本と租税条約(二重課税防止協定)を結んでおり、条約と国内法に従って、外国で支払った税金をベトナムの税額から差し引くことができます。

この控除制度は、次の2つのルールを根拠としています。

  • Circular 80/2021/TT-BTC 第62条(税額控除の手続きと書類)
  • Circular 111/2013/TT-BTC 第26条(課税所得の範囲と控除の上限)

特にCircular 80の第62条は、租税条約に基づいた税額控除の仕組みを明確にした新しいガイドラインで、2022年以降の申請ではこの通達がベースになります。

誰が対象なの?どんな税金が控除できるの?

ベトナムで外国税額控除の制度が使えるのは、ズバリベトナムの税務上の居住者です。

これは「その年にベトナムに183日以上滞在した人」または「恒久的な住居がベトナムにある人」が該当します(Circular 111/2013/TT-BTC 第2条)。

そして、この居住者がベトナム国外で所得を得ていて、その所得に対して相手国の法律に基づいて税金を支払っていることが、控除の条件になります。

では、具体的にどんな税金が控除の対象になるのか?
日本との関係でいうと、次のようなものが控除対象になります:

項目控除対象か根拠・補足
日本の所得税(源泉所得税)✅ 対象Circular 80/2021/TT-BTC 第62条+日越租税条約 第22条
日本の住民税(地方税)✅ 対象日越租税条約第2条「対象税」に含まれると明示されている
日本の消費税❌ 対象外所得税ではないため対象外
日本での罰金や追徴税❌ 対象外正規の税ではないため控除不可

つまり、日本で受け取った役員報酬や給与に対して課税された所得税や住民税(理論上は)は、原則としてベトナムで控除申請できます。

日本で払った個人所得税いくらまで控除できるの?上限に注意!

「日本で100万円納めたから、ベトナムで100万円引ける!」…と言いたいところですが、実はそんなに単純ではありません。

控除額には上限があるのです。ベトナムの通達では、以下のようなルールが定められています(Circular 111/2013/TT-BTC 第26条):

✅ 控除できる外国税額の上限=
ベトナムで計算された年間所得税 ×(国外所得 ÷ 全体所得)

つまり、日本の所得が全体のうち何割を占めるかによって、ベトナムで控除できる限度額が決まるわけですね。

【ミニ事例で解説】

理論がわかったとしてもピンと来ないですよね。

たとえば…

  • ベトナムの所得:200万円
  • 日本の所得:300万円
  • 総所得:500万円
  • 日本で納めた税金:40万円
  • ベトナムで計算した税額:60万円

この場合、控除できるのは
60万円 × (300 ÷ 500) = 36万円までです。
→ 日本で納めた40万円のうち、4万円は控除しきれず自己負担となります。

こうした「按分計算」があるので、「全部控除できる」と思い込んで申告しないよう注意が必要です!

申請に必要な書類はこれ!日本で入手すべきものリスト【重要】

外国税額控除の申請には、ベトナムの税務署に証拠を出すことが必須です。
Circular 80/2021/TT-BTC 第62条には、提出すべき書類が具体的に書かれています。特に「a.2.1.1~a.2.1.3」の部分が重要です。

ベトナム語の条文って読みにくいんですが、ざっくり訳すとこうです👇

【提出が求められる書類】

No.書類名内容実務上の注意点
様式02/HTQT税額控除申請書。ベトナム税務署に出す公式様式。自分で記入 or 税理士に依頼。提出必須。
外国での確定申告書のコピー例:日本で申告している場合の確定申告書控え日本では非居住者のため通常この書類は出ません。多くのケースで「省略可」または代替書類でOK。
納税を証明する支払明細のコピー銀行の振込伝票、または支払証憑など日本では会社が一括納付のため、これも通常個人では取得不可。
納税証明書の原本(外国税務当局発行)一番重要!日本の税務署(税務署長名)から出る証明書(その2)必須。翻訳+リーガリゼーション(領事認証)を求められることも。

【もしかしたら日本の場合、②③は手に入らない!?】

実は、日本の非居住者の給与所得って、**申告不要(源泉徴収のみ)**なんです。だから、②や③のような「個人名での申告書や納付書」は出ないんですよね。

ではどうするのか?

✅ 答えは、「④「納税証明書(その2)」」だけで勝負する、という実務が一般的です。

これさえあれば、多くの税務署はOKを出してくれます。ただし、ベトナムの税務署によっては補足で源泉徴収票の提出や、会社からの説明書類を求められることもあります。


👉 実務的には、**「納税証明書」+「源泉徴収票」+「簡単な説明書」**の3点セットで対応するのが安心です。

還付の申請の流れとタイミング

「書類をそろえた!さて、どこに出すの?」という流れも解説しますね。
これは Circular 80/2021/TT-BTC 第62条第3項に書かれています。

【申請のステップ(個人の場合)】

  1. 外国税額控除の申請書(様式02/HTQT)を作成
     ▼

  2. 必要書類を添付して所轄税務署に提出(控除申請)
     ※提出先は確定申告をする税務署です(多くは住居地管轄)。
     ▼

  3. 税務署が10営業日以内に内容を審査・通知(修正依頼もあり)
     ▼

  4. その通知書をもとに、個人所得税の確定申告で控除反映!


💡ポイント:時期に注意!

  • 年度のPIT確定申告(通常 翌年1月~3月)前に、
    この申請を済ませておく必要があります!
  • 特に、申請が多くなる2〜3月は税務署が混雑しており、10日以上かかるケースもあります。
  • 書類不備があると差し戻されるので、1月中に一度申請しておくのが理想的です!

実務ではどこまで書類を求められる?税務署によって対応が違う!?オフィシャルレターで解説

通達には「この3点セットを出してください」と書かれていますが、実際の現場では“運用の差”が大きいのがこの制度の特徴です。

税務署によってこんな差があるの?

  • ハノイ税務局(CTHN):
     比較的丁寧に教えてくれるが、条約に基づく手続き(様式02/HTQT)を省略すると指摘が厳しい傾向あり。納税証明書に加え、源泉徴収票など補助資料も求めることが多いです。
     👉 過去に日本の住民税(地方税)も控除対象として認めた公式回答あり(13182/CTHN-TTHT)。

  • ビンズオン省税務局(CTBDU):
     日本からの源泉徴収に関して、2023年の公式レターで「納税証明書があればOK」と明示。ただし「源泉徴収票や支払者発行の明細書があるとより望ましい」と記載あり(4193/CTBDU-TTHT)。
     👉 やや柔軟だが、税額と所得の整合性チェックは厳しい印象。

  • ホーチミン市税務局(CTHCM):
     申請件数が多いためか、処理はやや時間がかかる傾向。申請書は正確でないと差し戻されることが多く、領事認証の有無まで確認された例も。ただし一度認められれば安定運用。

どの書類が最重要?結局「これがないと始まらない」

ずばり、日本の「納税証明書(その2)」が最重要です。
これがないと、他の書類でいくら頑張っても認められないことが多いです。

逆に、他の書類(確定申告書の写しや納付証憑)は、
👉 出せればベター、でも出せなくても「説明と補足資料」でなんとかなるケースもあります。

特に日本の場合、「確定申告していない」人が多いので、②③が出せないのはむしろ普通。
その場合は、以下のような組み合わせで対応している事例があります:

✅ 納税証明書(その2)+ 源泉徴収票(会社発行)+ 自己説明文(ベトナム語)

この3点セットで通った、という報告が複数の会計事務所から出ています。

成功・失敗パターンから学ぶ!

✅ 成功例:Aさん(ベトナム在住・日本から役員報酬)

  • 日本で源泉徴収された税額:60万円
  • 日本で確定申告なし、納付書も無し
  • 「納税証明書(その2)」と「源泉徴収票」のみ提出
  • 税務署から追加資料の要請なく、外国税額控除として全額承認

※ハノイ税務署のケース。源泉徴収票の金額と納税証明書の額が一致しており、整合性が明確だったことがポイント。


❌ 失敗例:B社の外国人役員(同様の立場)

  • 日本で受け取った役員報酬に対し、日本側で税を支払ったが、住民税だけだった
  • ベトナム税務署に対し「住民税証明書」のみ提出
  • ⇒ 条約上「住民税も対象」とは言えども、所得税証明がないことで減額扱いに
  • 最終的に控除額は希望額の60%程度に

※「どの税金に対する証明か?」を明確にすることが大切だとわかる事例。

成功のためのポイントまとめ

日本で納めた所得税をベトナムで控除するためには、制度を知るだけでなく、「通る書類」と「通らない書類」の違いをしっかり把握することがカギになります。

ここで、これまでの内容をギュッと3つのポイントにまとめてみました👇

✅ポイント①:「納税証明書」は絶対に押さえる!

何はともあれ、「納税証明書(その2)」が最優先!
源泉徴収票は補助資料にすぎません。
証明書が取れないときは、税務署に理由を説明する文書を添えることで柔軟に対応してくれる場合もありますが、基本は「証明書ありき」です。

✅ ポイント②:ベトナム税務署との事前コミュニケーションが超重要

税務署ごとに求める書類や温度感が違います。
出す前に一度、所轄税務署に確認を入れるのがベスト。
最近はChatGPTでも調べられる時代ですが、**最終判断をするのは「現地の担当官」**です。

✅ ポイント③:時間に余裕を持つ!1月~2月の提出が理想

確定申告の直前(3月)は税務署がパンクします。
年明けすぐ、1月中に控除申請を出しておくと、修正や追加資料があっても余裕を持って対応できます。

簡易、外国税額控除チェックリスト(日本の所得税の場合)

最後に、現場でよく使われる「書類の準備チェックリスト」をまとめておきます。
印刷しておいても便利です🖨️

✅ ベトナム語で作成した様式02/HTQT(税額控除申請書)(通常は会計士などの専門家が作ります)
✅ 日本の納税証明書(その2)【原本+翻訳+リーガリゼーション】
✅ 源泉徴収票(給与または役員報酬)【あれば】
✅ 所得内容・支払企業との関係がわかる書類(契約書など)【必要に応じて】
✅ ベトナム語での自己説明書(書類不足がある場合)
✅ 事前に所轄税務署に内容確認済みか?


まとめ:ルールを知れば、控除は怖くない!

今回ご紹介したように、日本で納めた税金をベトナムで控除するには
「ルール」と「書類」の理解が命です。

ただし、通達と現場の運用にはグレーゾーンも多いため、**「ベトナム的な柔軟さ」**も意識しながら、できる限り書類をそろえて丁寧に進めていくのが得策です。

しっかり準備して、賢く二重課税を避けましょう!