こんにちは!マナラボの菅野です。

今回は、「FCT(外国契約者税)に含まれるVAT(付加価値税)」について、

「なんで売り手(外国契約者)にVATがかかるの?しかも仮払いみたいな形で?」という疑問に正面から向き合っていきます!

ベトナムにおけるFCT-VAT、これ…一見、すごく矛盾しているように見えるんですよね。

ただ、この辺りは理解していなくても問題ありません。FCTの結論だけ理解することでも全く問題ありません。「ベトナムから海外にお金出ていく時にかかる可能性のある税金だね」という理解です。

ただ、ベトナムの税制度を深掘りすると、そこにはきちんとした理屈と国際的な共通ルールが隠れているんです!

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え、VATって買い手が払うんじゃないの?

はい、そう思うのが普通です。

日本でも、タイでも、中国でも、VAT(あるいは消費税)って、

「買った人(=最終消費者)」が負担する、
「売った人(=売り手)」がそれを“預かって”納めるというのが基本的な仕組みです。

でもベトナムのFCTではこうなります。

💬「外国契約者にはVAT込みで報酬を払ってないのに、VATが“仮払い”されてる?」
💬「しかもそのVATは、ベトナム企業が勝手に計算して、税務署に直接納付?」
💬「それって、売り手が税を預かったことにならないよね…?」

そう、ここが多くの人の“ひっかかりポイント”なんです。ただここは間接税の仕組みがわかっている専門家だからこそ違和感を抱くのかもしれません。

>>ベトナム付加価値税(VAT) の仕組みを脳みそに焼き付ける!

そもそもFCTってなに? 付加価値(VAT)と法人税(CIT)の“合体型”課税

まず簡単におさらいです。

FCT(Foreign Contractor Tax)=外国契約者税は、
ベトナムで所得を得る外国企業(≒ベトナムに登録がない企業)に対して、

  • 法人所得税(CIT)
  • 付加価値税(VAT)

の両方を、ベトナム側の企業が代わりに申告・納付する制度です。

根拠:財務省通達103/2014/TT-BTC 第1条
「ベトナム国内で使用・消費されるサービスを提供する外国契約者には、付加価値税および法人税が適用される」

例えば、100ドルの契約金額に対して、FCTの税率がVAT 5%、CIT 5%なら、

  • 外国契約者に支払われるのは 90ドル(実際に受け取る金額)
  • 残り10ドルは、ベトナム企業が税務署に納付(FCT)

この10ドルのうち、5ドルがVATです。
問題はこの「5ドルがなぜ売り手に課税されるのか?」です。

厳密にいえば「ネット」「グロス」「折衷型」の3つ方法があるのですがここでは無視します。詳しく知りたいという人は以下の記事を見てください。難易度は高いと思います。

>>【税務のプロが教える】FCTの計算シート、3つの方法があります

>>M-Lab_3つのパターンの外国社契約者税(FCT)の計算シートのダウンロード

次のその理由を解説しますが、アカデミックなお話しですので無視してもいいです!

FCT二重構成の趣旨:なぜVATとCITの両方を課すのか??

ベトナムがFCTをVAT+CITの二重構成とした背景には、理論面・政策面の明確な目的があります。

  • (1)内外企業の公平性(競争条件の平準化): 外国企業だけがベトナムで税負担を免れると、国内企業との競争上不公平となります。FCTにより外国契約者にも国内企業と同様のVAT・CIT負担を求めることで、内国民待遇的な公平性を確保しています。例えば、ベトナム企業が提供すればVAT込み・CIT課税されるサービスについて、外国企業経由だからと無税で済むことがないようにする狙いです。

  • (2)税収確保と国家財政への貢献: 外国契約者から適正に税を徴収することで、ベトナム政府の歳入に寄与します。FCTはインフラや公共サービスの財源として重要であり、海外から利益を得る企業にも「相応の負担」を求めるものです。とりわけ、経済成長に伴い外国からのサービス調達が増える中で、その一部を国庫に還元させる意味があります。

  • (3)課税の確実性・透明性向上: 源泉徴収という仕組みにより、税を支払いの時点で確保できるため、徴収漏れや課税逃れを防ぎます。外国企業が自発的に申告納税しない場合でも、ベトナム側取引先が税金を天引きして納付するため、徴収の実効性が高まります。これにより取引の記録が明確化し、課税の透明性・遵法意識も向上します。

  • (4)経済発展への寄与: FCTを通じて得た税収は国内の教育・医療・インフラ整備などに再投資され、ベトナムの経済発展や国民生活の向上に役立っています。つまり、外国企業にも税負担を求めることで広く経済社会の発展原資を確保するという政策的正当性があります。

以上のように、FCTのCIT+VAT二重構成は「外国事業者も国内事業者と同等に税負担する」という公平・中立の原則と、国家財政への貢献確保という二点で制度的な必然性があると言えます。

また、この仕組みにより外国企業にもベトナムの税法遵守と適正な事業活動が促される効果があります

キーワードは「消費地課税主義」!なんだそう。どこで消費したか。

VATの考え方はとてもシンプルです。

「どこでサービスが使われたか?=その国が課税する」

この原則は**消費地課税主義(Destination Principle)**と呼ばれており、
世界共通ルールになっています。

📘 ベトナムVAT法(Luật Thuế GTGT)第2条
「ベトナム国内で使用・消費される財・サービスには付加価値税が課される」

つまり、たとえ外国契約者が日本からZoomでアドバイスをしたとしても、ベトナムの企業がその助言を使って業務を進めたなら、そのサービスは「ベトナムで消費された」ことになります。

だから、ベトナムがその取引にVATを課すのは、制度としてはまったく正当なんです。

外国契約者は登録してない。じゃあどうする? とりっぱぐれはごめんだ!

とはいえ、ベトナムに拠点も税務コードもない外国企業が、
いちいちVATを申告・納付するなんて…現実的じゃないですよね?

そこでベトナム政府はこう考えました👇

「売り手にVATを課すルールは維持しつつ、買い手(=ベトナム企業)が代わりに納付してね」

この**“制度的な納税義務者”と“実務的な納付者”を分ける構造**こそが、FCTの仕組みなんです。


でも納得できない!なんで“売り手”がVATの課税対象者になるの?

はい、ここが最大の疑問点。そして、たしかに通常のVATの流れとは逆に見えるんですよね。

通常のVATの流れ(国内取引):

  1. 売り手が、価格+10%VATで請求
  2. 買い手が支払
  3. 売り手がVAT分を預かって、税務署に納付

FCTの流れ(ベトナム企業 ↔ 外国契約者):

  1. 契約額はVAT込みだけど、外国契約者はVATを「預からない」「預かれない」
  2. ベトナム企業がVAT分を「税務署に直接納付」
  3. 外国契約者は“自分の報酬からVATを仮払いした”形になる

会計的にはどう処理されてる?

ここも重要ポイントです。

実際には、FCTのVAT部分はこんな風に処理されます!VAT部分だけですね。

借方貸方
仕入VAT(資産)FCT未払税金(負債)

つまり、

  • ベトナム企業は、仕入VATとして控除資産を計上しつつ
  • 同時に、「まだ税務署に納めてないVAT」を負債(FCT未払税金)として記録

資産と負債に計上するのだからネットでの影響はゼロ!

この処理により、最終的にVATは、

  • ベトナム企業にとっては中立(払ってすぐ控除)
  • 外国契約者にとっては、“報酬から仮に税金を差し引かれた”形

になります。

仮払い?源泉徴収?リバースチャージ?何が一番近いの?

実はFCT-VATの仕組みは、他国のリバースチャージ制度にかなり近いんです。これも専門用語ですね。分かりにくい。

リバースチャージとは?

「リバースチャージ制度」って聞いたことありますか?

これは、海外の会社からサービスを買ったときに、買い手のほうが“自分で消費税(VAT)を計算して納める”という制度です。これ、間接税の仕組みを理解してないとしっくりこないかもしれません。

海外事業者からサービスを買ったとき、買い手(国内事業者)が、

  • VATを自分で計算して自己申告し
  • 自分で納付して、仕入VATとして控除する

という制度。日本やタイ、EU諸国で採用されています。

ベトナムFCT-VATとの比較

項目ベトナムFCT-VATリバースチャージ(日本・タイなど)
VATの納税者(名目)外国契約者(売り手)国内の買い手
VATの納付者(実務)ベトナム企業(買い手)買い手自身
VATの会計処理負債+資産資産+費用 or 相殺
VAT控除可否原則控除可能(課税事業者)同様に控除可
所得税との関係CITとセット徴収通常は別管理

つまり、ベトナムは「リバースチャージ的な発想」を、“売り手課税”を維持したまま源泉で回収する仕組みとして制度化していると言えます。

まとめ:「仮払い」ではなく「代理納付」

このFCTのVAT部分、つい「仮払い」って言いたくなるけど、
正確にはこう理解してください👇

「売り手に課税してるけど、売り手がVATを預かれないから、
ベトナム側が“代理で税務署に納付してる”だけ」
➤ それを会計的に“未払税金と仕入VAT”として記録してるだけ!


最後に:モヤモヤは“制度と実務”を分けて見ると晴れます!

このFCT-VAT、たしかに普通のVATの流れと違います。

でも、違って見えるのは、「制度的な課税対象者」と「実際に払ってる人」を混同してるからなんです。

整理すると:

  • 法律上:外国契約者にVATを課税(=一貫性あり)
  • 実務上:ベトナム側が納税を“代行”
  •  会計上:資産と負債で処理して整合性あり
  •  経済上:VATは最終消費者が負担(課税事業者なら控除可)

すげの的まとめ一言

FCTのVATは、「売り手がもらう前に、ベトナム側で“先に”払ってるだけ」。
制度はおかしくない。ちゃんと消費地で課税されて、控除もされて、ぐるっと収まってる。
「仮払い」って見えるのは、“納税と実務のタイミングの差”だけなんです!

FCTにVATが含まれているのは、決してベトナムの“クセの強い制度”だからではありません。

むしろそれは、国際的に共通する「消費地で税金を払う」というルール(消費地課税主義)に基づいた、ごくまっとうな考え方なんです。

本来なら、外国の売り手が「ベトナムで消費されたサービスに対してVATを申告・納税」するべきところですが…

  • 登録していない(できる場合もあるが)
  • 来ることもできない
  • 税務署にも申告しない

そんな現実があるから、ベトナム政府は「じゃあ、買い手(ベトナム企業)が代理で払ってね」という制度をつくった。それがFCT。

しかも、FCTではVATとCITをセットで源泉徴収できるから、手続きも合理的。

見た目は「売り手が税を仮払いしてる」ように見えるかもしれませんが、
実際は、買い手が税金を“立て替えて”支払っているだけ
そしてそのVATは、仕入税額控除でしっかり戻ってくる。

つまり──

💡「FCTのVATは、“ベトナムで使ったサービスには、ちゃんとベトナムに税金を払おうね”という、当たり前のルールを、ベトナムらしいやり方で守っている制度」なんです!

以上、FCTのVATの謎を、制度・理論・実務の3つの視点から紐解いてきました。
「なんで売り手がVAT?」という疑問が少しでもスッキリしたら嬉しいです!

また一緒に、別の「なぜ?」も解き明かしていきましょう!
マナラボの菅野でした!