ベトナム法令ニュースです。

ベトナムで事業を展開する日本企業の皆様へ、賃金テーブルの作成は重要な業務のひとつです。ベトナムの労働法に基づき、企業は従業員の給与や労働基準を適切に整備し、法に則った運用が求められています。今回は、2024年の最新の賃金テーブル作成に関するポイントと、守るべきルールについてわかりやすく解説します。

賃金テーブル作成の基本原則

ベトナムの労働法第93条によると、ベトナムでは賃金テーブル、給与体系、労働基準の作成において次の点が求められています:

  • 賃金テーブルや給与体系は、労働契約に基づく賃金支払いの基準となるものとして作成します。これは、従業員の採用・雇用の際にも活用されます。
  • 労働基準は、ほとんどの従業員が標準的な労働時間内で遂行可能なレベルで設定し、正式な発行前にテストされなければなりません。
  • 労働者代表組織への協議:企業に労働者代表組織がある場合、その意見を参考にして賃金テーブルや労働基準を策定する必要があります。

また、賃金テーブルや給与体系は、職場での実施前に公表する義務があるんだそうな。本当かなって感じますよね。けれども法律上の建て付けはそうなっています。法律上の趣旨は以下のようになっています。

賃金テーブルや給与体系を公表する理由は、従業員の権利保護と公平性の確保、企業と従業員の信頼関係の構築、法令遵守、そして労働組合との円滑な協力を促進するため。透明性を保つことで、従業員は自分の給与基準を理解し、不当な扱いを受けるリスクを避けられます。また、法的リスクを回避し、企業の信頼を高めることにもつながります。

ただ実際にはベトナム人は勝手にメンバー同士で共有したりしてますし、別に公表しなくてもこの趣旨は達成することができると思います。

第93条 賃金テーブル,賃金表の作成及び労働基準の設定

1.使用者は,労働者採用,労働契約内に規定された業務又は職名に従った賃金額の合意及び労働者への賃金支払いの根拠とするために,賃金テーブル,賃金表の作成及び労働基準の設定を行わなければならない。

2.労働基準は,通常の労働時間を延長することなく多数の労働者が実施することができる平均水準であり,正式な発行の前に試験的適用がされなければならない。

3.使用者は,賃金テーブル,賃金表の作成及び労働基準の設定をする際に,事業所における労働者代表組織がある職場については,事業所における労働者代表組織の意見を参考にしなければならない。 賃金テーブル,賃金表の作成及び労働基準の設定は,実施する前に職場で公表,公開しなければならない。

引用元:ベトナム2019年労働法 (法律番号45/2019/QH14)

賃金テーブル作成の手順を解説

どのような手順で「賃金テーブル」を作成するのかを解説します。

  1. 賃金テーブルと給与体系の構築【作る】
  2. 労働者代表組織と協議【話す】
  3. 職場での公表【共有する】
  4. 賃金テーブルの保管【保管する】

です。それぞれ解説します。

ステップ1:賃金テーブルと給与体系の構築

まず、企業は賃金テーブルと給与体系を構築し、その際には職務ごとに最低給与額が法定最低賃金を下回らないように注意する必要があります。2019年労働法第91条により、最低賃金は労働者とその家族の最低生活基準を確保するために定められており、通常の労働条件下で最も簡単な職務に対する最低給与を指します。ここが実質的に難しいと思います。というのは環境の変化が激しいからです。同様の人を採用しようとしても5年前と相場が違うわけですから実質的には随時変更することが大事ですよね。

これに関連しますが賃金、賞与、手当の規則を設定することは税務上非常に大事です。

なお賃金は定期的に変更します。

>>ベトナムの2020年の最低賃金引き上げについて 政令第90号/2019/ND-CP

 


ステップ2:労働者代表組織と協議

企業に労働組合が存在する場合、賃金テーブルや給与体系の策定時にその組織の意見を参考にする義務があります。具体的には以下の通りです:

政令145/2020/ND-CP第41条によると、雇用者が賃金テーブル、給与体系、労働基準について労働者代表組織と協議し、話し合う必要がある場合、次の手順を踏む必要があります:

  • 雇用者は、協議や話し合いが必要な内容を記載した文書を労働者側の代表者に送付する責任があります。
  • 労働者側の代表者は、代表する労働者から意見を集約し、各労働者代表組織に文書としてまとめ、雇用者に送付します。女性従業員の権利や利益に関わる場合は、彼女たちの意見を集める必要があります。
  • 職場での労働者代表組織の意見に基づいて、労働者と雇用者の代表者グループが話し合い、意見を交換し、雇用者から提示された内容について協議し、情報を共有します。
  • 話し合いの回数、構成、時間、場所は、職場の民主主義規定に基づいて双方で決定されます。
  • 話し合いのプロセスは議事録に記録され、参加者によって署名されなければなりません(政令145/2020/ND-CP第39条第4項に基づく)。
  • 話し合い終了後3営業日以内に、雇用者は話し合いの主要内容を職場で公表する責任があります。労働者代表組織(存在する場合)および労働者対話代表グループ(存在する場合)は、労働者メンバーに主要内容を周知します。

企業に労働者代表組織が存在しない場合、上位の労働組合の意見を求める必要はありません。


ステップ3:職場での公表

賃金テーブルは、正式適用前に職場で公表し、従業員が確認できるようにする必要があります。これにより、従業員との透明性が確保され、法的な義務も果たすことができます。

ここが本当かな?と思うところですよね。実務はどうなっているのか?も気になるところです。


ステップ4:賃金テーブルの保管

作成した賃金テーブルおよび関連文書は、当局からの要請があった場合に提示できるように保管しておく必要があります。これにより、労働監査などの際にも迅速に対応できます。


2024年の地域別最低賃金

2024年7月1日以降、ベトナムの最低賃金は地域ごとに設定されています。企業は自社が所在する地域の最新の最低賃金を確認し、それに基づいて賃金テーブルを更新する必要があります。例えば、地域1では最低月額賃金が4,960,000 VNDと定められています。

定期的に変更するので情報をキャッチアップしましょう。

賃金テーブル作成に関する罰則について

政令12/2022/ND-CP第17条第1項に基づき、以下の行為を行った雇用者には5,000,000 VNDから10,000,000 VNDの罰金が科せられます:法律上は罰金があります。ただ実務がどれだけ厳しいか?というのは疑問が残ります。労務査察などが比較的頻繁にある製造業は留意したほうがいいかもですね。

以下ではマナボックスのお客様向けに労務査察のチェックリストを提供しています。

>>M-lab_労働法に関する当局の査察チェックリスト【59個の項目】

  • 賃金テーブル、給与体系、労働基準、ボーナス規定を実施前に職場で公表しなかった場合。
  • 賃金テーブル、給与体系、労働基準を策定しなかった場合、または労働基準を正式発行前にテストしなかった場合。
  • 企業内に労働者代表組織が存在する場合、その組織の意見を得ずに賃金テーブルや給与体系、労働基準を作成した場合。

加えて、政令12/2022/ND-CP第17条第3項では、政府が規定する最低賃金を下回る賃金を従業員に支払った場合の罰金額が定められています:

  • 従業員1〜10人の場合:20,000,000 VNDから30,000,000 VND。
  • 従業員11〜50人の場合:30,000,000 VNDから50,000,000 VND。
  • 従業員51人以上の場合:50,000,000 VNDから75,000,000 VND。

注: 上記の違反に対する罰金は個人に対して科せられます。企業の場合は、個人に対する罰金の2倍が科せられます(政令12/2022/ND-CP第6条第1項に基づく)。