ベトナムで日本企業を運営する日本人経営者の方々からたまにいただくご相談に、「賃金テーブルは従業員に見せる必要があるのか?」という質問があるんですね。

この点について、現地のベトナム人管理者の多くは「見せなくて良い」とも考えているようですが、実際のところはどうなのでしょうか?日本人視点とベトナム人視点で考えたいと思います。

ベトナム労働法が明確に示す「賃金テーブルの公開義務」

ベトナム労働法第93条では、賃金テーブルや賃金表の作成、および労働基準の設定について、以下のように明確なルールが定められています。

まず条文の確認。

第93条 賃金テーブル,賃金表の作成及び労働基準の設定

1.使用者は,労働者採用,労働契約内に規定された業務又は職名に従った賃金額の合意及び労働者への賃金支払いの根拠とするために,賃金テーブル,賃金表の作成及び労働基準の設定を行わなければならない。

2.労働基準は,通常の労働時間を延長することなく多数の労働者が実施することができる平均水準であり,正式な発行の前に試験的適用がされなければならない。

3.使用者は,賃金テーブル,賃金表の作成及び労働基準の設定をする際に,事業所における労働者代表組織がある職場については,事業所における労働者代表組織の意見を参考にしなければならない。 賃金テーブル,賃金表の作成及び労働基準の設定は,実施する前に職場で公表,公開しなければならない

ベトナム労働法2019

ベトナム人事管理者が「見せなくて良い」と考える理由とは?意味ないじゃん

少なくないベトナム人事マネジャーが賃金テーブルを非公開にしても問題ないと考える背景には、ベトナム特有の事情が関係しています。

ベトナムではインフレが定期的に起こり、賃金水準が頻繁に変動するんだから、賃金テーブルが毎年更新される可能性もありますよね。また、ベトナムでは従業員同士が給与を話題にする文化もあり、実際にテーブルを見る必要性が感じられない場合が多いです。賃金テーブルにわざわざ興味を持つケースは少ないです。

日本の企業文化との比較と経営者の誤解

日本本社で賃金テーブルを見せない慣習があるため、「ベトナムでも公開しなくて良い」と誤解されることも多いようです。

しかし、現地の法律に従わない対応は法的リスクを引き起こす可能性があることを理解することが重要です。日本人駐在社長同士の会話でも、「賃金テーブルは見せなくて大丈夫でしょ」と話題になることがありますが、実際に「見せてほしい」との要求を拒否した場合は法律違反となりますのでご留意を。以下で罰則の規定についても記載しています。

>>【ベトナム労働法】賃金テーブル作成に関する指針を解説

私たちの対策、賃金テーブルの公開に関する柔軟な運用

法的リスクを避け、実務上の問題を最小限に抑える方法として、「人事部に問い合わせがあれば賃金テーブルを見せる」というルールを導入することが考えられます。これにより、法令遵守が確保され、また従業員が必要と感じた際にのみ対応すれば、余計な混乱を避けられるでしょう。

要するに準備はしておくということです。個人的には給与に対する会社の考え方をきちんと共有しておけば何も起きないと思っております。実際に周りの事例も聞いてもそこまで大きな論点にはなったことを聞いたことはありません。

まとめ:法令遵守を守りながら実務に合わせた対応を

ベトナムで企業を運営するにあたって、ベトナム労働法の理解と遵守は不可欠です。今日の話の賃金テーブルの公開義務については、法律が定める要件を理解し、適切な運用を心がけることで、経営側と従業員双方にとって健全な労働環境が維持できるでしょう。