ベトナムは、経済成長を支える外国直接投資(FDI)(ベトナムに進出する日系企業も含まれますよ)の重要な拠点となっていますよね。よくニュースでも投資の注目先として着目されています。

しかし、近年、FDI企業の累積損失が急増しているという衝撃的なデータが明らかになりました😭。この記事では、FDI企業の累積損失の実態、その原因、そしてベトナム政府が講じる対策について、わかりやすく解説します。

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FDI企業の現状と累積損失の実態

2023年末時点で、約29,000社のFDI企業のうち、実に56%以上が損失を計上しているという報告が出ています。具体的には:

  • 損失を計上する企業:16,292社(前年同期比で21%以上増加)
  • 累積損失総額:約908,211億VND(20%増)
  • 自己資本がマイナスの企業:5,091社(15%増)
  • 全体の総資産:約10百万億VND、6.8%増

なんだとか。

特に、加工・製造業が全体の資産の65%を占め、最大の成長グループとなっています。これだけの数字を見ると、「まるで波に揉まれる小舟のように、企業が厳しい経済環境にさらされている」と感じるかもしれません。確かに撤退のお話が増えているとか聞くことがあります。

なお、累積損失とか債務超過についての整理は以下をご覧ください。

>>【図解あり】「赤字」「欠損」「債務超過」の違いを正しく理解する方法を解説

なぜFDI企業は累積損失を抱えるのか?

じゃあなぜそんなに業績が悪いの?というのをベトナムのメディアはどのように評価しているのでしょう?

FDI企業が累積損失を計上する理由は、一概に「経営が悪い」とは言えません。以下のような複数の要因が絡み合っていると考えているそうです。

1. 外部環境の影響

  • グローバル経済の不調:世界経済の停滞や不安定な国際情勢が、企業の売上に影響を与えています。
  • Covid-19の影響:パンデミックの余波が、サプライチェーンや市場需要に長期的な打撃を与えました。

2. 内部の経営戦略と問題点

  • 低付加価値なビジネスモデル:多くの企業は、部品の組み立てや加工に依存しており、付加価値が低いまま事業を拡大しています。商流的に最終商品を製造しエンドユーザーに販売する拠点でないと低い付加価値率の会社が多いのかもしれません。
  • 投資拡大の戦略:損失を計上していても、将来的な利益改善を狙い、あえて投資を拡大するケースもあります。これは、まるで「一時的な痛みを乗り越えれば大きな実りが待っている」と期待して、今は犠牲を払う戦略に似ています。

3. 移転価格操作による脱税?

最も注目すべきは、移転価格操作によって意図的に利益を損失に転じ、税負担を軽減する手法です。どうやらベトナムこのようにも考えているようです。なお移転価格については以下を参照のこと。要するに家族内なのでいろいろ価格調整できるのでベトナム側で利益小さくするように調整できてしまうということです。

>>【中学生でもわかる】移転価格制度の仕組み 徹底解説!【図解でわかりやすく】

ロイヤリティーが高すぎる!みたいなのも問題になっているはずです。

>>ベトナム進出企業必見:ロイヤリティ料率の決定方法と実践ガイド

過去の以下の事例も引用しているようです。

Vu Dinh Anh専門家は、過去の脱税目的の移転価格操作の事例を踏まえ、「市場経済の客観的な法則に従えば、国内外の企業の出入り、解散、倒産は競争によるものであり、市場の淘汰と浄化は避けられない」と分析する。ベトナムは開放経済であり、科学技術が急速に発展し、競争の激しいビジネス環境となっているため、企業には相当な圧力がかかっている。その結果、多くのFDI企業が連続して損失を計上しながらも長期間事業を継続し、生産を拡大するという、市場の原理に反する状況が見られる。これは、移転価格操作によって見かけ上の損失を計上しつつ、実際には利益を確保している可能性が高いことを示唆している。移転価格操作は、特に大手多国籍企業において、税率差を最適化することで企業所得税の支払い義務を回避し、利益を最大化するために世界中で一般的に行われている手法である。
具体的には、外国投資家がよく採用する移転価格操作の手法として、グループ内で商品の価格や原材料の価格、または管理、技術、法務サービスの対価を高く申告する方法が挙げられる。過去には、Adidas VN、Coca-Cola Vietnam、Pepsi Vietnamといった大手企業においても税務当局から指摘された事例がある。また、親会社や関連会社からの融資により、通常を上回る高い利息を計上して利益を移転するケース(台湾茶会社、Kinh Lo Tea、Keangnam Vinaなどの事例)も見受けられる。
「移転価格操作およびそれに伴う損失は単に税収の損失を引き起こすだけでなく、国内企業と外国企業との競争力の歪みをもたらす。これが、すでに弱い立場にある国内企業が縮小・消滅していく原因となっている。また、商品の価格が市場のシグナルを反映できなくなり、結果として国内企業が不当に圧迫される一方で、FDI企業は多くの優遇措置を享受しているため、経済全体に悪影響を及ぼす」とVu Dinh Anh氏は強調する。

こんな感じのようです。

ベトナム政府の移転価格操作・脱税対策強化の取り組みの予想

こうした現状を受け、ベトナム政府は様々な対応策を検討・実施しています。外国から投資している企業がずっと赤字で倒産して撤退(ベトナムにいい影響を及ぼさないで)してしまうというのを避けたいのでしょう。いろいろあるようなんですけど日系企業として気になるのはどうしても移転価格税制でしょう? この指摘によって追徴課税されたら怖いと思っている企業が多いと思います。

1. 政策の見直しと新たな仕組みの構築

投資・企業活動に関する政策の再検討:ベトナム政府は、FDI企業の投資や企業活動に関連する仕組みを一新するため、新たなルールやガイドラインの整備を検討しています。これにより、移転価格操作による不正な税負担回避のリスクを低減し、健全な投資環境を構築する狙いです。これは計画投資局がもっと厳しくなる可能性があることが示唆されています。

国会への提案と首相の指示:財務省は、関連政策について国会に提案するとともに、首相に対し、既存の投資メカニズムや政策の見直しを指示し、時宜にかなった効果的な政策改正を促すよう求めています。

2. 情報システムの強化とデータベースの構築

データ連携によるリスク管理:FDI企業の運営状況や投資効率を正確に把握するため、政府は情報システム上に統合データベースを構築する計画です。これにより、各省庁や地方自治体がリアルタイムで情報を共有し、移転価格操作や脱税の兆候を早期に発見、対応できる体制を目指します。DXですね。おそらくですがAIとも絡めてこの会社の日本からの仕入れ額はマーケットよりも不自然に高いぞ!みたなこともわかるようになるのかもしれません。

3. 税務調査等の強化

定期的な見直しと検査の実施:政府は、運営中の投資プロジェクト(外資会社)に対して定期的な監査や検査を強化し、違反や非効率な運営が見られるFDI企業に対して厳しい管理措置を講じる方針です。移転価格に関して厳しくなるかもですね。

違反企業への迅速な対応:移転価格操作や脱税が疑われる企業については、情報の連携と相互照合を徹底し、必要に応じて行政制裁など迅速な対応を実施することが求められています。

移転価格税務調査が厳しくなるかもしれませんがこれによる追徴課税が負担になればもっと損失は増えるでしょうね。