ラボの菅野です。

今日は「海外駐在者の退職金の日本での課税は?」というテーマでお伝えします。

日本の所得税法では、退職所得(退職金)は勤務提供地(役務の提供地)に基づいて課税されるのが原則です。つまり、日本での勤務期間に対応する退職金部分は「日本源泉所得」となる可能性があります。

退職金の支給対象者が海外赴任者であった場合、その退職金に対する日本の課税は、以下の要素によって影響を受けます。

  • どこの居住者か?(帰国後?それとも赴任中?)
  • どこが退職金を払ったか?

です。それぞれ解説します。

※:最終判断は必ずあなたがお世話になっている専門家に確認してください。

なおベトナムでの課税関係は以下で解説しています。

>>駐在員の退職金はベトナムで課税対象?知らないと損する税務ルール!

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ケース別の個人所得税の課税可否について

パターン別で見ていきましょう。

ケース

日本の課税関係
1.1、日本居住者(帰国後に受給)

全額が日本の課税対象(退職所得控除後に1/2課税)

1.2、日本居住者が海外企業から退職金を受け取る場合

日本で課税?

2.1、 日本非居住者(海外赴任中に日本から受給)

日本源泉所得分のみ課税(勤務期間按分)

2.2、 日本非居住者(赴任中に海外法人から)

非課税(日本源泉所得でなければ課税なし)

それぞれ詳しく見てみましょう!

(1.1) 日本居住者が日本企業から退職金を受け取る場合

  • 課税対象: 全額が日本の課税対象。
  • 課税方法: 退職所得控除適用後、1/2課税。
  • 具体例

以下の通り。

  • 勤続年数20年、退職金2,000万円の場合
  • 退職所得控除額:800万円(勤続20年 × 40万円)
  • 課税所得:(2,000万円 – 800万円)× 1/2 = 600万円
  • 600万円に所得税率適用

根拠も示しておきます。「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm

(1.2) 日本居住者が海外企業から退職金を受け取る場合

  • 課税対象の有無: 日本の居住者である場合、全世界所得課税の原則により、日本での課税対象になる可能性が高い。
  • 租税条約の影響: 退職金が勤務国の源泉所得と認定される場合、当該国の租税条約によって日本での課税免除や税額控除が受けられる可能性がある。
  • 注意点:日本の退職所得控除が適用されるかどうかはケースによる。海外の税制によっては、日本で外国税額控除を活用できる。
  •  

(2.1) 海外赴任者(日本非居住者)が日本企業から退職金を受け取る場合

ベトナムにいながら日本から退職金をもらう場合ですね。

  • 課税対象: 日本勤務期間に対応する部分が日本での課税対象。
  • 適用条文: 所得税基本通達第161の28。
  • 計算方法:

日本の企業(本社)から受け取る退職金のうち「国内の勤務期間に対応する金額」については国内源泉所得に該当します。この部分について一律20.42%の源泉徴収義務を負います。

以下の通り。

例:日本勤務10年、海外勤務20年、退職金3,000万円、日本源泉所得割合:(10/30) × 3,000万円 = 1,000万円。1,000万円が日本の課税対象(退職所得控除適用後、1/2課税)。

  • 赴任先での課税との関係:

赴任先の国(例えばベトナム)でも退職金課税が発生する場合、二重課税となるリスクがあります。日本での課税分については、租税条約や外国税額控除により調整可能と考えらえます。

なお、20.42%の源泉徴収をされていても、一定の手続きにより「居住者」として受け取った場合の税額とみなして差額を還付請求することができます。これを「退職所得の選択課税」と言うそうです。

「退職所得の選択課税の記載例1の出国後受け取った退職金」を参照のこと。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/pdf/taisyokusentaku.pdf

(2.2) 海外赴任者(日本非居住者)が海外企業から退職金を受け取る場合

例えば、ベトナムに赴任したままでベトナム法人から退職金をもらう場合ですね。レアです。

  • 課税対象の有無:日本で勤務していないため、日本の課税対象外。ただし、過去に日本で勤務し、日本の企業から退職金を受け取る場合は一部課税される可能性あり。

  • 租税条約の影響:居住国の課税制度によるが、日本との租税条約で特別な取り扱いがある場合は日本側の課税が軽減される可能性。退職金を受け取るタイミングによって、課税国が変わる可能性があるため、受給時期の戦略も重要。

ややこしいので日本の税理士先生にかならず確認してください。

居住者の場合の法的根拠: 所得税法第30条および第33条に基づき、居住者の退職所得に対する課税方法が定められています。

非居住者の場合

課税方法: 日本の非居住者が退職金を受け取る場合、国内源泉所得に該当する部分のみが日本で課税対象となります。具体的には、日本での勤務期間に対応する部分が国内源泉所得とされ、その部分に対して20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)の源泉徴収が行われます。

非居住者の法的根拠:

  • 所得税法第161条第1項第12号: 非居住者に対する国内源泉所得の範囲として、「退職手当等のうち受給者が居住者であった期間に行った勤務その他の人的役務の提供に基因するもの」が挙げられています。
  • 所得税法施行令第285条第3項: 上記所得税法の規定を具体的に定めています。

受給タイミングの影響の影響を受けると言っていいですね。

海外赴任中に退職金を受給すると、日本勤務部分のみ日本課税で済むが、退職所得控除が使えない。帰国後に受給すると、全額が日本課税となるが、退職所得控除適用で税負担が軽減されるといような整理でいいと思います。

まとめ

まとめると以下の通りです。

分類課税対象課税方法適用条文

具体例、例えば?

(1.1) 日本居住者が日本企業から退職金を受け取る全額が日本の課税対象退職所得控除適用後、1/2課税所得税法第30条・第33条
勤続20年、退職金2,000万円 → 退職所得控除800万円適用後、1,200万円×1/2が課税所得
(1.2) 日本居住者が海外企業から退職金を受け取る全世界所得課税の原則により日本で課税の可能性勤務国の源泉所得と認定される場合、租税条約の影響あり租税条約および日本の全世界所得課税原則
勤務国の税制や租税条約の影響により課税される可能性あり
(2.1) 海外赴任者(日本非居住者)が日本企業から退職金を受け取る日本勤務期間に対応する部分が日本の課税対象国内源泉所得部分に20.42%源泉徴収(退職所得控除なし)所得税基本通達第161の28
日本勤務10年、海外勤務20年、退職金3,000万円 → 日本源泉所得部分1,000万円に20.42%源泉徴収
(2.2) 海外赴任者(日本非居住者)が海外企業から退職金を受け取る日本での勤務がない場合、日本の課税対象外基本的に日本非課税、租税条約の影響による日本の課税対象外
日本勤務がなければ日本の課税対象外(租税条約の影響により調整)

ポイントは以下。ただ最終判断は必ず普段お願いしている税理士に確認してください。

  • 日本居住者は全額課税だが、退職所得控除適用で税負担軽減可能。
  • 日本非居住者(海外赴任者)は、日本勤務分のみ課税(源泉徴収20.42%)。
  • 海外企業からの退職金は、租税条約の影響により課税免除または外国税額控除の対象となる可能性あり。
  • 受給タイミングによって税負担が大きく変わるため、最適な方法を検討することが重要。