最近、ベトナムの企業や税関当局の間で「一度輸出したベトナム製品を保税倉庫に保管し、その後国内市場に戻す場合、輸入関税はどうなるのか?」という疑問が多く寄せられています。ベトナム国内で製造された製品を一度輸出し、その後保税倉庫を経由して国内市場に再輸入する企業が、このオフィシャルレターの影響を最も直接的に受けます。
2024年10月24日、税関総局はこの疑問に対する正式なガイダンスとして、オフィシャルレター5177/TCHQ-GSQLを発行しました。
この通知では、保税倉庫を経由する輸出貨物の国内再輸入時の税率適用や、自由貿易協定(FTA)における特別優遇輸入税率の条件について詳しく説明されています。この記事では、その内容をわかりやすく解説します。
以下のような会社が影響を受けるでしょう。以下の表からわかるように、FTAの特別優遇輸入税率を適用できるかどうかが、企業のコスト負担に大きく影響します。適用条件を満たせばコスト削減のメリットがありますが、適用されない場合は通常の輸入関税が発生し、コスト増加につながる可能性があります。特に保税倉庫の管理や手続きの正確性が重要となるため、企業は事前にしっかりと確認することが求められます。
企業カテゴリー | 具体的な業種 | 影響のポイント | コスト増加の可能性 |
ベトナム製品を輸出→保税倉庫→国内市場で再販売するメーカー | 繊維・アパレル、電子機器・部品、自動車・バイク部品、食品・飲料メーカー | FTAの特別優遇輸入税率が適用されればコスト削減。ただし、条件を満たせない場合は通常の輸入関税が発生。 | 条件による(適用不可ならコスト増加) |
保税倉庫を運営する物流企業・通関業者 | 物流会社、倉庫管理会社、通関業者、フォワーダー | クライアント企業の貨物管理に影響。適正な管理ができなければ関税優遇を受けられず、取引コストが上昇する可能性。 | 可能性あり(管理不備時) |
貿易会社・商社 | グローバル商社、ブランド品貿易会社、医薬品・化粧品貿易会社 | FTA適用の可否が商材のコスト競争力に直結。手続きが複雑化し、追加の管理コストが発生する可能性。 | 可能性あり(手続きの複雑化により) |
グローバル企業・外資系企業 | 国際ブランドメーカー、電子部品メーカー、食品・飲料メーカー | グローバルサプライチェーン全体のコストに影響。FTAを活用できればコスト削減も可能だが、適用条件を満たせなければ関税負担が増加。 | 条件による(適用不可ならコスト増加) |
この記事のもくじ
保税倉庫経由の再輸入は「輸出入取引」?
まず押さえておきたいのは、保税倉庫に輸出された貨物が国内市場に戻るときの扱いです。これについて、税関総局は次のように明確に述べています。
「2016年輸出税・輸入税法第5条第1項および外国貿易管理法第3条第4項に基づき、免税区域とその外部との間の売買および交換関係は輸出入関係と見なされる。」
また、政令67/2020/ND-CPによって、税関総局が認定する保税倉庫は「免税区域」と定義されています。つまり、保税倉庫から国内市場に戻る貨物は、「海外からの輸入」と同じ扱いになるということです。
なおオフィシャルレター以下に貼っておきますね。
では「特別優遇輸入税率」は適用されるのか?
次に気になるのは、FTAの特別優遇輸入税率(特恵税率)が適用されるのかどうか。これについて、税関総局は5177/TCHQ-GSQLの中で、次のような条件を満たせば適用される可能性があるとしています。2つありますね。
- 原産地証明書(C/O)の取得
- 特別優遇輸入関税を定める政令で規定されている優遇税率表に記載されていること
- 保税倉庫での保管中に商品の変更がないこと
- 保税倉庫で加工や改変が行われた場合は対象外
これらの条件を満たせば、一度輸出されたベトナム製品でも、再輸入時に特別優遇輸入税率の適用が可能ということになります。
FTAの「直接輸送要件」はどうなる?
FTAを活用する際には、「直接輸送要件」が重要です。本来、FTAの特恵税率を受けるためには、輸出国から輸入国まで貨物が直接輸送されることが求められます。
しかし、税関総局はこの点についても明確な見解を示しています。
「FTAの原産地規則を定めた通達(例:通達22/2016/TT-BCTの附属書I第8条、通達38/2018/TT-BTC(改正後の通達33/2023/TT-BTC))によると、直接輸送の要件は輸出加盟国から輸入加盟国への貨物輸送プロセスに適用される。しかし、ベトナムから輸出され、保税倉庫に保管された後に国内へ再輸入される貨物は、保税倉庫での管理下にあり、貨物に変更がないため、直接輸送要件を満たしていると判断される。」
つまり、保税倉庫を経由していても、貨物が税関の監視下にあり、変更がなければ、FTAの「直接輸送要件」をクリアできるということです。
企業が活用できるポイントと注意点
保税倉庫を活用することで得られるメリットは大きいですが、適切に運用しないと特別優遇税率を適用できなくなる可能性もあります。
活用できるポイント
- 保税倉庫を活用すれば、必要に応じて国内市場へ再輸入できるため、柔軟な物流管理が可能
- 特定の条件を満たせば、FTAの特別優遇輸入税率を適用できるため、関税コストの削減が期待できる
注意すべきポイント
- 原産地証明書(C/O)の取得が必要(事前にしっかり確認)
- 保税倉庫内での加工・変更は禁止(変更があると特別優遇税率の対象外になる)
- 税関当局の監視下で適正な手続きを行う必要がある
まとめ:保税倉庫をうまく活用すればコストメリットが大きい!
今回の税関総局のガイダンス「5177/TCHQ-GSQL」によって、ベトナム製品が保税倉庫を経由して国内市場に戻る場合でも、特定の条件を満たせば特別優遇輸入税率が適用される可能性があることが明確になりました。
特に、FTAの「直接輸送要件」をクリアできることが確認された点は、企業にとって大きなメリットです。
物流の柔軟性を高めつつ、関税コストを削減するためにも、保税倉庫の仕組みを戦略的に活用することが重要です。