ベトナムで日系企業が子会社を休眠状態にするには、単なる届出だけでは不十分です。税務・会計の法令遵守が不可欠であり、特に監査済財務諸表の提出や税務申告の履行が重要です。
本記事では、休眠申請に必要な手続きや注意点を、関連する法令を引用しながら詳しく解説します。
この記事のもくじ
1. 休眠会社とは?
ベトナムにおける「休眠会社(tạm ngừng kinh doanh)」とは、企業が一定期間、事業活動を一時停止する状態を指します。
この期間中も法人格は維持され、将来的に事業を再開することが可能です。ただし、休眠期間中も一定の法的義務が課せられます。
【ベトナム法務】休眠か?解散か?ベトナムで休眠手続について解説【日本との比較あり】
2. 休眠申請の基本要件
2.1. 事前通知義務
企業は、休眠開始の少なくとも3営業日前までに、事業登録機関に書面で通知する必要があります。これは、ベトナム企業法第206条第1項に規定されています。
企業法第206条第1項
“企業は、事業の一時停止または再開の少なくとも3営業日前に、事業登録機関に書面で通知しなければならない。”
2.2. 休眠期間の制限
1回の休眠期間は最長1年であり、連続して2回まで延長可能です。つまり、最大で2年間の休眠が認められます。
3. 🔥税務および会計上の留意点(ここを外すと休眠申請できません)
この章こそが、この記事の心臓部です。
なぜなら、「休眠会社にしたい」と考えたときに、一番のハードルが**“税務と会計の清算”**だからです。
「8年間活動していない会社。放っておいたら申告しなくてOKだよね?」
→ いいえ、そのままだと休眠申請すら通りません。
ベトナムでは、“無申告”は“無責任”とみなされ、厳しく処理されます。
この章では、5つの必須チェックポイントに沿って、関連条文を根拠に徹底的に解説します。
✅ チェック①:税金の未納があってはいけない
根拠:
政令126/2020/NĐ-CP 第4条第2項 d
“納税者は、税務管理に関する行政決定、債務徴収、検査、違反処理等の税務当局の通知および決定を履行しなければならない。”
つまり、税務署から見れば「税務義務が未履行の会社に休眠許可なんて与えられない」というロジックです。
要チェックの税金
- ライセンス税(Lệ phí môn bài):年間1月30日までに納付が必要(通達302/2016/TT-BTC 第4条)
- 法人税(CIT)
- 付加価値税(VAT)
- 個人所得税(PIT):駐在員や現地従業員がいる場合
注意点
- 「事業していない=納税義務ゼロ」と思い込まず、ゼロ申告でも提出は必要です。
- 未納があると、休眠どころか罰金・延滞税・強制調査の対象になります。
✅ チェック②:監査済み財務諸表は必須(これがないと税務申告ができません)
根拠①:
会計法第37条(Luật Kế toán 2015)
“法律により監査が義務付けられる企業は、年度終了後90日以内に監査済財務諸表を作成し、提出しなければならない。”
根拠②:
政令41/2018/NĐ-CP 第12条
“外資系企業は独立監査人による会計監査を受けなければならない。”
これが意味すること:
監査を受けていなければ、法人税確定申告書を正式に提出できないということ。
ベトナムにおける外資系企業は、監査済みの財務諸表を作成・提出する法的義務があり、これが税務申告の前提条件となっています。監査を受けていない場合、税務申告が受理されず、罰則の対象となる可能性があるため、適切な監査を受けることが重要ですね。
監査書類に必要なもの
- 試算表(Trial Balance)
- 総勘定元帳(General Ledger)
- 請求書・領収書控え
- 銀行明細(Bank Statements)
など。まあ決算書類です。
✅ チェック③:「暦年・会計年度の全期間を休眠していない場合」は申告義務が続く
根拠:
政令126/2020/NĐ-CP 第4条第2項 a
“納税者が月・四半期・会計年度の全期間にわたって事業を停止しない場合、申告および年次決算書類を提出しなければならない。”
🔹さらに補足:
税務管理法2019(Luật Quản lý Thuế 2019)第43条第3項 b
“年次決算申告書には、年次財務諸表、関係会社取引報告書などが含まれる。”
つまり、「1月から12月まで完全にストップ」していなければ、年次申告は“義務”です。
✅ チェック④:未申告・無申告には高額の罰金
根拠:
政令125/2020/NĐ-CP 第13条
無申告・申告遅延:最大25,000,000 VNDの罰金
提出後90日を超えた場合:更に加算金あり
💡実例:
過去3年間、法人税・VAT・PITを一切申告していない場合、最大75,000,000 VND+延滞利息+再調査コストが請求されることがあります。
✅ チェック⑤:「ゼロ活動」でも「ゼロ申告」は必要!
🔹根拠:
税務管理法第43条、政令126/2020/NĐ-CPの各規定より明確化
→ 「収益ゼロであっても、正式な申告書(0申告)を提出しなければならない。」
これはよくある誤解です。「一切動かしてないから何も出さなくていい」は、ベトナムでは通用しません。
最終チェック表:あなたの会社はクリアできていますか?
項目 | 必要か? | 具体対応 | 条文根拠 |
---|---|---|---|
過去の税金未納がない | 必須 | CIT, VAT, PIT, ライセンス税の納付 | 126/2020/NĐ-CP 第4条2項d |
監査済財務諸表がある | 外資系は必須 | 監査報告書取得、提出済 | 会計法第37条、41/2018/ND-CP |
年度全体が休眠か | 条件付き | 年度の途中からの停止なら申告要 | 126/2020/NĐ-CP 第4条2項a |
税務申告をしているか | 必須 | 0申告でも提出 | 税務法第43条 |
罰金リスクがないか | チェック要 | 無申告なら高額罰金 | 125/2020/NĐ-CP 第13条 |
4. 休眠申請の手続きフロー
- 過去の税務申告および監査済財務諸表の提出状況を確認
- 未提出の申告書や財務諸表がある場合、速やかに提出
- 事業登録料の納付状況を確認し、必要に応じて納付
- 社会保険料の納付停止を希望する場合、労働者との合意を得て、所定の手続きを実施
- 休眠開始の少なくとも3営業日前までに、事業登録機関に書面で通知I-GLOCAL CO., LTD. –
- 5. まとめ
ベトナムで日系子会社を休眠状態にするには、税務および会計上の義務を適切に履行することが不可欠です。特に、監査済財務諸表の提出や税務申告の履行は、休眠申請の前提条件となります。これらの手続きを怠ると、罰金の対象となるだけでなく、休眠申請自体が受理されない可能性があります。休眠を検討する際は、専門家と相談の上、計画的に手続きを進めることをお勧めします。
本記事が、ベトナムでの休眠申請を検討されている日系企業の皆様の一助となれば幸いです。ご不明な点や具体的な手続きについては、専門家にご相談ください。