こんにちは!マナラボの菅野です。
今日はベトナムで事業をしている方なら見逃せない、「VAT(付加価値税)の2%減税延長」について、徹底的に解説していきます。
「え、また延長?」「正式決定なの?」
――はい、2025年6月17日、国会で正式に決議されました。そして今回の減税、ちょっとだけ“過去と違う”ところがあるんです。
この記事のもくじ
1. いよいよ「正式に」VATが減税へ(2025年7月~2026年12月)
2025年6月17日、国会本会議にて電子投票が行われ、出席した453人中452人が賛成(94.56%)という圧倒的多数で決議されたのがこのVAT減税延長案。
これにより、2025年7月1日から2026年12月31日まで、付加価値税(VAT)を2%引き下げて8%とする措置が正式に決まりました。
📜 根拠法令
- 付加価値税法(Law on VAT)No. 48/2024/QH15 第9条第3項
- 上記に基づく国会決議(2025年6月17日付)
これまで何度か“時限的”に行われてきたVAT減税措置が、今回は初めて18か月という長期スパンで延長された点も大きなポイントです。
2. 減税の概要と対象のポイント
まず押さえておきたいのは、すべての商品・サービスが8%になるわけではないということ。
対象となるのは「現在10%が適用されている品目のうち、一部のグループ」だけです。
✅ 減税の内容(結論)
- 税率:10% → 8%(2%引下げ)
- 期間:2025年7月1日〜2026年12月31日
- 対象:2024年版VAT法第9条第3項に記載された10%課税品目のうち、以下を除いたもの
🚫 減税「対象外」の商品・サービス
次のグループは減税の適用対象外と明記されています(附属書なしで条文に記載):
分類 | 内容 |
---|---|
通信 | 通信サービス全般 |
金融関係 | 銀行、証券、保険、リース等 |
不動産 | 販売・賃貸・仲介業 |
特別消費税対象 | 酒、ビール、自動車など(※ガソリンは例外で減税対象) |
金属・鉱産物 | 金属製品、石炭以外の鉱産物 |
💡今回の決議で、新たに「減税対象」となったもの
- 運輸業(物流含む)
- 商品流通業
- ITサービス
これまで除外されていた「運輸・IT」が対象に入ったのは、企業活動やデジタル経済支援の一環と考えられます。
つまり、「10%課税の中でも、社会インフラや経済活性に資する業種」は救済対象に広がった、ということです。
3. 新たに拡大された対象とは?
さて、今回の決議でもうひとつ注目すべきポイントは、減税の「対象範囲」が拡大されたことです。
これまでは、減税の対象外だった「物流業」や「ITサービス業」などが、今回は新たに2%減税の対象に追加されました。
✅ 新しく加わった減税対象(2025年7月以降)
業種 | 内容・対象例 |
---|---|
運輸・物流 | 陸上・海上・航空輸送、倉庫業、配送業など |
商品(goods) | 流通・販売に関わる一部商品取扱業 |
ITサービス | ソフトウェア開発、システム保守、クラウドなど |
これにより、EC系企業や物流企業、IT系企業にとっても影響ありそうですね。日系のIT企業は多いですから留意しなければいけません。ただ、そもそもソフトウェアは非課税というのもあるのでなんとも言えないですね。この辺りは注視していきます。
報道では『ITサービスも減税対象に』と紹介されていますが、ベトナムの税制上、ソフトウェア開発など多くのITサービスはそもそもVAT非課税であるため、“減税”というよりも“(従来課税対象だった周辺業務の一部が減税対象になった)”という理解が正確かもしれません。
>>【ベトナム税務】付加価値税(VAT)の非課税取引を徹底解説
📌 ITや物流など、ポストコロナ時代の成長業種が“支援対象”として明確化されたことは、ベトナム政府の経済方針の現れともいえそうです。
【図解】これまでのVAT減税の経緯(2022〜2025)
ここで「そもそもVATの減税って、今回が初めてなの?」という方のために、過去の減税の履歴もざっくり整理しておきましょう。
以下のように、2022年からすでに4回にわたって時限的な減税措置が取られてきました。コロナ後ずっとです。
回数 | 実施期間 | 根拠法令 | 主な内容 |
---|---|---|---|
第1回 | 2022/2/1〜12/31 | 決議43/2022/QH15・政令15/2022/ND-CP | 初の2%減税(10%→8%)開始 |
第2回 | 2023/7/1〜12/31 | 決議101/2023/QH15・政令44/2023/ND-CP | 半年延長(対象範囲は前回同様) |
第3回 | 2024/1/1〜6/30 | 決議110/2023/QH15・政令94/2023/ND-CP | 継続的な延長 |
第4回 | 2024/7/1〜12/31 | 決議142/2024/QH15・政令72/2024/ND-CP | 追加の延長、電子インボイス対応強化 |
第5回 | 2025/1/1〜6/30 | 決議174/2024/QH15・政令180/2024/ND-CP | 対象明確化+附属書つきで実施 |
📌 そして今回(第6回)、2025年7月から2026年末までの**「18か月延長」+「対象拡大」**が実現したというわけです。
5. 実際どう変わる?会計・インボイス処理の注意点
2%の減税、といっても、事業者側からすれば「どの請求書に、どの税率を使うの?」というのが一番の関心ですよね。
ここでは、控除法(仕入税控除あり)と、比率法(売上に対する簡易課税)それぞれの実務上のポイントを整理してみます。
🧾 A. 控除法を採用している事業者の場合(法人など)
- VATインボイスの「税率欄」に**「8%」**と記載する。
- 販売側:売上に対する出力VATを8%で計上
- 購入側:仕入VATとして8%分を控除可能
📌この場合、通常のVAT申告・計上フローに変更はなし。ただし対象品目かどうかの判断を事前に確認することが大事です!
B. 売上比率方式(個人・家族事業者など)の場合(日系企業は気にしなくていいです)
- 「売上の○%をVATとして納税する」という簡易方式の場合、売上比率を20%分減額して請求書に記載します。
- インボイスの備考欄に:
「決議174/2024/QH15に基づき、VAT計算比率の20%軽減適用」
📌減税の「見せ方」が直接的に書かれるため、間違えると税務署からの指摘対象になりやすい点に注意。
複数税率を扱う場合の注意点
たとえば「一部商品が8%、一部が10%」というケースでは、インボイスの各明細ごとに税率を明記する義務があります。
💬「すべて8%で出して後で修正」は避けましょう。
間違った税率で発行した場合は、再発行または補正インボイスの対応が必要です。
6. 経済への影響と政府の見解
さて、「減税って国にとっては損じゃないの?」という声もありますよね。実際、財政省は明確に“税収減”を認めた上で、それでもやる意味があるというスタンスを取っています。
減税による歳入減の試算(財務省発表)
期間 | 減収見込み額 |
---|---|
2025年下半期 | 約395.4兆VND(約2.5兆円) |
2026年通年 | 約822兆VND(約5.2兆円) |
それでもやる理由:波及効果への期待
財務大臣のグエン・ヴァン・タン氏はこう述べているようです。
「VATを減らすことで、商品価格が下がり、消費が増え、企業の売上が上がる。すると法人税や所得税など、他の税収が逆に増える可能性がある」
https://laodong.vn/thoi-su/chinh-thuc-giam-2-thue-vat-den-het-nam-2026-1525187.ldo
さらに、政府は以下のような対策も同時に進めるとしています:
- 電子インボイスの義務化・普及促進(すでに進んでいますが)
- デジタル経済・プラットフォーム課税の強化
- 財政支出の抑制と最適化
- GDP成長率目標:2025年は最低でも8%、可能なら2ケタ成長
減税は“穴埋め”だけを考えると赤字ですが、「投資」や「循環」の観点から見ると、意外とプラスの面もある――というのが今回の基本的な考え方なんですね。
7. 【現地会計士のコメント】実務で気をつけたい3つのこと
マナボックスで日々会計・税務支援を行っている現地会計士から、今回の減税に関して「これは現場で本当に注意してほしい!」というポイントを3つに絞って聞いてみました。
✅ ポイント①:税率変更のタイミングは、システム設定がカギ(変更があった場合)
「7月1日から“8%開始”なので、6月売上・7月売上の区別を明確にしてください。販売日がまたがるケースでは、日付ごとに税率を使い分ける必要があります」
✅ ポイント②:個人事業主はインボイス記載方法に要注意(日系企業は気にしない)
「比率法を使ってる方は、“売上比率を20%軽減”って書き方をきちんと書かないと後で税務署でトラブルになります。“8%”って書いちゃダメなんです」
✅ ポイント③:複数税率の明細は“税率別に明示”がルール
「一枚のインボイスで8%と10%が混ざる場合、税率ごとに分けて金額を書く必要があります。間違って一律にすると会計システムでの集計ミスや税務調査の指摘リスクになります」
8. まとめ:今回のVAT減税で企業はどう動くべきか?
🎯 ポイントを総まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
減税内容 | 10% → 8%(2%引き下げ) |
期間 | 2025年7月1日〜2026年12月31日(18か月間) |
対象 | 一部10%課税の品目(物流・ITなどは新たに対象) |
適用除外 | 金融、不動産、通信、特消税対象商品など |
実務注意点 | 税率記載ミス・発行日基準の判断・複数税率明細の扱い |
🧭 企業が今からできること
- ✅ 会計ソフト・POSの税率設定を7月前に更新
- ✅ 社内の請求書発行ルールを**「8%」に対応**
- ✅ 対象/非対象の商品リストを経理と営業で共有
- ✅ 過去のインボイスと比較しておく(2022〜2025)
💬 最後に:制度は「使い方次第」
VATの減税は、「恩恵を受ける側」がしっかり準備しておかないと、結局トラブルの元になってしまいます。
しっかり制度を理解して、うまく使いこなして、ベトナムでのビジネスをもっとスムーズに、そして効率的に進めていきましょう!
この記事が皆さんの現場での対応に役立てば嬉しいです!
「自社での対応どうすれば…?」と迷っている方がいれば、マナボックスまでお気軽にご相談くださいね📩