こんにちは!マナラボの菅野です。
今回は、2026年1月1日から施行される「デジタル技術産業法(Law No. 71/2025/QH15)」について、税制を中心にわかりやすく解説していきます!
この記事のもくじ
ベトナムこの法律、何がすごいの?ベトナムの本気度!
この法律、じつはベトナム初となる「AI・半導体・デジタル資産」に関する包括的な法律なんです。しかも、個人・法人ともに大胆な税制優遇が盛り込まれています。
📌 施行日:2026年1月1日(一部条文は2025年7月1日から先行)
📘 法律番号:71/2025/QH15
ベトナムの法人向け|6段階で見る税制優遇のしくみ
まず表でまとめますね。
対象区分 | 法人所得税(CIT) | 土地・水面使用料 | 根拠法令 |
---|---|---|---|
① 一般のデジタル技術製品・サービス事業者 | 最初の2年間免税 | 最初の3年間免除 | 第28条第1項 |
② 優先分野(AI・半導体・HPC等) | 税率10%×15年+4年免税+9年50%軽減 | 11年免除(最大15年) | 第28条第2項 |
③ 大規模投資プロジェクト(6兆VND〜(だと解釈) | 税率5%×最長37年+6年免税+13年50%軽減 | 22年免除+残り75%軽減 | 第28条第3項+政令31/2021第19条 |
④ R&D・試作設備の投資費用 | 法人税対象外(別枠補助) | 地方予算から直接支援 | 第28条第4項 |
⑤ 電子機器製造プロジェクト | 条件付きで法人税優遇(通達予定) | 未定 | 第40条第5項 |
⑥ 高度デジタル人材(個人) | PIT 5年間免除(契約日から) | ― | 第49条第3項/個人所得税法第4条第17項 |
詳細に説明します。
① 基本の免税措置(その会社でも対象になる可能性あり)
まずは、「自分の会社も該当するかも?」と思えるベーシックな優遇制度から。
デジタル技術製品の製造やサービス提供そのものが、法律上「優遇対象」と認定されました。
🔸「デジタル技術製品の製造およびサービス提供は、投資法、税法、土地法その他の関連法令に基づく優遇対象産業に該当する」
*出典:デジタル技術産業法 第28条第1項
優遇内容:
- 法人所得税(CIT) → 最初の2年間は免税
- 土地使用料 → 最初の3年間は免除
② 優先分野は厚待遇(AI・半導体・HPC・データセンター)
国家が戦略的に推進したいと明言した分野については、超厚待遇の税制インセンティブが用意されています。
🔸「主要なデジタル技術製品、半導体、AI、AIデータセンターの開発は、特別投資優遇対象である」
*出典:第28条第2項
優遇内容:
- 法人税率10% → 15年間適用
- 最初の4年間は免税
- 次の9年間は50%軽減
- 土地使用料 → 11年間免除(特に困難地域では最大15年)
これらは、特に**半導体・AI・高性能コンピューティング(HPC)**などに関連するハイテク企業に最適な優遇です。
③ 大規模投資プロジェクトには“特例優遇”だ!
投資総額が6兆VND(=6,000 billion VND)以上(28条に直接記載はされていないが)のプロジェクトには、ベトナム投資法の枠組みにおける「特別優遇投資プロジェクト」と同等の最高ランクの税制インセンティブが認められます。これが、「デジタル技術産業法」第28条第3項で規定されたポイントです。
✅ 適用対象:
- 主要なデジタル技術製品の製造
- 半導体チップのR&D・設計・製造・パッケージング・試験
- AIデータセンターの建設 など
✅ 優遇内容(第28条第3項):
項目 | 内容 |
---|---|
法人所得税(CIT) | 税率5%を最長37年間適用 |
免税期間 | 最初の6年間は完全免税 |
軽減期間 | 続く13年間は50%軽減 |
土地・水面使用料 | 22年間免除+残り期間の75%軽減 |
📎 出典:デジタル技術産業法 第28条第3項
28条に
「主要なデジタル技術製品の製造、半導体チップの研究開発・設計・製造・パッケージング・試験、AIデータセンターの建設に関する、**大規模投資プロジェクト(quy mô đầu tư lớn)**は、特別投資優遇の対象とする。」
📌 なお、この「大規模」の定義については、政令31/2021/NĐ-CP第19条により、「6兆VND以上の投資規模」と読み替えるのが一般的だと考えられます。
スタートアップ向けではありませんが、大手・外資・データセンター事業者はこの枠を要検討です。
④ R&D・試作設備には“別枠の支援”
試作品をつくる設備や、R&D環境を整える費用は、法人税の免除とは別枠で地方予算から直接支援を受けられる仕組みです。
🔸「工場・設備・インフラ投資に対して地方予算から直接支援を行うことができる」
*出典:第28条第4項
支援内容:
- 機械設備の購入費
- AIデータセンター・研究所の建設費
- 工場インフラ整備費用 など
支援内容・条件・申請方法は、各省の人民評議会が決定します。
⑤ 電子機器製造プロジェクトも優遇候補に(ただし条件あり)
🔸「科学技術省が規定する基準を満たす電子機器製造プロジェクトには、法人税優遇が適用される」
*出典:第40条第5項
今後の通達によって、IoTデバイス・通信機器・電子制御装置などが対象に入る可能性もあります。
💰 優遇の詳細:
- 法人税優遇あり(条件を満たす場合)
- 土地使用料は未定(通達待ち)
情報は随時チェックを!
⑥この本気度!個人向け|AI・半導体人材にうれしい「5年間PIT免税」!
「会社の制度ではなく、個人の税金も免除されるの?」という方、ご安心ください!これはすごいお話。
第49条第3項では、次のように定められています。
🔹「高度なデジタル技術人材の給与・報酬は、契約締結日から5年間、個人所得税を免除する」
対象分野は以下の通り
- 集中型デジタル技術ゾーンでの活動
- 主要製品・半導体・AI関連の研究開発
- 教育・育成活動
これ、外国人技術者や海外在住ベトナム人も対象になる可能性があるんです!以下でちょっと背景を分析します。
なぜ“個人所得税免除”という大胆な優遇が実現したのか?
これには、ベトナム政府が掲げる**「国家戦略産業の中核は人である」**という明確な方針が背景にあります。
📌 特に背景にある政策的観点:
- 海外の優秀なベトナム人材の呼び戻し(brain gain)
- 外国人AI・半導体エンジニアの積極的誘致
- 公的機関による人材育成機能の強化(第19条第4項)
つまりこの制度は、「研究者を国に戻したい」「優秀な外国人を呼び込みたい」「企業が育成したい」…そうした“人を育てる・連れてくる”努力を国家が丸ごと後押しする仕組みなんです。
外国人や海外在住ベトナム人も対象?
はい。第19条第1~2項により、以下のように明記されています:
「高度デジタル人材には、外国人および海外在住ベトナム人も含まれる。5年間有効の滞在カードが付与され、配偶者・18歳未満の子にも同様の優遇措置を適用」
これは、日本で働くベトナム人AIエンジニアが帰国して活躍する環境を整える施策とも言えます。
ベトナム政府はすでに実施準備をスタート!
2025年7月時点で、政府はすでに政令5本・通達6本の準備に入っています。内容は以下のようなもの:
- 主要製品リスト、AI製品の識別義務
- 半導体製造に使う中古設備の輸入基準
- 法人税支援対象となる電子機器製造基準
- 集中型ゾーンのインフラ整備・運営に関する細則
このうち、一部は**2025年中に先行施行(第11条・28条・29条)**されています!
スタートアップはどう動くべき?
研究開発、試作、AI活用、国際展開――このあたりに関心がある企業には、大きなチャンス。
とくに注目は、サンドボックス制度(第8条)。試験的導入を認める仕組みがベトナムで初めて法制化されました!
まとめ:今、経営者・実務者が確認すべきこと
- ✅ 自社が「主要製品」「AI」「半導体」に該当するか?将来の可能性も考慮する
- ✅ 税制優遇の対象条文と期間を把握しているか?
- ✅ ローカル政府(省庁)との申請ルートとタイミングは?
🔍 コラム:「ハリネズミから“選択と集中”へ」
Genetica社CEO カオ・アイン・トゥアン氏のコメントに見る、業界構造の転換
「かつてのベトナムのテック業界は、“ハリネズミ”のようだった」と語るのは、米国から帰国してスタートアップを創業したGenetica社のCEO、カオ・アイン・トゥアン氏です。
🗣「どの企業もあらゆる分野に手を出していて、とげとげしかった。けれど今は、AI、半導体、グリーン技術などに国家が“集中と選択”してくれたことで、企業も“軸”を持って動けるようになった」
トゥアン氏が特に高く評価しているのが、本法で正式に法制化された「サンドボックス制度」(第8条)。これにより、研究段階のAIプロダクトを法律の壁にぶつからずに、国の後押しで試験的に導入できる道が開けたのです。
🗣「今までは“やる気”と“技術”があっても、“制度”が足りなかった。だからこそ、制度を変えることが何よりのイノベーションです」
「Make in Vietnam」を旗印に、国家主導の戦略に企業が沿って投資することで、ベトナムのテック業界はハリネズミから進化し、狙いを定めたライオンのような戦略的プレイヤーへと変貌を遂げようとしています。
引用法令・参考リンク
- 📘 [デジタル技術産業法 No.71/2025/QH15(全文PDF)]
- 📄 第28条(税制優遇)、第49条(個人所得税免除)、第8条(サンドボックス)など
- 🧾 政令・通達は科学技術省および財務省が準備中(2025年下半期予定)
おわりに|制度を「知ってるだけ」では、もったいない!
今回のデジタル技術産業法による税制優遇は、ただの“お得情報”ではありません。
これは、ベトナムが本気でAI・半導体・デジタルの未来を取りにいくための国家戦略そのものです。
法人税が数年免除される、土地代がいらない、エンジニア個人も税金ゼロになる――
こんなに制度が整っているのに、「知らなかった」「手続きしてなかった」ではもったいないですよね。
💡制度は、“使った人だけ”が得をする時代です。
これをチャンスにするか、スルーするか。
いま、ベトナムでは、その分かれ道に立っている企業や人がたくさんいます。
あなたの会社や働き方にも、きっと“使える優遇”があります。
一緒に制度を味方にして、未来への一歩を踏み出しましょう!