ベトナムで業務をしている場合、労働法の情報は特に気になると思います。当たり前ですが、どんな企業でもベトナム人、日本人の従業員を雇用して一緒に働いているからです。

現在は、2012年に定められたNo.:10/2012/QH13のベトナム労働法が適用されています。

しかし、2019年4月28日に、改正労働法(草案)が発表されました。まだ、適用はされていないですが、気になりますよね。

17章で構成され221条まである草案だそうです。

こんにちは、マナボックスの菅野(すげの)です。

本日は、ベトナム改正労働法(草案)について解説して行きたいと思います。

様々な変更点はあるのですが、とくに影響が大きいところだけまとめたいと思います。

また、日本ではどうなっているのか?という点と比較するとより理解が深まると思いますのでその点も織り込んでいきますね。

以下の項目について解説します。

  1. 時間外労働時間の上限の見直し
  2. 定年退職の時期の引き上げ(段階的で2つの案)
  3. 労働契約の締結
  4. 試用期間の考え方
  5. ベトナム休日の見直し
  6. 会社側からの懲戒解職について
  7. 従業員からの退職願いについて
  8. 労働許可証免除の範囲の拡大

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1、時間外労働時間の上限の見直し

現行法では、1年で200時間を超える時間外労働(残業)は認められていません。例外的に、繊維品、医療品等の加工、電力、通信等の一定の場合は上限を300時間までにすることが可能です。(労働法106条2項b)

実務上は、問題を抱えている企業様がたくさんいました。

200時間とは、月に平均すると16時間程度です。16時間を超えて残業するケースがどうしても少なくないことから、実際にはこの規定を破ってしまう場合もあります。

200時間を超えた分の残業代は、法人税法上損金不算入っていう論点もありますし。

改正労働法では、原則は維持(200時間)しつつ、特別な場合は上限を400時間まで引き上げることが提案されています。

さすがに上限を引き上げた300時間でも、実務と法律があってない背景があったのでしょう。

ちなみに日本では、2019年4月1日から、時間外労働の上限は原則として、月45時間・年360時間となるようです。「働き方改革」の目玉として時間外労働の上限規制に関して法律(労働基準法)が改正されたのですね。

特別条項付きの36協定を締結している場合でも、法律の条件を守らなければ違反となる恐れがあるようです。(それでも年間720時間らしいですけどね。)

<改正後の時間外労働の上限>
≪原則≫
月45時間・年360時間

≪特別条項付きの36協定を締結している場合の上限≫
・時間外労働が年720時間以内 
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月が限度
・時間外労働と休日労働の合計について、「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1月当たり80時間以内

ここで、ベトナムと日本を大まかに比較してみたいと思います。

というのは、ベトナムでは休日が少なく稼働日が多いことから単純に残業時間だけで比較できないからです。

ベトナムに駐在している人ならわかる!って納得してくれる人もいると思います。

【ベトナムと日本の労働時間の比較】

 日本ベトナム

稼働日

(会社や業種によって違いますのでおおまかです。特に製造業などは土曜日勤務がベトナムでは多いです。)

245日程度

285日程度

A:年間稼働時間

(1日8時間とする。)

1,960時間

2,280時間
B:残業時間上限

720時間

400時間
合計(A+B)

2,680時間

2,680時間

お!?(たまたま同じ時間に……。)

実はベトナムの方が稼働ベースでは、もしかしたら労働時間が多い可能性もありますね。特に製造業の場合(週休1日のケースもあります。)はその可能性が高いと思います。

このように比較してみると、「ベトナムの残業時間の上限はは少なすぎる」というのは必ずしも正しいとは言えませんよね。

むしろ、ベトナムの方でも「働き方改革」が必要かもしれません。

2、定年退職の時期の引き上げ(段階的で2つの案)

人生100年時代!

という言葉を最近よく聞きますね。

この流れはベトナムにも来てるのかもしれません。なぜならば、草案では、定年退職の年齢が引き上げられたからです。

現行法(187条)では、男性が満60歳、女性が55歳(若い!)が定年退職の年齢となっています。

改正労働法では、男性が62歳、女性が60歳まで引き上げられることが提案されています。定年の年齢に達すると年金がもらえます。

どのように引き上げていくのか?草案では2つのオプションがあります。個人的には、徐々に引き上げる案は謎です。

具体的な内容は以下の通りです。

 オプション1オプション2
男性

段階的に毎年3ヶ月

2028年より62歳(8年かかる。)

段階的に毎年4ヶ月

2035年より60歳 (15年かかる。)

女性

段階的に毎年4ヶ月

2026年より62歳(6年かかる。)

段階的に毎年6か月

2030年より62歳(10年かかる。)

 

一方、日本の場合は、事実条65歳まで定年が引き上げられ、さらには定年という制度を廃止するのも認められています。

まさに人生100年時代!ですね。

3、労働契約の締結

労働契約書の形式が流動的に!

現在の労働法では、労働契約書(書面)が必要となっています。雇用者の義務です。雇用者及び労働者で2部作成し、それぞれ保管する義務があります。

草案においては、電子メール等のツールでも「書面」として認められる提案がされました。

日本の場合はどうでしょう?最近は、吉本興業の件でも話題になっていますよね。吉本興業とお笑い芸人の間には、労働契約書は存在しませんでした。

このように、日本の場合は、「労働契約書」の作成は義務ではないようです。

書面で明示しなければならない事項はあるようです。しかし、それが雇用者と従業員の双方が署名・捺印する「雇用契約書」という形でなくもていいのですね。

つまり、雇用者側が一方的に労働条件を通知する「労働条件通知書」「雇用通知書」のみでも、法的には問題はありません。

ちなみに吉本興業の場合は、「雇用契約」ではなく、個人事業主に対してのマネジメント委託契約だという考えだったそうです。したがって、一切書類がなくてもコンプラアンス上問題ないでしょう?という考え方でした。

口頭でも契約が可能?

現行法では、労働期間が3ヶ月未満の場合の一時的な仕事の場合には、口頭での労働契約が可能です。

草案では、口頭で労働契約の締結は、1ヶ月未満と、短くなっています。

一方、日本の場合はどうでしょう?

日本において労働契約は、その労働条件について労使間で合意がなされた時に成立します。

つまり、書面によらず、口頭だけでも成立します。しかし、口頭でのどうしても発生してしまう問題点を解決するため、上記にも記載した通り、「労働条件通知書」「雇用通知書」は必要です。

口頭だと条件などについての理解の相違や誤解等が生じ、トラブルを招くことも多いからです。「言った言わない。」となってしまいますよね。

 現行法(22条)草案日本
口頭での労働契約

 

3ヶ月以内の雇用

 

1ヶ月以内の雇用

可能

期限なし

書面

必要なし

必要なし必要

期間による労働契約の種類

現行法では、22条により3つの労働契約が定められています。

1)無期労働契約(期限がない。)

2)有期労働契約(期限がある。)

3)季節的業務(12ヶ月未満の季節的な業務や特定業務)

このうち2)有期労働契約についての12ヶ月という下限がなくなりました。これまでは、最低でも12ヶ月こ期間で労働契約しなかえればいけませんでした。

この改正案により、12ヶ月未満の労働契約について、流動的にできるようになったと理解できます。

つまり、季節的な業務や特定業務でなくても、12ヶ月未満の労働契約を締結することが可能となると予想できます。

また、現行法では、2)の有機労働契約の更新は、1度のみとなっています。更新する場合には、新しく労働契約を結ぶ必要があります。

草案では、更新の回数が1度のみとなっているのは、変更ありません。

しかし、有期雇用契約が過ぎた場合には、自動的に! 1)の無期労働契約の締結となる規定案が追加されました。

したがって、有期雇用期間の管理が重要になりと思います。なぜならば、この過ぎた場合に、契約更新したくないと思っても、自動的に無期労働契約となってしまうからです。

まとめると以下の通りです。

 現行法(22条)草案
無期労働契約

契約の期限及び時期を確定していない契約

 

左記と同様
有期労働契約

満12ヶ月~36ヶ月

下限あり

~36ヶ月まで

下限なし(12ヶ月が廃止)

季節的業務12ヶ月未満

廃止(規定なし)

有期労働契約の更新

1度のみ

無期労働契約を締結

1度のみ

自動更新(みなされる)

一方日本では、あらかじめ雇用者と労働者が合意した契約期間となります。

4、試用期間について

試用期間についても大きな変更案がありました。

現行法では、試用契約と労働契約は、別々であるという考え方が前提としてあります。

参考記事:あなたは、試用期間の従業員の保険料を支払う必要があるのか?

試用期間にて、「この人を本採用したいな。」と判断したら、新たに労働契約を結びます。

一方、草案では、試用契約と労働契約を別々であるとは考えません。あくまで労働契約の中で試用期間について定めるという選択ができるようです。この場合、試用期間が過ぎた後は、自動的に労働本契約に移行されると考えられます。

したがって、試用期間の後、「やっぱりこの人あわないな。雇用は難しいな。」と判断した場合には、きちんと理由を説明するとともに、通知し解除手続きをしなければいけないと考えられます。

現行法よりも手続きが増えそうですね。

また、労働契約の中での試用期間ですので、試用期間中も、社会保険に加入する必要がありそうです。現行法では、試用期間中は社会保険に加入する必要は必ずしもありません。

これは、1,000名規模の会社であれば、金額的に大きなインパクトにると思います。会社負担の社会保険の負担率は大きいのです。

余談ですが、試用期間をひたすら繰り返して、実質的に雇用契約を継続しコストおさえようとするケースもあります。

どういうことかというと、試用期間が終えたら、労働契約に移行せず、雇用関係を終了させ、また(形式的に)別な場所にて、試用契約を結ぶという方法です。このようにして賃金のコストをおさえたり(85%の保証で問題ないため)、社会保険費用の支払いを逃れるという方法を使う会社もあるようです。(違法だと思いますけど。)

さらに試用期間の長さも変更されました。

現行法では、大卒以上の専門的知識・技能が要求が、60日以上、技術労働者で30日左記以外は6日と定められています。

草案では、これに加えて“管理者”という新しいカテゴリが追加されました。その期間は、6ヶ月です。おそらく工場長や経理部長がそうだと考えられます。このような管理者が、本当に能力があるのか?実力があるのか?というのを見極めるためには時間がかかるからだと思います。

表にまとめると以下の通りです。

 現行法(22条)草案
契約形態

労働契約と試用契約の契約は別々にできる

労働契約の中で試用期間について規定

試用期間後は自動的に本契約に移行

雇用者が、継続しない場合は手続きがいろいろ大変

社会保険試用期間中は加入しなくてもいい。

試用期間中も加入が必要だと考えられる。

試用期間の長さ

大卒以上の専門的知識・技能が要求:60日以上

技術労働者:30日

上記以外:6日

左記に加え、管理者という新しいカテゴリーが追加:6か月

一方、日本の場合はどうでしょう?

明確な規定はありません。会社側が、労働契約書にて個別に定める必要があります。

5、ベトナムの休日の見直し

草案では、1日、祝日を増やすという提案がされました。

それは、傷兵・烈士の日としての7月27日です。

現状では、ベトナムの祝日は合計で10日です。これが考慮されれば11日になりますね。

日本の祝日の数は16日程度と言われています。

 

6、会社側からの懲戒解職について

解雇の場合はより理由を明確に?

現行法では、以下の場合(38条)には、一方的に会社側が労働契約を契約できるとされています。

① 被雇用者が、繰り返し労働契約に定めた業務を遂行しない場合
②被雇用者が、病気、事故でなどで一定期間(12ヶ月や6か月など)休暇し回復が見込めない場合 
③ 天災、火災等の不可抗力があってやむ得ない場合(例:火災で全焼し、稼働できなった場合)
④兵役等

この点、実務上は①を理由として解雇しなければいけないケースが多いと思います。つまり、「繰り返し労働契約に定めた業務を遂行しない」の定義です。

この点は非常にあいまいな印象ですが、政府の議定05/2015/ND-CP号12条において、雇用者が、明確な評価基準(例えばKPI)を策定することにより、その基準によって判断することができるとされていました。

例えば、レポートを毎月提出する。日報を毎日提出する。などのKPIを定めていたとします。従業員が、これを「繰り返し」守らない場合、解雇にできるということになりますね。

この点、草案では、「繰り返し労働契約に定めた業務を遂行しない」場合について、事前に就業規則などで定める業務完了の評価基準に即して決定しなければならないと具体的な記載が追加されました。政令ではなく、労働法でより明確化されたという点が変更点です。

会社としては、従業員の業務評価基準をきちんと文書化しなければいけないという意味では留意が必要ですね。

 

無断欠勤は解雇できる

現行法では、126条により、正当な理由がなく1か月5日、または、年間20日の無断欠勤をした場合には、解雇できる事由となります。

正当な理由とは、天災や自分や家族の病気等が含まれます。

一方、草案では、連続して6日の無断欠勤か、最初の無断欠勤から1年の間で20日の無断欠勤をした場合には、解雇事由となります。

この場合、この人は、退職手当を貰える資格を失い、月額給与の半分を会社に補償しなければいけないようです。

解雇事由のハードルは高くなりましたね。しかし、これを理由に解雇された場合の従業員への処置が厳しくなったと言えます。

一方、日本はどうなっているでしょうか?

ちょっと複雑です。

一般的には2週間以上無断欠勤が続くことことで、無断欠勤による解雇が、裁判所で正当と判断されるための目安のようです。

しかし、無断欠勤の事由が複雑のようです。裁判になることも。

 

セクハラはダメ!

草案では、セクハラによる解雇が明文化されたようです。

グローバルな流れでしょうか?

ちなみに、ベトナムでは、セクハラの話はあまり聞いたことはありません。

休日、何をしてたの?って聞いても。髪を切ったことを褒めても。おばちゃんだね。

って言っても弊社のスタッフは、笑い飛ばしてくれます。これが日本なら……。 

 

クビです!私。

7、従業員からの退職願いについて

草案では、より従業員に有利な条件となっています。

従業員が、退職するためには、有期雇用契約であっても得に理由は必要ありません。草案でのある一定の期間をもって事前に通知する必要はあります。

また、以下の場合には、通知が必要なく退職が可能です。

  1. 労働契約で合意した業務や勤務地に配置されない。または労働条件が保証されない。 
  2. 労働契約に定めた給与を十分に支給されない、あるいは支給が遅延する
  3. 虐待、セクシャルハラスメント、強制労働をさせられる。

現行法(37条)においては、有期雇用契約と無期雇用契約によって分類されています。

有期雇用契約の場合は、37条に該当する理由があれば、従業員は、通知した上で、会社を退職することができます。

無期雇用契約の場合は、条文上、理由は必要とされていないですが、45日前に事前通知が必要です。

仮に、これを従業員が守らなかった場合、会社は損害賠償請求もできます

事由現行法の37条草案
有期雇用契約退職理由必要

理由いらない

無期雇用契約理由必要ない

理由必要ない

 

事由通知期限(37条)草案
①労働契約で合意した業務や勤務地に配置されない。または労働条件が保証されない。3営業日前まですぐに退職できる
②労働契約に定めた給与を十分に支給されない、あるいは支給が遅延する3営業日前まで  すぐに退職できる  
③虐待、セクシャルハラスメント、強制労働をさせられる。3営業日前まで  すぐに退職できる  
④ 自身または家族が困苦な状況におり、契約履行の継続が不可能になる。30日前まで
⑤居住地の機関における専従職に選出される、または国家機関の
職務に任命される
30日前まで
⑥妊娠中の女性被雇用者が、認可を受けている医療機関の指示に基づいて、業務を休止しなければならない医療機関に指示した期間前の通知

⑦非雇用者が、有期限労働契約の場合は 90日間、12ヶ月未満の季節的業務、又は特定業務の労働契約の場合は契約期間の 1/4 において、継続して治療を受けたにも関わらず、労働能力を回復できない

3営業日前まで  

8、労働許可証免除の範囲の拡大

草案では、2つの追加されました。

投資家の場合

2つあります。有限会社のオーナーであること又は出資していれば、労働許可証が免除できます。

株式会社の場合は、会長か取締役であり1ビリオンVND(約500万円)を出資している場合にも免除できます。

ベトナムで出資している日本人は結構いると思いますので、これは影響は小さくないと思います。

現行法でも出資者は、免除されていますが、株式会社について金額基準はありませんでした。ちょっと厳しくなった感じですね。

11/2016 / ND-CP

Section 2. FOREIGN LABORERS ARE NOT SUBJECT TO THE GRANT OF LABOR PERMITS

Article 7. Where foreign workers are not subject to issuance of a work permit

1. Foreign laborers specified in Clauses 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7 and 8, Article 172 of the Labor Code 

第 172 条 労働許可書の発給対象に属さないベトナムで就労する外国人

1. 有限責任会社の出資者または所有者。
2. 株式会社の取締役会の構成員。
3. 国際組織、非政府組織の在ベトナムの駐在員事務所、プロジェクトの代表者。
4. 販売活動のために、ベトナムに 3 カ月未満滞在する者。
5. 生産経営に影響を与える、または影響を与える恐れのある事故や複雑な技術上の不測
の事態が生じ、ベトナム人専門家とベトナム滞在中の外国人専門家では処理できない
場合、これらを処理するためにベトナムに 3 カ月未満滞在する者。
6. 弁護士法の規定に基づいて、ベトナムで弁護士業の許可書の発給を受けた外国人弁護
士。
7. ベトナム社会主義共和国が加盟した国際条約の規定に基づく者。
8. ベトナムで就学中の生徒・学生がベトナムで就労する場合。ただし、雇用者は労働に関
する省レベル国家管理機関に 7 日前までに通告しなければならない。
9. 政府に規定によるその他の場合。

ベトナム人と結婚している場合

ベトナムに住んでいるベトナム人と結婚した場合、その外国人は、労働許可証を免除できます。

ベトナム人女性と結婚している日本人は多いですから影響は小さくないように思います。

本日は、ベトナム労働改正法についてのポイントを解説させて頂きました。

あなたの会社の従業員が労働法を正しく適用することによってハッピーになることを祈っていますね!