決算書はつまらないものではない。きちんと基礎だけを理解し、読み解くことができれば、企業の苦しみや喜びといったドラマストーリーが浮かび上がってくる。」

 

あなたが海外子会社、ベトナム現地法人の社長として赴任してきたからには、「月次財務諸表」「決算書」を無視することはできません。

しかしながら、なかなか手を出せず苦手意識をもってらっしゃる方もいると思います。

本日は、実際の事例をもとに理解を深めていきたいと思います。加えて、決算書からストーリを深く浮かび上がらせるポイントを解説していきます。

実際の決算書で学ぶ。いきなり!ステーキが業績修正を出した背景

 

“破竹の勢いで成長してきた「いきなり!ステーキ」が、ついにつまずいた。

運営するペッパーフードサービスは6月、2019年12月期の営業利益を従来予想の55億円から20億円へと大幅に下方修正することを発表。通年の出店計画も210店から115店に減らすなど、成長に急ブレーキがかかった。”

最近なにかと話題のいきなり!ステーキでした。短い時間で手軽に高級な厚切り肉が、消費者の胃袋をつかみ、ここ数年注目を集めてきました。私の故郷である福島県の会社、“幸楽苑”もいきなり!ステーキへ業態転換したこともあり、私個人としても注目していました。(ただ、今まで食べたことはありません(汗)。)

 

そのいきなり!ステーキがついにつまずいた。という報道が流れました。このニュースと決算書の関係を分析し、決算書とニュースの関連性を明らかにしていきたいと思います。前回から申し上げている計数感覚とも関連してきますよね。

いきなり!ステーキの戦略とその歴史

まずは、「いきなり!ステーキの戦略」を簡単におさらいしていきたと思います。ペッパーフードサービスの創業者・一瀬邦夫氏は「ステーキを低価格」という構想をもともと持っていました。そんな時にあるセミナーで「俺のフレンチ」の社長である坂本孝氏にあいその構想を話したらところ「俺はステーキやるつもりがないから、「俺のステーキ」をやってみたら?」という一言がきっかけになったそうです。簡単に言ってしまうと、品質の高い食事を、低価格で高回転で販売するというビジネスモデルです。

実際、原価率は、60%を超えていました。また、「立ち食い」にしたことに高回転とし、このビジネスモデルを達成させてきました。

いきなり!ステーキは2013年12月5日に1号店をオープンさせ、急速なチェーン展開で数を増加させていきました。

店舗数と売上等の推移は以下のようになります。2019年1月から12月については、これまでの情報を基礎として私が、推測した数値となります。こうしてみると急成長ぶりがわかりますよね。

なぜ、いきなり!ステーキはつまずいたのか?

新聞などメディアの情報を整理すると3つ理由が挙げられます。

1:カ二バリゼーションの発生

まず、いきなり!ステーキは、「ドミナント戦略」を実施したと思われます。「ドミナント戦略」とは、攻める地域を特定し、その特定した地域内に集中して店舗を出店することです。これにより、経営効率を高める一方で、地域内でのシェアを拡大し、競争優位に立つことを狙うのが目的です。

しかしながら、自社競合とうリスクも考慮しなければいけませんでした。つまり、自社の店舗同士でお客様を奪い合う結果となってしまったのです。この自社競合のことをカニバリゼーションと言います。これにより既存店売上高が落ち込んでしまいました。下記は、業績予想の修正の文言です。(予想できたような気もしますが。)

引用元:有価証券報告書

 

2:値上げによる要因      

値上げの影響もあると考えられます。食材の調達価格や人件費の高騰などを理由に、度々値上げをしてきました。立ち上げた13年時点と比べると、1グラム当たり2円程度高くなっています。来店客は平均で300グラム食べるため、およそ600円の負担増となり、「ステーキが手頃な値段で食べられる」という価格優位性が薄れてしまった感を消費者に与えてしまいました。都心部に比べ物価が安い地方の利用者は、特にこれに敏感に反応を示したようです。これにより顧客回転数が落ち込んでしまったと考えられます。

値決めは、経営上一番重要と言っていいほど大切です。

3:人材育成の不十分によるサービスの質の低下

清掃や接客といった店舗サービスの質の悪化も原因だと言われています。飲食店の競争力の根幹であるQSC(クオリティー、サービス、クリンリネス(清潔さ))にも乱れが生じてしまっているというのです。これにより客離れが発生したと言われています。

決算書とニュースとの関連とは?あなたが、着目すべき3つのポイント

実は、こうしたニュースの動きもPLなどの決算数値を使って予想することが可能でした。もっと言うと、計数感覚・ファイナンシャルセンスがあれば、将来の予想はある程度可能なのです。こための3つのポイントについてお伝えしますね。

実際にいきなり!ステーキの具体的な数字を見ながら、考えていきましょう!

①金額だけではなく“率”で見る。

率にすると実態がよりわかる場合があります。下記を見てください。

店舗数は拡大しており、売上も増加しているが、肝心の営業利益率は、急落しているということがわかります。これは、シグナルです。これは、なにかドラマが起こっているということです。必ず理由があります。

この場合、カニバリゼーションというドラマと結び付けられます。既存店においては、人件費や賃料といったいわゆる固定費が発生しています。カニバリゼーションにより既存店の売上が減少し、営業利益が減少してしまうというドラマが読み取れますよね。

②細かく!比較する!

決算書を分析する一番シンプルな方法は金額を比較することです。

「細かく!」という点では、以下の点がポイントとなります。

  • 売上=数量×単価
  • 顧客別売上
  • 部門別売上
  • 商品別売上
  • 新規・既存別売上
  • 担当者別売上
  • 継続売上・単発売上

などです。

そして、「比べる!」という点では以下の3つがあります。

  1. 過去と比較する。(前年同期比、月次推移、年別推移)
  2. 予算と比較する。
  3. 同業他社と比較する。

では、いきなり!ステーキのケースを見てみましょう!会社が公表していている「決算説明会」資料にて読み取ることができました。以下は売上推移の表です。

 

既存点売上高の動向は、出退店のサイクルが比較的早い外食産業では、企業の実力を反映する指標でとても重要です。


こうしてみると2017年度までは、既存店売上も増加傾向にあり好調でした。しかし、2018年度になると、既存店売上高が減少傾向にあるということがわかりますよね。店舗数は拡大していっていますが、既存店の売上は落ち込んでいるのです。これは危険信号でした。既存店・新規点という切り口と前年同期比という切り口で見ればこの信号に気が付くことができました。さらに、新規出店数増加率も減少していることがわかりますよね。ちなみに飲食業界には500店舗の壁という言葉があり、これを超えるころになるといわゆるカニバリゼーションが生まれやすくなり業績が悪化すると言われています。

 

③もっと、自分事にするために○○当たりにして変換する。

金額が大きすぎると、よくわかりません。漠然としてしまうからです。

 

そこで、数値を分析するためのコツをお伝えしますね。正直言ってこれめちゃくちゃ使えます。

 

それは、「一人あたり」、「1個あたり」、「1か月あたり」、「1日あたり」、「1時間あたり」、「店舗あたり」と変換することです。こうすることによって、あなたに身近な数値、より意味のある数字に変換されます。

 

いきなり!ステーキの場合は、店舗あたりの情報でそれが読み取れます。人数情報があればより詳細がわかるのですが、詳細はわかりませんでしたので今回はこれを省きます。

店舗あたりの営業利益を見ると、2019年年度に極端に減少していることがわかりますよね。

 

まとめとしてのあてはめ

経済的な実態と決算書がリンクしているということをお話しさせて頂きました。

ニュースの内容

決算書から読み取れるもの

1:カニバリゼーション

①営業利益率減少

②既存店の前年比売上減少

③店舗あたり売上減少

2:値上げによる客離れ

3:人材育成不十分による客離れ

                                                

★本日のまとめ★

・ニュース(実態)と決算書はリンクする。読み解くことができれば、会社のドラマが3D映像のように浮かび上がってくる。そして判断できる。

・現地子会社の社長もこの感覚は非常に大事。

・金額だけでなく率でも見る。

・細かく!比較する!

・自分事にするため、変換する。

 

あなたが、自社の決算書から現場で起きているストーリーを読み取れるようになれることを祈っています。

 

是非試してみてくださいね!