こんにちは、マナボックス の菅野です。
今日は、「ベトナム労働法の退職金について」というテーマでお話ししたいと思います。
- ベトナム進出を考えている。進出したばかりでわからないことが多々ある。
- ベトナム現地法人の社長に就任して労務関係についても理解したい。
- ベトナムの退職金制度について本社の人から調査しろと言われている。
退職金については日本とはいろいろと異なりサプライズが起きてしまうので是非この記事で理解してください。
この記事のもくじ
ベトナムでは原則、会社からの「退職金」の支払いの必要なし
従業員が退職しても、会社は退職金を払う義務はない。ただし、「失業保険」に加入している必要がある。
こちらが結論です。つまり、あなたの会社がベトナム強制保険(社会保健・健康保健、そして失業保険)に加入していれば、ベトナム政府が、退職した人にいわゆる退職金を支払います。
一方で日本では企業年金制度等を設定していることから企業が従業員に対して退職金を支払う義務を負う場合が多くあります。
日系企業は、ほぼ100%ベトナム強制保険に加入していますから、従業員が退職したとしても法律上は原則として退職金を支払う必要はありません。
第46条 退職手当
2.退職手当算出のための労働期間とは,労働者が使用者に対して実際に働いた総期間であり,労働者が失業保険に関する法令に従って失業保険に加入していた期間及び使用者が退職手当,失業手当を支払っていた労働期間を除く。
第47条 失業手当
2.失業手当算出のための労働期間とは,労働者が使用者に対して実際に働いた総期間であり,労働者が失業保険に関する法令に従って失業保険に加入していた期間及び使用者が退職手当,失業手当を支払っていた労働期間を除く。
引用元:ベトナム2019年労働法 (法律番号45/2019/QH14)
ベトナム労働法では、「退職手当」「失業手当」という表現をしています。両者の違いは以下の通りです。
- 「退職手当」→自己都合や労働契約の終了
- 「失業手当」→止むを得ない場合(例:コロナで経営が悪化)
と理解しておけば問題ないでしょう。
退職金を支払う必要がある4つの場合
では、どんな場合にあなたの会社が「退職金」を意識する必要があるのでしょうか?たとえ通常通りに失業保険に加入していたとしても「退職金」が発生する場合があります。
- そもそも失業保険に加入してない
- 日本人など外国人の現地採用がいる
- 産休を取った人がいる
- 試用期間がありその期間失業保険に加入していない時
この4つです。それぞれ解説したいきたいと思います。
そもそも失業保険に加入していない
そもそも失業保険に加入してない場合当然、会社は退職金を支払う必要性があります。先ほど日系企業は、ほぼ加入していると申し上げましたが加入してないケースもごく少数ですがあります。
また、ローカル企業をM &A(買収)する際もここには留意です。なぜならばローカル企業はベトナム強制保険に加入していない可能性が高いからです。
この場合、退職金の支払い義務が会社にあるので、隠れ債務のようなものがある可能性がありますよね。その金額が数百マンとか数千マン円だったら大変だと思います。
なお、マナラボでは退職金の金額の計算シートを作成して提供しています。
>>M-Lab_ベトナムの退職金の計算シートの解説【エクセルの計算シート付き】
現地採用の場合
もう一つは日本人など外国人の現地採用の人がいる場合です。外国人は、失業保険に加入してないので退職した時には、労働法に基づき会社は退職金を支払う義務が生じます。厳密に言えば駐在員に対しても発生しますがこの場合は、日本の退職給付制度で手厚く保護されていることが多いので大きな論点になることはないと思います。実務上論点になるのはいわゆる現地採用の場合です。
>>50万円も影響?社長も現地採用も知っておくべきベトナムの退職給付金
産休の場合
産休の場合も論点になるのでご留意ください。詳細は以下で解説していますが要点をまとめれば「産休」の期間は失業保険に加入していないことから退職金の論点が発生します。
>>M-Lab_Q&A【ベトナム労務講座】産休明けに退職した従業員に退職金を支払う必要があるのか?
試用期間がある場合
試用期間は失業保険の加入義務がないため、実務上は加入してないケースがほとんどです。この場合「失業保険」に加入してない期間が発生してしまうことから、退職金の論点が発生します。日本には類似する制度がないことから、この労働法上の支払義務を理解しておらず、実際に退職金の支払いとなった時にサプライズとなるケースを多く見かけます。
懲戒解雇(クビ)の場合は発生しない
懲戒解雇は労働法で最も厳しい処分であり、法126条に基づいて特定の状況でのみ認められます。
具体的には、労働者が重大な刑事法違反(窃盗、汚職、賭博、暴行、麻薬使用、営業秘密の漏洩、知的財産権侵害など)を行った場合や、無断欠勤が月に5日または年に20日を超えた場合などです。よっぽどその人が悪い人の場合ですね。
懲戒解雇の手続きは、法123条および政令148/2018/ND-CPに定められています。使用者(会社)は解雇理由を立証し、労働団体の代表や労働者の代理人を含む審議会を開催する必要があります。かなり大変そうですよね。
解雇後、未消化の年次有給休暇は金銭で支給され、社会保険手帳や福利厚生書類は労働契約解除日から7日以内に返還されます。ただし、懲戒解雇の場合、「失業手当」(退職金)を支払う必要はありません(労働法48条1項、36条8項、125条3項)。
では一体いくら退職金が発生するのか?
もし、あなたの会社が退職金を支払うことになった場合いくら支払う必要があるのか?
こちら気になりますよね。あなたが会社側の人間でも、退職する当事者であっても。数量(月)と単価に分類するとわかりやすいです。
退職金の数量(月)
- 退職手当:1年間の勤務ごとに月給の半額分
- 失業手当:勤務1年ごとに1か月分の給料相当
どちらの場合も12ヶ月以上働いている必要があります。「退職手当」であれば5年働いている場合、0.5ヶ月✖︎5年となりますので2.5ヶ月分の退職金が発生します。
単価
続いて単価の部分です。こちらは「直前の労働契約に従った連続6か月の平均賃金」です。つまり、5年勤務した場合、1年目の水準(おそらく低い)ではなく5年目の水準で計算することになります。
例えば、1年は500ドルであっても5年目で2,000ドルになっていれば2,000ドルを基準に計算することになります。
5年勤務した場合で5年目は2,000ドルであれば以下のようになります。
1,000ドル(2,000ドル✖️半分)✖︎5年=5,000ドル、つまり、5,000ドルを支払う必要があります。
なお、失業手当と退職手当を比較すると以下のようになります。労働法の42条と43条によって解雇する場合は「失業手当」となります。
- 第42条 構造,技術の変更又は経済的理由がある場合の使用者の義務
- 第43条 企業が消滅分割,存続分割,新設合併,吸収合併する場合;企業を売却,賃貸し,企業の形式を転換する場合;企業,協同組合の財産の所有権,使用権が譲渡される場合の使用者の義務
引用元:ベトナム労働法2019
項目 | 退職手当 | 失業手当 |
期間 | ,1年間の勤務ごとに月給の半額分 | ,1年間の勤務ごとに1ヶ月の月給 最低でも2か月分 |
単価 | 労働契約に従った連続6か月の平均賃金 | |
条件 | 12か月以上働く |
本日はベトナムの退職金についてお伝えしました。お役にたてれば幸いです。