こんにちは、マナボックスの菅野です。

今日は、M & Aにおける「譲渡」から生じる税金等についてまとめていきたいと思います。

この記事はこんな人のために書いています。
  • ベトナムの会社に投資している。現地法人を保有している。
  • その投資について譲渡を考えている。その場合のベトナムの課税関係を知りたい。

ベトナムにおけるM & A のスキームは以下のケースがあります。

  • 資本(株式)譲渡(日系企業はほとんど有限会社であるため資本譲渡)
  • 事業譲渡
  • 組織再編(①消滅分割②存続分割③新設合併④吸収合併)

この記事では、1番目の資本(株式)譲渡に関しての税制について解説します。つまり、「売り手」のお話ですね。あなたが持ち分を売る場合をイメージするといいと思います。

売り手のパターンを整理する

資本譲渡の税務を整理するためには、売り手のパターン整理する必要があります。

■売り手のパターン

  • 法人(①外国企業(①−1買い手が日本側か①−2買い手がベトナム側という整理も必要②ベトナム法人)
  • 個人(③非居住者④居住者)

■対象会社(出資先)のパターン

  • 有限会社(1名有限会社、2名以上有限会社)
  • 株式会社(非公開会社と公開会社に分類されます)

つまり、4✖️2の8パターンがあるというわけです。④のところが2パターンあるとすると5✖︎2の10ですね。

売り手のパターン/出資先の形態法人

個人

①外国

買い手:日本

①外国

買い手:ベトナム

②ベトナム法人

③非居住者④居住者

有限会社

13579

株式会社

246810

そして、日系企業に限って言えば④のケース(上図の1か3)がほとんどでしょう。日系企業がベトナムに出資する際、法人が出資し、有限会社として設立するケースがほとんどだからです。

続いてどんな税金が発生する可能性があるかというと以下の税金です。

  • 個人所得税(PIT)
  • 法人税(CIT)
  • 外国契約者税(FCT)

それはそれぞれ解説していきます。

ベトナムの譲渡による税務のまとめ

まず、まとめの表で全体像でおさえましょう。

売り手のパターン/出資先の形態法人

個人

①外国

買い手:日本

①外国

買い手:ベトナム

②ベトナム法人

③非居住者④居住者

どんな税金が発生するのか?

有限会社

CIT譲渡益の20%CIT譲渡益の20%CIT譲渡益の20%

PIT譲渡額の0.1%

PIT譲渡益の20%

株式会社

FCT(CIT)

譲渡額の1%

FCT(CIT)

譲渡額の1%

PIT譲渡額の0.1%

誰が納税するのか?

有限会社及び株式会社

【譲渡の対象企業】

【買い手】【売り手】【買い手又は譲渡の対象企業】【売り手】

二重課税が発生するか?

有限会社及び株式会社

する

売りそれぞ

①売り手が法人の場合

重要な点から解説したいのでよく遭遇するケースから解説していきます。

以下の3つのパターンに整理します。

  • 売り手が外国法人で買い手が日本
  • 売り手が外国法人で買い手はベトナム
  • 売り手がベトナム法人

ポイントは、買い手が日本に存在する場合です。例えば、ベトナムに投資したい日系企業が新しく会社を設立するよりもすでにベトナムにある日系企業を買収したい場合などです。可能性としては小さくないですよね。

税務と税率

ケースごとに説明します。

売り手のパターン/出資先の形態

外国法人

買い手:外国

外国法人

買い手:ベトナム

ベトナムの法人
有限会社

CIT譲渡益の20% ※1

CIT譲渡益の20% ※3

株式会社

FCT(CIT)譲渡額の0.1% ※2

ポイントは、利益か?譲渡金額か?です。これによって税率が変更します。差額の利益の場合は20%で、総額の場合は0.1%です。

  • 1 Circular 78/2014/TT-BTC Article 14
  • ※2 Circular 103/2014/TT-BTC Article 13
  • ※3 Circular 78/2014/TT-BTC Article 14, 15

誰が?納税するのか?

続いて誰が納税するのかです。

売り手のパターン

/出資先の形態

外国法人

買い手:外国

外国法人

買い手:ベトナム

ベトナムの法人
有限会社・株式会社

【譲渡対象会社】※4

【買い手】※4

【売り手】※5

原則として、納税義務は「売り手」に発生するはずです。なぜならば、儲けを得ているのは売り手だからです。しかし、ベトナム側としては「税金を取りっぱぐれたくない」という考えが働きます。したがって、売り手が、日本のような外国に存在する場合には「売り手」に課してしまうと“取りっぱぐれ”が発生してしまう可能性があるので売り手以外の人が納税の義務(売り手に代わって納税、源泉徴収)を負います。

そのため資本譲渡の場合は、FCTと同様にどちらが負担するのかというのを契約段階で決定する必要があります。

なお、この場合二重課税(日本でもベトナムでも税金を納税している)の状況に陥る可能性があるので留意が必要です。

  • Circular 151/2014/TT-BTC Article 16-7 ※4
  • Circular 151/2014/TT-BTC Article 16-7 ※4

②売り手が「個人」の場合の税務

続いて、売り手が個人の場合です。これは

  • 非居住者
  • 居住者

に整理して解説していきます。

例えば、あなたがベトナムの上場会社に投資(例SSI証券を通じて投資)している場合で株を売却する場合が該当します。上場株に限らず個人でベトナムの会社に投資している場合も該当します。

ベトナムの譲渡税金の種類と税率

売り手のパターン/出資先の形態

個人

③非居住者④居住者

有限会社

PIT譲渡額の0.1%

※1

PIT譲渡益の20%

※2

株式会社

PIT譲渡額の0.1%

※3

日本に住んでいるなど「非居住者」の場合は、譲渡額の0.1%です。株式会社へ投資している場合も譲渡額の0.1%です。そのため個人で株式投資をしている人は、株を売却した場合譲渡額の0.1%の個人所得税が課税されます。

「居住者」で対象会社が有限会社の場合は、譲渡益に対して20%です。

  • Circular 111/2013/TT-BTC Article 20 ※1
  • Circular 111/2013/TT-BTC Article 11 ※2
  • Circular 111/2013/TT-BTC Article 11, Circular 92/2015/TT-BTC Article ※3

誰が納税するのか?

売り手のパターン/出資先の形態

個人

③非居住者④居住者

有限会社/株式会社

【買い手・対象会社】※4

【売り手】※5

これも趣旨は同様です。とりっぱぐれがないように売り手がベトナムにいない「非居住者」である場合には、買い手や対象会社が売り手に代わって申告・納税します。

  • Circular 156/2013/TT-BTC Article 16, Circular 92/2015/TT-BTC Article 21 ※4
  • Circular 92/2015/TT-BTC Article 21 ※5

 

ベトナムでの持ち分譲渡の実際のパターン

では、実際はどのようなケースが多いのでしょうか?

  1. 日本の親会社が譲渡(対象会社は有限会社)
  2. 個人で投資している人が譲渡(対象会社は有限会社)
  3. 個人が証券会社を通じて投資している株式を譲渡(対象会社は株式会社)

この3つのパターンに絞られてきます。そして、重要な留意点は、売り手が「外国」の企業の場合です。この場合、買い手か対象会社が売り手に代わって、申告・納税するという点です。

もしあなたが、M &Aのスキームとして資本譲渡を考えているのであればベトナムの税務に留意してくださいね。