2024年3月20日から世間騒がしているニュース。それは大谷翔平さんの「疑惑」です。私はスポーツを見ると元気になるし、海外で活躍する日本人を見るのが好きなのでもちろん大谷翔平さんの活躍にも注目してきました。
順調に今年も新たな記録(1シーズンに40本塁打以上と40盗塁)に挑戦するんだとなあと思っていた矢先にこのスキャンダル…。私はショックが大きすぎてソワソワして業務にも集中できないくらいでした。
さて、今日お伝えしたいのは『不正の本質とその防止法』についてです。今回の件は、通訳の水原一平氏の不正だといっていいでしょう。そして抽象化すればどんな不正であっても同じような背景や対策に行き着きます。
ベトナムなどの海外で大きな悩みの一つはやっぱり不正でしょう。キックバックや横領、架空仕入れなどが典型的です。
今回の出来事も一つ一つ解説することによって不正の構造とその対策を明確にしていこうかと思います。
この記事のもくじ
違法賭博と資金の流用
いろんな動画やニュースですでに解説されているの詳細は割愛しますがまとめると以下の通り。3月26日に大谷さんが会見を開き声明を出しました。
違法賭博問題の概要は
- 水原氏の違法賭博についてアメリカのメディアは大谷選手の口座からブックメーカーと呼ばれる賭け屋に対して450万ドル、日本円でおよそ6億8000万円が送金されていたと報じ、アメリカの国税当局が捜査を始め大リーグ機構も調査を開始したと発表しました。
- 日本時間の26日午前7時前、大谷選手が本拠地のドジャースタジアムの会見場で一連の問題が明らかになったあと、初めて報道陣に対応しました。
- 大谷選手は質疑応答には応じませんでしたが、読み上げた声明の中で「僕自身は何かに賭けたりとか、誰かに代わって、スポーツイベントに賭けたりそれを頼んだりということはないし、僕の口座からブックメーカーに対して、誰かに送金を依頼したことはない」と賭博への関与を否定しました
引用元:NHKweb https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240326/k10014402101000.html
不正という観点に着目すれば大谷さんの現預金を横領していたということになります。これをベトナムの不正の事例に対応させると、例えば経理担当者の会社の現金の横領です。以下で事例を解説しています。
>>【1億円以上の横領か?】チーフアカウンタントの不正の事例とその4つの対策
不正のトライアングルにあてはめてみる
伝統的な考え方ではありますが普遍的な考え方。それは不正のトライアングルです。
>>海外子会社の売上が5%も失われている? 不正のトライアングルの解説
それは動機、正当性、機会の3つです。私の妄想も入りますがニュース等の情報も踏まえてこちらを考えてみましょう。
動機
まず動機ですね。これはギャンブルが好き(一平氏はギャンプル依存症だったと発言)。そのための多額のお金が必要でした。まさに動機ですね。
正当化
これもあったのでしょう。一平氏のニュースによる発言は以下の通り。
「(収入の範囲で)やりくりするのが難しく、ギリギリの生活をしていた。大谷の生活スタイルにも合わせなければならなかったし。でも彼にはそのことを言いたくなかった」。
ここからは推測も入っちゃうのですが、大谷さんの契約金や年棒を見て、「私だってもっとお金もらう権利があるよね」という感情がわいちゃったのかもしれません。人は環境から大きな影響を受けてしまいます。これには科学的なエビデンスもあります。50%ほどは環境で人が決まるというお話しもあるようですし。例えば喫煙者の周りには喫煙者が多いなど。
あなたもそんな経験あるでしょう。
大谷さんがものすごい消費するタイプじゃないのは過去のニュースからも明らかですが、それでもこの正当化という要素が生まれてしまう環境があったことは否めません。
機会
そして機会です。この場合で言うと大谷さんの口座を使って「送金」(横領)するチャンスがあったのか?と言う点です。この点は3月26日時点でも曖昧です。アメリカの送金の場合、日本のそれよりも厳しいらしい(マネロンの関係)ので、大谷さんが知らなかったわけないという意見もあります。この部分についての詳細はわかりません。しかし、大谷さんの声明と不正という観点でいえば「他人の口座で送金できてしまった」と言う点で「機会」が生まれている状態だったといえるでしょう。
まとめると
- 動機→ギャンブルで負けたお金を返済するためにお金が欲しい
- 正当化→大谷さんの年棒からすれば私ももっともらっていいとおもっている(かも)
- 機会→一平氏が大谷さんの口座にログインできて送金できる状況だった
です。
どのように不正を防止するのか?
このような悲しい事件は起きてはいけません。大谷さんは信じられない記録を残してきた日本が誇るべき人です。野球の神様であるベーブルースの記録も破ってきました!そんな瞬間を見れるなんてとても幸せなことです。
日本、野球界という視点だと大谷さんは野球にこれまで通り専念すべきなのですね。そのほうが世界の人がハッピーになるでしょう。大谷さんの場合、この野球に専念すべきという前提があるという視点では会社とはちょっと異なる(社長は管理に関わるべき)のですがそこままあおいておきましょう。
AIとかのテクノロジーが発展していく中、いわゆるこれまで労働がもっと減ってくるかもしれません。そういった中スポーツなどは人間の心の拠り所になると思っているのでやっぱり重要です。
そしてベトナムビジネスも同様です。不正による影響は小さくありません。お金の痛みだけでなく、精神的にもつらいので事前に防止する必要があります。その防止方法について解説します。これはベトナム子会社の海外不正発見・防止にも転用できるはずです。超基本なのでぜひおさえてほしいです。
- 事前:銀行情報へのアクセス制限、支払いと承認をわける
- 事後:財務分析をする
- 全体:「見られる化」の雰囲気を作り出す
それぞれ解説していきます。なお不正のトライアングルという視点でいうと基本的には「機会」を奪うという視点でのみ経営者は不正防止を試みることができます。「動機」「正当化」は他人のことなのでそれを直接的に変えるのは難しいでしょう。
銀行情報へのアクセス制限、支払いと承認をわける 【新庄さんだってお金取られてた】
個人と会社の違いがあるので大谷さんのケースとはちょっと異なるかもしれません。
ただいずれにせよ「アクセス制限」「権限分掌」というコントロールが非常に重要です。まず銀行口座へのアクセスです。ニュースによれば一平氏が他人の口座にログインして送金した(と思われる)のですがそれがそもそもまずい。
個人であればID、パスワード、スマートフォンの暗証番号を共有しないとかです。当たりまえですよね。会社であっても同様です。支払い承認に必要なトークンやOTPが送付されるスマフォは他人に渡さないとかです。
加えて「権限分掌」という内部統制も会社では必須でしょう。今だと銀行の仕組み上この点は厳しくなっているはずです。具体的には支払いを申請する権限とそれを承認する権限が分類されています。例えば私はベトナムの会社の社長ですが「支払い承認」の権限しかありません。「支払い申請」もできてしまったら容易に横領することが可能ですよね。それを「権限分掌」という仕組みで防止しているわけです。
>>ケンゲンブンショウ?内部統制の権限分掌を簡単に理解する方法
過去、以下の記事を書いていました。お金の取り扱いの留意点について記載している記事なのですがそこで新庄選手が横領されていた件を引用していました。「22億円あるはずの残高が2200万円だったことが判明」となっていますから金額自体は今回の大谷さんより大きいです。単純計算で21億以上は横領されてたってことになるので。
歴史は繰り返されるのでやっぱりこの言葉は大事。成功は再現性ないけど失敗は他の人から学べるのです。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
財務分析をする
次に事後的なコントロールで。有効な方法は財務分析です。これも個人と会社では違うのですが、要は、事後的にお金を動きを分析する仕組みがあるか?です。大谷さんの場合も、担当の会計士や税理士がいたはずですのでお金の動きをレビュー(分析)することをしていれば「この送金なんですかね」という質問が生まれたはずでしょう。
会社の場合、最低月次推移分析は実施する必要があるでしょう。項目別の費用の推移を見ていくだけで大きな不正を発見することができます。これ本当です!
>>毎月たった30分の分析だけで、海外子会社不正は防止できる!【月次推移分析】
実際に私のインドでの経験やベトナムのお客様の情報でも、このシンプルな月次分析の威力はとてつもないです。数字を並べて眺めるだけで本当なの?と感じるかもしれませんがその効果ははかりしれません。
おすすめです! いや必ずやってください!
「見られる化」の雰囲気を作り出せ 【環境】で人は変わる
最後にマインドセット的な話と環境作りのです。
不正はもちろんしたほうが悪いです。けれでもそれと同じくらいそれをさせてしまった周りも悪いと私は思っています。
ある意味人間はとても弱い生き物です。「性弱説」という考え方もあるように「人間は積極的に悪いことをしようとしているわけではないが非常に脆く状況や環境によって悪いことをしてしまう」のです。
以下のリンク先でも述べている通り「不正を防止する」=「メンバーを不正という犯罪から守る」です。人を犯罪から守るための環境作りを会社(経営者)が主体的に実施する責任があります。
>>社長が、海外子会社”不正”へのイメージを変えるたった1つのマインドとは?【社員を罪から守る】
上記のリンク先で記載の通り、「不正をさせない」「不正という犯罪から人を守る」という考えを持つことがとても重要です。
じゃあどうするの?って話なんですど私のこれまでの経験(監査法人やインド3年、ベトナム8年)を踏まえるとダントツ「見られる化」です。「見られている化」ともいえるかもしれません。
これまでいろんな不正を見てきましたがどんな会社もこの「見られる化」が不足しているという共通点があります。小難しいメソッドはたくさんあるんですけど解決策自体はかなりシンプル。「見られる化」です。でもまあ、実行するのが難しいんですけどね。もう少し具体的に言うと
- 社長の知識(この社長、全然わかってないから不正してもいいやってケース)
- 月次分析(繰り返しになりますがシンプルかつ最強)
- カメラ
- 定期的な内部監査
- 定期的な業務報告(説明させる)
などなどです。
言い換えれば「見られる化」による環境作りとも言えるでしょう。正当化のところでもちょっとお話ししたんですが「環境」によって人は大きな影響を受けるのです。ここでおすすめの書籍も紹介させてください。それは『スイッチ!「変われない」を変える方法』という書籍です。
この本には人を変える方法について3つの視点からエビデンスや実際のストーリーと共に説明されています。その3つ目の要素が「道筋を定める」で、これには「環境」を作り出せれば変わるよねっていうお話しが含まれています。やっぱり環境って大事なんです。
今日のまとめ
今日は大谷選手が巻き込まれた違法賭博問題から学ぶ海外不正防止法というテーマで解説しました。まとめると
- 不正の発生は不正のトライアングルに必ず紐づく
- 防止するためには「機会」を潰すことが有効
- アクセス制限や権限分掌大事
- 財務月次分析大事
- 「見られる化」によって不正できない環境を作る
です。ぜひ参考にしてくださいね!