ラボの菅野です。
今日は『ロイヤリティの料率の決定の方法』についてお伝えします。
- ベトナム現地法人の社長をやっている
- 親会社から売上に対して数%のロイヤリティが期待されているがその利率に納得いかない
- ロイヤリティーの料率の決定方法について知りたい
それでは詳細に解説していきます。
この記事のもくじ
そもそもロイヤリティとは?なぜ支払う必要があるのか?
ではなぜベトナム現地法人のような海外子会社が親会社へのロイヤリティを支払う必要があるのか?それは一言でいうと
- 親会社の技術やノウハウを使って儲けてる
からです。親会社のおかげで業務を運営して儲けているんだからその分還元してよ!ということです。
これを「無形資産」「重要な価値を有し所得の源泉となるもの」などという表現をしたりします。これは移転価格事務運営要領2-11に無形資産の定義が記載されています。
- 特許権や営業秘密:技術革新から生まれたもの(例:製薬会社が新薬の製造プロセスに関する営業秘密)
- 従業員のノウハウ:経営、営業、生産、研究開発、販売促進などの企業活動から得られた経験(例:製造部門のベテラン技術者が効率的な生産技術を開発し、そのノウハウを基に生産コストを削減)
- 生産工程や取引ネットワーク:製造プロセス、交渉手順、開発、販売、資金調達に関わるもの(例:グローバルなサプライチェーンネットワークを持つ企業が、複数の国の供給業者と交渉し、最適なコストで部品を調達)
2-11 企業又は国外関連者の所得源泉として無形資産がどのように寄与するかを検討する際に、以下のような価値のある資産が包括的に考慮される:
- イ 技術革新を要因として形成される特許権、営業秘密等
- ロ 従業員等が経営、営業、生産、研究開発、販売促進等の企業活動における経験等を通じて形成したノウハウ等
- ハ 生産工程、交渉手順及び開発、販売、資金調達等に係る取引網等
親会社は通常、子会社に対してブランド価値や技術的サポートを提供します。このため、ロイヤリティはその対価として支払われます。子会社は親会社から提供されるリソース(無形資産も含め)を活用し、事業を展開します。そのため、親会社に対して適切な対価を支払うことが求められます。親会社と子会社は相互に依存しています。親会社は子会社からの収益を期待し、子会社は親会社からのサポートを受けることで成長します。
なおロイヤリティの定義は以下です。
ロイヤリティとは、特許権や商標権、著作権などの知的財産を使用するために支払う対価のことです。企業間でよく交わされるこの料金は、知的財産の使用に対する対価を表しており、親会社と子会社間でも一般的に見られます。
ロイヤリティ料率の一般的な計算法
ここが本題です。どうやって利率を決定するのか?
- CUT法(マーケットアプローチ)
- CP法(コストアプローチ)
- TNMM(取引単位営業利益法)
この3つが想定されます。それぞれ解説していきます。
CUT法(マーケットアプローチ)
CUT法(Comparable Uncontrolled Transaction)は、独立した第三者の取引情報を使用して比較対象取引を検索する方法です。この方法は、第三者間のライセンス取引を収録したデータベースから類似の取引を抽出し、独立企業間ロイヤリティ料率を求めます。実際の取引実績にその根拠を求めることから、マーケットアプローチと呼ばれています。
- 例1:ある企業Aが特許技術を使用するために他社Bから支払っているロイヤリティ料率が5%であれば、同じ特許技術を使用する際の料率も5%と設定する。
- 例2:音楽ストリーミングサービスが、アーティストに支払うロイヤリティ料率を決定する際に、他の同業他社がアーティストに支払っている料率を参考にする。
CUT法のメリットは、市場で実際に行われた取引を基にしているため、信頼性が高く、実際のビジネス環境に即している点です。一方、適切な比較対象を見つけるのが難しい場合もあるでしょう。
CP法(コストアプローチ)
CP法(Cost Plus)は、無形資産を創出するためのコストを算定し、そのコストに一定の利益を上乗せしてロイヤリティ料率を求める方法です。具体的には、無形資産を開発するためにかかった研究開発費などを基に、その投資を回収するための料率を計算します。
- 例1:新薬の開発に10億円かかった製薬会社が、そのコストを回収するために売上の5%(売上が200億だったとして)をロイヤリティとして設定する。
- 例2:ソフトウェア開発に5,000万円を投資したIT企業が、そのソフトウェアの販売によって収益を上げるために、売上の10%をロイヤリティとして設定する。
- 例3:デザイン会社が新しい製品デザインを開発するために1,000万円を費やし、そのコストを回収するために、製品の売上に対して一定の割合をロイヤリティとして設定する
この方法の利点は、企業が実際に投入したコストを基にするため、コスト回収の観点から合理的である点です。しかし、無形資産の市場価値を反映しにくい場合もあります。
TNMM(取引単位営業利益法)
TNMM(Transactional Net Margin Method)は、取引単位営業利益法と呼ばれ、無形資産を利用して得られる利益を基にしてロイヤリティ料率を決定する方法です。具体的には、企業が無形資産を活用して得られる超過利益を評価し、その利益の一部をロイヤリティとして設定します。この方法は、企業の全体的な利益率を考慮し、特定の取引単位での適正な料率を算出することを目指します。
- 例1:親会社が特定の技術を提供することで、子会社の利益率が通常の5%から15%に向上した場合、超過利益の10%をロイヤリティとして設定する。
- 例2:ブランド使用によって通常よりも高い利益率を達成している子会社から、その超過分の利益を親会社がロイヤリティとして受け取る。
- 例3:無形資産を活用して新規市場に参入し、その市場で通常の利益率を大きく上回る成果を上げた場合、その差分をロイヤリティとして算定する。
TNMMのメリットは、実際の利益データに基づいているため、現実的で公正な料率設定が可能な点です。実務上もこれが選ばれる可能性が高いでしょう。また、企業間の実際の取引状況を反映しているため、理論的にも妥当性が高いとされます。ただし、適切な比較対象を見つけることが難しい場合があり、その際には詳細な財務分析が必要となります。
ロイヤリティ料率の計算には、CUT法、CP法、TNMMの3つの主要なアプローチがあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、企業の状況や無形資産の特性に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。適切なロイヤリティ料率を設定することで、企業間の取引が公平で透明性の高いものとなり、長期的なビジネス関係の維持にも寄与します。
方法 | 概要 | メリット | デメリット | 例 |
CUT法 | 独立した第三者の取引情報を使用して比較対象取引を検索する方法。 | 市場で実際に行われた取引を基にしているため、信頼性が高く、実際のビジネス環境に即している。 | 適用可能なケースが限られている。使用許諾条件が一致していないと流用できない。 | 他社が特許技術使用のために支払っているロイヤリティ料率を参考に、自社の料率を設定する。 |
CP法 | 無形資産を創出するためのコストを算定し、そのコストに一定の利益を上乗せして料率を求める方法。 | 企業が実際に投入したコストを基にするため、コスト回収の観点から合理的である。 | 無形資産の市場価値を反映しにくい場合がある。 | 新薬開発にかかった費用に基づいて、売上の一定割合をロイヤリティとして設定する。 |
TNMM法 | 無形資産を利用して得られる利益を基にして料率を決定する方法。 | 実際の利益データに基づいているため、現実的で公正な料率設定が可能。企業間の実際の取引状況を反映している。 | それでも適切な比較対象を見つけることが難しい場合がある。詳細な財務分析が必要。 | 親会社が提供する技術で子会社の利益率が向上した場合、超過利益の一部をロイヤリティとして設定する。 |
表でまとめると上記のようになります。
税務は綱引きだ!料率についての留意点
国際税務は国との綱引きです。それぞれ自国の税収を増やそうとするから自国のいいように税務調査も指摘します。
例えば日本(親会社あり)であれば「子会社からロイヤリティを回収しろ!」ってなりますし、ベトナムのような子会社からすると「そもそも利益が少ないのにロイヤリティでさらに利益を減らすなんてダメだ!」
となるわけですね。
そのためこういった意味でたとえ今日紹介し方法であってもロイヤリティの料率の決め方は実際には難しいのです。
過度な料率設定の回避
いくら本社のキャッシュを増やしたいからといって過度な料率を設定すると、子会社の負担が大きくなり、最終的には親会社にも悪影響を及ぼします。そもそも粗利が5%しかないビジネスモデルでロイヤリティを売上の3%にしてしまうなどの事例がありますが、それはありえないといっていいでしょう。
子会社で損金否認されたらバランスの取れた料率を設定することが重要でしょう。
料率は定期的に見直すことが推奨されます。市場の変化や企業の状況に応じて適宜調整することで、持続可能なビジネスモデルを維持できるでしょう。
ロイヤリティ契約書の整備しよう
明確な契約書を作成することで、後々のトラブルを避けることができます。契約書には、適切な内容や料率や支払い条件を明確に記載することが重要です。以下のリンクで技術移転登録について解説していますがその際、この契約書も必須です。