ラボのすげのです。今日は「政令123/2020/ND-CPの条文構造(概要)を解説」というテーマでお伝えします。
政令123/2020/ND-CPは、ベトナムにおけるインボイス(請求書)および帳票類(証明書や領収書など)の発行、管理、使用に関するルールを定めた政令です。紙のインボイスだけでなく、電子インボイスの制度化を進める目的で制定されたんですね。
内容としては、インボイスの種類や発行タイミング、記載すべき項目、電子インボイスの申請・使用手続き、誤記の修正ルールなどを詳細に規定しています。また、誰が、どのような形式で発行し、どのように税務署へ送信するかといった、運用面のルールも明記されています。さらに、税務データの一元管理、利用者の責任、違反時の対応なども盛り込まれており、実務に直結する内容が多く含まれます。
企業にとっては、「どのタイミングで、どんなインボイスを出せばよいか」を判断するための必読ルールとなっています。
その全体の構造を紐解いていきたいなあと思っています。
この記事のもくじ
経営者にとって重要な条文リスト(政令123/2020/ND-CP)
61条もあるので最初に重要なところをまとめますね。
経営者に影響のある条文一覧(重要度付き:★3〜★5)
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント | 重要度 |
---|---|---|---|---|
第4条 | インボイス・帳票の作成・管理・使用の原則 | インボイス発行のルール・発行者の責任・署名方式などを定める基本条文。 | 電子化体制の整備や社内統制に関わる。発行漏れや遅延防止策が必要。 | ★★★★★ |
第5条 | 禁止行為 | 偽造、未送信、システム改ざんなどの明確な禁止行為を規定。 | 違反時の罰則・使用停止リスクに直結。内部統制・監査体制強化が求められる。 | ★★★★★ |
第9条 | インボイスの発行時点 | 売上・税務処理上の「いつ発行すべきか」を明記。業種別に詳細ルールあり。 | 売上タイミング管理に重要。社内フローの明確化が必要。 | ★★★★★ |
第10条 | インボイスの記載内容 | 記載必須項目(顧客名・税額・商品名など)を明確化。 | 記載ミスや漏れによる税務上の無効リスクを回避するため、システム設定とチェック体制が必要。 | ★★★★★ |
第16条 | インボイス使用の停止 | 税務リスクが高い企業や違反企業に対し、使用停止処分が可能となる条文。 | 使用停止=売上計上不可という重大リスク。信用問題にも波及。 | ★★★★★ |
第56条 | 購入者の権利 | 請求書を請求する権利、保存・申告への活用を明文化。 | B2C事業者では顧客対応の一部。「レシートでいいです」はNGに。 | ★★★★☆ |
第13条 | 電子インボイスの使用条件 | 電子インボイスを使える事業者の条件を規定。 | 自社が対象になるかどうかの判断基準。導入判断に関係。 | ★★★★☆ |
第15条 | 電子インボイス登録・変更手続き | 使用開始の登録方法・変更時の対応を明記。 | 法人情報変更時など、申請漏れ防止の管理体制が必要。 | ★★★★☆ |
第19条 | 訂正・差し替えの方法 | インボイスの誤記対応ルール。再発行や差し替えの際の形式と責任範囲。 | 現場の誤記対応の基本マニュアルに。再発行の適切な手順が求められる。 | ★★★★☆ |
第29条 | インボイス使用報告 | 使用済・未使用・破棄状況などを税務署へ定期報告。 | 報告遅延・漏れは罰則対象に。帳票の発行管理システムの整備が鍵。 | ★★★★☆ |
第33条 | 電子帳票のフォーマット | XML形式など、電子記録の構成要件を規定。 | 会計ソフトとの連携やIT部門との調整が必要。データ改ざん防止にも関係。 | ★★★☆☆ |
第22条 | 認証なしインボイス使用者の責任 | 認証不要のeインボイス使用時のルールと義務を定める。 | 自社での記録・保存・送信ミスによるリスクがある。社内管理体制が重要。 | ★★★☆☆ |
第58条 | 情報共有と連携の責任 | 税務署と他機関(海関・財務省等)との連携義務を定める。 | 特別消費税対象の製品を扱う企業はQRコード連携・電子スタンプ対応が必要。 | ★★★☆☆ |
第59条 | 施行日と旧制度との関係 | 政令の施行日・旧制度(政令51等)からの移行を明記。 | 旧様式からの切り替え時期を明確に認識しておく必要あり。 | ★★★☆☆ |
第60条 | 移行期間の規定 | 電子インボイス制度への移行猶予や猶予期間中の対応を明記。 | 猶予中でも準備を進めておかないと、切り替え時に混乱するリスクあり。 | ★★★★☆ |
政令は全6章・61条から構成されており、以下のように整理されています。
まずは総則です。
第1章:総則(General Provisions)
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第1条 | 適用範囲(Scope) | この政令が規定する対象は、請求書・帳票の発行、使用、管理に関するものであり、電子・紙両方を含む。 | ベトナム国内で取引を行うすべての企業・組織・個人が対象。会計・税務処理に影響。 |
第2条 | 適用対象(Regulated entities) | この政令が適用される組織や個人(企業、個人事業主、税務署、請負者など)を明記。 | 自社が対象かどうかを確認することが第一歩。外国企業も一部対象になる可能性あり。 |
第3条 | 用語の定義(Definitions) | 本政令で使われる重要な用語(インボイス、電子帳票、偽インボイス等)を定義している。 | 誤解を防ぐため、制度理解の土台になる。例:fake invoice=番号の重複や他者発行テンプレの悪用など。 |
第4条 | インボイス・帳票の作成・管理・使用の原則 | インボイスの発行義務、記載事項、署名、電子フォーマットの適用、帳票の管理方法を定める。 | すべてのインボイス業務の基本ルール。発行漏れ・記載ミス・不備のリスクを避けるための指針。 |
第5条 | 禁止行為 | 偽造、未送信、システム改ざん、妨害、賄賂などの明確な禁止行為を規定。 | 違反するとインボイスの使用停止や罰則対象に。委託先を含め、ガバナンスが重要。 |
となります。
第2章:請求書に関する規定(Invoices)
Section 1:General
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第8条 | インボイスの種類 | VATインボイス、販売インボイス、公共財産売却インボイスなど、取引の性質に応じたインボイスの種類を規定。 | 税率や業種によって使い分けが必要。誤ったインボイスを出すと、税務処理が無効になる可能性あり。 |
第9条 | インボイスの発行時点 | 商品の所有権移転時、サービス完了時など、発行タイミングを詳細に規定。業種ごとの例外も記載。 | 発行タイミング=売上計上日になるため、ずれると税務リスクに。取引書類と整合性をとることが重要。 |
第10条 | インボイスの記載内容 | インボイスに含めるべき基本情報(取引先情報、金額、税率、税額、商品名等)を定めている。 | 記載漏れや誤記は、請求書として無効とされる可能性あり。特に電子インボイスでは自動チェックが厳密。 |
第11条 | POSレジ発行インボイス | POSレジから発行される電子インボイスの形式、記載項目、使用条件を定義。 | 飲食・小売業で義務化される場合あり。売上が一定規模を超える場合、対応システム導入が必要。 |
Section 2:電子インボイス(Electronic Invoices)
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第12条 | 電子インボイスのフォーマット | 電子インボイスの標準フォーマット、データ形式(XMLなど)を規定。 | システム導入や会計ソフトとの互換性に関わる。IT担当との連携が重要。 |
第13条 | 電子インボイスの使用条件 | 電子インボイスの発行者に必要な条件や、対象外とされるケースを明記。 | 自社が電子インボイスを使えるか・使うべきかの判断基準。業種・売上・インフラ状況が関係。 |
第14条 | 電子インボイスサービス提供者の条件 | サービスプロバイダ(e-invoice provider)の認定条件、業務内容、責任などを定義。 | 外部サービスを利用する際の選定基準。契約時にはこの要件をチェックする必要がある。 |
第15条 | 電子インボイスの登録・変更手続き | 電子インボイス使用の登録方法、登録内容の変更、手続きの流れを規定。 | 税務署へのオンライン登録が基本。代表者や会社情報が変更された場合の再登録にも対応が必要。 |
第16条 | 電子インボイスの使用停止 | 高リスク企業、違反事業者に対する電子インボイス使用の停止条件を定める。 | 使用停止=請求ができなくなる。リスク分類の根拠も含めて事前に把握しておく必要あり。 |
第17条 | 認証済インボイスの発行方法 | 税務署による認証付きインボイスの発行手続き、コード付与などを規定。 | 認証タイプの電子インボイスを使用する際の標準ルール。送信タイミングやエラー対応も重要。 |
第18条 | 認証なしインボイスの発行方法 | 認証不要のインボイスの発行条件とその責任範囲を定める。 | より柔軟だが、自社での保存・送信・誤記対応が必須。会計ソフトによる管理体制が求められる。 |
第19条 | インボイスの訂正・差し替え | 記載ミスや取引変更時の対応方法(訂正・再発行・通知)を明記。 | 実務で最も頻度が高い条文。誤って削除や再発行すると逆に違反になるので要注意。 |
第20条 | システム障害時の対応 | 通信エラーや停電など、技術的障害が発生した際の発行・通知手続きを定める。 | トラブル発生時に何をどうすればよいかを明確化。BCP(事業継続計画)にも関係する。 |
第21条 | 認証済インボイス使用者の責任 | コード付きインボイスを使用する企業の責任範囲を定義。 | インボイスの発行記録・保存・送信義務の所在がはっきりしている。 |
第22条 | 認証なしインボイス使用者の責任 | 自社で発行・管理する認証なしインボイス利用時の責任を明記。 | 送信遅延・記録漏れ・バックアップ不備による罰則リスクあり。運用体制の整備が求められる。 |
🔹Section 3:税務当局印刷のインボイス
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第23条 | 税務署印刷インボイスの使用条件 | 小規模事業者や技術的に電子化できない事業者向けに、税務署印刷の紙インボイスを使用できる条件を定める。 | 紙インボイスの例外的使用が認められるケース。小規模事業や地方事業者が対象となることが多い。 |
第24条 | インボイスの購入・販売 | 税務署印刷インボイスの購入・保管・再販売などの手続きを明記。 | 誰が、どこで、どのようにインボイスを買うのか?保存期間や保管責任も重要。 |
第25条 | 未使用インボイスの取り扱い | 使用前のインボイスの保管、返品、破棄のルールを定義。 | 使用開始前に破損・記載誤りがあった場合の対応手順。事務処理ルールの一つ。 |
第26条 | インボイスの訂正(税務署印刷版) | 手書きインボイスの記載ミスへの訂正手続きとその管理方法。 | 修正液の使用不可など、訂正方法が厳密。再発行時には番号管理も要注意。 |
第27条 | インボイスの破棄手続き | 未使用・使用済インボイスの破棄条件、手続き、記録義務などを定める。 | 税務署立ち会いのもとでの破棄が求められる場合もあり。破棄届の提出忘れに注意。 |
第28条 | 紛失・焼失・破損時の対応 | インボイスの紛失、破損、火災等での消失時に必要な手続き。 | 「紛失届」の提出や事情説明書の添付など、トラブル発生時の対応ルール。 |
第29条 | インボイスの使用報告 | 発行済、未使用、破棄など、すべてのインボイスの使用状況を定期的に税務署へ報告。 | 四半期や年度ごとの「BC26」レポート提出が義務。報告遅れは罰金対象になることも。 |
第3章:帳票(記録類)に関する規定
🔹Section 1:一般規定(General Provisions)
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第30条 | 帳票の種類 | PIT控除証明書、税・手数料領収書など、帳票として定義される種類を明記。 | 請求書以外にも「税に関する証明書」や「領収書」も対象になることを意識する。 |
第31条 | 作成時点 | 帳票(特にPIT控除証明書や領収書)は、課税・徴収のタイミングで発行が必要とされる。 | インボイスと同様に「いつ作るか」が重要。発行遅延は違反となる場合あり。 |
第32条 | 記載内容 | 各種帳票に記載すべき情報(氏名、金額、税額など)を規定。 | 書類の形式に沿って記載漏れがないようにする。特に電子帳票ではシステム対応が必要。 |
🔹Section 2:電子帳票(Electronic Records)
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第33条 | 電子帳票のフォーマット | 電子帳票はXML形式で構成され、取引情報と電子署名を含む構成が標準。 | 会計ソフトやクラウド保存時にフォーマットの整合性が重要。 |
第34条 | 使用申請・変更手続き | 電子帳票を使うための登録や、変更があった場合の再申請手続きを明記。 | インボイスと同様、使用開始前に登録必須。代表者変更や法人移転でも再申請の対象になることも。 |
🔹Section 3:印刷された領収書(Printed Receipts)
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
---|---|---|---|
第35条 | 領収書の作成要件 | 領収書を有効な帳票とするための必要項目・発行ルールを定めている。 | 発行番号の管理、社印の有無、複写管理など、帳票作成のルールが実務と直結。 |
第36条 | 発行通知と手続き | 自主印刷・税務署発行を問わず、領収書の使用開始前には税務署への通知が必要。 | 書式や発行タイミングに変更があれば、再通知・再提出が求められる。 |
第37条 | 委任発行のルール | 領収書の発行を他者に委託する場合の条件、責任分担、通知義務を規定。 | 委託先が勝手に発行すると無効に。契約書と税務署への通知を忘れずに。 |
第38条 | 使用状況の報告義務 | 使用済、未使用、破棄済みなどの領収書について、定期的に税務署へ報告が必要。 | 「BC26/BLG」などの報告様式を使い、記録をもとに提出。会計部門での帳票管理が肝。 |
第39条 | 破棄の手続き | 未使用または使用済の領収書を破棄するための手順と条件を定める。 | 一定の条件下では立会い・記録作成が必須。勝手に破棄すると罰則対象になることも。 |
第40条 | 紛失・焼失・破損した帳票の報告 | 領収書等が事故や過失により使えなくなった場合の報告義務。 | 紛失届、状況報告書の提出が必要。事故証明や警察届けが必要なケースもあり。 |
第4章:インボイス・帳票情報の構築と検索
(第44条〜第50条をまとめて整理)
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第44条〜第50条 | 電子ポータルを通じた情報の提供・検索・利用 | 税務当局(特に総局)が構築する電子ポータルを通じて、インボイスや帳票の検索、提供、管理を行うルールを定めた章。アクセス権限や利用申請手続き、情報保護・提供のルールもここにまとめられている。 | 税務署へインボイスデータを送信する義務がある事業者は、このポータルに接続しておく必要がある。顧客や監査対応時に「請求書を提出できない」とならないように、検索・再出力のフローを把握しておくことが重要。電子インボイス利用者にとっては不可欠な章。 |
この章は実務的には「バックエンド」の話に思われがちですが、帳票の保管義務や、取引相手から請求が来た時の再発行・閲覧といった場面では非常に重要になります。
第5章:関係者の権利と義務
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第55条 | 売り手(販売者)の権利と義務 | インボイス・帳票の発行、保存、送信に関する権利と責任を定めている。誤記訂正、再発行、報告義務なども含む。 | インボイスの「正確な発行」と「データ送信」の責任は基本的に販売者側にある。発行履歴やエラーの管理体制が重要。 |
第56条 | 買い手(購入者)の権利と義務 | インボイスを請求する権利、受領・保存・申告での使用、再発行請求などの権利を明記。 | 消費者から「インボイスください」と言われたら断れない。POS連携レジやECでの対応体制が求められる。 |
第57条 | 税務当局の責任 | 税務当局(総局・省レベル)のシステム構築、データ収集、苦情処理などの役割を定義。 | 納税者側からの電子データ送信や登録などがスムーズに行えるよう、体制が整備されている前提で実務を設計する必要がある。 |
第58条 | 情報共有と連携の責任 | 税務署と他機関(海関・地方機関・財務省など)とのデータ連携、電子スタンプ、QRコード対応なども含む。 | 商品(特に特別消費税対象)の情報を電子的に一元管理する仕組みの一部。QRスタンプ等の対応が求められる業界では要確認。 |
この章は、**「誰がなにをする責任があるのか」**を明確にしているため、
法務・総務・経理の連携や外部委託時の契約書にも影響してくる重要な部分です
第6章:施行および移行規定
条文 | 見出し | 内容概要 | 実務上のポイント |
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第59条 | 施行日および旧政令との関係 | この政令の発効日(2022年7月1日)および、旧制度(政令51/2010/ND-CPなど)との重複を整理。 | 旧様式や旧運用を継続していた企業は、この条文に基づき完全移行が必要。帳票の「切り替え忘れ」に注意。 |
第60条 | 移行期間の取り扱い | 電子インボイス制度への移行にあたっての猶予期間・経過措置を明示。 | 「経過措置=猶予」ではあるが、準備を怠ってよいという意味ではない。社内体制・ソフト対応を早めに整えるべき根拠条文。 |
第61条 | 各省庁・地方機関の実施責任 | 財務省・税務総局・地方政府などに対し、本政令の周知・運用を徹底する責任を割り振る。 | 納税者側としては、法令解釈やシステム障害などがあった場合、各機関がどう対応すべきかの目安になる。問い合わせ先の整理にも有用。 |
これで、政令123/2020/ND-CP 全61条の構造と実務ポイント付き一覧が完成しました 🎉