マナラボの菅野です。
「Công văn(コンヴァン)」という言葉、ベトナムでの業務に慣れてくると必ずと言っていいほど目にするようになります。これは法律でも契約書でもなく、いわば「行政と企業」「企業と企業」の間で交わされる公的な意思疎通のツールです。
例えば、税務署から「この処理について説明してください」と来るとき、それはたいていこの“Công văn(オフィシャルレター)”の形式で届きます。
「これは一体何?どう扱えばいいの?」という初心者の方に向けて、基本から実例、そして活用法まで、優しく解説していきますね。
この記事のもくじ
オフィシャルレターの正体とは?
正式には、政令30/2020/ND-CP 第7条にて「行政文書の一種」として定義されています。
🔍 定義: Công vănとは、国家機関や組織、企業が公式なやり取り・指示・要請・回答などを行うために使う文書です。
日本でいうと「通達」「照会回答」「依頼文」に近いですが、より幅広く、口頭では済ませず、文書で残す文化のベトナムではとても重要です。
わかりやすく言うと…
Công văn(オフィシャルレター)とは、「ちゃんと記録に残すための、まじめな手紙」です。
たとえば:
先生に「明日学校を休みます」と口頭で言ったけど、先生が忘れてしまったら困りますよね?
だから、保護者が「欠席届」という紙にちゃんと書いて出すと、「ああ、この子は正式にお休みだ」と安心してもらえます。
これと同じで、ベトナムでは「大事なことは口頭ではなく、文書で正式に伝える」という文化があります。
Công vănはどんなときに使う?
- 会社から役所へ「申請したいです」
- お役所から会社へ「この点を説明してください」
- 上司から部下へ「この業務をやってください」
…といった 「お願い」「説明」「指示」「回答」 をするときに使います。
日本と比べると?
日本でいうと、「通達」「依頼書」「照会への回答」「通知書」などが近いですが、ベトナムではこれらを全部まとめてCông vănという1つの形式でやりとりすることが多いです。
つまり、オフィシャルレターは“口で言う代わりに、ちゃんと紙で伝える”という、ベトナムのビジネスの共通ルールなんです!
「言った・言わない」にならないように、しっかり文書で伝えておく。それが信頼にもつながりますね。
なおですけど、政令第30/2020/ND-CP第7条によれば、行政文書には以下のような種類が含まれます。
個別決議、個別決定、指令、規定、規則、発表、通知、案内、指示、プログラム、計画、構想、提案、報告書、議事録、提出文書、契約書、オフィシャルレター(Công văn)、電報、覚書、協定、委任状、招待状、紹介状、休暇証明書、送付状、移送状、通知状、公式書簡。
オフィシャルレターの6つの種類をケースで理解しよう!
それでは、どんな種類のCông vănがあるのか?実際にありがちな6パターンを、ケーススタディ付きで見てみましょう。まず表で全体像を見てみましょう。
No. | 法的分類(7種) | 主な目的・用途 | 実務上の呼称・該当文書 | 発行例(Official Dispatch番号)イメージ | 誰が作成・発行するか(実務上) |
---|---|---|---|---|---|
1 | Guidance Document指導文書→いわゆるOL | 法令や制度の運用方法、手続きの具体的な指針 | 指導文書 | No. 13762/CTHN-HKDCN (2023) | **中央官庁(税務総局・労働省など)**が地方機関・企業に向けて発行。現場からの照会を受けて発行されることも多い。 |
2 | Explanatory Document説明・釈明文書 | 遅延・誤り・不備・誤解などに対する経緯の説明、対応理由の明記 | 説明文書/釈明文書 | No. 54/2020/CV-TD | 企業・下級官庁が上級官庁や相手機関へ出す。税務署への釈明、労働局への説明など。 |
3 | Directive Document指示文書 | 上級機関からの業務実施命令、政策展開の指示 | 指示文書 | No. 2116/BYT-DP | 首相府、中央省庁、地方人民委員会が所轄組織・部局に向けて発行。厳格な命令文書。 |
4 | Urgent & Reminder Dispatch督促文書 | 以前の指示に対する未実施事項の督促、緊急対応の再要請 | 緊急通知文書/催促文書 | No. 7417/VPCP-KSTT | 首相府・各省・地方政府の行政部局が担当機関へ催促。期日・緊急度を指定する場合が多い。 |
5 | Request Document要請文書 | 上位機関や同位機関に対して対応、資料提供、協力などを依頼する文書 | 要請文書 | No. 7009/BCĐTKTHHP1992 | 企業、地方政府、地方部局が上位省庁・中央政府へ送付。稟議・手続きの一環として出されることも。 |
6 | Response Document回答文書 | 他機関からの照会・申請に対して正式に返答を行う文書 | 回答文書 | No. 229/BC-UBND | **受け手側(企業・官公庁)**が相手のCông vănに対して作成・送付。受けた文書番号を明記することが原則。 |
7 | Requesting Opinions意見照会文書 | 判断に迷う事案について、上位機関に対し意見・指針を求める文書 | 意見照会文書 | No. 1815/SKHDT-VP | 地方政府・部局・企業が上位省庁に向けて発行。事前承認や合意形成を得るための補助的な文書。 |
詳細に説明しますね。
以下は、**政令30/2020/ND-CPには明記されていないが、実務で標準化されている「法的分類7種」**を主軸に、それぞれの性質・目的・対応する実務6種の使われ方を解説したものです。
① Guidance Document(指導文書)
- 法的目的:法律や規定が不明確な場合に、その解釈や運用方法を上位機関が下位機関に対して明示する文書。
- 対象者:税務署、労働局、企業など
- 実務での例(=実務6種の「指導文書」):
税務総局からの「VAT計算方法」についての運用指導
保健省からの「医療申請における書類作成ルールの明確化」など
実際の文書例:
Official Dispatch No. 13762/CTHN-HKDCN(個人所得税確定に関する指導)
② Explanatory Document(説明・釈明文書)
- 法的目的:ある業務処理や判断について、関係機関に対して経緯や理由を説明するための文書。
- 対象者:行政機関、取引先、監査人など
- 実務での例(=実務6種の「説明文書」):
インボイス発行遅延の理由説明
契約条件の認識違いによる対応の釈明など
実際の文書例:
Official Dispatch No. 54/2020/CV-TD(医療機器申告に関する説明)
③ Directive Document(指示文書)
法的目的:上位機関が下位機関に対して、特定の業務実行を命じる文書。義務性が強い。
対象者:中央省庁→地方政府、企業など
実務での例(=実務6種の「指示文書」):
労働省が「労働契約テンプレートの改訂」を各企業に通達
教育省が「新学期スケジュール」の実施を地方教育局に指示
実際の文書例:
Official Dispatch No. 2116/BYT-DP(COVID-19対策指示)
④ Urging and Reminding Dispatch(催促・緊急文書)
法的目的:以前発行された指示や計画に対して、未実施事項の確認・再通知・対応の促進を目的とする。
対象者:実施義務を負っている地方政府・企業等
実務での例(=実務6種の「緊急通知文書」):
各地方に対して「以前の通達が未実施」としての督促
締切直前の資料提出のリマインド
実際の文書例:
Official Dispatch No. 7417/VPCP-KSTT(政府指示事項の督促)
⑤ Request or Request Document(要請文書)
法的目的:下位または同等レベルの機関が、上位機関や他組織に対して「資料提供・対応・協力」などを依頼する公式な文書。
対象者:企業→官公庁、地方政府→中央省庁など
実務での例(=実務6種の「要請文書」):
税務申告期限延長の申請
労働局に労使紛争への仲裁を要請
実際の文書例:
Official Dispatch No. 7009/BCĐTKTHHP1992(憲法実施状況の報告要請)
⑥ Response Document(回答文書)
法的目的:他機関からの質問・依頼・苦情などに対し、正式に返答するための文書。
対象者:質問元の行政機関、企業など
実務での例(=実務6種の「回答文書」):
労働局からの「従業員在籍状況確認」への返答
税務署からの文書への応答
実際の文書例:
Official Dispatch No. 229/BC-UBND(ロックニン県人民委員会への回答)
⑦ Dispatch Requesting Opinions(意見照会文書)
- 法的目的:業務遂行にあたって判断に迷う点について、上位機関や関係機関に意見・ガイダンスを求める文書。
- 対象者:上級機関、関連機関
- 実務での例(実務6種には含まれにくいが実際には存在):
地方政府が計画投資省に「プロジェクト承認の是非」について意見照会
税務局が財務省に「新しい課税規定の適用」について確認
実際の文書例:
Official Dispatch No. 1815/SKHDT-VP(ダクラク省が決定案について意見照会)
オフィシャルレターの書式は法律で決まってます(政令30/2020/ND-CP 第8条)
法令でオフィシャルレターの書式は決まっているようです。
以下の構成で作成するのが正式とされています👇
項目 | 内容 |
---|---|
① 国家表題 | 例:「ベトナム社会主義共和国」「独立・自由・幸福」 |
② 発行者 | 会社名や機関名 |
③ 文書番号 | 例:1234/CV-MBX |
④ 発行地と日付 | 例:ホーチミン市、2025年6月1日 |
⑤ 件名・要旨 | 「付加価値税についての説明」など |
⑥ 本文 | 要点を明確に、簡潔に |
⑦ 署名者情報 | 職位、名前、署名、印 |
⑧ 宛先 | 例:「Kính gửi: ハノイ税務局 様」 |
⑨ 保存先 | VT, 経理部など |
👉 日本企業もこれに準じて作成することで、信頼性が高まります!
まとめ:Công văn=信頼の土台
オフィシャルレターは、**ベトナムにおける実務の“共通言語”**です。
- 口頭ではなく文書で
- フォーマルで誠実に
- 記録に残して対処する
この文化に慣れておくことで、行政とのやりとりもスムーズになりますし、信頼も高まります。
テンプレートをひとつ持っておくだけでも、社内・社外とのやりとりにとても便利です。
✍️ 最後にひとこと
「伝えるべきことを、誠実に、文書で伝える」。
それがベトナムでのビジネスの第一歩です。
ではまた次回!マナラボの菅野でした。