こんにちは、マナラボの菅野です。
今日は、ベトナムの企業間取引に関わっている方なら誰もが影響を受ける可能性のある**「オンザスポット輸出入制度(On-the-spot import-export)」**についてのお話です。
最近、欧州企業から「制度を維持してほしい」とベトナム政府に対する強い要望が出されたことで、この制度がにわかに注目を集めています。
制度の廃止が検討されている背景と、それに対して企業側がなぜ反発しているのか。そして、日本企業はどんな影響を受けるのか? この記事では、法制度・実務・国際情勢の3つの観点から丁寧に解説していきます。
この記事のもくじ
オンザスポット輸出入とは?ざっくりおさらい
まず、「オンザスポット輸出入(OTS)」とは、ベトナム国内でモノの受け渡しが行われるにも関わらず、取引上は「輸出」や「輸入」として処理できる仕組みのことです。
>>ベトナムにおけるOn the spot Export and Import(みなし輸出入通関制度)の3つのパターンを図解で解説!
たとえばこんなケースが当てはまります:
- ベトナム企業が外国商社と契約を交わして製品を“輸出”するが、実際の納品先は国内の別のベトナム企業
- 加工業者がリース機械を外国企業から借りて、国内工場で使う
- 外国商社が購入したベトナム製品を、国内の委託先に“そのまま”引き渡す(倉庫すら移動しないことも)
この制度、見た目は国内取引だけど、制度上は国際取引として扱われるという非常にユニークなポジションです。
なぜ今、この制度が注目されているのか?
ここが今回、最も伝えたいポイントです。
このOTS制度は、単なる「特殊な例外規定」ではなく、ベトナムにおける国際取引の“裏の主役”とも言える存在です。
2022年時点で、OTS取引はベトナムの年間貿易額の約18.8%を占めるという統計もあり、もはや“ニッチな制度”ではありません。
それにも関わらず、以下のような理由で制度の「廃止」が議論されています
>>衝撃!?みなし輸出入取引(On the spot import and export取引)の廃止案が発行【外資企業に納税義務を果たしてほしい?】
- OTS取引による実際の物品移動が国内で完結するため、輸出入税が発生しないケースが多く、国家予算の“見逃し”につながっていると財務省が指摘
- 加工貿易や原材料取引における価格操作や税務リスクへの懸念
- 電子的な管理やトラッキングが難しく、制度の透明性に課題
これに対し、企業側が強く反発している理由は、単に「手続きが便利だから」ではありません。
OTS制度があるからこそ、次のような競争力が担保されているのです:
1. サプライチェーンの垂直統合を可能にする
大手欧州企業を中心に、ベトナム国内で「原材料 → 加工 → 組立 → 梱包」までの工程を一国内で完結させる流れが進んでいます。
このOTS制度があることで、各工程を異なる企業が担っていても、国際取引スキームとして処理可能で、輸出型のサプライチェーンが維持できているのです。
2. 納期短縮と在庫圧縮
輸送を伴わない「その場納品(on-the-spot delivery)」によって、従来数日〜数週間かかっていた輸出入が、事実上“当日引渡し”で完了します。これはリードタイム短縮、在庫削減、資金効率の改善に直結します。
3. FTAや原産地要件への対応
たとえばCPTPPやEVFTAでは「域内生産」や「原産地証明」が非常に重要です。OTS制度により、形式上も“輸出”となることで税優遇を維持できる取引があるのです。
欧州企業の「お願い」:制度は急にやめないでほしい
このような重要性を踏まえ、**欧州商工会議所(EuroCham)**はベトナム政府に対して次のような提案を行いました:
- 法的枠組みが整うまでの間は制度を現状のまま維持してほしい
- ベトナムに拠点がない外国商社でも、従来どおりOTS取引に参加できるようにしてほしい
彼らの立場としては、「突然やめられたら、工場の工程や取引フローをすべて再設計しなければならない。コストと時間がかかり、ベトナムにいる意味がなくなる」という強い危機感があります。
日本企業も無関係ではない!!
OTS制度は欧州企業だけのものではありません。日本企業でも、以下のようなビジネスモデルに深く関係しています:
- 輸出加工区(EPE)と通常企業との取引
- ベトナム国内の製造委託・再委託取引(例:二次下請け)
- 日本本社と現地法人の三国間契約(トライアングル取引)
もし制度が廃止されれば、以下のような影響が想定されます:
- 現行の国際スキームが“国内取引”に再分類され、VAT課税対象になる
- インボイス発行のフローや税申告処理を変更する必要がある
- サプライチェーン構造を再設計せざるを得ない
今後の見通しと日本企業ができること
ベトナム政府は、企業側の声を受けて副首相レベルでの特別会合を設置し、関係省庁と協議を開始しました。財務省・商工省・司法省が協力して、代替制度の設計や法整備に取り組むとのことです。
ただし、これが実現するまでには数カ月~1年以上かかる可能性があり、その間に取引をどう維持するかが課題となります。
まとめ:備えあれば憂いなし
日本企業の皆さんに今お願いしたいのは、以下の3つの備えです。
- 自社がOTS制度を使っている取引を棚卸しする
- 制度変更に備えて、税務・物流・契約上の代替案を検討する
- 現地会計事務所・法律事務所と密に連携して、最新情報をキャッチアップする
「制度はいつか変わるもの」と考え、変化を前提に動ける会社が生き残る時代です。
また、新しい制度が逆にチャンスになることもあるので、常に前向きに情報をつかみ、柔軟に対応していきましょう。
以上、マナラボの菅野でした。