こんにちは!マナラボの菅野です。
今回は、2025年7月17日に公開された「個人所得税法の全面改正草案」について、皆さんと一緒にじっくり読み解いていきたいと思います。
「えっ、また税金の話…難しそう…」と思った方、ご安心ください。
この記事では、どこがどう変わるのか?何に注意すべきか?を「やさしく・具体的に・実務寄り」にお届けします。
そしてもちろん、日本人駐在員や外国人の立場からも、どんな影響があるかをしっかりフォローします!
この記事のもくじ
🔍 ① なぜいま「個人所得税法」が見直されるの?
実はこの法律、ベトナムでは2007年に制定されたのが現行法。もう18年も前なんです。
その間、ベトナムの経済も社会も大きく変わりましたよね。
- 給与水準が大きく上昇
- 不動産投資ブームによる価格高騰
- フリーランスやデジタル業など新しい働き方の登場
- 外国人労働者や駐在員の増加
こうした変化に、今の税制ではもう対応しきれないという声が多く出ていました。
📣 ② 財務省のねらいとは?
財務省は今回の草案で、次のような6つの政策グループ(柱)を打ち出しています。
📌 改正の柱 | 内容概要 |
---|---|
① 課税対象の明確化 | 所得の分類を最新の経済実態に合わせて整備(デジタル資産、NFT、カーボンクレジット等も) |
② 免税・減税の見直し | 科学技術、農村支援、イノベーション人材などに配慮した制度に |
③ 個人事業主課税の整備 | 小規模事業・Eコマースにも対応 |
④ 家族控除の見直し | 物価上昇を反映させた柔軟な控除設計へ(CPI連動など) |
⑤ 累進課税表の簡素化 | 7段階から5段階へ。中間層の負担軽減&実務簡略化 |
⑥ 税務手続の明確化 | 納税者と支払者(会社など)の責任・期限をより明確に |
💡 実務イメージ:たとえば日本人駐在員にどう影響?
たとえば、ハノイやホーチミンで働く日本人のAさん(月収50百万VND)を想定してみましょう。
- 現在:7段階の累進課税 → 30%課税
- 草案案1:同じ収入なら → 25% or 30%
- 家族控除も物価に連動して増額される見込み
つまり、多くの人にとって「減税効果」ありなんです。
ただし、不動産売却など投機的な所得には厳しくなりそうなので、後述で詳しく説明しますね。
③ 所得の分類が細かく・わかりやすく!
今回の草案では、課税対象となる所得の分類が大幅に整理&拡張されました。
これまでも「給与」「不動産」「投資」などには税金がかかっていましたが、新しい経済活動に対応できていなかったのが実情。
今回の草案では、以下のように13種類+αの所得カテゴリにしっかり分類されました。
💰 新たな課税対象の一例
所得の種類 | 内容例 |
---|---|
① 事業所得 | 商売・個人事業・デジタルプラットフォーム・フリーランス |
② 給与・賃金 | 給与、賞与、非金銭的ベネフィット(例:社宅、会社負担の家賃) |
③ 資本投資所得 | 配当、利子、出資による利益 |
④ 資本譲渡 | 株式・持分の譲渡など |
⑤ 不動産譲渡 | 土地、建物、賃借権の売買 |
⑥ 懸賞・宝くじ所得 | 宝くじ、懸賞、ベットなど |
⑦ 著作権・技術移転 | ライセンス収入や特許権の譲渡 |
⑧ フランチャイズ収入 | 商標やノウハウ提供など |
⑨ 相続・贈与所得 | 証券、不動産などの相続・贈与 |
⑩ デジタル資産 | 暗号資産(仮想通貨)、NFTなど |
⑪ 排出権・環境資産 | カーボンクレジット、グリーンボンド等 |
⑫ ナンバープレート譲渡 | 車の競売ナンバーなど |
⑬ その他 | 政府が定めるその他の所得 |
これまで(2007年個人所得税法)では対象じゃなかったの?
明確に課税対象とされていなかった、またはグレーゾーンだったものが複数あります。
🔍【これまで「対象外」または「曖昧」だった主な項目】
項目 | 旧法での扱い | 草案での変更 |
---|---|---|
デジタル資産(仮想通貨・NFT) | 明確な規定なし(グレーゾーン) | 第3条で明示的に課税対象に追加 |
ナンバープレートの譲渡(競売取得) | そもそも「資産」としての認識がなかった | 新たに課税対象として明記 |
カーボンクレジット・グリーンボンドなどの環境資産 | 未定義、取引課税の根拠なし | 明確に「その他の所得」として列挙 |
フランチャイズ収入 | 一部は「事業所得」として課税されていたが、定義が不明確 | 第3条に独立カテゴリとして追加 |
技術移転・著作権譲渡 | 著作権収入はあったが、技術移転収入などは扱いがあいまい | 第3条で明確に規定(所得種別7) |
オンライン仲介・プラットフォーム事業者の収入 | 個人事業として一部課税されていたが、eコマース関連は曖昧 | 第3条で「デジタルプラットフォーム事業者の収入」と明記 |
証券譲渡とそれ以外の資本譲渡の区別 | 「資本譲渡」としてまとめて扱っていた | 草案では証券・非証券で分類明確化 |
📌 日本人にとってのポイント
たとえば、日本本社からベトナム駐在員に家賃手当を支給しているケースでは、これまでグレーだった「現物支給ベネフィット」が、非課税から課税対象になる可能性も出てきます。
また、日本人が個人的にNFTや暗号資産を取引している場合も、今後はきちんと申告対象になると考えた方がよさそうです。
🏘️ ④ 不動産譲渡にかかる税金が「ガラッと」変わるかも!?
これが今回の草案で最も議論を呼んでいるポイントかもしれません。
🔄 現行制度は「一律2%」の売却価格課税
たとえば、日本人駐在員Bさんがベトナムで買ったコンドミニアム(4億VND)を
→ 6億VNDで売却した場合
📌 現行法では:
6億VND × 2% = 1,200万VNDを納税
→ 利益に関係なく、売値に一律課税
🆕 草案の2つの案
【案①】保有期間に応じた「段階課税」
保有期間 | 税率(売却価格ベース) |
---|---|
2年未満 | 10% |
2~5年未満 | 6% |
5~10年未満 | 4% |
10年以上 | 2%(現行維持) |
→ 短期売買(=投機)を抑制したい狙いが見えますね。
【案②】「利益」に20%課税
📌 計算式:
(売却価格 - 購入価格 - 諸費用)× 20%
上の例でいえば:
- 購入:4億
- 売却:6億
- 仲介手数料など:2,000万
→ 利益:1.8億 → 税金:3,600万VND
→ 一見高そうですが、実際に利益が出てないときは税額もゼロに近づくのがこの案の特徴です。
実務への影響は?
- 証憑(購入時契約書、領収書)がしっかり揃っていないと、この20%案は使えない可能性も
- システム・データベースの整備が進まないと、現実には段階課税案(案①)が先に採用される可能性が高いとも言われています
🇯🇵 日本人にとっての注意点
- 将来、ベトナムで買った不動産を売却予定の駐在員は要注意!
- 法人購入(会社名義)でも、実質所有者=個人と見なされるケースが出てくる可能性あり(まだ議論段階)
- 出国前に売るのがいいのか、数年待った方がいいのかなど、節税のタイミングも再考が必要です。
⑤ 累進課税が7段階→5段階に!?所得税がもっとわかりやすく!
さて、今回の草案でもうひとつ大きな話題となっているのが累進課税の見直しです。
📊 現行制度:7段階の税率でちょっと複雑…
いまのベトナム個人所得税では、給与・賃金所得には以下のような税率が適用されます。
税率段階 | 所得(月額・VND) | 税率 |
---|---|---|
第1段階 | ~5,000,000 | 5% |
第2段階 | ~10,000,000 | 10% |
第3段階 | ~18,000,000 | 15% |
第4段階 | ~32,000,000 | 20% |
第5段階 | ~52,000,000 | 25% |
第6段階 | ~80,000,000 | 30% |
第7段階 | それ以上 | 35% |
「細かすぎる…」「いきなり税率が上がる…」と感じた方、けっこう多いのではないでしょうか。
草案の提案:「5段階」に統合!
財務省は今回、2つの案を提示しています。どちらも5段階です。
✅ 案1:所得の区切りをややコンパクトに
税率段階 | 所得(月額) | 税率 |
---|---|---|
1 | ~10,000,000 | 5% |
2 | 10~30百万 | 15% |
3 | 30~50百万 | 25% |
4 | 50~80百万 | 30% |
5 | 80百万超 | 35% |
✅ 案2:高所得者にやや優しい
税率段階 | 所得(月額) | 税率 |
---|---|---|
1 | ~10,000,000 | 5% |
2 | 10~30百万 | 15% |
3 | 30~60百万 | 25% |
4 | 60~100百万 | 30% |
5 | 100百万超 | 35% |
具体的にどれくらい減税されるの?
財務省の試算によると…
- 月収10百万VNDの人 → 毎月25万VNDの減税
- 月収30百万VND → 毎月85万VNDの減税
- 月収80百万VND → 毎月65万VNDの減税
→ 年収ベースでは数百万VND以上の差になるケースも!
🇯🇵 日本人駐在員にとっての意味
- 月給50~80百万VNDあたりの日本人マネージャー層にはメリット大!
- これまで30%課税だったゾーンが、25%や20%になる可能性
- 累積税率の“ジャンプ”が緩和されるので、年末調整もシンプルになるかも
⑥ 扶養控除・免税ラインの見直しも!
これは家庭を持つ方には重要な話題です。
🎯 現行制度(2023年時点)
- 本人控除:月額11,000,000 VND
- 扶養親族1人あたり:月額4,400,000 VND
つまり、子ども2人+配偶者を扶養していると、
→ 控除合計:24,200,000 VND/月
🆕 草案の変更点
- 控除額そのものの数値はまだ未定(今後政令で定められる予定)
- ただし「CPI(消費者物価指数)などに連動して、定期的に調整できるようにする」方針が明記!
🔍 登録できる扶養親族とは?
草案は未明示ですが、現行通達(111/2013/TT-BTC)では:
- 実子・養子(18歳未満 or 障害あり or 就学中で月収1百万VND未満)
- 配偶者
- 実父母・義父母・継父母
- 兄弟姉妹・甥姪・祖父母など直接扶養する親族
📌 注意:1人の扶養親族に対して控除できるのは1納税者のみ!
🇯🇵 日本人家庭への影響は?
- 子どもを日本に残して単身赴任している場合でも、送金証明があれば扶養控除を認められるケースもある
- 国際的な生活コストの変動に応じて、今後「日本で生活する扶養親族の金額も見直される可能性」が出てきます
⑦ 今後の懸念点とベトナムと他国との比較
今回の草案は「大幅な前進」ではあるものの、まだまだ注意したい点や検討課題もあります。
⚠️ 懸念①:制度は複雑になるのか、シンプルになるのか?
表面上は「税率の段階数を減らす」など、簡素化の方向に見えます。
が、実際は…
- 所得の分類が13種類以上に増加
- 不動産やデジタル資産など「証憑がなければ20%課税を使えない」など実務の難しさもUP
➡ 申告漏れや申告ミスが増えるリスクも考えられます。
特に日本人など外国人にとっては、言語や申告実務の壁がより高くなる可能性も。
⚠️ 懸念②:新制度に必要なIT・インフラの整備
- 不動産取引に関する「価格・保有期間・取得費用」などの正確なデータベースが必要
- 暗号資産、デジタル所得の記録も、今後は国際的な連携が不可欠
➡ 制度設計だけでなく、税務インフラの整備が伴わなければ形だけの改革になりかねない
🌍 国際比較:OECDや日本とどう違う?
国名 | 累進税率段階 | 上限税率 | 不動産譲渡益課税 | デジタル資産課税 |
---|---|---|---|---|
日本 | 7段階 | 45% | 20.315%(利益) | 原則あり(雑所得) |
シンガポール | 7段階 | 22% | なし(一部除外) | 制限的 |
ベトナム(草案) | 5段階 | 35% | 2〜10% or 20% | 対象として明示 |
➡ ベトナムは「実務の簡素化+透明化」を目指しつつも、不動産やデジタル資産課税では先進国に近づきつつある印象です。
おわりに:この草案、私たちはどう備える?
この草案はまだ「確定した法律」ではありません。
でも、私たちがいまからできることはたくさんあります。
📌 対応チェックリスト(企業・個人向け)
✅ やること | 解説 |
---|---|
所得の種類を整理 | 自分や社員の収入がどの分類にあたるかを把握しておく |
扶養控除の見直し | 証明書類(送金記録など)を整備し、控除対象を明確に |
不動産売却予定の有無 | 保有年数、取得費用、証憑の有無を整理しておく |
税務顧問への相談 | 制度変更に合わせた給与設計・契約の見直しが必要な場合あり |
財務省・税務署からの通知をフォロー | 今後の政令・通達で詳細が出てくる可能性あり |
意見提出も「選択肢」
この草案は現在「意見募集期間中」です!
企業としても、在越外国人コミュニティの声としても、意見を出すことは可能です。
最後にひとこと
法律は国の姿勢そのもの。
そして、税金はわたしたち一人ひとりの「働き方・暮らし方」に直接影響を与えるルールです。
難しそうな草案も、読み解けば「生活と未来のヒント」になります。
このブログが、少しでもその道しるべになれたなら嬉しいです。