こんにちは!マナラボの菅野です。

2025年7月1日から始まる、社会保険制度の新ルール。
今回の改正で、なんと「給与を受け取っていない企業管理者」も、強制的に社会保険へ加入しなければならないことになりました。

「えっ、報酬ゼロだから加入義務ないと思ってた…」という方。
実は、この改正には、政府の明確な狙いと社会保障制度の方向性の大きな転換があるんです。

まあ日系企業で無給の役員の人はいないので日系企業については関係ないかもしれません。ただ監査役とか設置している会社もあるんでその辺は今後実務がどうなっていくのか?要注意です。

 背景1:保障の“抜け穴”をなくしたい

これまでの制度では、「無給」の名目で社会保険の適用を回避していた役員・代表者が多数存在しました。
つまり、社会的には「管理責任のある立場」なのに、万が一のときに年金や医療の保障がないというケースが起きていたのです。おそらくベトナム人だとは思います。外資系で「無給」のケースはないでしょう。

→ これでは制度の公平性も、本人の生活保障も保てません。

 背景2:公的年金制度の“加入基盤”を強化したい

ベトナム政府は現在、年金受給者を将来的に増やすことを政策目標としています。
特に、企業経営層・フリーランス・自営業者など、「強制加入から漏れていた層」に加入を促すのが重点施策。

今回の制度改正は、こうした「保険加入の空白」を埋めるための一手であり、社会保険の“すそ野拡大”の本丸とも言えます。

 背景3:将来の自分を守るのは、今の自分

「無給=加入しない」は、今まで黙認されていた“抜け道”。
でもそれは、裏を返せば「将来自分に何も残らない」ということでもあります。

今回の改正は、そんな立場の方々に最低限の社会保障を確保させるための制度的メッセージとも受け取れます!

制度の目的から、実際にいくら払うのかまで、根拠条文と具体例を使ってしっかり解説していきます!

🧭 なぜ無給の役員も対象に?法的根拠はこちら!

2024年6月に公布された社会保険法(第41/2024/QH15号)の【第2条第1項n号】では、次のように定義されています:

給与を受け取っていない企業管理者(取締役、代表者、協同組合の管理者など)も、強制社会保険の対象とする。

つまり…

「会社から給料もらってないから保険入らなくていいよね?」

いいえ、それでも加入“必須”です。

なぜかというと、政府の目的は保障制度のすき間をなくすこと
経営責任を持ちつつ保障を受けていない役員を対象に取り込むことで、制度の公平性・網羅性を高める狙いです。

 いくら払えばいい?無給でも払う額はコレ!「参照額ベース」で報酬を設定

さて、ここが今回の核心。

「給与ゼロだけど社会保険は払わなきゃいけない」
そんなとき、一体いくらをベースに払えばいいの?って疑問になりますよね。

答えは明確です。

 社会保険法 第31条第1項d号(法律第41/2024/QH15号)

「第2条第1項n号に規定される給与を受け取らない企業管理者等は、報酬月額を自ら選択できる。ただし、最低は『参照額』、最高はその20倍。」

つまり、「無給=ゼロ」はNG。最低でも『参照額』ベースで報酬を見なして加入する必要があります。

もう少し深掘りしましょう。

🔍「参照額」とは何か?なぜ 2,340,000 VND なのか?

ここ、実務ではよく誤解されているので丁寧に解説します!

【政令158/2025/NĐ-CP】第5条:参照額の定義

1. 参照額とは、政府が決める金額で、保険料と給付額の計算の基準になる
2. 基礎給与(lương cơ sở)が廃止されていない間は、参照額=基礎給与
3. 廃止後も、参照額は「その基礎給与を下回ってはならない」

【政令73/2024/NĐ-CP】第3条:現行の基礎給与

基礎給与=2,340,000 VND/月(2024年7月1日施行)

したがって現時点での「参照額」も同じく:

参照額 = 2,340,000 VND

【公文書 351/BHXH-QLT(2025年7月7日)】

ドンタップ省社会保険局が正式に発行した通知文でも明確にこう書かれています:

「報酬のない企業管理者においては、拠出基礎額は本人が選択する。ただし、最低は参照額(=2,340,000 VND)、最大はその20倍までとする」

つまり、実務の現場でも“最低は2,340,000 VND”と運用されるのが公式見解です。

選べる報酬額の範囲まとめ

区分金額(VND)根拠
最低2,340,000社会保険法31条+政令158号+政令73号+公文書351
最高46,800,000同上(参照額の20倍)

📌 しかも、一度決めた報酬額は12か月間は変更不可!(政令158号で明記)

ちなみに今後、参照額はどうなる?

将来的に「基礎給与制度」が廃止されても、参照額はそれを下回ることは法律上できません(政令158/2025/NĐ-CP第5条第2〜3項)。

物価上昇(CPI)や経済成長にあわせて政府が調整する仕組みになっています。

まとめますね。

項目内容根拠条文・法令名
最低拠出基礎額2,340,000 VND/月・政令73/2024/NĐ-CP 第3条(基礎給与の額)・政令158/2025/NĐ-CP 第5条第2項(参照額=基礎給与)・公文書351/BHXH-QLT 第Ⅰ部1.2項(明記)
最高拠出基礎額46,800,000 VND/月(=参照額の20倍)・社会保険法 第31条第1項d号(2024年法41/2024/QH15)・公文書351/BHXH-QLT(運用上の上限)
「参照額」の定義社会保険料や給付の計算基礎となる政府が定めた金額・政令158/2025/NĐ-CP 第5条第1項(参照額の定義)
今後の参照額調整CPI(消費者物価指数)や経済成長等に応じて政府が調整ただし、下限は現在の基礎給与を下回らない・政令158/2025/NĐ-CP 第5条第3項
報酬額の変更制限一度設定した拠出基礎額は12ヶ月間変更不可・政令158/2025/NĐ-CP 明記(該当条項あり)
実務での明記地方社会保険機関による参照額の適用明記・公文書351/BHXH-QLT(2025年7月7日発行)

351/BHXH-QLTの内容を理解しよう!

📄 文書番号:351/BHXH-QLT

件名:2025年7月1日以降の事業主、無給の企業管理者、パートタイム労働者に対する社会保険料の徴収に関する指導

**発行日:**2025年7月7日
**発行機関:**ベトナム社会保険 ドンタップ省 地域社会保険第XXXIII地区


宛先:

  • ドンタップ省内の労働使用単位、営業登録済みの個人事業主
  • ドンタップ省 税務当局
  • 各市区町村の人民委員会
  • 各郡・市・町の社会保険機関

法的根拠:

  • 2024年6月29日付 国会決議 社会保険法第41/2024/QH15号
  • 2024年11月27日付 国会決議 健康保険法改正法第51/2024/QH15号
  • 2025年6月25日付 政府政令第158/2025/NĐ-CP号(強制社会保険の実施指導)

Ⅰ. 対象者・拠出水準・拠出方法の指導

1. 事業主、および給与を受け取っていない企業・協同組合の管理者

1.1. 加入対象者:

  • 営業登録済みで、税務申告方式で納税している個人事業主
    (※その他の事業主は、2029年7月1日以降が強制加入の開始日)

  • 給与を受け取っていない企業管理者(取締役、監査役、国家資本代表、協同組合幹部など)

1.2. 拠出基礎となる月額報酬:

参加者が自主的に選択する。ただし次の範囲内:

  • 最低額:政府が定める参照額(現時点で2,340,000 VND)
  • 最高額:参照額の20倍(= 46,800,000 VND)

※ 一度選んだ基礎額は、12か月以上拠出後に再選択可能

1.3拠出率(保険料率):

基礎額の**29.5%**を拠出(全額自己負担):

拠出先割合
老齢年金・遺族基金22%
傷病・出産基金3%
医療保険基金4.5%

1.4 拠出方法について

  • 月単位、3ヶ月単位、6ヶ月単位で選択可能
  • 他の従業員と同様、事業所を通じて一括納付も可能

注意:

  • 労働法169条2項により退職年齢に達している事業主は、例外を除き加入義務なし
  • 複数属性を持つ者について:
ケース加入方法
事業主 + 常備民兵常備民兵として加入
無給役員 + 地方非常勤職員非常勤職員として加入
無給役員が複数の法人に関与最初の管理単位で加入
その他政令158第3条第3項に従う

2パートタイム労働者

2.1. 対象者:

  • 1ヶ月以上の労働契約で働く者(契約名称に関係なく、内容に賃金・管理関係がある場合を含む)

  • 月給が参照額以上かつパートタイム勤務

2.2. 拠出基礎となる給与:

労働契約に記載された以下を含む:

  • 職務給または職位給
  • 手当(職務・地域・責任など)
  • 毎月安定して支払われるその他の加算

📌 時給・日給・週給労働者の場合:

給与形式計算方法
時給制時給 × 月間労働時間
日給制日給 × 月間労働日数
週給制週給 × 月間労働週数

注記:

  • 14労働日以上無給の場合、その月の保険料納付は不要(例外あり)
  • 最初の就業月や復職初月に14日以上の病欠がある場合は、保険料は支払う必要あり

2.3. 拠出率:月給の32%

区分雇用者負担被雇用者負担合計
社会保険14%8%22%
医療保険3%1.5%4.5%
失業保険1%1%2%
労災・職病0.5%0.5%
合計18.5%10.5%32%

2.4. 拠出方法:

  • 原則月払い


Ⅱ. 実施指導

1. 事業主・個人事業主へ:

  • 対象者の確認と登録の準備を早急に行うこと
  • 初回登録時は、様式TK3-TS(事業者)およびD02-LT(従業員数)を電子申請
  • 社会保険機関との連携を図り、指導を受けること
  • 無給役員・個人事業主は、様式TK1-TSにて個別登録も可能

2. 地域の人民委員会へ:

  • 地域内の企業・個人・協同組合に法改正内容を周知
  • 社会保険機関と連携し、加入対象者を把握し登録指導を行うこと

3. 税務当局へ:

  • 営業登録済みで申告納税方式の個人事業主のリストを提供
  • 地域内の協同組合・企業の情報も併せて共有し、社会保険加入の照合・督促を支援

4. 郡・市・町の社会保険機関へ:

  • 地域内の事業所に対し登録指導と加入勧奨を積極的に実施
  • 人民委員会や税務当局と緊密に連携し、100%の対象者が加入する体制を構築すること

いくら“無給”でも、2,340,000 VNDを「基準」に計算するのが正解!

  • 法律(社会保険法41/2024/QH15号)
  • 政令(158/2025/NĐ-CP、73/2024/NĐ-CP)
  • 実務通知(公文書351/BHXH-QLT)

この3つの**根拠が揃って「2,340,000 VNDが最低」**と断言しているので、迷う余地はありません!

 実際の支払額は?29.5%を自己負担!

無給役員は“雇用主なし”と見なされるため、保険料は自分で全額負担です。

【根拠】社会保険法 第33条第4項 + 公文書 No. 351/BHXH-QLT(2025年7月7日)

区分拠出率
年金・遺族年金基金22%
傷病・出産基金3%
医療保険(BHYT)4.5%
合計29.5%

📌 最低金額(2,340,000 VND)での試算:

2,340,000 × 29.5% = 688,000 VND/月(約4,100円)

📌 年間にすると、約8,250,000 VND(約5万円強)

手続きはどうする?何が必要?

登録は意外とシンプルです:

  • 使用書類:様式TK1-TS
  • 提出先:社会保険機関(電子申請または窓口)
  • 支払方法:月次・3か月ごと・6か月ごとのいずれか
  • 納付期限:各拠出期間の翌月末日まで

📌 複数の法人で役員を務めている場合は、
最初に管理に関与した法人でのみ加入(政令158/2025/NĐ-CP 第3条第3項)

❓ よくある質問(Q&A)

Q1. 最低の2,340,000ドンでいいの?

→ はい、大丈夫です。ただし将来の年金受給額も連動するので、「少し上積み」も検討価値ありです。

Q2. 加入しなかったらどうなる?

→ 行政処分(罰金)、遡及納付、給付の制限など、デメリットは大きいです。

Q3. 無給でも会社経由で加入できる?

→ できます。ただし、拠出はあくまで本人負担です。

まとめ:加入は義務。守る金額は自分で決められる。

無給役員への社会保険加入義務は、強制だけど柔軟な制度です。

  • 拠出額は自由に選択(2,340,000〜46,800,000 VND)
  • 自己負担だけど、年金・健康保険などの将来保障を確保
  • 義務である以上、「知らなかった」は通用しない

💡 つまり…「いくら守りたいか」はあなた次第。

自分を守る保険として、将来への備えとして、
この制度、経営者だからこそ正しく理解して備えておきましょう!

ここまでお読みいただきありがとうございました!

記事内で引用された法令・通知 一覧表

名称主な内容施行日・発行日条文・参照箇所
社会保険法(第41/2024/QH15号)無給の企業管理者も強制加入対象とする/拠出基礎額の設定ルール2025年7月1日施行第2条第1項n号、第31条第1項d号、第33条第4項
政令158/2025/NĐ-CP社会保険法の施行細則(参照額の定義、変更不可期間、支払方法など)2025年7月1日施行第5条(参照額)、第3条第3項(複数法人時の扱い)など
政令73/2024/NĐ-CP現行の基礎給与(=参照額)の金額:2,340,000 VND/月を定める2024年7月1日施行第3条(基礎給与の決定)
公文書 351/BHXH-QLT(ドンタップ省)無給役員・パートタイム従業員への保険加入の実務ガイド/参照額の明示2025年7月7日発行第Ⅰ部1.2項(参照額=2,340,000VNDと明記)

次回も、法律と実務の橋渡しになるような記事をお届けしますね。

以上、マナラボの菅野でした!