マナボックス による法令ニュースです。

ベトナムに進出している日系企業の皆様にとって、現地での文書管理における署名や捺印の手続きは、ビジネスの信頼性や法的効力に直結する重要な要素です。ただ日本のやり方とは異なることがあるのでこの件についてよく質問を受けますね。

ベトナムでは、署名や捺印に関して法令30/2020/ND-CPで詳細に規定されています。本記事では、実際に日系企業が直面する場面を想定しながら、署名や捺印に関する規定を分かりやすく解説しますね。

1. 署名のルール

最初にまとめを表としてお伝えしますね。ただ覚えなくてもいいこともたくさんあります。署名が大事なのね!くらいでいいです。

STT

概念

用語の説明

適用ケース

実行方法

1

代理署名(Signed for)(KT)

– 通常、長による体制で運営される機関や組織に適用。

– 文書に署名する権限を持つ機関や組織の長が、特定の文書について副長に署名を委任。

– 長が責任分野内で副長に署名を委任し、長の権限内で文書に署名。

– 副長が担当する業務の場合、署名は長に代わって行う。

*注: 長に代わって署名する場合、「KT.」を肩書きの前に記載。

2

集団を代表した署名(Signed on behalf of)(TM)

– 通常、集団指導体制で運営される機関や組織に適用。

– 機関や組織の長が、集団を代表して文書に署名。

– 長が集団を代表して文書に署名。

– 副長が集団および長に代わって責任分野内の文書に署名。

*注: 集団を代表して署名する場合、「TM.」を集団リーダーまたは組織名の前に記載。

3

命令による署名(Signed by order)TUQ

– 上司の命令に従うことを意味し、上司の権限に基づいて署名。

– 命令で署名する場合、部下は上司の指示でこの仕事を行っていることを明確にする必要がある。

– 長が組織内の部門長に特定の文書の署名を委任。

– 署名者がさらに副長に署名を委任できる。

*注: 命令に基づいて署名する場合、「TL.」を肩書きの前に記載。

4

委任署名(Authorized signature)TL

– 主に国家行政機関および国有企業に適用される概念。

– 上司からの委任に基づき、上司に代わって文書に署名すること。

– 長が特定の文書の署名を委任し、書面で期限と委任内容を明記。

– 委任された者はさらに他者に委任することはできない。

*注: 委任された者が署名する場合、「TUQ.」を肩書きの前に記載。

まずは署名です。いわゆるサインですね。法的代表者であるあなたもよく総務の方から「これに署名しください!」とお願いされますよね。

ベトナムでは、文書に対する署名には法律上では厳格なルールが定められています。特に機関や組織の長およびその代理人がどのように署名を行うべきかについては、以下のようなポイントがあります。

ただ細かいことはそこまで気にすべきではなく「署名」が重要なんだなあくらいでもいいです。

1.1&2. 機関・組織の長(KT)による署名や集団指導体制(TM)による署名

機関や組織のは、基本的に全ての文書に対して署名する権限を持っています。また、特定の業務に関しては、副長が代理で署名することができます。例えば、日系企業が現地の従業員の契約書を締結する際、責任者が適切に署名することが重要です。

  • 署名方法:副長が署名する場合、「KT.(Ký thay)」の略号を用いて長に代わって署名します。この略号を使用することで、法的な代理署名として認められます。

もし日系企業がベトナムでの集団指導体制を採用している場合、集団リーダーシップを代表して文書に署名する必要があります。副リーダーもこの役割を果たすことができ、署名の際は「TM.(Thừa mặt)」の略号を使用します。

まあ両者の違いはあまり気にしなくていいです。

1.3. 委任による署名

  • 対象:
    特別な場合、機関や組織の長は、その組織内の部門長や下位機関の長に対し、特定の文書に関する署名を委任することができます。この文書は本来、長が署名する必要があるものです。

  • 条件:
    委任は書面で行われ、委任期間と委任内容が明確に記載される必要があります。また、委任を受けた者がさらに他者に署名を再委任することはできません。

  • 署名方法:
    他者に代わって署名する場合、「TUQ.(Thừa ủy quyền)」という略号を、機関や組織の長の肩書きの前に記載します。


1.4. 代理署名(命令による署名)

  • 対象:
    機関や組織の長は、その組織内の特定の部署の長に対し、特定の種類の文書について代理署名を任せることができます。

  • 条件:
    代理で署名を行う者は、副長が代理で署名することになります。この代理署名の任命は、組織や機関の業務規定や文書管理規定で具体的に明記されている必要があります。

  • 署名方法:
    命令に基づいて署名する場合、「TL.(Thừa lệnh)」という略号を機関や組織の長の肩書きの前に記載します。


引的根拠:2020年3月5日付の法令30/2020/ND-CP第13条および同法令に付随する付属書Iの第II章第7項です。

条文の内容はこちら!

引的根拠:2020年3月5日付の法令30/2020/ND-CP第13条および同法令に付随する付属書Iの第II章第7項です。

第13条 文書の署名および発行

  1. 機関および組織が長によって運営される場合

機関や組織の長は、その機関や組織が発行するすべての文書に署名する権限を持っています。長は、割り当てられた責任分野内の文書や一部の文書について、副長に署名を委任することができます。副長が管理や運営を担当する場合は、長に代わって署名します。

  1. 機関および組織が集団指導体制で運営される場合

機関や組織の長は、集団リーダーシップを代表してその機関や組織の文書に署名します。副長は、集団および機関や組織の長に代わって、割り当てられた責任分野内の文書に署名する権限を持っています。

  1. 特別な場合

特別な場合、機関や組織の長は、その組織内の他の機関や部門の長に、長が署名すべき特定の文書について署名を委任することができます。この委任は書面で行われ、委任期間および委任内容を明確にする必要があります。委任された者は、さらに他者に署名を再委任することはできません。委任に基づいて署名された文書は、委任した機関や組織によって押印またはデジタル署名される必要があります。

  1. 長による署名の委任

機関や組織の長は、その組織内の部門の長に対し、特定の種類の文書について代理署名を委任することができます。代理署名を行う者は、その代理をさらに副長に委任することができます。この代理署名の委任は、組織の業務規定または文書管理規定に明確に定められている必要があります。

  1. 署名者の責任

文書に署名した者は、署名および発行した文書について法的責任を負います。機関や組織の長は、その機関や組織が発行するすべての文書について法的責任を負います。

  1. 紙文書の場合

文書に署名する際は、青インクのペンを使用し、色あせやすいインクは使用しないでください。

  1. 電子文書の場合

デジタル署名を行う際は、委任された者が行います。デジタル署名の位置および画像は、この法令の付属書Iに定められた規定に従います。

付随する付属書Iの第II章第7項

7権限を持つ人の役職、氏名、および署名 a) 権限を持つ人の署名は、紙の文書または電子文書に対する署名です。 b) 署名者の権限の記録は以下の通りです:

  • 集団代表として署名する場合、「TM.」という略語を集団のリーダーシップの名前または機関・組織の名前の前に記述する必要があります。
  • 部門長の権限が与えられた場合、「Q.」という略語を機関または組織のトップの役職の前に記述します。
  • 機関または組織のトップに代わって署名する場合、「KT.」という略語をトップの役職の前に記述します。副が管理または監督を担当する場合、副がトップに代わって署名するかのように署名します。
  • 命令による署名の場合、「TL.」という略語を機関または組織のトップの役職の前に記述します。
  • 代理権による署名の場合、「TUQ.」という略語を機関または組織のトップの役職の前に記述します。 c) 署名者の役職、肩書、および氏名
  • 文書に記載された役職は、署名者がその機関または組織内での正式なリーダーシップの役職です。国によって指定されていない役職は記載しません。
  • コンサルティング組織が発行する文書の肩書は、コンサルティング組織内での署名者のリーダーシップの肩書です。
  • コンサルティング組織が機関または組織の印章を使用することが許可されている場合は、コンサルティング組織内の署名者の肩書と、機関または組織内の役職を記載します。コンサルティング組織が機関または組織の印章を使用することが許可されていない場合は、コンサルティング組織内の署名者の肩書のみを記載します。
  • 国の評議会または指導委員会で部長または副部長、議長または副議長として活動している省のリーダーの役職(肩書)は、署名者の名前の上に役職(肩書)と機関または組織の名前を明確に記載する必要があります。 d) 権限を持つ人のデジタル署名の画像と位置は、紙の文書に対する権限を持つ人の署名の画像、青色、Portable Network Graphics (.png) 形式の透明な背景; 署名者の役職と署名者の氏名の間に中央に配置します。 đ) 署名者の権限と役職は、この付録の第I部第IV節の7a箱に提示されます。署名者の他の役職は、この付録の第I部第IV節の7b箱に提示され、署名者の氏名の上に配置されます。権限の略語は、「TM.」、「Q.」、「KT.」、「TL.」、「TUQ.」などがあり、署名者の権限と役職は13から14の文字サイズで、直立、太字で提示されます。 権限を持つ人の署名は、この付録の第I部第IV節の7c箱に提示されます。 署名者の氏名は、この付録の第I部第IV節の7b箱に提示され、小文字で13から14の文字サイズで、直立、太字で、署名者の権限と役職の間に中央に配置されます。

2. 捺印のルール

署名に加えて、文書に対して捺印(いわゆる押印)を行うことで、その文書が法的に有効となります。特に、捺印は文書の信頼性を補完する重要なステップです。

2.1. 署名捺印 押印の場所にこだわりあり!

文書に対する署名が完了した後、その署名の上に捺印を行います。この際、印鑑が署名の1/3にかかる形で押され、インクの色や印の向きに気をつける必要があります。特に契約書や重要な法的文書では、正確な捺印が必要不可欠です。

ポイント

  • 署名された後に捺印を行い、署名がない場合は捺印を行わない。捺印の後はダメ!
  • 署名を捺印する際は、署名の左側の約1/3を覆うように押す。
  • 捺印は明瞭で、正しい方向で、指定された赤いインクを使用する必要があります。

2.2. ページ綴じ捺印

複数ページにわたる契約書や報告書には、ページが正しくまとめられていることを証明するために「ページ綴じ捺印」(いわゆる割印)が必要です。これにより、契約書全体が一つの文書として認識されます。

  • ポイント:最大で5ページごとに捺印を行います。片面印刷の場合は2ページ以上で、両面印刷の場合は3ページ以上に捺印が必要です。ただし、最近ではこれも必須でない場合もあるようです。

法的根拠:2020年3月5日付け政令第30号の第33条です。


3. ベトナム進出の日系企業のための実務上のポイント

ベトナムでのビジネスにおいて、署名や捺印に関するルールを遵守することは法的なリスクを避けるために非常に重要です。特に、現地従業員との契約、取引先との契約書、報告書などの書類において、これらの規定を理解し、正しく運用することで、トラブルを未然に防ぐことができます。

実務上の注意点:

  • 署名:署名が必要。インクは青!
  • 正しい略号の使用:「KT.」「TM.」「TUQ.」などの略号は、それぞれの状況に応じて正しく使用する必要があります。ただこれについてはベトナム人の担当者が対応するので日本人はあまり気にしなくていいです。
  • 押印の場所:署名の左側1/3に印鑑を重ねる
  • 捺印の適切な運用:特に複数ページにわたる文書では、ページ綴じ捺印を忘れずに行うことが大切です。ここは留意ですね。特徴的です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 委任する人に署名を任せる場合、何か特別な手続きは必要ですか?

A. 委任者に署名を任せる場合、正式な委任状を作成し、署名権限が委任されていることを文書化する必要があります。

Q2. ページ綴じ捺印は必ず必要ですか?

A. 2ページ以上の文書にはページ綴じ捺印が原則必要です。これは、文書全体が一貫したものであることを証明するためです。ただ、必要のな場合もあるので適宜、役所の人等に確認することが重要です。


まとめ

法令30/2020/ND-CPに基づくベトナムの署名や捺印のルールは、日系企業が現地で法的に有効な文書を作成し、ビジネスをスムーズに進めるために不可欠です。正しい手続きを守ることで、リスクを避け、信頼性の高いビジネスを展開することができます。

もしさらに詳しい情報やサポートが必要な場合は、現地の法律専門家やコンサルタントに相談することをお勧めします。