マナラボの菅野です。
今日のテーマは『売上債権のDDのチェックリスト』というテーマでお伝えします。
ベトナム現地法人の買収や投資の際、「売上債権」に関するデューデリジェンス(DD)です。これは、企業の財務健全性を確認するための第一歩であり、隠れたリスクを洗い出すために不可欠なプロセスです。
特にベトナムでは、企業文化や慣習の違い、コンプライアンスの意識の違いから、日本企業が想定していないリスクが存在することがあります。以下では、ベトナム現地法人の売上債権に関する具体的なチェックリストを紹介します。
売上債権のDDチェックリスト
チェックリストのサンプルは以下の通りです。あくまでサンプルですので実際のDDにはこれをもとに戦略を強弱つけてたてることが大事です。ある程度網羅的だとは思いますが、以下が完璧なリストではありません。
カテゴリ | チェック項目 | チェック |
回収リスクグループ⭐️ | 1-1主要な取引先の売上債権回収条件を確認し、特に他の取引先より不利な条件が適用されている場合はその理由を調査する。 | □ |
1-2売上債権の回収状況を年齢調べ表や滞留債権リストを通じて把握する。 | □ | |
1-3滞留債権に対する担保の有無を確認し、回収可能性を検討する。 | □ | |
1-4関係会社に対する売上債権の回収条件や残高を確認する。 | □ | |
1-5 ベトナム特有の商習慣(長期的な信用取引など)や法律の不備を考慮してリスクを評価する。 | □ | |
分析グループ | 2-1 売上債権の回転期間を分析し、回収効率の改善点を特定する。 | □ |
2-2 調査対象期間における売上債権と賞倒引当金の増減要因を明確にする。 | □ | |
2-3 残高確認の差異がある場合、その差異の発生原因を分析する。 | □ | |
引当金グループ | 3-1 売上計上基準や賞倒引当金の計上基準など、売上債権に関連する会計方針を把握する。 | □ |
3-2 過去の貸倒実績や賞倒引当金計上基準を確認し、その妥当性を検討する。 | □ | |
3-3 返品や値引に対する引当金の計上が必要かを検討する。 | □ | |
その他リスクの確認 | 4-1 売掛金の流動化の有無を確認する。 | □ |
4-2 資金不足や信用リスクが多いベトナム市場における不良債権の増加可能性を考慮。 | □ | |
4-3 見込み客や取引先との契約内容が曖昧でないかを確認する。 | □ |
それぞれポイントだけを解説します。
#1 回収リスクグループ
1-1 主要な取引先の売上債権の回収条件
主要な顧客の取引条件である回収期間を確認する
対象先の顧客
1-2 回収状況を確かめる⭐️
売上債権が未回収のまま長期間放置されていないか、売上債権年齢調べ表を用いて可視化し、検討する
ここが一番大事だと思います。売掛金は資産であってもそれが回収できなればまったく意味がありません。長期未回収の売上債権は要注意!
1-3 滞留債権に対する担保の有無
滞留債権を回収できないリスクを軽減するため、担保の設定状況を確認することが重要
もしかしたら担保が設定されている可能性があるかもしれません。
1-4 関係会社に対する売上債権の回収条件や残高
関係会社(親会会社など)ではその特殊性から第3者取引とは別個で債権回収の条件と残高を確認する
関係会社間の取引は、しばしば不透明な部分があり、利益操作やリスクの隠蔽に利用される可能性があります。特に、回収条件が他の取引と比べて甘い場合(回収サイトが長い場合が想定)、慎重な検討が求められます。
1-5 ベトナム特有の商慣習
ベトナム特有の商習慣や法律の不備を考慮する
口頭契約や非公式な信用取引が多い市場では、債権管理の仕組みが未熟なことがあり、リスクが増大します。契約内容の透明性を確保することが重要です。
この深い内容はラボの限定コンテンツで解説したいと思います。
#2 分析グループ
2-1 ⭐️売上債権の回転期間
売上債権期間の回転期間を分析することで、取引効率や資金運用状況を評価し、改善点を特定する
これも大事ですね。
回転期間分析とは要は、債権を回収するまでにどれくらい期間かかるの?という分析です。例えば月の売り上げ100で売掛金が300であれば、あー回収まで大体3ヶ月くらいかかるんだなあという感じです。参考記事として以下をごらんください。
>>【黒字倒産とは?】勘定あって銭足らず。予兆に気がつく4つの視点
2-2 売上債権と賞倒引当金を分析し増減要因を明確にする
債権や引当金の月次推移によるトレンド分析を実施し、変動理由を把握し、計上ミスやリスク要因を特定する。
後述する引当金との関連です。数値をならべて分析し、異常とか違和感がある残高があるかを確認します。増減要因を特定することで、業績の変動や計上ミス、不正などの原因を把握できます。特に、急激な変動が見られる場合は注意が必要ですね。違和感を大事にしましょう。
2-3 残高確認の差異がある場合、その原因を分析する
監査法人の残高確認の結果があればその内容を検討
差異は、不正、記録ミスなどが要因です。買い手としてはこれ気になりますよね。原因を特定し、適切な対応を行います。
残高確認とは、特定の時点において、取引先との間で帳簿上の取引残高(売上債権や買掛金など)が一致しているかを確認する作業を指します。これは、取引関係に基づいて記録された金額が、実際に相手側の記録と一致しているかを検証するために行われます。
#3 引当金グループ
3-1 売上計上基準や賞倒引当金の計上基準を把握する
対象会社の売上や引当金のルールを理解する
売上や引当金の計上方法(会計方針)は会社ごとに異なるため、特に調査対象企業の基準を明確に理解する必要があります。一貫性のない基準は、不正確な利益計上や損失見積もりにつながる可能性があります。
3-2 過去の貸倒実績や賞倒引当金計上基準を確認し、その妥当性を検討する。
貸し倒れの実績はある?どくらい?
3-1とも関連します。これからM&Aしようとしている会社の顧客の質を評価するといってもいいでしょう。対象会社の価値として「顧客」を評価して企業価値を決定している場合は特に。顧客はいるけど全然お金はらってくれない顧客については評価したいはずです。
過去にどれだけの貸倒実績があるのか、またその基準が合理的であるかを確認することで、将来的な引当金計上の妥当性を検討します。過去のデータが不十分な場合、リスクが見逃される可能性があります。
3-3 返品や値引に対する引当金の必要性を検討
返品が会社かどうか評価する
不良品や競争の激化により値引や返品が頻繁に発生することがあります。このようなリスクに備えた引当金が適切に計上されているかを確認することが重要です。
対象会社の魅力がその会社の製品と評価した場合、これを評価する必要がありますね。いい商品作ってるなあと思ったら、え、返品めっちゃされてる(汗)となることを事前に防止することが大事ですね。
#4 その他
4-1 売掛金の流動化の有無を確認する
売掛金の処理状況を確認し、不適切な流用などを評価するを
売掛金の流動化とは、企業が保有する売掛金(取引先からまだ受け取っていない代金)を、現金に変える手法やプロセスを指します。これにより、資金繰りを改善し、運転資金の確保を目的とします。ファクタリングとかですね。
売掛金の流動化は資金調達の手段ですが、適切に管理されていないと、債権の実態が見えづらくなる可能性があります。
4-2 不良債権の増加リスクを考慮
特に資金不足が発生しやすいと言われているベトナムローカル企業での不良債権リスクを予測し、対策を講じる。
こちら重複(回収と滞留)してるんですが、大事なので。
経済状況や取引先の財務状態の悪化やベトナムローカル企業のマインドセット(お金を払ってくれない企業多いと評価されている)が、不良債権の増加を招く可能性があります。
4-3 見込み客や取引先との契約内容が曖昧でないかを確認
口頭じゃなくてきちんと文書化していますか?
口頭契約や曖昧な契約書が原因で未回収リスクが発生しないよう、文書化の徹底が必要ですね。
売上債権のDDチェックリストまとめ
買収対象会社の売上債権に関するリスクを評価するためのDD(デューデリジェンス)のためツールを紹介しました。
売上債権の
- 滞留債権の調査(回収できるの?)
- 会計方針や回収条件の確認
- 賞倒引当金の妥当性
の検討を通じて、リスクの特定と収益性の検証を行います。特にベトナム市場では未回収リスクが高まるため、そのリスクをちゃんと評価して、買収後のリスク軽減を目指します。
1億円の債権あると思ったら、不良債権だった!というのがあとからわかっても悲しいだけですよね
このプロセスにより、M&Aの判断を支える精緻な情報を提供します!
売上債権の健全な管理は、特に新興国市場でのビジネスにおいてリスクを最小限に抑える鍵となります。本チェックリストを活用して、財務リスクを可視化し、安定した経営基盤を築きましょう。