ベトナムに進出する企業にとって、引当金の計上ルールを正しく理解することは非常に重要です。この記事では、ベトナムの第48/2019/TT-BTC号(以下、「通達48」)について、わかりやすく解説していきます。
このルールがどのように企業会計や財務諸表に影響するのか、また日本基準や国際基準(IFRS)との違いについても触れていきます。
この記事のもくじ
通達48の引当金とは?
通達48は、2019年8月8日にベトナム財務省によって発行され、同年10月10日から施行された規定です。このルールは、以下の引当金に関する会計および税務処理をガイドラインとして提供しています。4つに特定されているのが特徴的です。
- 在庫の評価損引当金
- 投資損失引当金
- 貸倒引当金
- 保証引当金(商品、サービス、建設プロジェクト)
これらの引当金の正確な計上は、企業の財務健全性を示す重要な指標となります。
ここで通達48の構成も記載しておきます。全体像を把握するとスッキリするかもでしれません。
第1章: 一般規定
- 第1条: 規制の範囲
- 第2条: 対象企業
第2章: 引当金の設定と使用
- 第3条: 引当金計上の原則
- 第4条: 在庫評価損引当金
- 第5条: 投資損失引当金
- 第6条: 貸倒引当金
- 第7条: 保証引当金
第3章: 会計処理および監督
- 第8条: 財務諸表への影響と監査
そもそも引当金とは?
引当金の定義がわかってないと話を進めることが難しいので基本の定義をおさえましょう。
簡単に言うと、引当金は「将来の支出や損失を予測し、その金額を事前に計上しておく仕組み」です。まだ発生していない費用や損失を、今期の決算書に反映させることで、より正確な財務状況を示します。
>>引当金における日本基準とベトナム会計基準(VAS)の違いとは?
第4条:在庫評価損引当金について
在庫の価値が下がっていそうなら適切な会計処理をして!ということです。
対象となる在庫
在庫評価損引当金は、原価が実現可能な正味価額を上回る材料、工具、設備、商品、仕掛品、販売のために発送された商品、税務保留倉庫に保管されている商品、完成品(以下「在庫」という)に対して計上されます。以下の条件を満たす必要があります:- 在庫の原価を証明する適法な請求書や財務省規定の書類、またはその他の書類があること。
- 財務諸表作成時に当該在庫が企業の所有物であること。
引当金の計算式
引当金の計算は以下の公式に基づきます:在庫評価損引当金 = 財務諸表作成時点での在庫数量 × 会計帳簿上の原価 – 実現可能な正味価額
- 在庫の原価は、財務省決定第149/2001/QD-BTC号および関連する改正文書に基づきます。
- [実現可能な正味価額]とは、財務諸表作成時点での通常の生産・販売条件下での予想売却価額から、完成までのコストおよび販売費用を差し引いた金額です。
- 「実現可能正味価額」のところが実務上は論点になります。
財務諸表作成時の引当金計上
企業は、以下の条件に基づき引当金を設定します:- 前年度の在庫評価損引当金の残高が今年度の計上額と同じ場合、新たな引当金は不要。
- 今年度の計上額が前年度の残高を超える場合、差額を当期の売上原価に計上。
- 今年度の計上額が前年度の残高を下回る場合、差額を売上原価から減額。
- 引当金は在庫の種類ごとに計算され、詳細なリストにまとめられます。このリストは、売上原価に計上する基準となります。
引当金が計上された在庫の処理
- 処分対象在庫: 自然災害、疫病、火災、損傷、陳腐化、期限切れなどにより販売不可となった在庫は、廃棄または売却されます。
- 処理機関: 企業は処理委員会を設置するか、評価機関に依頼して処理対象在庫の価値を決定します。この評価には、在庫の種類、数量、回収可能価値(該当する場合)などが含まれます。
- 財務処理: 廃棄決定がなされた後、回収不能となった在庫価値は引当金で相殺し、残額を売上原価として計上します。
第5条:投資損失引当金(Provisions for loss on investments)
投資先の業績が悪くなったら、その投資(有価証券)の評価もしてってことです。
証券投資に対する引当金
証券投資に関する引当金は、次の条件を満たす場合に計上されます:- 国内の企業が発行した証券で、法律に基づき有効なもの。
- 証券市場に上場され、自由に取引可能であること。
- 財務諸表作成時点で、証券の市場価値が帳簿価額を下回る場合。
引当金の計算式
証券価格の引当金 = 財務諸表作成時点での帳簿価額 – 証券数量 × 実際の市場価格- 上場証券: 最新の取引日または30日間の平均価格に基づき市場価値を決定。
- 未上場証券: 別途定められた規定に従い、個別に引当金を計算。
その他の投資
- 国内事業組織への投資が対象。
- 財務諸表上で、投資の帳簿価額が減少している場合に計上。
引当金の計算式
投資損失引当金 = 出資割合(%) × 出資資本額 – 実際の資本額投資の処理
投資の売却や清算が行われた場合、引当金で相殺し、差額を当期の収益または費用として計上します。
第6条:貸倒引当金(Provisions for bad debts)
得意先が売掛金を払ってくれない場合、きちんと評価してってことです。
貸倒引当金の対象
貸倒引当金は、回収が困難な売掛金や貸付金に対して計上されます。以下の条件を満たす必要があります:- 経済契約や貸付契約、確認済みの債権一覧などの証拠書類が存在すること。
- 債務者が破産、失踪、拘留、または病気や死亡など、回収不能の状況にあること。
引当金の設定基準
- 6か月以上1年未満の延滞: 30%
- 1年以上2年未満の延滞: 50%
- 2年以上3年未満の延滞: 70%
- 3年以上の延滞: 100%
処理方法
- 前年度の引当金残高と今年度の必要額を比較し、差額を調整。
- 証拠書類をもとに引当金を設定し、詳細リストにまとめる。
回収不能債権の処理
- 債務者の破産、死亡、または倒産の場合、書類に基づいて債権を廃棄処理。
- 引当金で相殺し、未回収額は損失として計上。
第7条:保証引当金(Provisions for warranty for products, goods and construction works)
販売した製品に欠陥があって修理お願いされる可能性があるのだったらきちんと評価してってことです。
保証引当金の対象
保証引当金は、以下のような契約や約束に基づく修理や補修費用を対象とします:- 商品、製品、サービス、または建設工事が対象。
- 保証期間中の修理または補修が必要な場合。
引当金の計算
- 売上または契約金額の最大5%を引当金として設定可能。
- 製品、サービス、工事ごとに詳細リストを作成し、費用として計上。
財務諸表作成時の調整
- 前年度の引当金残高と今年度の必要額を比較し、差額を調整。
- 保証期間終了時に未使用の引当金は収益として計上。
まとめ
今日は通達48の引当金について解説しました。大事なところをまとめると…。
- 在庫
- 有価証券
- 貸し倒れ(売掛金)
- 製品保証
第4条:在庫評価損引当金
- 対象: 原価が実現可能な正味価額を下回る在庫(材料、商品、完成品など)。
- 計算: 在庫数量 × 帳簿原価 – 実現可能正味価額。
- 調整: 引当金の増減を売上原価として処理。
- 処理: 損傷や陳腐化した在庫は廃棄・売却し、引当金で相殺。
第5条:投資損失引当金
- 対象: 証券や国内事業組織への投資で、価値が減少したもの。
- 計算: 証券は市場価格に基づき、その他の投資は資本額の差額で算出。
- 調整: 引当金の増減を費用または収益として処理。
- 処理: 投資の売却・清算時に引当金を適用し、差額を計上。
第6条:貸倒引当金
- 対象: 回収困難な売掛金や貸付金(延滞または支払い不能)。
- 設定基準: 延滞期間に応じて30〜100%を設定。
- 調整: 前年度の引当金残高と比較し、差額を調整。
- 処理: 債務者の破産や死亡などの場合、引当金で損失を相殺。
第7条:保証引当金
- 対象: 商品、サービス、建設工事の保証契約に基づく修理・補修費用。
- 計算: 売上または契約金額の最大5%を設定。
- 調整: 引当金の増減を費用または収益として処理。
- 処理: 保証期間終了後、未使用分は収益として計上。
でした!お役にたてれば幸いです。