ベトナムで働く人にとって、住む場所はとても大切ですよね。企業が家賃を負担してくれる場合もありますが、それが個人所得税(PIT)の対象になることを知っていますか?
例えば、「会社が払ってくれるなら関係ない」と思うかもしれませんが、税務上は「お給料の一部」とみなされることがあります。でも、どういう場合に課税されて、どんなルールがあるのか、ちょっとややこしいですよね。
この記事では、企業が家賃を負担するケースについて、できるだけわかりやすく解説します。
今回注目するのは、次の4つのポイントです。
- 住宅手当・現金手当・給与に組み込まれる場合
- 賃貸料・宿泊費・光熱費が給与に含まれない場合
- 出張時の住宅手当
- 会社が従業員の代わりに家賃を支払う特別なケース
ぞれぞれ説明したいと思います。
住宅手当・現金手当・給与に組み込まれる場合
給与としてもらうと、全額課税
もし会社が「家賃補助」として、毎月の給料にプラスしてお金を渡してくれる場合、それは100%課税対象になります。
例えば、「住居手当」として毎月500万VND(約3万円)をもらっていたら、それはそのまま「給与」とみなされるので、税金がかかります。
課税対象となるケース
✅ 住宅手当を給与に加算してもらう場合
✅ 住宅費を補助金の形で現金支給する場合
詳細は以下の記事で解説しています。
>>ベトナム所得税で年間で2000ドル以上の違いも? 知らないと損する、ベトナムでの駐在員の家賃
企業の対応策
会社が家賃を直接支払う方法と比べると、従業員の税負担が増えてしまいます。そのため、直接家賃を会社が払う仕組みを選んだほうが良い場合もあります
賃貸料・宿泊費・光熱費が給与に含まれない場合
会社が直接払ってくれる場合は、15%ルールが適用
もし会社が直接家賃を払ってくれる場合、給与とは別の形で課税されます。
ただし、全部が課税対象になるわけではなく、「給与の15%までが課税対象」というルールがあります。
例えば、給与が2,000万VND(約12万円)の人が、家賃5,000万VND(約30万円)の部屋に住んでいて、会社が家賃を全額負担してくれるとします。
この場合、15%ルールが適用されるので、
2,000万VND × 15% = 300万VNDが課税対象になります。
(残りの4,700万VNDは非課税)
課税対象となるケース
✅ 会社が従業員のために賃貸契約を結び、家賃を直接支払う
✅ 会社が水道・電気・インターネット代を負担する
課税対象とならないケース
✅ 会社が経済特区や工業団地で無料住宅を提供する場合
企業の対応策
会社が家賃を直接負担すると、15%ルールが適用されるため、従業員の税負担を抑えることができる可能性があります。賃貸契約を会社名義にすることも、税務上の対策になります。
出張時の住宅手当
仕事での宿泊費は非課税だけど、条件あり
出張時に会社が宿泊費を負担する場合は、非課税となります。ただし、「ちゃんと仕事で使ったことが証明できる」というのがポイント。これはよくあると思うんですね。国内出張や海外出張。
非課税となるケース
✅ 会社名義でホテル代を支払い、経費処理する場合(事業関連性を証明するために会社名義か?)
✅ 出張時の宿泊費が規定に沿っている場合(ルールあるか?)
課税対象となるケース
❌ 出張手当としてまとめて現金支給された場合
❌ 本来の出張目的でなく、実際には家賃の補助になっている場合
詳細は以下で解説しています。
>>必見!日本からの出張者や駐在員のホテル代、飛行機代及び報酬の個人所得税と外国契約者税のリスクをわかりやすく解説
企業の対応策
会社は、宿泊費を経費処理する際に領収書や請求書をしっかり保管することが重要です。
会社が従業員の代わりに家賃を支払う特別なケース、実務的な論点
企業が従業員のために家賃を負担するケースには、次のような特別なパターンがあります。
- 外国人管理職・役員の家族のために家を借りる場合 → 全額課税対象
- 企業が住宅費の一部を負担し、残額を従業員が負担する場合 → 企業負担分のみ課税対象
- 非居住者の住宅費負担 → 15%ルール適用
- 家賃にサービス料金(電気代、水道代、インターネット代、仲介手数料など)が含まれる場合 → 15%ルール適用
- 賃貸契約違反による罰則金 → 課税対象外
- 家賃の前払いがある場合 → 毎月の支払い額が課税対象
- 住宅保険料の支払い → 貯蓄型でない場合は非課税
- 外国企業が従業員の家賃を負担する場合 → 総所得の15%上限適用
1. 外国人管理職・役員の家族のために家を借りる場合 → 全額課税対象
企業が従業員本人ではなく、その家族のために家を借りる場合は、15%ルールが適用されず、企業が負担した全額が課税対象になります。
→ これは「個人的な福利厚生」とみなされるため、給与と同じ扱いになるためです。
2. 企業が住宅費の一部を負担し、残額を従業員が負担する場合 → 企業負担分のみ課税対象
これも結構あります。会社の規定の上限を超える部屋を借りる場合です。
企業が家賃の一部を負担し、残りを従業員が支払う場合、課税対象となるのは企業負担分のみです。
→ 例えば、企業が月5,000万VNDの家賃のうち3,000万VNDを負担し、従業員が2,000万VNDを自己負担する場合、3,000万VND部分のみ課税対象となります。これも感覚とあっていると思います。
3. 非居住者の住宅費負担 → 15%ルール適用
ベトナム国外に住んでいる外国人従業員のために企業がベトナムの家賃を負担する場合、15%ルールが適用されます。
→ 課税対象額は、総所得の15%を超えない範囲に限定されます。
4. 家賃にサービス料金(電気代、水道代、インターネット代、仲介手数料など)が含まれる場合 → 15%ルール適用
家賃の中に光熱費やインターネット代、仲介手数料などが含まれる場合も、これらの費用を含めた総額に対して15%ルールが適用されます。
→ ただし、電気代や水道代が別途請求される場合、それらは個別に課税対象になることがあります。
5. 賃貸契約違反による罰則金 → 課税対象外
企業が賃貸契約の違反により違約金を支払った場合、それは従業員の個人所得税の課税対象にはなりません。
→ これは、違約金が従業員の利益とはならず、企業の事業コストとみなされるためです。
6. 家賃の前払いがある場合 → 毎月の支払い額が課税対象
企業が1年分の家賃をまとめて前払いする場合でも、個人所得税の計算では毎月の家賃額が課税対象となります。
→ 例えば、1年間で2億4000万VND(毎月2000万VND)の家賃を前払いした場合、課税対象となるのは毎月の2000万VNDです。
7. 住宅保険料の支払い → 貯蓄型でない場合は非課税
企業が従業員の賃貸住宅に対して住宅保険を購入する場合、それが「貯蓄型でない」一般的な損害保険であれば、課税対象にはなりません。
→ しかし、従業員が将来現金で受け取ることができるような保険(積立型保険)の場合は、課税対象となる可能性があります。
8. 外国企業が従業員の家賃を負担する場合 → 総所得の15%上限適用
外国企業がベトナムに駐在する従業員のために家賃を負担する場合、ベトナム国内での課税対象所得の15%を上限として計算されます。
→ これは、駐在員が「本社から給与を受け取りながら、ベトナムでの生活費の一部を企業が負担するケース」に該当します。
企業が従業員の代わりに家賃を支払う場合、税務処理には以下のようなルールが適用されます。
ケース | 課税対象 | 15%ルール適用 |
---|---|---|
外国人管理職・役員の家族向け住宅 | 全額課税 | ✕ |
企業負担分と従業員負担分が分かれる場合 | 企業負担分のみ課税 | ✕ |
非居住者の家賃負担 | 一部課税 | 〇 |
家賃に光熱費・仲介手数料を含む場合 | 一部課税 | 〇 |
賃貸契約違反の罰則金 | 非課税 | ✕ |
家賃の前払い | 月額ごとに課税 | ✕ |
住宅保険料(貯蓄型でない) | 非課税 | ✕ |
外国企業が家賃を負担 | 一部課税 | 〇 |
一部課税は15%ルールが適用されるという意味です。
まとめ
企業のベトナムの住宅費用負担のルールを簡単に整理すると、以下のようになります。
企業の住宅費負担のケース | 課税対象 | 15%ルール適用 |
---|---|---|
給与に住宅手当を含める | 〇(全額課税) | ✕ 適用なし |
家賃を企業が直接支払う | 〇(一部課税) | 〇 適用あり(上限15%) |
出張時の住宅費 | ✕(非課税)ただし注意点あり。 | ✕ 適用なし |
家族向けの住宅費 | 〇(全額課税) | ✕ 適用なし |
企業が家賃を負担する場合、15%ルールの有無を事前に確認し、適切な方法を選択することで、税負担を軽減できる可能性があります。
「知らなかった…」では済まされない住宅費の税金ルール。しっかり理解して、会社と従業員の両方が納得できる形を選びましょう!