マナラボの菅野です。
今日はベトナム経済のお話です。「ベトナムの高成長目標を達成するために、ある程度のインフレを犠牲にする可能性があることの影響」というテーマでいろいろと考えたいと思います。
ファム・ミン・チン首相は、国が「平均的な成長」で止まらず、より高いGDP成長を実現するためには、多少のインフレを容認せざるを得ないと発言したんだそうです。
つまり、いろんなものが値上げすると可能性があります。ファム・ミン・チン首相の気になる発言をまとめておきますね。
ファム・ミン・チン首相は、国の「平均的な成長」で止まらず、より高いGDP成長を実現するためには、多少のインフレを容認せざるを得ないと述べた。
今年のGDP成長率目標を8%以上に引き上げることは、第13回全国大会で掲げた目標達成や2045年までに高所得国となるための道筋を確実にするための必要条件であると説明。
この記事のもくじ
ベトナムのインフレと働く人の給与の向上の関係
インフレは国全体の安定や国民生活、企業の経営コストに直結する重要な問題です。
昨年(2024年)は、全体の物価を示す消費者物価指数(CPI)が3.63%上昇しましたが、実際には生活必需品の価格はもっと大きく上がっていました。たとえば、食品は12.2%、医療サービスは9%、教育サービスは5.7%上昇したのに対し、働く人々の平均収入は8.6%にとどまり、生活に必要なものの価格上昇に追いついていない状態です。平均で3.63%だけど、その内訳のうち大事なもののインフレが大きいということですね。
たしかにスーパーマーケットで肉とか購入しようとしても日本で購入するより高いと感じます。
高度成長するためにインフレが犠牲の意味
上記で引用したベトナム語のニュースのタイトルにも含まれる言葉「犠牲」。要するにインフレになるから覚悟しておいてね。というメッセージでしょう。
これをベトナム経営という観点で考えてみると以下の大きな悩みにぶち当たることになります。
- 人件費の増加: インフレがなされると給与を上げる必要があります。物価があがった状況で給与が増えないということは実質値下がりと同じだからです。
- 価格転嫁: 上記と関連して増加したコストを製品やサービスの価格に転嫁しなければならず、さらにインフレが進む可能性があります。
- 生産性向上の必要性: 労働コストの上昇に対応するため、企業は生産性を向上させる取り組みが求められます。一人上がりの付加価値をあげよ!ということですね。
上記の意味では以下のコンテンツが関連するでしょう。
>>ベトナムで「賃金を上げて!」とスタッフに言われた時に、まず、確認すべき指標とは?それは労働分配率!
労働分配率です。これが高すぎると経営は悪化するでしょうし、低すぎると搾取している構図になります。
>>テト休暇前にドタバタ?ベトナムでその前にあなたの従業員を昇給を考える。その4つの方法を紹介!【人事評価】
給与を上げるときの考え方です。
>>付加価値とは?積み上げが大事!付加価値をわかりやすく理解する方法【図解あり】
付加価値からすべてが始まります。
世界各国に見る経済成長とインフレの関係を調査
「三鏡」って知ってます?これは、中国の古典『貞観政要』に記載されている「銅の鏡」「歴史の鏡」「人の鏡」の3つの鏡のこと。
歴史は韻を踏むんです。繰り返します。なので歴史を学ぶことは将来何が起きるのか?の手助けになるのです。ということで中国と韓国、ブラジルの調査結果です。
国 | 期間・成長率 | インフレの動向 | 政策対応 | 成果・教訓 |
中国 | 1978年以降、年平均9〜10% | 1980~90年代に一時20%超。1988年頃は約20%、1989年2月は月次で28.4%、1994年前後は約24%のピーク | 金融引き締め、行政的価格統制。天安門事件後や1995年以降に一桁台へ抑制 | 1997年以降は高成長と低インフレの両立を実現。急成長中も適切な政策対応で制御した例 |
韓国 | 1960~80年代、年平均約10%(1980年代後半は12%超) | 1970年代は二桁台。第一次・第二次オイルショック期には約20%前後 | 1980年代に金融引き締め・緊縮財政、通貨供給の伸び率を30%から約15%に抑制、公的予算の凍結 | 初期は成長優先でインフレを一定程度容認したが、後に適切な政策転換で高成長(約9%)と低インフレ(4〜5%)を両立 |
ブラジル | 1960~70年代は年平均7%超(「ブラジルの奇跡」) | 1964年に年間100%、1980~1994年にはハイパーインフレ(年平均100%超、1990年は月次で70〜80%) | 物価凍結、通貨切り下げなどの対策を実施。1994年の「レアル計画」により財政規律強化でインフレ収束 | 過度な成長追求と財政拡大がハイパーインフレを招き、経済成長が低迷(約2%強)する教訓となった |
中国と韓国はうまくいっているようですね。どうやらブラジルがうまくいっていないようなのでこれをもとにもう少し深掘りしてみましょう。「失敗」から学ぶことが大事です。「失敗」は科学。再現性があるからです。
インフレをあまりにも放っておくと、経済が大きく混乱してしまうという失敗例があります。たとえば、ラテンアメリカのいくつかの国では、急速な成長を追い求めるあまり、財政や金融の管理が甘くなり、結果としてハイパーインフレに陥りました。
具体的には、ブラジルは1970年代まで順調に成長していたものの、その後、経済を無理に拡大しすぎたため、1980年代にはインフレ率が100%をはるかに超える状態になりました。こんな激しい物価上昇により、経済全体が混乱し、成長どころか日常の経済活動すら停滞してしまいました。最終的にブラジルは厳しい財政引き締めと通貨改革に踏み切ったものの、その間に大きな成長のチャンスを失ってしまいました。
同じように、アルゼンチンも1970〜80年代に高いインフレを長期間放置したため、何度も通貨危機や経済の停滞を経験しました。また、ジンバブエやベネズエラでは、政府が無制限に支出を拡大し紙幣を増刷した結果、信じられないほどのハイパーインフレが発生し、経済が崩壊寸前の状態になりました。
インフレ率が一定の水準を超えると?
これらの事例からわかるのは、インフレ率がある一定の水準を超えて上がってしまうと、成長を促進するどころか、経済の基盤そのものが揺らいでしまうということです。高いインフレ状態では、人々が通貨を信用できなくなり、取引が混乱し、生産や流通が大きく停滞するため、実質的な経済成長は大きく低下します。最悪の場合、物々交換が行われるほどに信用が失われ、経済活動が完全に麻痺してしまうこともあります。
だからこそ、インフレが急激に上がり始めたら、早急に対策を講じて、さらなる悪化を防ぐことが極めて重要だという、歴史が示す厳しい教訓なのです。
高成長期におけるインフレの影響を考えてみる
【短期的な影響】成長痛の程度
急速な経済成長の局面では、需要が供給能力を上回り、短期間でインフレ圧力が高まります。経済が好調になると失業率が低下し、企業は労働力や原材料を確保するために、コスト上昇を受け入れざるを得なくなります。その結果、賃金や商品価格が上昇し、景気過熱(オーバーヒート)が発生します。これは、高成長の副作用とも言え、短期的にはある程度避けられない現象です。
たとえば、中国や韓国の高成長期では、成長率が急上昇する局面とともに、物価上昇率も一時的に大きく跳ね上がりました。短期的な適度なインフレは、企業収益の増加や名目賃金の上昇を通じて景気をさらに刺激する側面もあります。また、将来の物価上昇を予想して「今のうちに買おう」という動きが促され、消費や投資が加速する効果も見られます。さらに、実質金利が低下すれば、企業や個人の借入れ・投資がしやすくなるため、経済活動を一時的に下支えする役割も果たします。
しかしながら、短期的な高インフレには負の側面もあります。急激な物価上昇は、企業や家庭の計画を狂わせ、市場に不確実性と混乱をもたらします。場合によっては、消費者の購買力が追いつかず生活水準が低下し、社会不安を引き起こす恐れもあります(例:1988~89年の中国におけるインフレが社会的不満を増大させたケース)。また、インフレが輸出産業のコストを押し上げれば、国際競争力が低下し、経済成長にブレーキをかける可能性もあります。つまり、短期的なインフレはある程度は成長の副産物として許容されるものの、放置すれば経済全体の不安定要因となるリスクがあるのです。
要するにインフレは成長のための「痛み」だけどその「痛み」が大きすぎたら死んじゃうよねってことですね。
【インフレの長期的な影響】
長期にわたって高すぎるインフレが続くと、経済成長に深刻なマイナス影響を及ぼします。
理由の一つは、高インフレ状態がもたらす不確実性が、企業の長期的な設備投資や研究開発への意欲を大きく削ぐためです。負荷が高すぎる筋トレを継続しすぎると結果的にダメになっちゃうようなことかもしれません。
これは人間の成長と似ていますね! 成長=負荷➕休息です。『PEAK PEFORMANCE 最高の成長術』という書籍がおすすめですのでぜひ読んで見てください。
将来のコストや実質利益の見通しが不明瞭になると、企業は慎重になり、投資を控えるようになります。また、家計においてもインフレは貯蓄の実質価値を減少させ、資産形成を困難にし、結果として経済全体の資本蓄積が阻害されてしまうんです。
「将来真っ暗だから投資してもなあ」という感じでしょうか。
実際、ラテンアメリカの諸国では、1980年代に安定して高いインフレ率が続いた結果、経済成長が大幅に停滞し、「失われた十年」と呼ばれる時代を経験しました。ブラジルでは、長期にわたるハイパーインフレが経済の混乱と投資環境の悪化を招き、結果として経済成長率が大幅に低下しました。アルゼンチンも同様に、度重なるハイパーインフレにより投資意欲が低下し、経済成長の波に乗り切れなかったのです。さらに、ジンバブエやベネズエラでは、無制限な財政拡大と紙幣の大量増刷が桁外れのハイパーインフレを引き起こし、経済基盤が著しく損なわれる結果となりました。
ここがポイント!!
学術研究によれば、一定の水準以上のインフレ率は経済成長率を明確に押し下げる効果があるとされています。
- 先進国ではインフレ率が1〜3%、
- 開発途上国では7〜11%を超えると、
その上昇が成長率の低下に大きく影響するという「閾値効果」が確認されています。ベトナムが後者だとすると7〜11%を超えると経済成長率が低下するかも!ということですね。
逆に、低〜中程度のインフレは経済の潤滑油として機能する場合もありますが、これを大きく超えると生産性の向上や資本の蓄積が阻害され、長期的な潜在成長率まで低下してしまうのです。
そのため、各国は長期的には物価を安定させ、持続的な成長を実現するために、インフレ率を低く保つ政策目標(たとえば年2〜4%程度)を掲げています。これが、経済の健全な発展のための絶対条件となっているのです。
高成長と低インフレを両立させるため!
インフレにはメリットもデメリットもあります。そこでポイントなるのがバランス。負荷と休息のバランスですね。
基本的な考え方は、短期的な景気刺激と長期的な物価安定という二つの目標をバランスさせることです
ベトナムは、経済成長とインフレ抑制のバランスを取る上で、いくつかの重要な側面で前向きな取り組みを進めているんだといえます。どのようなバランスをとっているのか?観点で考えてみましょう。
インフレ目標と成長目標の調整(いい感じだと言える)
首相はGDP成長率を8%以上に引き上げることを目標とし、そのためには「ある程度のインフレ」を受け入れる必要があると述べています。これは、高成長を優先するために、短期的な物価上昇を容認するというアプローチですが、同時に、インフレ率の目標値を約4.5~5%に設定し、過度な上昇を防ごうとする意図も見て取れます。つまり、成長と物価安定の両立を目指す姿勢がうかがえます。
いい感じですよね。過激なインフレではないと評価できます。
柔軟な金融政策と財政政策の連携
政府は、金融政策を柔軟に運用しながら、税制改革や歳出の見直しなどの財政政策と調和させることで、企業や個人に資金が行き渡りやすい環境を整えようとしています。特に、今年は信用成長率が約16%(銀行からの貸付が増えるということ)に達する見込みで、積極的な資金供給が経済活動を刺激する一方、過度なインフレには注意が必要です。各国で採られているような、中央銀行の独立性を保ちつつ、適切な政策転換(ソフトランディング)を目指す姿勢が評価されます。
ソフトランディングとは、経済が過熱している状態から、急激な景気後退(リセッション)を避けながら、徐々に成長ペースを抑制し、インフレをコントロールするための政策手法のこと。
供給側の強化とインフラ投資
公共投資は、経済成長の重要なエンジンです。政府は、ラオカイ-ハノイ-ハイフォン鉄道やハノイ・ホーチミン市の都市鉄道の建設など、戦略的インフラ整備に大きな予算を投じています。こうした投資は、長期的な生産性向上や供給力の強化につながり、需要過熱による物価上昇の圧力を和らげる効果が期待されます。
民間セクターと制度改革の推進
国会議長が指摘するように、民間セクターの成長が全体の経済活性化に大きく寄与するため、投資環境の整備や制度改革を積極的に進める姿勢も見られます。透明性の高い制度改革は、インフレ期待の安定化にもつながり、企業や家計が将来の計画を立てやすくなります。
まとめると、ベトナムは高成長を追求するために、短期的な景気刺激策としての積極的な資金供給と公共投資を行いながらも、インフレ率を4.5~5%の健全な水準に抑えるための政策調整を進めています。このバランスがうまく機能すれば、過去の中国や韓国の成功例に倣い、持続的な経済成長と安定的な物価水準の両立が期待できると言えるでしょう。ただし、インフレの動向や実体経済への影響を注意深く見守る必要があるため、柔軟かつ迅速な政策対応が今後の鍵となります!
ということでいろいろ分析しましたがベトナムの成長が日本にもいい影響を与えるといいですね!ってことで締めたいと思います。