こんにちは、マナラボの菅野です。
今日は、ベトナムで税関職員が実刑判決を受けた密輸事件についてお話しします。
しかもその背景には、企業が“当たり前”のように行っていた税関への賄賂がありました。
たしかに昔のベトナム(今も?)なら「多少の謝礼」で通関が早くなる、というのが“裏技”として使われていた時代もありました。
でも今後は違うかもしれません。会社側が賄賂を出すだけで大きくアウト。 そんな時代に入っているのです。
参考にしたニュースは以下。2025年5月のニュースです。
https://hanoionline.vn/truy-to-loat-cuu-can-bo-hai-quan-tiep-tay-buon-lau-331590.htm
この記事のもくじ
📦 実録1:タイロック社事件──1兆8,140億VNDの木材密輸、その裏にいた税関幹部
2025年5月、最高人民検察院が発表した起訴状。それは、「ベトナムでは税関も密輸に加担し得る」という現実を突きつけました。
事件の中心はタイロック国際生産貿易有限会社(タイロック社)。
代表のグエン・タイ・ロック被告とチーフアカウンタントのゴー・クアン・トゥエン被告は、
- 森林産物の数量や単価を虚偽に申告
- 偽のリストを添付して
- 13,376本のコンテナを違法に通関させていたのです。
総額は1兆8,140億VND(約100億円超?)、不正利益は2,100億VND以上にも上りました。
💸 賄賂の詳細:ベトナム密輸の“資金スキーム”が明らかに
トゥエン被告は、社内で税関対応を担当していたグエン・クアン・ロン被告に指示し、税関幹部・職員への“外部支払い”(賄賂)として合計81億VND程度以上を用意しました。ものすごい金額。円だと47百万円程度です。かなり大きいですよね。
注目すべきは、その分配の“仕組み”です。
▼ 賄賂の配分モデル(タイロック社事件より)
区分 | 支払い内容 | 説明 |
---|---|---|
通関申告書1件 | 10万VND | 職員個人へ直接支払い(処理迅速化) |
コンテナ1本あたり | 80万VND | 「通関手数料」として支払われ、分配される |
この80万VNDの「通関手数料」は、次のように社内で分配されていました:
税関申告を受け取った担当職員
→ 通関手数料の**15%**を取得副チーム長(例:ト・ティ・トゥ・フオン被告)
→ 通関手数料の15%チーム長(例:ダン・ホアン・ラン被告)
→ 通関手数料の20%支部長・副支部長(ヒエン・チャウ被告)
→ 通関手数料のそれぞれ30%残りは「チーム活動費」へ
結果、フオン被告、ラン被告は多額の利益を得ていました。数千万円程度。
支部長ヒエン・副支部長チャウも多額の利益を得ていたと認定されています。
税関職員だけじゃない。賄賂を渡す企業(会計担当)も“処罰対象”に
ここで大事なのは、税関職員が罰せられるだけでなく、
賄賂を出した企業側も明確に刑事責任を問われているという点です。
事実、タイロック社の会計責任者だったゴー・クアン・トゥエン被告は、
- 「密輸」罪(刑法第188条)
- 「贈賄」罪(刑法第364条)
の両方で起訴されています。
つまり、「ちょっとお金を渡してスムーズに通関」──そんな感覚が、今や立派な犯罪となる時代になったのです。
実録2:サイゴン港の密輸事件でも同様の構図
元ホーチミン市警察のホアン・ズイ・ティエン被告が関わる密輸事件でも、同様の仕組みが見られました。
- 1,287本のコンテナを密輸(総額2,170億VND以上、12億円くらいのイメージ)
- 元サイゴン港税関職員のヴ・スアン・ドン被告が698本のコンテナを直接検査し見逃し
- その対価として不正に利益を得たとして、懲役3年の判決
起訴された罪と法的根拠
法的根拠も見ておきましょう。
罪名 | 条文 | 内容 |
---|---|---|
密輸罪 | 刑法第188条第4項 | 最大20年の懲役 |
収賄罪 | 刑法第354条第4項 | 国家職員が職務を利用して金銭を受け取る罪 |
贈賄罪 | 刑法第364条第4項 | 企業側が利益供与する行為 |
職権乱用罪 | 刑法第356条 | 公務員が職権を濫用して不当な行為をする罪 |
詐欺による財産占有罪 | 刑法第174条 | 虚偽行為で財産を取得する行為 |
この事件から日系企業が学ぶべき3つの教訓
通関手続をすべてアウトソースして安心…は危険!
→ 賄賂が渡されていたら、企業側も贈賄で処罰対象かもしれない「相場」のように扱われていた慣習を捨てる
→ 「暗黙の了解」も、記録がなくても、今は捜査の対象内部監査・コンプライアンス研修の強化
→ 通関・物流担当者には法令順守の教育が必須
🇻🇳 ベトナムは変わり始めている?
今回の事件では、税関職員、元警察官、企業の責任者までもが起訴・有罪判決を受けました。
ベトナムの法執行は、着実に「形だけ」でなく実態と戦うフェーズに入っています。
“慣習だから”では通らない。
“少額だから”でも許されない。
企業が「渡した」「受け取った」だけで、組織の信用が吹き飛ぶ時代です。
以上、マナラボの菅野でした。
「通関の裏側」──それは一歩間違えれば会社の将来を左右するほどの重大リスクになります。
今回の事件を、ぜひあなたの組織の安全対策のきっかけにしていただければと思います。