「従業員が先に支払って、後から会社が精算する」
1. はじめに
──これはベトナムの日系企業に限らず、あらゆる企業で日常的に見られるごく自然な業務プロセスです。例えば、出張時の航空券や宿泊費、急ぎの交際費や備品購入費など、現場では柔軟かつ迅速な対応が求められ、従業員立替が実務的に重宝されてきました。
しかし、近年の税務調査ではこの「立替払い」について、付加価値税(VAT)の控除否認や法人税の損金不算入という“静かなリスク”が増加しています。
実は、「従業員が立て替えた」こと自体が問題なのではなく、税務上必要とされる証憑・支払方法・社内ルールが整備されていないことが否認の原因なのです。
では、どこまでが認められ、どこからがアウトなのでしょうか?
このレポートでは、制度の原則と多数のオフィシャルレターをもとに、従業員立替経費の取扱いを網羅的に整理し、税務リスクを抑えつつ実務に生かせる判断基準を提示します。
たとえば立替のパターンとして以下のような事例があるでしょう。
ケーススタディー:実務で起こり得るパターン一覧
以下は、従業員による立替払いに関して、実際に現場でよく見られるケースを網羅的にストーリー形式で列挙したものです。
それぞれのケースが、VAT控除・損金算入の可否判断における具体的論点となり得ます。
ケース1:営業担当Aさん、会食費を自分のカードで支払った(よくある)
日系企業の営業担当であるAさんは、日本からの取引先を接待するため、レストランでの食事代(約2,500万VND)を自身のクレジットカードで支払った。翌日、Aさんはインボイス(VAT有)とともに精算書を提出し、会社はAさんに銀行振込で返金した。
論点:
- インボイス名義は会社名か?
- 支払方法(非現金)と証憑は整っているか?
- 事前の委任や社内規程に基づくものか?
ケース2:現場監督Bさん、急ぎで電動工具を購入
工事現場でトラブルが発生し、すぐに交換が必要だった電動工具を、Bさんが個人の銀行アプリでECサイトからオンライン購入。金額は1,200万VND。インボイスは店側からBさんの名前で発行された。
論点:
- インボイスが会社名義でない場合、VAT控除は不可?
- 金額が2,000万VND未満であっても、名義が重要
ケース3:管理部Cさん、ホテル代を前払い予約(2泊4,800万VND)
社員の出張にあたり、管理部門のCさんが自身のカードでホテル代を予約・決済した。ホテルから発行されたインボイスは会社名義。会社はCさんに銀行振込で精算した。
論点:
- 宿泊費は事業関連として明確か?
- 精算手続きと支払証明(カード明細)の保存状況
ケース4:経理担当Dさん、手渡しで精算処理
出張帰りの従業員に、領収書を確認したうえで経理担当Dさんが現金で即日手渡し精算した。金額は3,000万VND。支払証明は残っていない。
論点:
- 非現金支払証憑の欠如による損金・VAT否認リスク
- 手渡し現金精算の是非
🎯 ケース5:従業員Eさん、ACCA研修費を立替
会計資格取得を目指すEさんに対し、会社は研修費用の補助を約束。Eさんが先に個人で講座費用を銀行振込し、会社が後日振込で全額補填。会社名義の請求書あり。
論点:
- 福利厚生費としてPIT課税対象外になるか?
- VAT控除対象になるか?(研修事業者がVATインボイス発行している場合)
🎯 ケース6:ベトナム人上司Fさん、社内飲み会の会費を個人立替
社内の懇親会費用をFさんが一括で立替。インボイスは一応会社名義だが、社外の人間は含まれておらず、目的も不明瞭。会社が精算したが、税務調査で指摘された。
論点:
- 支出の事業関連性(接待 vs.福利厚生)
- 社内飲食費が損金対象とされる条件
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