今日は『M&Aのプロセスの解説とベトナムの注意点』というテーマでお伝えします。

M&Aは、企業の成長戦略の一環として、または新しい市場への進出手段として、多くの企業が採用する手法のひとつです。特に、グローバル展開を目指す企業にとっては、海外でのM&Aは極めて重要な決断であり、十分な準備が必要です。

本記事では、日系企業がベトナム企業を買収する際に必要な全体の流れ、リスク、そしてメリットについて詳しく解説いたします。

あなたがもしベトナムでM&Aを実施しようとしているのであれば必ずお役に立てます。

M&Aのプロセスの流れ

M&Aのプロセスは以下の通りです。

1
M&A戦略の策定

M&Aを成功に導くためには、まずはM&A戦略の策定が必須。買収目的や買収対象、財務戦略などを明確にし、買収に向けての方針を決定しましょう。

2
M&Aのスキームの決定

M&Aには様々なスキームがあります。どのスキームがベストかしっかりと見極めましょう。

3
バリュエーション

企業や事業の価値を評価する

4
トップ同士の面談と交渉

投資家同士の交渉

5
基本合意をする

交渉が終わったら基本合意に至る。意見表明も。

6
デュー・デリジェンスの実施

財務DD、税務DD、ビジネスDD、人事DD、法務DDなどを行う

7
最終契約書の締結

DDが終わり、無事双方合意したら最終契約書

8
ベトナム役所への承認申請

ベトナムでは、外国人による株式取得や企業買収には、当局の承認が必要です。承認申請には、手続きや申請書類の準備が必要であり、時間を要することがあります。

9
PMI

統合計画を策定し、実行する必要があります。具体的には、組織再編、人員配置の調整、情報システムの統合などが含まれます。

M&Aの基本戦略を決定せよ!

M&Aを成功に導くためには、まずはM&A戦略の策定が必要です。買収目的や買収対象、財務戦略などを明確にし、買収に向けての方針を決定します。以下の3つが含まれるでしょう。

  1. M&AマッチングしてくれるM &A アドバイザーを探す
  2. あなたの会社のミッションやビジョン、大きな戦略をじっくりと考える
  3. M &Aのそもそもの基本戦略(買い手と売り手の目的)を確かめる

M&A戦略の策定にあたって、M&AマッチングもしてくれるM&Aアドバイザーを探すことが最初のステップとなることもあります。

M &A アドバイザーを探す

M&Aアドバイザーとは、M&Aに詳しいプロフェッショナルのことです。提供する業務には以下のようなものがあります。

  • 候補企業を探し出す
  • その企業を深堀する
  • 基本スキームの決定、バリューション、提案資料の作成
  • スケジュールの作成や契約書等の資料作成
  • M&Aの条件を交渉する

ベトナムでは日本のようなM&Aのプラットフォームも整備されていないことから候補企業を自分で探すのは難しいです。そのため、M&Aアドバイザーに相談することが必須でしょう。もしローカル企業を買収しようとしているのならばなおさらです。

あなたの会社のミッションやビジョン、大きな戦略

次に、自社のミッションやビジョン、大きな戦略をじっくりと考えることが大切です。自社の強みや弱みを分析し、買収によってどのような目的を果たしたいのかを明確にすることが必要です。M&Aはあくまで手段!目的ではありません。これが逆になってしまって本末転倒。

あなたの会社のそもそもの存在意義(ミッションやビジョン)を確かめてみてください。

もし、買収先のカルチャーがそもそも違う場合、M&Aをしてしまったらそれはもう大変。

例えば、賄賂やキックバック、二重帳簿(裏金)についてあたりまえと思っているや、パートナーが傲慢で人間性に問題があったら大きな目的を達成できません。不幸せになるでしょう。

例えばマナボックスのミッションはウィンウィンウィンです。それにも関わらず自分の利益しか興味がないいわゆるテイカーの人を巻き込んでしまったらそれは失敗に終わるでしょう。

M&Aは大きな投資ですので、戦略的に判断することが求められます。

基本戦略を確認

また、M&Aのそもそもの基本戦略を確認することも必要です。ベトナムのM&Aには、特に買い手の目的が重要です。買い手は、企業価値の向上や新しい市場への進出、技術力の獲得などを目的としています。もうすこし具体的に言えば、M&Aによって「時間」や「ノウハウ」を買うとことができるか?です。

ベトナムのような異国で日本企業が自分達の経営資源でゼロから始め、ビジネスを成り立たせるのは至難の技です。とてつもない時間がかかるでしょう。

買収先に対して以下のことについてきっちりと戦略を立てる必要があります。

  • 人材に価値を感じているのか?
  • 顧客先の価値なのか?
  • サプライヤーとのスキームか?
  • 商品のノウハウか?
  • ブランディングなのか?

いわゆる資産価値があって、買収する意味があるのか?という点についてブレークダウンして考える必要があります。

M&Aのスキーム

ベトナムでのM&Aのスキームは「資本譲渡」(株式会社の場合は株式譲渡)や「事業譲渡」がメインのスキームになるでしょう。スキームをまとめると以下のようになります。

>>まるわかり!ベトナムの資本譲渡の手続きの概要を5つのステップに分類して解説

種類持分の変動あるか?内容

株式譲渡・資本譲渡

ある・金銭の対価買収先企業の持分(株式など)を取得し、支配権を獲得するスキーム
事業譲渡

買収先企業の事業や資産を取得するスキーム

新株発行・資本金増加

新株を発行して持分を増やすスキーム

合併あり・持分を対価

買収先企業と合併し、新しい企業を設立するスキーム

株式交換等

株式交換とは、企業が自社の株式を使って、買収対象となる企業の株式を取得する手法のこと

合弁ジョイントベンチャーなし買収先企業と合弁会社を新しく設立し、事業を展開するスキーム
戦略的提携

買収せずに買収先企業と協力関係を築くスキーム

このなかから有効なスキームを選ぶことが成功のポイントです。

バリュエーション

企業の価値を算出することを「企業評価」や「バリュエーション」と言います。

あなたが買い手の企業であれば、当たり前ですが妥当に評価された金額で買収したいはずですよね。一方売り手は高く売りたいので高く評価しすぎてしまう可能性があります。

そこで客観的に評価する手法が必要になります。あなたが買収企業であれば、被買収企業のどこに魅力を感じてるか?そしてそれを金額に置き換えた場合にはいくらか?という視点です。

専門的な用語を使ってしまえば以下の方法があります。

以下は、バリュエーションの方法とそれぞれのメリット、デメリットを定義という視点でまとめた表です。

方法

定義

メリットデメリット
DCF法

将来のキャッシュフローを予測し、現在価値を算出する方法

詳細な予測ができるため、正確な評価が可能キャッシュフローの予測が困難であることがある
市場比較法

類似する企業の比較データを参考に、評価する方法

簡易的に評価ができるため、効率的である比較対象となる企業が存在しないことがある

時価純資産法

企業の時価総額から負債を差し引いた純資産の価値を評価する方法企業の業績や将来性を考慮しないため、企業の現状を的確に評価することが可能業績や将来性を考慮しないため、企業の潜在的な価値を評価することができない
P/E比率法

企業の株価と利益の比率を参考に、評価する方法

簡易的に評価ができるため、効率的である利益の変動が大きい場合、評価が困難であることがある

このバリュエーションですが、多くの場面で必要になります。M&A基本戦略の決定の時にも必要でしょうし、基本合意の際にもやっぱり必要でしょう。そしてデュー・デリジェンス(DD)の後にも必要になってきます。

ローカル企業の企業価値はDDの結果を思いっきり受ける

もしベトナムのローカル企業を買収しようとしているのならこのバリュエーションには留意です。

DDによって簿外債務(未納税金や法令違反により罰金)が見つかることがあるからです

というのは買い手にとってはキャッシュアウトに関わるし、売り手にとってはキャッシュインに関わるからです。

またバリュエーションにかかったアドバイザーの報酬もコストとして評価額に影響を与えることに注意しましょう。

例えば1,000の価値の企業だけれどもDDなどのコンサル費用が200発生したのであれば実質800となります。

トップ同士の面談と交渉

資料や話しあいでの検討の後、本格的なM&Aの交渉が開始されます。ここでは交渉術などの心理学などの知識も必要な領域になってきます。

M&Aにおいて、トップ同士の面談や交渉は非常に重要な役割を果たします。トップ同士の面談では、双方の企業のビジョンや戦略について話し合い、M&Aの目的や利点について共有することができます。また、交渉では、買収価格や条件などについて話し合い、合意に至ることが目的となるでしょう。

トップ同士の面談や交渉には、以下のようなポイントで留意が必要です。

  • コミュニケーション能力、交渉能力:トップ同士の面談や交渉では、双方のビジョンや戦略について話し合い、M&Aの目的や利点について共有することが重要です。そのため、コミュニケーション能力が高く、意思疎通がスムーズにできることが必要です。売り手は可能な限り高く売りたい。早く売りたい。買い手は可能な限り安く書いたいという心理が働くため心理学のような知識も必要でしょう。

  • 相手の立場を理解する能力:買収側と被買収側では、立場や意見が異なることがあります。相手の立場を理解し、共感することで、円滑な交渉ができます。

  • ビジネスマナーや面子:ベトナムでは、ビジネスマナーや面子を保つが重要視されます。ビジネスの場では、相手に対して敬意を払い、礼儀正しく振る舞うことが求められます。へんな風にプライドを傷つけてしまったらもう終わりです。また、ベトナムのビジネス文化では、ビジネスを行う前に相手との信頼関係を築くことが重要視されます。お酒などを一緒に飲んだりも必要かもしれません。

  • 文化や言語の違いに対応する能力:ベトナムのビジネス文化や言語には、日本と異なる部分があります。文化や言語の違いに対応するために、現地に詳しいアドバイザーや通訳者の支援を受けることが重要です。

基本合意をする

交渉をした結果、お互いが信頼できる相手であることが確認できM&Aするとなった場合には、基本合意に至ります。

「意見表明書」や「基本合意書」に基づき、お互い合意します。これは、LOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of Understanding)などと表現されます。

DDの実施のこともこの書類に記載されます。

デュー・デリジェンスの実施

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)は、買収先企業の各種情報を確認することで、買収に伴うリスクを最小限に抑えるために重要な役割を果たします。

各種DDにおいては、専門家が支援を行うことが一般的です。例えば、金融DDでは監査法人が支援することが多く、法務DDでは弁護士が支援することが多いです。それぞれのDDにおいて、専門的な知識を持つ支援者が必要です。

スピードが重要であり、だらだらしているとブレークしてしまう可能性もあるので要注意です。

以下のような種類があります。

種類

内容

支援する人物

ビジネスDD

ビジネスフローの確認。事業計画の妥当性経営コンサルタント

財務DD

財務諸表や会計情報の確認。B/Sを固める公認会計士

税務DD

税金や節税の状況の確認税理士
法務DD

法的な問題の有無やリスクの確認

弁護士
労務DD

従業員の雇用条件や労働関係法令の遵守状況の確認

労務アドバイザー
環境DD

環境法令遵守状況の確認

環境コンサルタント
商慣習DD

各国の商慣習や文化に関する情報の収集と確認

国際業務コンサルタント

 

最低限必要なのは、財務・税務と法務DDでしょう。

また以下でIT企業のDDのポイントについても解説しています。

>>IT企業のDDのポイントを解説します

特にローカルの場合は繰り返しになりますが、以下の潜在的なリスクが高いです。

  • 脱税
  • 2から3重帳簿
  • 法令を遵守しない(お金で解決しようとするマインド。他の会社もそうなんだからというマインド)

>>海外・ベトナムで、二重帳簿が起きる2つの理由とその3つ仕組み【図解あり】

最終譲渡契約書と金額の支払い

デューデリジェンスが終了したら最終的な譲渡契約書が作成され、譲渡代金の支払いが行われます。この最終的な契約書には、取引対象物の特定(譲渡代金)などが明記されています。

最終的な契約書は、買収を行う企業側と買収される企業側が合意した内容をもとに作成されます。

最終的な契約書が合意された後、譲渡代金の支払いが行われます。譲渡代金の支払い方法は、現預金で支払われる「資本譲渡」「株式譲渡」などの場合は留意が必要です。投資家が外国企業、外国人である場合、その資金のやりとりに非常に時間がかかります。

また「表明・保証」事項も大事です。これは売り手と買い手が契約にあたって事実として開示した内容が嘘じゃないよと表明し保証することです。例えば「個人所得税の脱税のリスクはないよ」と表明したとしても実際には「脱税があった」場合には買い手側は損賠買収を請求できるか? もしくは契約自体を破棄することもできるでしょう。

役所への承認申請

ベトナムにおけるM&Aには、様々な承認手続きが必要です。その中でも、外国投資家が株式や持分の購入を行う場合には、当該株式等の購入を登録しなければならない場合があります。もう少し具体的にいうとERCやIRCの変更です。

投資法61/2020/QH14によれば、以下の3つのパターンでM&A承認が必要となります。

  1. 対象会社が条件付投資分野を事業登録している場合
  2. 対象会社における外資の出資割合が増加し、外資の出資割合が50%を超える場合、
  3. または対象会社がベトナムの国防上重要な土地の使用権証明書を有する場合には、M&A承認の登録が必要とされています。

実務上では1や2に該当するケースが多く、M&A承認手続きを行う事例は多くあります。

また、M&A承認の法定処理期間は、旧投資法においては15日以内と定められていましたが、現行投資法には同様の規定がありません。そのため、当該15日以内との規定は現行法でも有効なものとされますが、実際には当該期間が守られず長期に渡る場合もあるようです。

今後も新政令等の制定により、M&A承認の手続きや法定処理期間が変更される可能性があります。ベトナムにおけるM&Aに関する情報は、常に最新の情報を確認し、慎重な取引が求められます。

PMIで全体を調整せよ!

PMIとは「Post-Merger Integration」の略で、買収後の企業統合のことを指します。PMIは、M&Aの成功に欠かせない重要なステップです。当初に計画した価値を創造するために必要です。

わかりやすい例でいうと、買収先の企業文化や制度の違いをほったらかしにしてしまったら、おそらく従業員は退職してしまい、その結果、企業価値も下がってしまいます。

PMIのおおきな流れは、以下の通りです。

  1. 統合計画の策定:M&A後の企業像を描き、統合計画を策定します。統合計画には、事業戦略、組織構造、人事制度、業務プロセス、情報システムなどが含まれます。

  2. 統合実行:策定した統合計画をもとに、統合を実行します。具体的には、組織の再編、社員の配置転換、業務プロセスの統合、情報システムの統合などがあります。

  3. 統合効果の評価:統合後の企業の業績や市場評価などを評価し、統合効果を確認します。また、問題点があった場合には、改善策を検討し、再度統合を実行します。

PMIにおいて留意すべき点の典型的なものとしては、以下のようなものがあります。

  • 計画を適切に策定することが重要である。
  • 統合実行には、早期に始めることが望ましい。
  • 人事制度や文化の違いによる問題に注意する必要がある。
  • 情報システムの統合には、時間や費用がかかることがある。 ・統合後の評価や問題点の解決には、専門家の支援が必要である。

PMIは、M&A後の企業の成長や競争力を高めるために欠かせないステップであることから、十分な時間と費用をかけて実行することが重要です。

M&Aを成功に導くためには、PMIをしっかりと実行することが必要でしょう!