こんにちはマナラボの菅野です。
大谷翔平選手の元通訳・水原一平容疑者を、アメリカ捜査当局は、日本円で約24億5000万円を不正に電子送金した銀行詐欺の疑いで、日本時間4月12日に訴追しました。
このニュースが世間が騒がせていますよね。2024年4月11日(アメリカ時間)、アメリカ捜査当局が水原氏に対して訴えを起こしました。正確にはアメリカ合衆国カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所だそうです。
世間では大谷選手に疑念もあったようでしたが今回の件で完全に水原氏の悪行が明るみになりました。その詳細は他のニュースにまかせるとして、私は「不正の手口」という概念から考察を書いていきたいと思います。なぜなら、この事件を抽象化すればベトナム子会社管理にもあてはまるからです。
リンク先の記載の通り不正を考える場合、不正のトライアングルを意識することが重要です。そして経営者ができるのは「機会」(不正ができちゃうチャンス)を奪うことです。言い換えれば経営者は仲間を不正という犯罪から守る義務があります。大谷選手は野球に専念する必要がありますから「経営者」にはあてはまりませんがサポートしていた会計士は「機会」を潰していく必要があったでしょう。
この記事のもくじ
米連邦裁判所に提出されたレポートの構成
今回参照したのは「CRIMINAL COMPLAINTBY TELEPHONE OR OTHER RELIABLE ELECTRONIC MEANS」です。このレポートの構成は以下のようになっています。
Ⅰ. PURPOSE OF AFFIDAVIT
- 刑事告訴の目的についての説明。
Ⅱ. BACKGROUND OF IRS-CI SPECIAL AGENT CHRIS SEYMOUR
- IRS-CI特別捜査官クリス・シーモアの経歴や背景に関する説明。
III. SUMMARY OF PROBABLE CAUSE
- 被害者Aのx5848口座から1600万ドル以上がBOOKMAKER 1の関係者に不正送金された。
- 被害者Aはこれらの送金を承認していない。
- MIZUHARAは被害者Aを装い、x5848口座からBOOKMAKER 1の関係者に資金を送金した。
- MIZUHARAはBOOKMAKER 1に資金を盗んだことを認める暗号化されたテキストメッセージを送信した。
Ⅳ. STATEMENT OF PROBABLE CAUSE(A-M,P4〜P35)
- 可能性のある原因の声明に関する内容。
Ⅴ. CONCLUSION
- 結論に関する要約。
このうちⅣについて事件の詳細が書かれています。
なぜ、水原氏がなりすまして銀行送金ができたのか?
要約でも記載されている通り「MIZUHARAは被害者Aを装い、x5848口座からBOOKMAKER 1の関係者に資金を送金した」となっていることから水原氏が大谷選手の口座にアクセスして送金できたことがわかります。その期間は、2021年10月から2024年2月18日まで。
ここから不正が起きたしまった「機会」を検証していきましょう。いくつかそれに関連する文章があります。
銀行口座にアクセスできるかもと思ったきっかけ
レポートによれば水原氏は、2018年頃、被害者Aのx5848口座開設を支援するため、アリゾナ州にあるA銀行の支店に同行し、口座の詳細を設定する際に被害者Aの通訳を行いました。
そうです。この時「機会」が生まれちゃっていたんですね。口座の詳細(IDとか)を設定する時に通訳したんですから当然です。
もしあなたがベトナムで口座(プライベート及び会社)で作る場合にはあたり前ですが、IDとかパスワードを共有してはいけません。
f. In or about 2018, MIZUHARA accompanied Victim A to a Bank A branch in Arizona to assist Victim A in opening the x5848 Account, and translated for Victim A when setting up the account details.
引用元:レポートのH部分. Victim A Denied Giving MIZUHARA Access to the x5848 Account or Approving the Wires from the Victim Account
大谷選手の口座の連絡先を水原氏が自身の電話番号、メールアドレスに変更
銀行Aの記録によれば、x5848口座の登録された電話番号とメールアドレスは、水原氏の電話に関連付けられたx0373電話番号と匿名のGmailメールアドレス(”Email Address 1″)だったようです。また、MIZUHARA Phoneのフォレンジックイメージのレビューの一環として、以下の情報が明らかになりました:
- x0373で終わる電話番号は水原容疑者の電話に関連付けられていること
- Email Address 1はMIZUHARA Phoneの情報と関連付けられていること
これはあなたの銀行への登録情報が別な人の情報で登録されていたということです。たとえば私の口座を別なAさんの電話番号とEmaillアドレスで登録されていたということです。まあ、通常なら自分の口座を確認することがけっこうな頻度であると思うのですぐに気がつくとは思います。しかし、大谷選手は野球に全身全霊を注ぐ必要があるので発見できなかったのでしょう。これは例外的です。なのでこのような場合は「会計士・税理士」の助けが必要となるでしょう。
23. Bank A records show that the registered phone and email address for the x5848 Account were the x0373 phone number associated with the MIZUHARA Phone and an anonymous Gmail email account (“Email Address 1”).
引用元:レポートのG部分、MIZUHARA Lied to Bank A Employees to Circumvent Bank A’s Security Procedures and Execute Wires From the x5848 Account
水原氏が被害者Aを装うことができたため、銀行Aの従業員に偽の情報を提供してx5848口座のオンラインバンキングの停止を解除し、不正送金を行う障害を取り除いたことが示されています。
22 c. On or about February 4, 2022, a different Bank A employee spoke with MIZUHARA, using the x0373 phone number associated with the MIZUHARA Phone, in order to verify a new attempted wire transfer of $300,000 from the x5848 Account to BOOKMAKER 2. During the call, MIZUHARA again falsely identified himself as Victim A.
引用元:レポートのG部分、MIZUHARA Lied to Bank A Employees to Circumvent Bank A’s Security Procedures and Execute Wires From the x5848 Account
誰が防止すべきだったのか?
ここまでの情報で以下のような疑問がうまれませんか?長期間でとてつもない金額の不正送金…。気がつくでしょ!って。
冷静になればそう思うはずです。だっておおよそ24億円ですよ。大谷選手のエンジェルス時代の手取りの給与と比較すると大きな割合をしめるはずですからめっちゃ影響が大きいです。
専門家の支援で気が付かないの? 懐疑心ないの? 監査法人だったら?
大谷選手を以下の3名の専門家がサポートしていました。代理人が手配したそうです。
- .C.: プロの簿記係であり、代理人に雇われて被害者Aのビジネス口座を管理し、税金の準備に必要な資料や文書を収集および配布しています。
- K.F.: 会計士であり、代理人によって雇われて被害者Aの国内税金の準備と提出を担当しています。
- B.L.: プロのファイナンシャルアドバイザーであり、代理人によって雇われて被害者Aの国内の投資と資産を管理しています
レポートの27に書いてあります。
問題はこの3人もの専門家たちが不正送金に気が付かないのか?ということです。気付きそうじゃありません?
レポートによれば、水原氏がx5848口座をプライベートに保ちたいと主張し、他の誰もその口座を監視することを望んでいないという水原氏の主張を信じていたため、そのまま放置だということでした。代理人は水原氏が口座に関する情報を直接確認しておらず、水原氏が口座を他の人に監視されたくないと主張していたため、その主張を信じていたとされています。
うーん、信じちゃったんですね(汗)。え?これ疑えよって思いました。ここで見てたらそもそも水原氏の暴走を防止できたよって思っちゃいました。
このような状況下では、専門家たちは水原氏の主張を疑うことをしなかったとされています。
26 h. Agent 1 was aware of the x5848 Account and asked MIZUHARA on multiple occasions about the account. MIZUHARA told Agent 1 that the x5848 Account was “private” and that Victim A did not want anyone else to monitor that account. Agent 1 stated that he did not confirm these representations directly with Victim A, but stated that he had no reason not to believe MIZUHARA.
引用元:レポートのI部分、I. Professionals Working for Victim A Confirmed that MIZUHARA Denied Them Access to the x5848 Account
これ会計監査に例えると「重要な箇所」についてきちんと確認してなかったんだから会計士の責任になると思います。24億円はエンジェルス時代の大谷選手の年収からすれば明らかに重要でしょう。
もしこれが会計監査であれば資産の割合をほぼしめる現預金について確認しないなんてあり得ませんよね。ってことになっちゃいます。なのでこのレポートではさらって記載されていますが会計士とか税理士の責任ってなんなの?という話にはなると思います。
ベトナム子会社管理でいえば、第3者の会計事務所や会計監査法人がガバナンスという意味で非常に重要な役割を果たすでしょう。第3者ってやっぱり距離感という意味でも大事なんです。
信頼しても信用はするな!
水原氏が結果的に罪人になりました。もちろん水原氏が悪いのですがこのエラーについては歴史というか先人からも学べます。やっぱり「機会」を心のこもった仕組みで奪う必要がありました。
- 水原氏に全て機密情報がいってしまった→なりすましできちゃう機会
- 会計士などの専門家がきちんとすべてみなかった→不正送金が放置される機会
大谷選手が英語で直接会計士と話せないのが問題だという人もいますが、大谷選手は偉業を残し、これからも残す人なので当てはまりません。
なのでいい具合に仕組みが必要です。距離感のある人を複数関わらせるのがやっぱり大事でしょう。今回は一言でいえば水原氏を
「信頼してそして信用もしてしまった」
から発生してしまいました。ただ「信用」してしまうと人を罪人にしてしまう可能性がどうしてもあるんです。人は心が弱い。そういう生き物です。「性弱説」に基づいて管理しなければいけません。
ベトナム子会社管理もそうです。「信頼してそして信用もして」その結果、不正が起きてしまったというのは本当によくあります😢
そしてこれやっかい。起きると責任のなし付け合いが始まる。カオス状態が始まります。
起きる前は関わりたくないから真剣に対応しない。だから不正が起きる。起きたら責任を誰かになすりつける。このサイクルが多いように思います。
そんなのいやですよね。なので
「信用しても信用はするな」
の精神で仕組みをつくりしかありません。ぜひ不正を防止して罪人を生み出さないようにしましょう!
あるべき内部統制の解説
一応、内部統制について言及しておきますね。
今回の事象 | ベトナムであり得ること | 内部統制 |
銀行口座作るのに水原氏がIT等の送金に必要な情報を入手 | ベトナム人の経理担当者が銀行情報を入手。申請と支払いは別 | 徹底した権限分掌(申請と承認はわかれている) |
大谷選手になりすまし |
| 銀行残高と帳簿を照合 |
当たり前のことなんですができてないケースも結構ありますので注意が必要です。