ベトナムでビジネスを展開する企業の多くは、日本本社や外国企業との取引で外貨建取引を行っています。しかし、ベトナムでは会計基準(※Circular 200 & Circular 53)により、期中と期末で適用される換算レートが異なるため、適切な処理を理解しておくことが重要です。
本記事では、期中の外貨建取引の換算レートと期末の外貨建貨幣性資産負債の換算レートについて、わかりやすく解説します。
正確な名称は、200/2014/TT-BTC,53/2016/TT-BTCです。
この記事のもくじ
期中の外貨建取引の換算レート
期中換算レートとは?
企業が日々の業務で外貨建取引(売上、仕入れ、資本金拠出など)を行う際、取引発生時に適用する為替レートのことを指します。
ベトナムの会計基準(Circular 200 & Circular 53)では、実際の取引日に適用される為替レートを使用することが原則です。
期中換算レートの適用ルール(Circular 200 & 53)
ケース | 適用レート |
---|---|
外貨の売買 | 企業と商業銀行の契約レート |
資本金の拠出 | 資本金を受け取る銀行の取引日「買いレート(TTB)」 |
売掛金(債権) | 代金を受け取る銀行の取引日「買いレート(TTB)」 |
買掛金(債務) | 代金を支払う銀行の取引日「売りレート(TTS)」 |
外貨で直接購入する資産・費用(通達53追加) | 代金支払日に使用する銀行の「買いレート(TTB)」 |
💡 ポイント
- 実際に使っている銀行のレート(例:BIDVを利用しているのであればBIDV)
- 資本金・売掛金は「買いレート」、買掛金は「売りレート」
- 外貨で直接購入する資産・費用のレートが明確化(Circular 53)
例外:近似レートの使用(Circular 53)
企業は財務諸表に大きな影響を与えない限り、「近似レート」 を使用することも可能です。実務を踏まえて少し簡便的な方法を認めようという趣旨だと思います。
>>日本やタイからベトナムへ輸入があった場合のベトナム会計における簡便的な為替換算レート利用方法とは?【実務はこれ】
📌 近似レートとは? 👉 企業が取引する銀行の**「買いレート」と「売りレート」の平均レート**(日次・週次・月次ベース)を適用する方法。
例えば、ある週の為替レートが以下の場合
日付 | 売りレート(TTS) | 買いレート(TTB) | 平均レート |
3月1日 | 22,270 | 22,320 | 22,295 |
3月2日 | 22,280 | 22,330 | 22,305 |
3月3日 | 22,275 | 22,325 | 22,300 |
週次平均レート | – | – | 22,300 |
👉 この平均レート(22,300)は±1%の範囲で変更可能!
💡 実務上のポイント
- 為替変動が激しい場合は、日次レートを使う方が適切
- 取引が多く 安定した為替相場なら、週次や月次レートを使用して処理を簡略化できる
期末の外貨建貨幣性資産負債の換算レート
期末換算とは?
決算時(会計年度末)、外貨建ての**貨幣性資産・負債(預金・借入金・売掛金・買掛金など)**を、期末時点の為替レートで換算し直す必要があります。
期末換算レートの適用ルール(Circular 200 & 53)
ケース | 適用レート |
外貨建貨幣性資産(預金・売掛金など) | 期末日における取引銀行の「買いレート(TTB)」 |
外貨建貨幣性負債(借入金・買掛金など) | 期末日における取引銀行の「売りレート(TTS)」 |
💡 ポイント
- ✅ 資産は「買いレート」、負債は「売りレート」を適用
- ✅ 決算時に為替差損益が発生する可能性があるため、事前に計画しておくことが重要
少し深い内容で難易度が高いですが以下についても解説しています。
>>Q&A【M-LABO】なぜ、ベトナムでは、財務収益(為替差損益)がマイナスになるのか?【実際のFSをを使ってわかりやすく解説】
例外:近似レートの使用(Circular 53)
近似レートを期中に使用していた場合、期末の換算レートも一貫性を持たせる必要があります。
📌 適用可能なレート 1️⃣ 期末日の「買いレート」または「売りレート」 2️⃣ 買いレートと売りレートの平均レート
💡 実務上のポイント
- ✅ 期末時の為替差損益を考慮し、適用レートを慎重に選ぶ
- ✅ 近似レートを適用する場合、税務当局のガイダンスに従う必要がある
切り離し法と洗い替え法について
じゃあ翌年はどうなるの?2023年に借入したお金の返済は5年後であることはよくあります。その時、会計のルールでは2つの選択肢があります。
洗い替え法と切り放し法は、会計で資産や負債の帳簿価額を評価する際に用いられる方法です。外貨建債権債務の会計処理にも関係してきます
- 洗い替え法 資産負債の評価額を期末に時価評価し、翌期首に取得価額に戻す方法1. 貸倒引当金を経理処理する原則的な方法
- 切り放し法 一度、時価評価で評価損益を計上したら、資産負債の簿価を評価替え後のままにする方法
簡単な具体例($100 の場合)で理解しましょう。
ケース:ある企業が $100(米ドル)の売掛金を保有している
前提条件は以下の通り。
- 取引発生時(4月): 1 USD = 24,000 VND
- 期末(12月): 1 USD = 25,000 VND
- 翌期首(1月): 1 USD = 24,500 VND
洗い替え法(洗替法) | 切り離し法(切放法) | |
4月(取引発生時) | 2,400,000 VND(100 USD × 24,000) | 2,400,000 VND(100 USD × 24,000) |
12月(期末評価) | 2,500,000 VND(100 USD × 25,000)に評価替え | 2,500,000 VND(100 USD × 25,000)に評価替え |
評価損益の計上(12月) | +100,000 VND(為替評価益) | +100,000 VND(為替評価益) |
翌期首(1月) | 逆仕訳を行い、2,400,000 VND に戻す | 2,500,000 VND をそのまま取得原価にする |
1月の新しい評価(1 USD = 24,500 VND) | 100 USD × 24,500 = 2,450,000 VND に評価替え | 100 USD × 24,500 = 2,450,000 VND に評価替え |
1月の評価損益の計上 | +50,000 VND(為替評価損)(2,400,000 → 2,450,000) | -50,000 VND(為替評価損)(2,500,000 → 2,450,000) |
適用例 | 為替レートの変動が短期間で回復する場合 | 為替変動の影響が長期にわたる場合 |
財務諸表の影響 | 翌期に影響を残さない | 翌期以降も前期末の影響を引き継ぐ |
こんな感じです。
まとめ
まとめです。
期中と期末。
項目 | 期中換算 | 期末換算 |
資本金の換算 | 取引日「買いレート」 | – |
売掛金の換算 | 取引日「買いレート」 | 期末日「買いレート」 |
買掛金の換算 | 取引日「売りレート」 | 期末日「売りレート」 |
資産・費用の換算 | 取引日「買いレート」 | – |
近似レート | 日次・週次・月次レート可 | 近似レートも適用可能 |
✅ 期中は実際の取引レートを適用するのが原則 ✅ 期末換算は資産と負債で異なるレートを適用 ✅ 近似レートを使う場合は、一貫性を保つことが重要!
ベトナムの外貨建取引における換算レートのルールを理解し、正しく処理することで、財務リスクを回避し、スムーズな決算業務を行いましょう!