ベトナムで事業を展開する日系企業にとって、税務コンプライアンス(税制への適応)は避けて通れないテーマです。今回、ある日系企業が法人所得税の優遇措置を誤って適用していたことが発覚し、80ビリオンVND(合計約4.6億円)の追徴課税と罰金が科されることになりました。この問題は、ベトナムに進出する企業にとってどのような教訓をもたらすのでしょうか?

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優遇税制についての知識を整理したい人は以下をご覧ください。

>>【ベトナム税制】優遇税制を適用できる条件を徹底解説

>>ベトナムのソフトウェア開発の法人税優遇税制について解説【通達13/2020/TT-BTTT】

また、弊社お客様向けには以下のコンテンツを提供していますよ。

>>🔓M-Lab_IT優遇税制にかかるOL集とその解説のまとめ【ベトナム公認会計士と日本国公認会計士の経験も踏まえて解説】

誤った税優遇の適用とは?

今回の問題を簡単に説明すると、この日系企業は「本来、税優遇を受けられない業務」を「優遇対象」として申告してしまったのです。

ただこれ、どんな企業もこのリスクを抱えています。優遇税制はトリプルオピニオンをもらってもいいくらいです。「解釈」によって「これって優遇税制の範囲外だね」と税務当局から指摘されてしまうのです。

例えば、レストランのオーナーが「ベトナム料理専門店」に与えられる特別な税優遇を受けようとして、実際には日本料理を提供しているのに「ベトナム料理店」として申告してしまったとしましょう。当然、税務署が調査に入れば「これはベトナム料理ではない!」と指摘され、税金の差額を支払わなければなりません。すごい極端な例ですが構造としては同じです。

この日系企業が陥ってしまったのは、まさにこのような(税務当局の考えによれば)「税優遇の誤適用」でした。

この日系企業が指摘されてしまった内容とは?

もう少し深堀していみます。15846/KL-CTHN-TKT5というオフィシャルレターですね。

① 問題となった税優遇措置の申告

この日系企業は、親会社やグループ企業、第三者企業からCAD(設計支援ソフト)やEWS(設計管理ソフト)をレンタルまたは購入し、これを活用して設計・図面作成業務を行っていました。

そして、これらの業務を 「ソフトウェア生産・ソフトウェアサービス」 として申告し、法人所得税の優遇措置を受けていたのです。

あくまでこの文言の話なので実際にはソフトウェア業務だったのかもしれません。

しかし、ベトナムの法律では、単なるソフトウェアの使用(上記のCADなど)は「ソフトウェア生産」には該当しません。という主張です。ソフトウェアについては以下を参照。

>>【ベトナム税務】No. 71/2007/ND-CPのソフトウェアを解説

こちら参照ください。お客様向けのコンテンツです。

>>M-Lab_ソフトウェアサービス取引が「非課税」か?の判断のための3つのステップを徹底解説!【実務上の判断あり】

② 法律上の問題点

ベトナム政府の政令 No.71/2007/ND-CP(2007年5月3日発行)によると、「ソフトウェア生産」と認められるのは、ソフトウェアの開発やプログラムの作成を行う業務です。

しかし、この日系企業の設計業務は、すでに存在するソフトウェア(CAD・EWS)を使用しているだけであり、ソフトウェアを「作っている」わけではありません。つまり、**「ソフトウェア生産」ではなく「設計業務」**という扱いになるのです。

③ 関連する法律条文(誤った適用)

この日系企業は、法人所得税の優遇措置を受けるために、以下の法律を誤って適用しました。と税務当局は主張しています。

  • 通達 No.199/2012/TT-BTC(2012年11月15日発行)
    • 「ソフトウェア生産を行う企業に対する法人所得税の優遇措置」に関する規定
  • 政令 No.122/2011/ND-CP(2011年12月27日発行)
    • 「WTO協定により輸出率優遇が撤廃された企業に対する法人所得税の取り扱い」

この日系企業の業務は、これらの規定が対象とする「ソフトウェア生産」ではないため、税務当局は税優遇を受けることはできないと結論付けました。

追徴課税の内訳を見てみる。5億円弱?

この日系企業はどれくらいの追徴課税を要求されたのでしょうか?税務調査の結果、以下の追加納税が発生することが判明しました。なおベトナムの罰則についての考え方については以下を参照してください。

>>【ベトナム税務】罰金・遅延税・遅延利息、追徴課税・加算税。重加算税の解説【本社と共有するといいです】

法人税の不足額

年度法人所得税(TNDN)日本円換算(約)
2019年28.7ビリオンVND約1.68億円
2020年20.08ビリオンVND約1.18億円
合計48.8ビリオンVND約2.86億円

罰金等

項目金額(VND)日本円換算(約)
虚偽申告による罰金9.7ビリオンVND約0.57億円
法人所得税の延滞金(2019年・2020年分)21.2ビリオンVND約1.25億円
合計(罰則+延滞金)30.9ビリオンVND約1.82億円

最終的な納税総額

項目金額(VND)日本円換算(約)
追徴法人所得税48.8ビリオンVND約2.86億円
罰金・延滞金30.9ビリオンVND約1.82億円
合計納税額80ビリオンVND約4.68億円

大きな金額です。

なぜこんなことが起きてしまうのか?

この日系企業のような大企業であっても、税優遇措置の適用が覆される可能性があります。これはベトナムの税制が複雑で、解釈が難しい、一個じゃないことが一因です。理不尽だなあと正直思うこともあります。

特に、以下の点に注意が必要でしょう。

優遇措置の対象業務を可能限り正しく理解する

「ソフトウェアを使っている」だけでは、「ソフトウェア生産」ではない。など。

>>【ベトナム税務】IT優遇税制を適用するために準備するエビデンスのレベル

専門家のアドバイスを受ける

税理士や会計士等の法律にも実務にも精通している専門家からアドバイスを受けることが大事です。

企業への影響と今後の展開:日系企業が直面するリスクと対策

今回の税務違反が日系企業に与える影響は、単なる罰金や追徴課税にとどまりません。財務面の負担、企業イメージの低下、税務当局との関係悪化など、長期的なダメージをもたらす可能性があります。また、同様のリスクを抱えている日系企業が、今後どのように対応すべきかについても考察します。いろいろありますが今後の税務調査の動向について考えてみます。

税制は年々変化しており、この事例から言い方悪いかもですが「優遇税制覆せるネタ」が当局内で認識されたわけですね。そうするとここから行こう!追徴しようという考えが強くなるんじゃないかなあと予想しています。

💡 対策

  • 税務申告・優遇措置について最終意思決定前に、外部の専門家(税理士・会計士)と必ず相談する。
  • 過去の税務違反を参考に、社内ルールを見直し、再発防止策を徹底する。
  • ベトナム税務当局との関係を良好に保つため、定期的にコミュニケーションを取る。

まとめ:税務コンプライアンスを強化し、長期的な成長を目指す

今回のケースは、単なるミスというレベルではなく、日系企業がベトナムで事業を行う上での「ベトナム特有の税務リスクの現実」を示しています。正しいと思っていてもAさんという税務調査官は違う。みたいなことが起きちゃうんですよね。

ベトナム税制は複雑で、解釈の違いによって問題が生じることも少なくありません。

しかし、適切な対策を講じることで、これらのリスクを最小限に抑え、企業の成長を持続可能なものにすることができます。

ベトナムでの事業成功の鍵は、正しい税務知識と、的確なリスクマネジメントにあります。今こそ、日系企業全体で税務コンプライアンスの強化に取り組むべき時なのではないでしょうか?