こんにちはラボの菅野です。
日本からベトナムに仕事で行くとき、「いつから個人所得税がかかるの?」と思ったことはありませんか?
実はこの「いつから」というタイミングがとても大切です。
以下に全体像を解説していますのでそれも参考にしてください。全体像を意識するのが大事。
>>【図解!】ゼロから理解する 個人所得税の仕組み 日本とベトナムの比較表付き!
また以下でも全体像から詳細論点を解説していますよ。
>>【無料版】ベトナム個人所得税対策の完全マップ【動画編】36個の動画で解説
税金のルールによっては、思ったより早く課税されたり、逆に対象外になることもあります。この記事では、ベトナムで働く日本人が「いつから所得税を払う必要があるのか」を、やさしく解説します。
この記事のもくじ
ベトナムの所得税ってどんなもの?
まずは基礎の基礎をおさらいです。
ベトナムでは、働いて収入がある人に「個人所得税(Personal Income Tax)」がかかります。
外国人でも、一定の日数ベトナムに滞在すると、税金が発生します。
ポイントは「183日ルール」!
ベトナムに1年間で183日以上いる人:→ ベトナムの「居住者」とみなされ、世界中の収入に課税されます。
183日未満の人:→ ベトナムで得た収入だけが課税対象です。
つまり、「いつから課税されるか」は、この183日のカウントにも関係してくるんです。
いつから課税なの?理論上考えられる4つのパターン
ベトナムでの課税開始日については、状況によってさまざまな解釈があります。主に以下の4つのタイミングが、税務署や会社によって「課税のスタート」として見なされることがあります。
➤① 入国日(パスポートの入国スタンプ)
もっとも早いタイミングとして、「ベトナムに物理的に到着した日(入国日)」が起算日となるケースがあります。たとえまだ仕事を始めていなくても、「課税カウントの開始日」として扱われることがあります。
📌 根拠: 通達111/2013/TT-BTC、第1条
📌 例: 観光目的で1月6日に入国 → 4月から就労 → 実際には1月から課税対象となったケースあり(財務省回答例)
➤② 労働契約・任命書に記載された勤務開始日
多くの会社や税務実務では、契約書に記載された「就労開始日」が基準とされます。これは、実際に所得が発生する日であるため、もっとも実務的と考えられるアプローチです。
📌 根拠: 公文書 66662/CT-TTHT、5151/TCT-DNNCN など
📌 注意: 契約書の日付と実際の活動日がずれている場合は要注意!
➤③ 労働許可証(ワークパーミット)の発行日
外国人がベトナムで合法的に働くためには、「労働許可証(Work Permit)」が必要です。そのため、この許可証の発行日=法的に就労が認められる日とみなされ、課税の起算点とされる場合もあります。
📌 実務的根拠: 労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)による規定、および入国管理局の解釈
📌 補足: 許可証のない期間に働いていると、非合法労働と判断され、追徴の可能性も!
➤④ 実際に給与・報酬が支払われた日
これはあまり一般的ではありません。ただ、もし入国・契約・許可証がすべて曖昧な場合、「実際に会社から給与が支払われた日」が課税開始日として考えることも可能かもしれませんね。
特にフリーランス契約や非正規就労の場合にこの判断が下されることがあります。
📌 注意: 「遅れて支払われた報酬」でも、実際の活動日が古ければ追徴の可能性あり。
番号 | 判定基準 | 説明 | 根拠・参考文書 | 注意点・備考 |
① | 入国日(パスポートのスタンプ) | ベトナムに物理的に入国した日を起算点とする | 通達111/2013/TT-BTC 第1条 公式レター5151/TCT-DNNCN | 勤務開始前でもカウントされることがある。観光目的でも対象になる場合あり。 |
② | 契約書または任命書の開始日 | 労働契約・任命書に記載された勤務開始日から課税対象になる | 公式レター66662/CT-TTHT、85039/CT-TTHT | 実際の活動日と契約日が異なる場合は要注意。契約開始前の給与支給に注意。 |
③ | 労働許可証(ワークパーミット)の発行日 | 労働法上、合法的に働けるようになった日。発行日から課税と見なすことがある | 労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA) 実務慣行による | 無許可での勤務は違法。発行待ち中に働くと罰則や追徴リスクあり。 |
④ | 実際の給与・報酬支払日 | 実際に会社から給料・報酬が支払われた日を起算点とする | 特定の法的明記は少ないが、実務での補完的判断として使われる | 非正規・フリーランス契約の場合に該当するかも。所得発生日とズレがあると追徴の可能性も。 |
理論上考えられる選択肢を考えてみました。ただ論点になるのは①と②なのでそれをそれぞれ詳しく深堀りしていきます。
見解①:ベトナムに個人が実際に到着した日から課税を開始する!
この見解では、外国人がベトナムに最初に入国した日をもって、所得税の課税対象期間の起算日とする立場です。たとえその入国が観光目的であっても、入国から183日以上滞在すれば「居住者」とみなされ、その年の所得全体(世界所得)が課税対象になる可能性があります。
📌 法的根拠・公的文書
- 通達111/2013/TT-BTC 第1条 第1項:
ベトナムにおける個人の「居住者」か「非居住者」かを判断するための期間(183日)を、実際にベトナムに最初に到着した日から計算する旨が記載されています。 - 公文書5151/TCT-DNNCN(2018年12月17日):
所得計算期間の開始日は、ベトナムに入国した日を基準とする旨が明記されています。これは特に、契約や任命日よりも早くベトナム入りしているケースで適用されやすいです。 - 財務省の実例回答(日本人取締役のケース):
2018年、ある日本人が観光目的で1月6日に入国し、4月1日から取締役として就任した事例において、税務当局は入国日である1月6日を課税の起点と判断しました。 - 公文書4502/CT-TTHT(2022年):
2022年7月12日より前にベトナムに入国し、その後183日以上滞在した外国人について、その年は「居住者」として課税されることが明記されています。契約開始日とは関係なく、入国日ベースで課税判定がされていることがわかります。
1. A resident is a person that meets one of the conditions below:
a) He/she has been present in Vietnam for at least 183 days in a calendar year or for 12 consecutive months from the first day of his/her presence in Vietnam (the date of arrival and date of departure are considered 01 day). The date of arrival and date of departure depends on the certification of the immigration agency on the passport (or laissez-passers) when that person enters and leaves Vietnam. If the person enters and leaves Vietnam within one day, it will be considered one day of residence.
引用元:通達111/2013/TT-BTC 第1条 第1項
💬 実務的なポイント
- 入国目的(観光/下見/引っ越し準備)に関係なく、滞在日数と入国日が重要であるとまずは認識。ただ、実際には観光で入国する人もいるのでそのあたりはストーリー作りが大事でしょう。
- 特に183日ルールの起算に関係するため、入国スタンプのあるパスポートページの保存が重要です。
- 雇用契約が始まる前に入国している場合は、その分も課税対象に含まれる可能性があるため注意。
見解②:ベトナムで実際に仕事を始めた日から課税を開始する
この見解では、労働契約や任命書に記載された勤務開始日や、実際の業務開始日をもって、所得税の課税期間がスタートすると考えます。
この方式は、「所得が発生し始める時点」が明確なため、企業側の実務や給与計算でも最もよく採用されている考え方です。
法的根拠・公的文書
公文書66662/CT-TTHT(2018年10月2日):
台湾に居住していた坂口氏のケースでは、2017年に観光目的でベトナムに滞在した日数は課税対象とされず、2018年1月1日に正式に任命された日から課税対象となりました。公文書85039/CT-TTHT:
外国人の個人所得税の課税開始日は、「ベトナムで所得を発生させる目的の滞在を開始した日」であり、これは契約書または任命文書に基づく勤務開始日(通達111/2013/TT-BTC 第25条 第1項 b.3)であることが強調されています。通達111/2013/TT-BTC 第25条第1項 b.3項:
外国人労働者の税控除は、契約書や就労指示文書に基づく勤務期間に応じて、課税方式(累進/定率)が決まる。この勤務期間の起算も、課税期間の認定に影響を及ぼすと解釈されています。
第25条 b.3項
b.3) The income payer shall withhold tax from the incomes earned by the foreigners working in Vietnam based on the duration of work in Vietnam written in the contract or letter of introduction according to the progressive tax table (if the person has worked in Vietnam for at least 183 days in the tax year) or the whole income tax table (if the person has worked in Vietnam for fewer than 183 days in the tax year).
111/2013/TT-BTC 第25条 b.3項
💬 実務的なポイント
- 契約開始日と労働許可証の発行日が一致しないこともあるが、契約書が「法的な勤務開始の証拠」として機能。
- 会計処理や源泉徴収も、この就労開始日から計算されることが多い。
- 税務リスクを減らすには、契約開始日以前に実働がある場合は必ず税務署に相談すること。
①と②を表でまとめますね。
項目 | 見解①:入国日から課税開始 | 見解②:勤務開始日から課税開始 |
📌 判定基準 | ベトナムに入国した日(パスポートスタンプの日付) | 契約書・任命書に記載された勤務開始日 |
📜 主な法的根拠 | 通達111/2013/TT-BTC 第1条 公文書5151/TCT-DNNCN 公文書4502/CT-TTHT | 11/2013/TT-BTC 第25条 第1項 b.3 公文書66662/CT-TTHT 公文書85039/CT-TTHT |
💼 課税開始の根拠 | 滞在日数のカウント起点。183日ルールに直接関係する | 実際に所得が発生する時点から課税とする実務的判断 |
🧾 会計・実務処理 | 入国日から給与は発生していなくても課税対象となる可能性あり | 給与開始と課税が一致しやすく、企業側の処理がしやすい |
⚠️ リスク・注意点 | ・観光ビザでも滞在日数に含まれる? ・勤務前でも課税対象になる可能性あり | ・契約前に働いていた場合、税務署との認識ズレに注意 |
✅ 採用されやすい場面 | 税務署の居住者判定(183日)や監査時の厳密チェック | 会計・給与実務、雇用契約ベースの処理 |
👤 主な対象者 | 長期駐在者、家族と一緒に早めに入国している人など | 短期就労者、出張ベースの技術者、任命書がある管理職など |
条文もオフィシャルレターも見解が異なることがわかりますよね。だから税務は難しいというか悩ましいのです。
まとめ:課税開始日を知ることは、トラブルを防ぐ第一歩
ベトナムで働く日本人にとって、「いつから課税対象になるのか?」という問いは、単なる形式的な話ではありません。
その答え次第で、税金の金額が変わり、居住者/非居住者の判断も変わり、年末調整や確定申告の必要性まで左右されるのです。
この記事で紹介したように、課税の起算日には複数の見解が存在し、入国日・契約開始日・労働許可証の発行日・実際の勤務開始日など、すべてが判断材料となり得ます。
税務署や会計担当者によって扱いが異なることもあるため、自分のケースを慎重に確認することが非常に重要です。
特に次の3点は、赴任前・赴任初期にしっかり整理しておきましょう:
- パスポートの入出国スタンプを確認し、日数を正確にカウント
- 契約書・任命書・労働許可証などの書類は必ず保管
- 不明点は、税務署または信頼できる会計専門家に早めに相談
正しい知識と準備があれば、税務トラブルを未然に防ぐことができます。
ベトナムでのキャリアがスムーズにスタートできるよう、税務面でも安心して過ごせる環境を整えておきましょう。