コロナ禍の影響で、多くの企業が従業員の健康を守るため、ワクチン接種費用を負担していました。
この費用について、「税務上どう処理すればよいのだろう?」と気になる方も多いのではないでしょうか。
今回は、新型コロナワクチン接種を例にして、企業が負担する予防接種費用が法人所得税の損金となるかどうかを、根拠となる法令を引用しながら分かりやすく解説します。
この記事のもくじ
そもそも、法人税の損金とは?
企業が法人税を計算する時、「収入(益金)」から「経費(損金)」を差し引いて課税所得を求めます。ここで重要になるのが、「どんな費用が損金になるのか?」という点です。
ベトナムの法人所得税法(政令218/2013/ND-CP 第9条第1項)では、損金算入可能な費用として次のように規定しています。
「企業は、実際に発生し、その企業の事業活動に関連する費用であって、適切な請求書と書類がある場合には、原則として損金に算入できる。」
つまり、損金に算入するためには、以下の3つのポイントを満たす必要があります。
- 実際に発生した費用であること
- 企業の事業活動に関連していること
- 法律で定められた請求書(VATインボイス)や書類が整っていること
また以下も参照してください。
>>“損金不算入”ってなんだ?わかりやすく解説 ベトナムにおける典型例とは?
予防接種費用は福利厚生費として認められるのか?
次に気になるのが、「ワクチン接種費用が『福利厚生費』として認められるのか?」ということです。
ベトナム財務省通達第78/2014/TT-BTC(改正補足後)第6条第2項2.31点には、福利厚生費について以下のように具体例が記載されています。
「企業が従業員に直接支払った福利厚生費用は損金算入可能である。例えば、葬儀、結婚式費用、休暇費用、治療費用、自然災害や病気などの支援費用、従業員の子供の表彰費用、祝日やテト期間の交通費用、任意保険料、その他の福利厚生費。ただし、合計額は1年の平均月給1ヶ月分を超えてはならない。」
2.31. Expenses not corresponding to turnover for tax calculation, excluding the following expenses:
- – Expenses for HIV/AIDS prevention and control at the enterprises’ workplace, including expenses for training HIV/AIDS prevention and control officers of enterprises, expenses for HIV/AIDS prevention and control communication among enterprises’ laborers, expenses for counseling, examination and testing for HIV and expenses in support of enterprises’ laborers who are HIV-infected.
- – Actual expenses for the performance of national defense and security education tasks, training and activities of militia and self-defense forces and other national defense and security tasks as prescribed by law.
- – Actual expenses in support of Party and socio-political organizations in enterprises.
- – Other particular expenses suitable to each sector or field as guided by the Ministry of Finance.
この中の「治療支援費用」や「病気予防に関する支援費用」には、当然ながら予防接種も含むと考えるのが普通でしょう。
新型コロナワクチン接種費用を含む、「予防接種費用」は、「従業員の治療費用」や「病気の予防」という福利厚生の範囲に該当します。
新型コロナワクチン費用に関するオフィシャルレター(公文書2921/TCT-CS)
税務総局は2021年8月3日付けの公文書(No.2921/TCT-CS)で、企業が従業員の新型コロナワクチンの購入・接種費用を法人税の損金に算入できるかどうかを明確に回答しています。
公文書の内容を引用すると、
「企業が従業員に対し負担した新型コロナウイルスワクチン購入および接種費用について、損金算入要件を満たし、損金不算入の対象とされない場合、法人所得税の計算において損金として算入することができる。」
つまり、新型コロナウイルスワクチンの費用は、要件を満たせば法人税の損金になるということが、公式にはっきりと示されたのです。
理由は以下の通り。
達第78/2014/TT-BTC(通達第96/2015/TT-BTC 第4条および通達第25/2018/TT-BTC 第3条第4項により修正・補足)第6条第2項2.31点にて以下のように定められています
2.31:課税収入に対応しない費用。ただし、以下の費用は除く」
従業員に直接支払われる福利厚生費:従業員およびその家族の葬儀費・結婚費、休暇費用、治療支援費、教育施設での学習支援費、自然災害・戦争・事故・病気により影響を受けた家族への支援費、従業員の子どもの学業表彰費用、祝日およびテトにおける交通費支援費用、事故保険・健康保険・その他の任意保険(従業員向けの生命保険や任意退職保険は除く)、およびその他福利厚生費。これらの合計金額は、企業の課税年度における1か月の平均実際給与を超えてはならない。
つまり、1か月の平均実際給与を超えない程度の治療支援費(予防接種)であれば損金になるという規定があるのでそれが根拠となります。
また、事業を運営していく上で「人材」への費用はまさに「事業に関連」していますよね。
ベトナムで損金として認められるための具体的条件
予防接種費用が損金として認められるためには、次の条件を満たす必要があります。
- ワクチン購入・接種費用が実際に発生したことを証明する請求書や領収書があること
- 福利厚生費としての限度額(年間給与の平均1か月分)を超えないこと
- 一回あたりの費用が2,000万ドン以上の場合、非現金(銀行振込等)で支払われていること
これらの条件が整えば、新型コロナワクチンに限らず、他の予防接種費用も損金として認められる可能性が高まります。
損金算入の際の注意点
ただし、注意すべきポイントがあります。それは、「福利厚生費は年間の平均月給1ヶ月分まで」という上限があることです。
企業が従業員向けに手厚くワクチン接種や予防措置を行った結果、上限を超えてしまう場合もあり得ます。この場合、超えた分は損金に算入できません。そのため、年間予算を考える際には、この上限を意識した予算配分が重要です。
また、税務調査の際には証拠書類が非常に重要ですので、費用発生時の書類をしっかりと管理しておきましょう。
まとめ:実務上のポイント整理
最後に、実務上のポイントをまとめてみます。
- 新型コロナワクチンを含む予防接種費用は、要件を満たせば法人税の損金に算入可能
- 損金算入のためには、明確な書類・証拠が必須
- 福利厚生費の上限(年間平均給与1ヶ月分)を超えないよう注意が必要
- 大きな費用(2,000万ドン以上)は銀行振込等の非現金決済が必要
従業員の健康を守り、企業の負担も減らすために、こうした税務ルールを上手に活用しましょう。