こんにちは!マナラボの菅野です。
「日本の大手金融グループが、ベトナムの金融会社を買収したのに、数ヶ月後に“契約は無効です”って言い出したらしいよ」
こんな話を耳にしたら、ちょっと驚きますよね。しかもその金額、約260億円です。
今回ご紹介するのは、イオンフィナンシャルサービス(以下、イオン)がベトナムのSeABankから買収した金融会社「PTF」をめぐるニュースです。たくさんのニュースを確認することができますよ!
ベトナムでもとっても人気のあるイオン。イオンモールに週末にいくとものすごいベトナムという国の勢いを感じます!そのイオンに関連する情報なので気になりますよね。
今日のテーマはこんな感じです。
「イオンが買収した会社、なんかおかしいぞ……?」「そもそも契約は無効だったんじゃないか?」
そんなイオンの主張をめぐるやりとりを、M&Aの“怖さ”とともに読み解きます。
この記事を読むと、
- 海外(ベトナム)M&Aで起こりがちな“見えない落とし穴”
- 会計情報って、実はすごくグレーなものなんだよ、という現実
- そして、日系企業がDD(デューデリジェンス)で見落としがちな盲点
こうしたことが、なんとなくつかめるようになります。
しかも、専門用語はやさしめに。法律や会計が苦手でも大丈夫です。
この記事のもくじ
ベトナムで起きた“契約無効”騒動。何が起こったの?
話の発端は2023年10月。
イオンは、SeABankというベトナムの銀行と、金融会社PTFの株式を100%買い取る契約を結びました。日本円でいうと、260億円くらいです。
その後、国家銀行の承認を受けて、2025年2月には正式にPTFがイオンの子会社に。
ところが数ヶ月後の2025年6月6日。
イオンがSeABankに突然こんな通告をします。
「この契約、無効にしたいんですけど」
具体的には…。以下。
- 契約の法的無効を主張
- 交渉・契約にかかったコストの返還請求
- 損害賠償請求
- SeABankおよび関係者への法的責任追及
損害賠償も請求しているんですね。
図表にすると以下のようになります。
日付 | 出来事 |
---|---|
2023年10月 | PTFの株式譲渡契約をSeABankと締結 |
2024年12月30日 | ベトナム国家銀行(SBV)が契約を正式承認 |
2025年2月3日 | PTFの譲渡が完了。イオンの連結子会社に |
2025年6月6日 | イオンが契約無効を正式に通知 https://www.aeon.info/wp-content/uploads/news/important/pdf/2025/06/250606R_1.pdf |
契約前に出された“あの資料”、ホントに信じてよかったの?なぜ無効を主張しているのか?
イオンフィナンシャルは、2023年10月にSeABankと契約を交わし、PTFの株式100%を約4,300億ドンで取得しました。国家銀行の承認も受け、2025年2月には譲渡が完了。晴れてPTFはイオンの子会社に──
……となるはずでした。
しかし数ヶ月後の2025年6月、イオンが突如「この契約、無効です」と正式に通知します。
なぜか?
理由はただ一つ:
「契約前に開示された**会計情報に重大な齟齬(ずれ)があった」
⇒ 実際の財務状況とまるで違っていた!」
イオンは「PMI(Post-Merger Integration/統合後の業務・経営統合)」の中で、
- 会計処理の不一致
- 収益やコストの不自然な調整
- 過去の帳簿の不整合
といった“おかしな点”を次々と発見します。
要約してイオンの主張を考えると、それはとてもシンプルです。
「契約前に提示されたPTFの会計情報が、実態とぜんぜん違う!」
たとえば、過去の収益が水増しされていたとか、費用がうまく隠されていたとか、そういう“見せかけの数字”があったということですね。
契約のきっかけになった数字がそもそも間違っていたなら、
「それって、契約の“前提”が壊れてるってことじゃないですか?」
……と考えるのは、無理もありませんよね
ベトナムの企業はよく「2重帳簿が当たり前」と言われますがこれは嘘ではありません。以下の記事も参考になりますよ。
>>ベトナムローカルの「会計」の感覚は危険?【会社の財布は私の財布】
>>【M-LAB】_海外・ベトナムで、二重帳簿が起きる2つの理由とその3つの仕組み【10個の方法をまとめた。リアルなので限定公開】
PMIで発覚。“買ってから気づく”パターン、実は多いんです
買収後、イオンはPTFと本格的な統合作業に入ります。これは「PMI(Post-Merger Integration)」と呼ばれます。
その中で、どうも帳簿の動きが変だと気づいたイオン。
調べてみると、「これは契約のときに見せられてた数字と違うぞ……」ということが判明。
つまり、「契約前に渡されたパンフレットは、全然実物と違ってた!」みたいな状態です。実はこのような件もよくあるそうです。
でもDDしたよね?なぜ防げなかったの?
ここでよくある疑問がこれです。
「え、買収する前にDD(デューデリジェンス)したんじゃないの?」
はい、してると思います。でも、それでも“見抜けない”ことがどうしてもあるんです。まあ見つけてほしいんですが、
たとえば、
- 提示された資料は英訳されていたけど、元のベトナム語原本とは微妙に違っていた
- 提示される資料そのものにウソがあったら、それを前提に調べても限界がある
- 時間と予算が限られていて、調査が深く掘れないことも多い
- 本来あるべき負債や費用が帳簿から抜けていたけど、「記載されてないから見えなかった」
DDでわからないこともどうしても出てきてしまうのです。これは日本でも変わらないかもですが。
👉 ベトナムM&AのDDについて詳しくはこちら
>>ベトナムにおける日系企業で考えられるM & A のスキームを解説【図解で解説】
以下はM&Aのカテゴリーの記事です。
https://manabox-global.com/category/establishment/vietnamma/
SeABankの反応は?「え、初耳なんですけど」
SeABank側は、イオンからの通知を受けてかなり驚いた様子です。
「これ、初めて聞きました。何の相談もありませんでした」
これはこれで、SeABankの立場からすると「寝耳に水」だったのかもしれません。
でも、買った側からしたら「そんな大事なこと、最初に言ってよ……」と思うでしょうし、
売った側からすると「うちに非はないよ」と言いたくなる気持ちも、わかります。
実はこれ、初めてじゃないんです。VMG Mediaと韓国の投資ファンドの件
こうした“買ったあとに問題が発覚して揉める”ケース、実は他にもありました。
代表的なのが、VMG Mediaと韓国の投資ファンドの件です。
2017年に電子決済会社を売却したVMG Mediaが、
後から「会計に不正があった」として、シンガポールで仲裁を受けました。
結果、約6260億ドンの賠償命令。
でも、ベトナム国内ではその判決が「執行されない」という判断が下り、ファンド側は泣き寝入りに近い形になりました。
要するにベトナム側が、虚偽があったであろうベトナム企業を守った
と理解することができますね。これをイオンに当てはめると、、、、。 考えたくありませんね。海外でビジネスする場合、カントリーリスクはつきものです。
契約は本当に「無効」にできるの?
ここが最大の争点の一つです。
契約の無効って、たとえば以下のような場合に認められることがあります:
- 契約の基礎となる情報が“ウソ”だった場合
- 一方が重要な情報を故意に隠していた場合
- 契約当事者が騙された状態で合意していた場合
ただし、「無効だ!」と一方的に宣言するだけでは通りません。
裁判や仲裁で、しっかりと証拠を示して、法的な手続きを踏む必要があります。
それは決して簡単なことではありません。特にベトナムでは裁判は、時間の関係からも望ましい方法としては考えられていませんよね。 裁判するくらいなら他の方法で。となることが多いと思います。
これからどうなる?長期戦の予感も…
今後、イオンとSeABankは裁判や仲裁に進む可能性があります。
そしてこの問題が長引けば、SeABankの評判やベトナム金融市場の信頼性にも影響が出るかもしれません。
日系企業が今後ベトナムで投資やM&Aを行うとき、
「数字は信用できるのか?」という疑問を持つ人も増えるでしょう。
ベトナムM&Aで心がけたいこと、表明保証が大事!
今回の件を教訓に、改めてお伝えしたいことがあります。
- DDはやって終わりじゃないです。特にベトナムローカル企業の帳簿はリスクが高い!
- PMI(買収後の統合プロセス)でも“もう一度見直す”姿勢が大切です
- 契約書には表明保証(Reps & Warranties)をちゃんと入れてください!!
- DDやったからと言って安心じゃない!
ではまとめますね
今回のように、契約が結ばれた後に「えっ、これ違うんじゃないの?」という展開は、誰にとってもショックなことです。
でも、M&Aってそういう「見えなかったものが見えてくる」瞬間がつきものです。
だからこそ、準備と覚悟が必要です。
そして、なによりも大事なのは、「誰と、どういう情報をもとに契約するのか」を、最後まで自分の目で確かめることだと、私は思っています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
また次回のブログでお会いしましょう。