こんにちは!マナラボの菅野です。

今回は、ベトナムで働くみなさんにとって超重要な「個人所得税申告書フォーム02/KK-TNCN」について、わかりやすく&実務的に解説していきます。

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この記事のもくじ

第1章. フォーム02/KK-TNCNとは?どんな人が使うのか?

「この書類、会社でやってくれてるんじゃないの?」と思った方。
たしかに、多くの企業では給与から源泉徴収をして、税務署に申告してくれています。でも――すべての人がそれでOKとは限らないんです!

✅ この申告書が必要になるのは、こんな人!

  • 海外の会社(たとえば日本の親会社)から直接給与を受け取っている
  • ベトナム法人に雇用されているが、会社がまだ税務申告に対応していない
  • 株式報酬(ボーナスシェア)など特別な所得がある
  • 在宅勤務で「ベトナム居住だけど国外勤務」のグレーゾーンにいる

つまり、「会社があなたに代わって申告していない」「あなた自身が直接、税務機関に申告する必要がある」そんな時に使うのがこのフォーム02/KK-TNCNです。

この法的根拠は?

この申告書は、ベトナム財務省の通達80/2021/TT-BTC(2021年9月29日発行)によって制定された正式な税務書類です。

「Mẫu số: 02/KK-TNCN」(付録II)— Thông tư số 80/2021/TT-BTC ngày 29 tháng 9 năm 2021 của Bộ trưởng Bộ Tài chính

つまり、これに従わないと正規な申告とは認められず、場合によっては延滞利息や罰則の対象になることも……。

 所得の種類に関係する条文もチェック!

この申告が対象とする「給与・賃金所得」は、個人所得税法第3条第2項に明記されています:

第3条第2項(2007年個人所得税法・2012年改正法第1条より):「給与、賃金、および給与・賃金性質の収入」「法で定める一定の手当を除く各種手当・補助金」も課税対象とする

つまり、ベトナム国内でも国外でも、「給与に見えるもの」は原則すべて申告が必要なんですね。


💡まとめ:このフォームが必要な人の特徴

該当する人フォーム02/KK-TNCNが必要?
日本本社から給与をもらっていて、ベトナムに住んでいる✅ 必要
ベトナム法人から給与をもらっていて、会社が源泉申告済み❌ 不要(ただし確定申告は必要なことあり)
ベトナム法人から給与をもらっているが、自分で税務申告している✅ 必要
株式報酬など特殊な所得がある✅ 必要
 
こんな感じですね。

第2章. このフォームで何を申告する?基本の考え方

「申告しろと言われても、具体的にをどうすればいいの?」

そんな疑問に、まずここでスッキリ答えましょう

✅ フォーム02/KK-TNCNで申告するのは“給与・賃金”に関する所得

この申告書は、給与(salary)や賃金(wage)に関する所得の申告に特化しています。フリーランスの業務委託や不動産譲渡など、他の所得については別フォームになります。

どんな人が“自分で申告”する必要があるのか?

ここが重要です。通常、会社があなたの代わりに源泉徴収して、税務機関に申告してくれているなら、このフォームは使いません。でも、以下のようなケースは別です。

① 海外の会社(日本本社など)から給与を受け取っている(よくある!)

→ ベトナムの税務当局には何も申告されていない。自分で申告が必要

② ベトナム法人から給与を受けているが、会社がまだ申告対応していない

→ 設立直後の会社や試用期間中にありがち。一時的に自分で申告

③ 株式報酬(ストックボーナス)を受け取った(基本ない)

→ 給与とは別に課税されることがある。個別に申告が必要

④ 在宅勤務(Work from Home)で、勤務地と給与支払元がズレている

→ 所得の「発生地」と「支払元」が一致しないため、税務処理が宙に浮くケース。税務署への説明責任が生じる可能性あり

法令の根拠は?

申告義務の根拠となるのは以下です:

通達80/2021/TT-BTC付録II:「個人が給与・賃金からの所得について税務機関に対して直接申告する場合、本フォーム(02/KK-TNCN)を使用する」ことを定めている。

また、対象者の詳細はフォームの末尾にもこう書かれています:

“Áp dụng đối với cá nhân cư trú và cá nhân không cư trú có thu nhập từ tiền lương, tiền công khai thuế trực tiếp với cơ quan thuế”

「居住者および非居住者で、給与・賃金からの所得を税務機関に直接申告する個人に適用する」


豆知識:「四半期申告」と「確定申告」の違い

種類概要対象者の一例
四半期申告(本フォーム)四半期で、納税自体を自分で行う海外から給与を受け取る駐在員など
確定申告(フォーム02/QTT-TNCN)年間の過不足を精算する申告年の途中で転職した人、控除を追加したい人など

 

第3章. 個人所得税申告の02/KK-TNCNの全体構成を読み解く(レイアウト・構造)

この章では、「フォーム02/KK-TNCNって、実際どういう構造なの?どこに何を書くの?」という疑問にしっかり答えていきます!

フォームは大きく4つのブロックに分かれています!

① 基本情報欄([01]〜[19])
② 所得・控除・税額計算欄([20]〜[32])
③ 署名・日付欄
④ 記入に関する注意・注釈

① 基本情報欄([01]〜[19])

ここは、申告者(個人)・支払元(会社)・税代理人に関する事務的な情報を記載する欄です。

項目意味注意点
[01]課税期間(年・月または四半期)例:2025年1月〜3月なら「Quý 1 năm 2025」
[02]初回申告チェック欄初回申告ならXを記入(☑)
[03]修正申告の回数2回目の修正なら「2」と記入
[04]氏名パスポート記載の通りに記入
[05]納税者の税コード(TIN)GDT発行のMã số thuếを記入
[06]〜[08]納税者の住所、区、市ベトナム国内住所を正確に
[09]〜[11]電話番号、FAX、メールアドレス連絡がつく情報にすること
[12]〜[14]所得支払者の名称・税コード・住所海外企業の場合は英語表記可(TINは不要)
[15]〜[16]支払者の区・市企業所在地に準じて記入
[17]〜[19]税代理人情報(該当者のみ)税理士と契約している場合のみ記入可

💰 ② 所得・控除・税額の計算欄([20]〜[32])

ここが申告書のコア部分です。

「いくら稼いだか」「いくら控除されるか」「いくら納税すべきか」を1枚で表します。

◼ 居住者(ベトナム税法上のresident)の場合

項目内容補足
[20]期間中の課税対象所得(給与・賞与含む)社会保険等控除前の総額
[21]租税条約に基づき免除される所得二重課税防止協定(DTA)該当時のみ
[22]控除合計以下[23]〜[27]の合計
[23]本人控除(Giảm trừ bản thân)月額1,100万VND(年1320万VND)
[24]扶養控除(Người phụ thuộc)1人あたり月額440万VND
[25]慈善・教育・人道寄付控除領収書の提出が必須
[26]保険料控除(社会保険・健康保険など)会社天引き+自己負担分も含む
[27]任意年金基金控除月最大100万VNDまで(※複数基金含む)
[28]課税所得合計([20]−[21]−[22])この金額に税率を掛ける
[29]実際の税額(計算式に基づき)税率表は階層式(5%〜35%)適用

◼ 非居住者(Non-resident)の場合

項目内容補足
[30]ベトナムで発生した給与所得海外受領でも発生地がVNなら対象
[31]税率一律20%(段階制でなく定額)
[32]納税額 = [30] × [31]控除なし、免除なし(原則)

📚 根拠条文:非居住者の税率・控除制限は、個人所得税法第18条および通達111/2013/TT-BTC第26条に明記されています。

③ 署名・日付欄

ここには、以下いずれかの署名が必要です:

  • 納税者本人の署名(Chữ ký người nộp thuế)
  • 代理人(税理士など)の署名(Có ký hợp đồng đại lý thuế)

電子署名(ký điện tử)も可。紙提出の場合は社印やパスポート署名と一致していること。

④ フッター注釈:記入方法と補足事項

フォームの最下部には、記入に関する詳細な注記があります:

  • 「減免を受ける場合は、初回申告時に通知書類を添付すること」(Hiệp định tránh đánh thuế hai lần)
  • 控除金額の上限・条件
  • 保険料や任意年金の具体的記載要件
  • 寄付金控除は、政令93/2019/NĐ-CPに基づく合法機関への寄付に限る

全体を見てわかること

居住者か非居住者かの判定がまず重要
✅ そのうえで、控除や免除の要否、税率体系がガラリと変わる
✅ 記入ミスが多いのは:[21](条約適用)と[27](年金控除)

第4章. 居住者か非居住者か?まずここを間違えない

ベトナムで個人所得税を申告するにあたって、まず最初に確認すべき超重要ポイントがあります。それが、

あなたは「居住者」なのか?それとも「非居住者」なのか?

この判定を間違えると、適用される税率も控除も変わり、最終的な納税額が大きく異なってくるんです……!


✅ そもそも「居住者」ってどう定義されてるの?

これはベトナムの通達111/2013/TT-BTC第1条第1項に、はっきりと定められています:


居住者(Cá nhân cư trú)とは、以下のいずれかの条件を満たす者を指します:

:暦年または初回入国日からの連続12ヶ月間に183日以上ベトナム国内に滞在している者(入出国日も1日としてカウント)

:以下のいずれかの恒久的な居住地を有している者:

  • ベトナム人:住民登録された常住地
  • 外国人:公安省が発行する一時滞在カード/恒久滞在カードに記載された住所
  • 年間183日以上の賃貸契約がある住宅(ホテル等も含む)

❗ 実務上の補足(意外と見落としがち)

  • 滞在日数は「合計」で183日以上あればOK(途中で帰国していても合算可)
  • ホテル暮らしでも、契約日数が183日以上なら居住者とされるケースあり
  • 「居住地あり × 滞在日数不足 × 他国の居住証明が出せない」→ ベトナム居住者と見なされる

 非居住者とは?

上記のいずれの条件も満たさない個人は、「非居住者(Cá nhân không cư trú)」として扱われます。

判定ミスによる違いはどれくらい?

表にしてみましょう:

比較項目居住者非居住者
税率超過累進税率(5〜35%)一律20%
控除(本人・扶養・保険等)あり([23]〜[27])なし(原則)
租税条約の適用条件付きで可能原則不可(条項による)
記入欄[20]〜[29] を使用[30]〜[32] を使用

よくある誤解と注意点

🔸 Q1.「半年と数日住んでるけど、出張が多かった」→?

→ 合計日数が183日を超えていれば居住者です。出張日も含めてOK。

🔸 Q2.「自分は観光ビザだけど、滞在長かった」→?

→ 形式的なビザの種類ではなく、実際の滞在日数で判断されます。

🔸 Q3.「パスポートのスタンプがなくて日数証明できない」→?

→ ビザ記録、ホテル契約書、航空券、レジデンスカードなどで補完可能。

 判定フロー図(簡易版)

あなたは2025年、ベトナムに滞在していますか?  ↓ → はい → 滞在日数は合計で183日以上ありますか?    ↓   → はい → 居住者!   → いいえ → 他国の居住証明を持っていますか?      ↓     → はい → 非居住者     → いいえ → ベトナム居住者と見なされます

まとめ:申告前に必ずやること

  • ご自身の滞在履歴(入出国日)をカレンダーで確認!
  • 必要であれば**他国の居住証明書(Certificate of Residence)**を取得
  • 自分がどちらに該当するかによって、記入欄も税額も大きく違う!

第5章. 【記入例でわかる】各欄の具体的な書き方(01〜32番まで)

ここからは、いよいよフォーム02/KK-TNCNの**「中身の記入」**について解説していきます。すべての番号(01〜32)を対象に、「何を」「どう書くか」「どこで間違えやすいか」を徹底的に整理しました!

セクション①:基本情報欄([01]〜[19])

ここはあなた自身や勤務先の情報、税務代理人の有無などを書く欄です。基本だけにミスすると差し戻しの可能性も……!

コード項目名記入内容注意点
[01]課税期間例:Quý 1 năm 2025/Tháng 1 năm 2025四半期 or 月を明記
[02]初回申告初めてなら☑チェック修正申告でなければ必ずマーク
[03]追加申告回数例:1, 2 など空欄でも可(初回時)
[04]氏名フルネームパスポート表記どおりに
[05]納税者の税コードベトナム税務総局発行のTIN通常10桁
[06]住所ベトナム国内の居所賃貸でもOK
[07]区/郡ベトナム語地名「Quận 1」など
[08]省/市例:TP. Hồ Chí Minhベトナム語表記で
[09]電話番号国番号付きが無難+84-xxx-xxx-xxx
[10]FAX任意記入 
[11]Eメール会社のメールやGmailなどでOK 
[12]所得支払者名会社名(例:ABC Co., Ltd.)海外企業でもOK
[13]支払者の税コードベトナム法人なら記入、海外企業なら空欄でも可 
[14]支払者の住所実際の送金元住所 
[15], [16]区/省上記に準じる 
[17]税務代理人名税理士に依頼している場合のみ 
[18]税代理人の税コード同上 
[19]税代理契約番号・日付契約書に記載された番号・締結日 

💰 セクション②:所得・控除・税額([20]〜[32])

ここが「いくら稼いだか」「いくら引かれたか」「いくら払うか」の本体部分。居住者か非居住者かによって記入欄が異なります。


◆ 居住者の場合([20]〜[29])

コード項目名内容備考
[20]総課税所得税引前給与、ボーナスなど手取りではなく、支給総額
[21]条約による免除所得日本との租税条約適用時所得の全部または一部が該当
[22]控除合計[23]+[24]+[25]+[26]+[27]自動計算がベスト
[23]本人控除固定:11,000,000 VND/月年換算で132,000,000 VND
[24]扶養控除1人あたり4,400,000 VND/月認定登録済が条件
[25]慈善・教育寄付控除領収書がある合法寄付政令93/2019/NĐ-CPに準拠
[26]社会保険料控除会社負担+本人負担分社会保険、健康保険など
[27]任意年金控除上限:1,000,000 VND/月実支出ベースで記入
[28]課税所得合計[20]-[21]-[22]税率計算のベース
[29]発生所得税額超過累進税率表に基づき計算5%〜35%段階課税適用

◆ 非居住者の場合([30]〜[32])

コード項目名内容備考
[30]課税所得合計ベトナムで発生した給与所得海外受取でも対象になる場合あり
[31]税率一律 20%超過累進ではなく定額
[32]所得税額[30] × [31]控除は一切適用不可

📚 条文根拠
非居住者への課税は 個人所得税法第18条 および 通達111/2013/TT-BTC 第26条 により、控除なし・一律20%と明記されています。

セクション③:署名・提出欄

項目内容
日付記入日。提出日前であればOK。例:…, ngày 20 tháng 03 năm 2025
納税者署名欄本人または法定代理人の署名が必要
税代理人署名欄該当する場合のみ記入(証明番号も記載)

🔍 よくある間違いチェックリスト

  • [05] 税コードが旧番号のまま → 最新のTINを記入!
  • [21] 条約適用欄に無根拠で記入 → 通知書がなければ空欄
  • [27] 任意年金控除が2,000,000 VND → 上限は1,000,000 VND/月

📌 補足:電子申告する場合の留意点

  • フィールドはeTaxシステムで一部自動計算される(手入力不可の欄もあり)
  • スキャンした証憑(寄付領収書など)はPDF添付が必須
  • 提出後に修正する場合は「[03] 補足申告回数」の記入を忘れずに!

第6章. 【実例】給与からの申告はこう書く!ベーシックな申告モデル

こんにちは、マナラボのすげのです。
前章ではフォームの各項目の意味と書き方を細かく解説しました。
でも、「じゃあ実際、自分の場合どう書けばいいの?」と感じている方も多いのではないでしょうか?

この章では、実際の給与所得をもとに、居住者と非居住者それぞれのモデルケースを提示して、フォーム02/KK-TNCNの記入例をお見せします!

モデルケース①:ベトナムに183日以上滞在する「居住者」のAさん

  • 国籍:日本
  • 勤務先:日本の本社(給与は日本口座に振込)
  • 勤務地:ベトナム(在宅勤務)
  • 滞在日数:1月〜12月末のうち 300日以上
  • 家族控除:妻1名・子1名(控除対象として登録済)
  • 給与総額:月額 100,000,000 VND(年額1,200,000,000 VND)
  • 保険・年金:該当なし

Aさんの申告イメージ(居住者用:項目[20]〜[29])

コード内容金額(VND)補足
[20]総所得1,200,000,000100,000,000 VND/月 × 12ヶ月
[21]条約免除所得0日本とのDTA未適用とするケース
[23]本人控除132,000,00011,000,000 VND/月 × 12
[24]扶養控除105,600,0004,400,000 VND/月 × 2名 × 12
[25]寄付控除0無寄付と仮定
[26]保険料控除0加入なし
[27]任意年金控除0加入なし
[22]控除合計237,600,000[23]+[24]
[28]課税所得962,400,000[20]-[21]-[22]
[29]所得税額約180,330,000累進課税に基づく計算(次項に詳細)

 [29] 所得税額の計算詳細(2025年時点の累進税率)

所得階層税率累計税額(簡易)
~60,000,0005%3,000,000
~120,000,00010%6,000,000
~216,000,00015%14,400,000
~384,000,00020%33,600,000
~624,000,00025%60,000,000
~960,000,00030%100,800,000
960,000,000超35%残額分35%(=2,400,000)

合計所得税額 ≒ 180,330,000 VND


モデルケース②:ベトナムに滞在しない「非居住者」のBさん

  • 滞在期間:1年のうち90日のみ(出張ベース)
  • 給与:ベトナム国内での労務提供分に対し、300,000,000 VND(3ヶ月分)
  • 控除:非居住者のため適用なし

Bさんの申告イメージ(非居住者用:項目[30]〜[32])

コード内容金額(VND)補足
[30]課税対象所得300,000,000ベトナム源泉分
[31]税率20%一律適用
[32]所得税額60,000,000[30] × [31]

📚 根拠:個人所得税法第18条、および通達111/2013/TT-BTC第26条により、非居住者は控除なし・一律20%課税

 注意ポイント(モデル記入時のチェック)

  • 控除の証拠(家族・保険・寄付)は提出義務あり
  • 課税対象額は「額面」で記入する(手取りではなく支給額)
  • 条約適用欄[21]に記入する場合は、事前に「免除通知」提出が必要

📎 まとめ:まずはこのモデルをもとに、数字を当てはめよう!

フォーム02/KK-TNCNは複雑そうに見えて、パターンが分かれば怖くありません。
実務ではこのように「自分に近いモデル」をもとに数字を組み立てていくと、申告がスムーズになります。

第7章. よくある控除と非課税所得の扱い(法令に基づく明確な整理)

こんにちは!マナラボのすげのです。
この章では、フォーム02/KK-TNCNで多くの人がつまずくポイント、「控除(giảm trừ)」と「非課税所得(thu nhập được miễn thuế)」の違いや具体的な金額、どの条文に基づくのか?を明確にしていきます!

まず押さえたい:控除と非課税の違い

用語ベトナム語内容
控除Giảm trừ課税所得から差し引く金額([22]項目)扶養控除、本人控除、保険料など
非課税所得Miễn thuếそもそも課税対象とならない所得海外送金、奨学金、労災補償など

フォーム内の控除([23]〜[27])とその法的根拠

[23] 本人控除(Giảm trừ bản thân)

  • 金額:11,000,000 VND/月(年132,000,000 VND)
  • 法令:通達111/2013/TT-BTC 第9条第1項

“Người nộp thuế là cá nhân cư trú được giảm trừ gia cảnh cho bản thân là 11 triệu đồng/tháng…”


[24] 扶養控除(Người phụ thuộc)

  • 金額:1人あたり4,400,000 VND/月(年52,800,000 VND)
  • 対象:16歳未満の子、学生、無職の親、配偶者など
  • 登録が必要:事前に「Người phụ thuộc」登録しておく必要あり
  • 法令:通達111/2013/TT-BTC 第9条第1項

[25] 寄付金控除(Từ thiện, nhân đạo, khuyến học)

  • 対象
     ① 障害児・高齢者施設などへの寄付
     ② 政令93/2019/NĐ-CPに基づいて合法に設立された中央または省レベルの基金

  • 条件:必ず「法的な領収書」が必要

  • 法令:通達111/2013/TT-BTC 第9条第3項

“Khoản đóng góp vào các tổ chức, cơ sở… phải có chứng từ hợp pháp…”


[26] 保険料控除(Các khoản bảo hiểm)

対象:社会保険・健康保険・失業保険・職業責任保険(強制加入職)

会社負担・本人負担ともに控除可能

法令:通達111/2013/TT-BTC 第9条第2項a


[27] 任意年金控除(Quỹ hưu trí tự nguyện)

  • 対象:本人または会社が支払った任意年金基金
  • 上限:1,000,000 VND/月(年12,000,000 VND)
  • 複数基金に加入していても合算で上限は同じ
  • 法令:通達111/2013/TT-BTC 第9条第2項g

 非課税所得(申告不要な所得)とその根拠

以下の所得は、「課税対象そのものにならない=申告不要」です。

所得の種類法的根拠(抜粋)備考
海外からの送金PIT法 第4条、2012年改正法親族からの支援なども含む
奨学金(国家予算・財団)PIT法 第4条条件付きで全額免除
労災補償金・保険金PIT法 第4条民間・公的ともに対象
年金(社会保険基金)PIT法 第4条任意年金の月額支給分も非課税(※一時金は課税対象)
夜間・時間外勤務手当(通常より高く支払われた分)PIT法 第3条第2項b法定外手当の差額分のみ非課税
農業収入(未加工または簡易加工のみ)PIT法 第4条家族農家等が対象

注意すべき「グレーゾーン」

少しだけ解説します。

  • ✅ 退職金(trợ cấp thôi việc)は非課税(労働法準拠)
  • ❌ ただし任意で支給される退職一時金は給与扱いになる可能性あり(注意!)
  • 一時帰国に伴う旅費補助 → 条件により非課税
  • 住宅手当・通勤費等 → 多くは課税対象([20]に含める)

 まとめ:控除と非課税を正しく理解すれば、納税額はここまで変わる!

  • 控除は「差し引く」、非課税は「そもそも計算に入れない」
  • 条文をきちんと確認し、「もらったけど課税されない」所得は正しく区別することが節税の第一歩
  • 何よりも、「証拠書類」があるかが実務では重要!

第8章. 提出・添付書類・電子署名はどうする?実務ガイド

「申告書はできた。でもこれ、どこにどうやって出せばいいの?」
今回はそんな疑問にお応えします!

提出方法は大きく2つ!

2つありますが電子申告が主流だと思います。将来的にはVNeIDになるかも。

方法内容向いている人
📄 紙提出(ハードコピー)印刷して税務署へ持参または郵送外国人で電子署名がない人/在住初年など
💻 電子申告(eTax)GDTの電子ポータル(thuedientu.gdt.gov.vn)で申告税コードがあり、電子署名(USB token)を持っている人

📌 紙提出の場合

必要な持ち物

  • フォーム02/KK-TNCN(署名済)
  • 税コードのコピー(発行証)
  • 控除の証明書類(※該当者のみ):
    • 扶養親族登録証明

    • 寄付領収書(正規書式)

    • 保険加入証明・明細

  • パスポートのコピー(ベトナム滞在証明)

提出先

  • 居住地管轄の税務署(Chi cục thuế)
  • ハノイ・ホーチミンなど大都市の場合は「外国人専用窓口」があることも

 注意点

  • 提出時は「受領印付きの控え」をもらうこと(証明として保管)
  • 修正申告の際は、必ず[03]欄に「第○回補足申告」と記入!

電子申告(eTax)の基本手順

  1. https://thuedientu.gdt.gov.vn にアクセス
  2. 法人 or 個人でログイン(個人は「Cá nhân」タブ)
  3. 「Tờ khai」メニューから「02/KK-TNCN」を選択
  4. フォームに沿って入力([20]〜[29]等)
  5. 添付書類をアップロード(PDF)
  6. 電子署名(USB Token)で署名し、送信!

電子署名(Chữ ký số)って何?

  • USBタイプのデジタル証明書(英名:digital signature token)
  • 通常、法人または個人名義で購入する(Viettel, FPT, BKAVなどで取得可)
  • 有効期限は1〜3年。個人利用では年数千K〜1,000K VND程度が相場

📚 法的根拠:電子取引法(Luật Giao dịch điện tử)および通達66/2019/TT-BTC


📎 添付が必要な主な証憑一覧

種類添付形式補足
扶養親族証明スキャン(PDF)登録済であることが条件
寄付領収書領収書写し(PDF)中央/省発行の正規様式が必要
社会保険明細保険会社発行書類外国保険でも一部適用可能
DTA適用通知書(免税)通知決定文書二重課税回避条約適用時のみ提出

提出期限の目安(2025年分)

  • 四半期申告:各四半期終了後の 翌月末まで
    例:1Q(1〜3月)→ 4月末までに提出
  • 月次申告(該当者のみ):翌月20日まで
  • 年次確定申告:翌年3月末まで(別フォーム)

まとめ:フォームは「作る」だけでなく「出す」が大事!

  • 紙でも電子でもOK。ただし証憑の添付を忘れずに!
  • 電子申告の場合、USB署名がないと送信できない点に注意
  • 提出後は「控えの受領」を必ず保存(万が一の照会対応用)

第9章 よくあるミスと申告後の修正方法([03]の“補足申告”)

「やってしまった…数字を間違えた」「扶養控除を入れ忘れた」「DTAの通知書を出し忘れた」――そんなとき、どうすればいいのか。

安心してください。
ベトナムの個人所得税申告では、後から“補足申告(bổ sung)”することが認められています。

 よくあるミスのパターン5選

ミスの種類内容発覚タイミング
控除の記入漏れ[23]本人控除や[24]扶養控除の未記入申告後に明細とズレに気づく
税率の誤適用非居住者なのに居住者税率を適用税務署からの指摘で発覚
DTA(租税条約)の通知未添付[21]に記入したが証明書を出していなかった不受理または追加請求される
TINの記載ミス[05]納税者の税コードのケタ数違い登録・納税不能になることも
提出遅延・提出忘れ書いたのに出していない/間に合っていないeTaxポータルで未処理表示に気づく

✍️ 修正(補足)申告のやり方【紙でもeTaxでもOK】

ステップ①:修正済みの新しい申告書を準備

  • もとのデータをベースに、間違っていた部分のみを修正
  • 特に「[03] 補足申告回数」を必ず記入
     → 例:1回目の補足なら「1」、2回目なら「2」

ステップ②:備考または添付文書で「補足理由」を明記

  • 例:
     「Bổ sung do thiếu giảm trừ người phụ thuộc」
     (扶養控除の記載漏れによる補足)

ステップ③:提出方法

  • 紙申告:修正済申告書に「再提出」で提出(コピー控えを保管)
  • eTax申告:ログイン → 申告履歴から「Kê khai bổ sung」を選択 → 修正データを再送信

✅ [03]の「補足申告回数」記入はマスト!

 
[03] Bổ sung lần thứ: 2

これが空欄のままだと、「初回」とみなされてしまい、税務署で申告履歴が整合しません。

根拠条文

通達80/2021/TT-BTC 第7条第4項
“Người nộp thuế được phép kê khai bổ sung trong thời hạn quy định…”
→ 「納税者は、定められた期限内において、補足申告を行うことができる。」

 補足申告時の注意点(Q&A)

Q1. 期限を過ぎても補足できますか?

→ はい、ただし遅延利息(tiền chậm nộp)やペナルティの可能性あり。申告後90日以内が比較的安全。


Q2. 修正のたびに書類全部を再提出する必要がある?

→ はい。誤っていた申告書すべてを正しい内容で再提出します。控除証明やDTA通知なども再添付推奨。


Q3. 1枚目と修正済バージョン、両方保存した方がいい?

→ 絶対に保存しておきましょう。後の税務調査(kiểm tra thuế)時の証明になります。

まとめ:間違えても、正しく直せば大丈夫!

  • フォーム02/KK-TNCNは、修正可能な仕組みが整っています

  • でも修正時には「[03]の記入」「補足理由の明記」「証憑の再添付」を忘れずに

  • 間違いを放置することが、最もリスクの高い対応です!

第10章. まとめ|フォーム02/KK-TNCNを制する者は個人税務を制す!

こんにちは、マナラボのすげのです。
ここまで長い道のり、お疲れさまでした!
この記事では、個人所得税申告書フォーム02/KK-TNCNについて、構造、使い方、記入方法、実例、そして注意点まで、徹底的に解説してきました。

 この記事の要点ふりかえり

見出し一言まとめ
1. どんな人が使う?「会社が申告してくれない人」が自分で使う
2. 申告の基本居住者・非居住者で税率・控除がまったく違う!
3. 構造解説①基本情報+②所得計算+③署名欄が基本構成
4. 居住者判定滞在183日 or ベトナムに住んでいるかで決まる
5. 記入欄の意味[20]〜[29]が居住者用、[30]〜[32]が非居住者用
6. 実例数字を入れてみると、納税額がリアルにわかる
7. 控除&非課税条文を根拠に「何が引けるか・何がそもそも課税対象外か」を整理
8. 提出方法紙でもeTaxでもOK。添付書類を忘れずに!
9. 修正申告間違えても[03]欄と証憑を正しく出せば大丈夫!

フォーム02/KK-TNCNを「味方に」するコツ

  • 最初は複雑に見えても、構造と税法のルールを知れば怖くない
  • 居住者か非居住者かの判断がスタート地点
  • 控除も非課税所得も、条文に基づいて正しく処理すれば節税にもなる
  • 「書類を整えること=自分を守ること」につながる

こんな方はすぐに動きましょう!

  • 海外から給与を受け取っていて「誰もベトナム税務に申告していない」方
  • ベトナムで働いていて、会社が源泉徴収していない方
  • 扶養控除やDTA(租税条約)による免除・軽減を受けたい方

→ 今こそフォーム02/KK-TNCNを使って、自分の税務状況を見える化しましょう!

おまけ:今後のアップデートにも要注意!

2025年以降、eTax強化・電子化、VNeIDの流れがますます進んでいます。今後の申告義務や提出方式の変更にも備えて、最新通達や実務情報をキャッチしておくのがおすすめです!


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マナボックスでは、日本語での税務相談申告書のレビューも行っています。
「この控除って入れていいの?」「電子申告ってどうやるの?」といったお悩みがあれば、ぜひお気軽にお問い合わせください!


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

📘 次回の記事では「年次確定申告(フォーム02/QTT-TNCN)」の基本と、02/KKとの違いをやさしく解説予定です。お楽しみに!