こんにちは!マナラボの菅野です。
今回は、ベトナムで長年“なんとなく”使われてきたOn-the-Spot(みなし輸出入)制度が、ついに2025年の関税法改正で「正式に法律に書き込まれた!」というニュースを、わかりやすく徹底解説していきます。
「え!そうなの? 2023年から使えなくて諦めてたのに…」
という方こそ、ぜひ読んでください。実は、今まで法律に書いてなかったんです。
この記事のもくじ
On-the-Spot制度法律で明記されたのは、これが初めて
2025年6月25日、ベトナム国会で「法第90/2025/QH15号」が可決され、同年7月1日から施行されました。
この法律、実は関税法だけでなく、入札法、投資法、VAT法など8つの法律を一括で改正する“てんこ盛り法”なんですが、なかでも注目は新設された関税法第47a条。
そこには、こんなふうに書いてあります。
「ベトナム企業と外国商人との売買・加工・リース・貸与契約に基づき、外国商人の指定によりベトナム国内で引き渡される貨物は、税関手続の対象とし、検査・監督の対象とする」
(関税法 第47a条 抜粋・筆者仮訳)国会は、法第90/2025/QH15号において、2014年関税法に第47a条を新設し、「みなし輸出入(On-the-Spot Export and Import)」に関する税関検査・監督の規定を以下のように追加しました:
みなし輸出入貨物とは、外国の取引者の指定に基づき、ベトナム国内で引渡し・受取りが行われる貨物であり、ベトナム企業と外国の取引者との売買・加工・リース・貸与契約に従って実施される。
みなし輸出入貨物は通関手続きの対象となり、税関の検査・監督を受けるものとする。
そう、これがいわゆるOn-the-Spot(OTS)取引のことです。これが明文化されたってことなんでそもそもOn-the-Spot取引が認められているという理解ができますよね。
詳しい定義は以下の別記事にまとめていますので、そちらをご覧くださいね👇
>>ベトナムにおけるOn the spot Export and Import(みなし輸出入通関制度)の3つのパターンを図解で解説!
なぜ今さら?、ベトナムでOn-the-Spotが法文化されたの?
理由はとてもシンプルです。
グレーすぎて、税関も企業も困ってたから。
これまでは政令(たとえば08/2015/ND-CP 第35条)や通達レベルで存在していたOTS制度。実務上は問題なく使われていたけれど、法律(関税法)に一言も書かれていなかったんです。
つまり、「これは輸出です!0% VAT適用です!」と言っても、「それ、法律のどこに書いてあるの?」と聞かれると…口ごもってしまう感じ。
On the spot取引における2023年からの揺らぎと混乱
ここからちょっと実務的で細かい話。実は2023年から、このOTS制度が実質的に使えない局面が増えていったんです。具体的には、外国の取引主体がベトナム国内に何らかの拠点(駐在事務所や現地法人等)を持つ場合に、従来はみなし輸出入制度の適用が認められなくなっていました。
ベトナム財務省・関税総局は2023年に通達(関税総局公文2588/TCHQ-GSQL号など)を出し、「外国商社にベトナム国内拠点がある場合、その取引はみなし輸出入とは見なさず国内取引として扱う(=税関手続無し、国内売買として課税)」との方針を示しました。
これは事実上、従来みなし輸出入スキームを利用していた多くの企業にとって制度利用不可を意味し、2023年以降、当該スキームを使った取引が停止・制限される状況となっていました。
実際、原材料を輸入して加工し、製品を国内の他企業へ外国企業の指示で引き渡すようなモデルでは、輸出入免税やVAT還付が受けられずコスト増となる問題が生じていました
きっかけは税関総局の以下の公文(オフィシャルレター)たちです。リストにしてざっくりと見てみます。
📨 制限・混乱のもとになった公文リスト(抜粋)
発行日 | 文書番号 | 発行機関 | 主な内容とOTS制度への影響 |
---|---|---|---|
2022/10/17 | 4357/TCHQ-GSQL | 税関総局 | 外国商人にベトナム国内拠点(駐在員事務所・支社など)がある場合は、OTS取引を認めないという解釈を明確化。制度上の事実上の制限が全国に波及。 |
2022/12/19 | 5482/TCHQ-GSQL | 税関総局 | 韓国総領事館からの陳情に対し、「制度運用の見直しを検討中」と回答。現場の混乱を認識した上で、関係機関との調整意向を表明。 |
2023/02/20 | 39/TB-VPCP(通知) | 政府官房 | 副首相の指示により、OTS制度に関する問題点の整理と制度見直しを税関総局に指示。制度改革の準備段階に入るきっかけに。 |
2023/05/29 | 2587/TCHQ-GSQL | 税関総局 | OTS制度の根拠である政令08/2015/ND-CP 第35条の全面削除を提案。代替として一部取引は通達ベースへ移行、その他は国内取引として扱う案を提示。 >>衝撃!?みなし輸出入取引(On the spot import and export取引)の廃止案が発行【外資企業に納税義務を果たしてほしい?】 |
2023/05/29 | 2588/TCHQ-GSQL | 税関総局 | 上記の削除提案について、全国の税関・関係省庁へ意見照会を実施。地方の運用に不安が生まれる。 >>衝撃!?みなし輸出入取引(On the spot import and export取引)の廃止案が発行【外資企業に納税義務を果たしてほしい?】 |
2023/08/08 | 4146/TCHQ-GSQL | 税関総局 | 各業界団体(繊維、製紙、Korchamなど)の意見に対し、「OTS制度は実質的に国内取引であり、廃止すべき」という立場を明言。規制強化方針が明確に。 >>みなし輸出入取引(On the spot import and export取引)の廃止に関するOLの3987/TCHQ-GSQLと4146/TCHQ-GSQLの解説 |
このあたりから、OTS制度は「使える/使えない」の判断が担当税関によってバラつくようになり、企業から「今まで通ったスキームが否認された」との声が続出しました。
特に大手の製造業、たとえば半導体関連の外資系企業が深刻に影響を受けたんです。
「復活」のきっかけは、企業の声と首相の決断か?
では、なぜその制度が消されず、むしろ法律に書かれるレベルまで昇格したのか?
ポイントは2025年3月の首相と欧州企業との対話。この場で、欧州商工会議所(EuroCham)の副会頭がこう言いました。
「On-the-Spot取引は、ベトナムの競争力の源泉です。税制上の不透明さは、投資判断に直結します。現地拠点の有無で制度が使えなくなるのは不合理です。」
加えて、特に、ハイテク・半導体産業では、Foxconn、Samsung、Intelなど多くの大手電子機器メーカーがOn-the-Spot輸出入のニーズを抱えていました。クレームもあったようです。
しかし、従来の規定では、ベトナムに拠点を持つ外国商人はこの制度(OST)を利用できなかったため、国内サプライチェーンの最適化に障害となっていたんですね。
今回の新たな規定によれば、この問題が解消され、原材料調達から製品完成・輸出までベトナム国内で一貫した供給網を形成することが可能になります。
ベトナムの競争力なのであればそれを禁止することはベトナムにとっても望ましいことでない!という主張ですね。
この声に、ファム・ミン・チン首相が即応。副首相、財務省、商工省、司法省が合同で再検討に動き、最終的に法制化という決断がなされたんです。
政府側の説明も理にかなっています。財務省・税関総局のアウ・アイン・トアン副局長は、次のように述べています:
「今回の法改正で、数千の企業が直面している問題が解決されるでしょう。なぜなら、これまでの規定は政令レベルにとどまり、法(法律)レベルでは明記されていなかったからです。」
さらにこう続けます。
「新たな条文により、企業は外国商人がベトナムに現地拠点を有しているかどうかに関係なく、外国商人の指示に基づいてベトナム国内で引き渡される貨物について、税関手続きを実施できるようになります。」
今後、あなたの企業がやるべきこと
法律に書かれたからといって、安心しきるのはまだ早いかも。
というのも、具体的な運用は今後の政令・通達で決まっていく部分もあります。
- 輸出入申告の実務フロー
- VAT 0%の証憑要件(契約・支払・通関完了など)
- 対象となる貨物類型(加工品、原材料、設備など)
こうした詳細は引き続き注視が必要でしょう!
まとめ:On-the-Spot制度は「ホワイト」になった
これまでグレーゾーンにあったOTS制度が、2025年の法改正でついに「ホワイトゾーン=法律上明確な制度」になりました。
制度がなくなるのでは…と不安に思っていた方も、これで一安心。
ただし、「使える制度」になった今こそ、正しい知識と準備が求められます。